3ヶ月前のイズマ・コロニーで発生した戦闘で、ソドンの損傷は廃棄が考慮されるほど深刻なダメージを負っていた。
艦本体、兵装、レーダー等の電子装備に至るまで、手をつけなければならない箇所が膨大に膨れ上がっていた。
コウ・ウラキはアナハイムのMSエンジニアとしてソドンが負ったダメージの調査に加わっていた。
調査が終わり、ソドンの修理に必要な期間と予算を計算した上でラシェットと話した時、コウは言った。
『全部直すのであれば、艦を新造できるくらいのお金がかかりますよ』
『やっぱりか…』
ラシェットは案の定と言わんばかりに頭を抱えていた。
それが3ヶ月前の話である。
ラビアンローズでは、ソドンは航行に必要な箇所の修復を行い、ジオン本国へと帰っていった。
ラビアンローズでの検査結果をもとに、今後の方針を本国が決めるとラシェットは言った。
ソドンは廃棄処分になるのではないかと思っていたコウだったが
「こうやってまた現役復帰するとは…」
ラビアンローズのドッグから発進するソドンを外弦の監視所から見ながら、思わず言葉が漏れた。
3ヶ月の間に、ソドンはグラナダ工廠において、イズマ・コロニーで同様に深刻なダメージを負っていたキケロガと共に修理を受けていた。
兵装と電子装備は総取っ替え、艦の外見も多少変わるほどの大修復をソドンは受けていた。
病み上がりのソドンだったが、さっそく新たな任務を与えられたようでグラナダ工廠を出発したのが昨日の夜だ。
ジオンの宙域までラビアンローズが出航したのは、ソドンに対して専用の『MSでも運用可能な外付け式艦砲ユニット』を取り付けるためにわざわざ訪れたからである。
ジオン国内にもジオニックのような有力企業があるのに、ソドンの専用装備をアナハイムが請け負うことになった背景には、多少入り組んだ理由がある。
アナハイムは戦後、地球連邦軍からの依頼で「デンドロビウム」というコードネームを持つ、MSとMAの良いとこ取りを目指した代物を試作していた。
当初の設計では、100m以上の大きさのある巨体に武器を満載した「オーキス」、そしてそのオーキスをMSの「ステイメン」によって制御するという設計だった。
だが、実際に出来上がったデンドロビウムはかなり小柄な機体として世に生まれた。
地球連邦政軍からの資金が渋くなり、現実的な問題にぶつかりまくった結果としての妥協の産物であり、アナハイムとしても満足のいく結果ではなかった。
とはいえ、MSでMAのような働きができるという発想自体は画期的なものでジオン、特にキシリア・ザビはデンドロビウムに注目していた。
グラナダ工廠に搬入されたボロボロのソドンを見て、キシリアは
『オーキスのような装備を、修理も兼ねてソドンにつけてみてはどうか?』
という提案をし、そこから外付け式艦砲ユニット「オーキス2」が生まれることになった。
3ヶ月という短期間ではあったが、デンドロビウムのノウハウがあったことで、無事に納期には間に合った。
だが、コウとしてはオーキス2に対して疑問点がついていた。
ユニットの開発はアナハイムが主体ではあるものの、実際にはエムグループ関連の軍需企業が多数参加していた。
そのエムグループからの技術供与でオーキス2は作られているが、中にはブラックボックス化された部品がいくつか含まれていた。
軍事品にブラックボックス自体は珍しくないものの、ソドンの両舷に接続されたオーキス2を見ると、コウは怪訝な思いを隠せなかった。
「ソドンはアマテラスの方に向かうそうだ」
監視所に、ガトーが入ってきた。
「何でまたファーム・バンチに?」
用意していた容器に入れたコーヒーを、コウはガトーに渡す。
「ナガラ衆らしきMSの機影が目撃されたらしい。本来の任務の前に立ち寄るそうだ」
渡された容器の飲み口からコーヒーを吸い出すように、ガトーは飲んだ。
