ジョンはベンチから立ち上がり、虹色の水着の女性と距離を取る。
手に持っていた花束を金属片に変える、まるでマジックのような所業を見せられたこともあり、CQCの姿勢を取って間合いを取る。
「白いストライクになれたということは、あなたは以前の自分に戻ってきています。オルフェ・ラム・タオであった頃に」
T字の金属片を手にした虹色の水着の女性は、警戒心をあらわにするジョンを見つめる。
「なぜ僕をオルフェ・ラム・タオと呼ぶ?」
フェイズシフト装甲の色が変わったことを知っているのは、ストライクとフリーダムの攻防を見ていた。
ジョンはそう思った。
だが、以前プロヴィデンスが言っていた名前が再び出てきたことにジョンは内心動揺していた。
周囲は怪訝な視線を向け、あまり関わりたくなさそうに遠巻きに眺めている。
ジョンは内心で舌打ちしつつも、少しでも話を長引かせようとした。
虹色の水着の女性が何者であれ、テロリストの一員であることには変わりない。
しかも、νガンダムをいつでも使えるような常識外れの戦力を持っている。
本来であれば端末で警察を呼ぶべきだが、ジョンの端末は通話ができなくなっている。
クワトロが屋台から戻ってくるか、騒ぎを聞きつけた警備員が来るまで時間を稼ぐしかない。
ジョンはそう決めた。
「王子の前世です」
「なに?」
あまりに突拍子のない言葉に、ジョンは呆気に取られる。
「僕は無宗教だ。ナガラというお前達の信じる神様の教えに転生があるのか?」
ジョンは死んだ者に手を合わせることは多いが、それはあくまでイズマ・コロニーでの風習に倣ってのことである。
「王子も気付いているでしょう。ストライクに変身できるなんて、普通のオルフェにはできません」
身構えるジョンに対し、虹色の水着の女性は手に持った金属片をジョンに向ける。
「あなたとストライクは、赤い糸に惹かれてこの世界に舞い降りてくれた」
手に持っていた金属片が突然、宙を舞う。
驚くジョンをよそに、金属片はゆっくりと空中を移動し、ジョンの足元にゆっくりと落ちた。
「それはサイコフレーム。私のパートナーが遺してくれた物です」
ジョンは足元に落ちているサイコフレームを恐る恐る拾った。
手に持ったサイコフレームの表面は丁寧に磨かれている。
T字に加工されているが、恐らくは試料として作られた物だろう。
イズマ支部の正面玄関にも、金属素材の試料がガラスケースに収められ展示されている。
軽キャノンに採用されたルナチタニウム合金の試料がT字に加工されて展示されているのをジョンは出勤時に毎回見ているため、目の前のサイコフレームがMS用素材のサンプルであることはすぐに理解した。
「それを持っていてください。そのサイコフレームが王子をアマテ・ユズリハに導いてくれます」
サイコフレームの試料をM-65のポケットに入れた途端、その言葉を聞き、ジョンはさらに警戒を強める。
「なぜマチュにそこまでこだわる? オルフェとは何なんだ? コズミック・イラの時代から来たのか?」
「王子、貴方もそろそろ過去と向き合う時です」
ジョンの疑問には答えず、虹色の水着の女性は背を向けて歩き出す。
意外とグラマーな体つきだと一瞬思ったが、今はそれどころではない。
ジョンが座っていたベンチの近く、手すりの向