「この3ヶ月間、ナガラ衆の調査は何も進んでないからな。しかしな…」
「どうしたんだ?」
「アマテラスがナガラ衆に襲われないかが心配だ」
憂慮するガトーを見て、コウは得心した。
「確か、アマテラスの領主はガトーの師範だったな」
ガトーは以前、アマテラス・コロニーの領主ジュウゾウ・アマトが自身の師範であると飲み屋で話していた。
その時に出来上がった自分とガトーの写真をラシェットに送りつけたな、とコウは思い出し、自身のコーヒーを容器から吸い込んだ。
「アマト師範のご子息がアマテラスの防衛隊で勤務している。仮にナガラ衆と戦うことになった時、無茶しなければいいのだがな…」
まるで弟分を心配するようにガトーはソドンを見ていた。
「心配しすぎるのも体に毒だ。ソドンもいるから大丈夫でしょ」
ソドンの戦力的には問題ないだろうとコウは思いつつ、それでもナガラ衆の不気味さは出てこなくなって3ヶ月経っても変わらないと改めて思う。
サンライズ・カネバンの社長から見せてもらったνガンダムの動画もそうだが、これまで出現した際のデータを見るたび、彼らは普通ではないと何度も思わされた。
どの陣営にも属さず、どんな考えを持っているのかも分からない集団が存在する。
世間はそんな集団の存在を自然と受け入れてしまっている。
MSエンジニアとしてコウとしては、認めがたいようなMS達が現実で暴れ回っていることが、如何ともしがたかった。
キャベツ、ニンジン、ジャガイモ、アスパラガス、レタス、カボチャ…。
屋台に並べられた野菜の数々に、ジョンは圧倒されていた。
逆側の屋台を見れば、リンゴ、バナナ、ブドウ、スイカ、スターフルーツ…。
「イズマじゃあまり見ないだろう? マルクト」
周囲をキョロキョロと眺めるジョンを、クワトロは笑いながら肩を叩く。
「ドイツ系の移民が始めたんだ。悪くないだろ、こういうのも。サンドイッチ買ってくる。ここで待っててくれ」
ジョン達は、クワトロの家から比較的近い場所で開かれているマルクトを訪れていた。
アマテラス・コロニーはその名の通り日系移民との関わりが深いコロニーであったが、ドイツ系の住民からの提案で日本とドイツの要素を折衷したようなマルクトがアマテラス・コロニー各地で開催されていた。
ベンチに座り、サンドイッチを販売している屋台へと向かうクワトロを見送りながらジョンは先程の話を思い返す。
「キラか…」
その名前にジョンは聞き覚えがあった。
マチュの姿になったストライクが、以前にもその名を語っていた。
(何でクワトロさんが知っているんだ?)
エレカで理由を聞こうにも、すぐにマルクトに着いたため聞けずじまいだった。
だが、明らかにクワトロはジョンよりもキラ・ヤマトという人物について知っている。
会って間もないとはいえ、ジョンはクワトロという人物が分からなくなってきていた。
頭を抱えるジョンに近づいてくる人物があった。
周囲から奇異な視線で見られてもお構いなしに、その人物はジョンの前に立つ。
「昨日はよく眠れました? 王子」
その女性の声を聞いて、ジョンは一瞬で臨戦態勢になって声の方を見た。
ジョンの前には、ジンチョウゲの花束を持った虹色の水着の女性が立っていた。
その声と雰囲気から、ジョンは目の前の女性が向こう側で戦ったνガンダム本人であろうとすぐに分かった。
(どうしてここに!?)
「王子にお渡しするものがあってきました」
身構えるジョンに対して虹色の水着の女性は微笑む。
そして手に持ったジンチョウゲの花束の姿が変わっていく。
まるで手品のようにジンチョウゲの花束はまるで違う物へと姿を変えていく。
そして、虹色の水着の女性が手にしていたジンチョウゲはT字型の金属片へと姿を変えていた。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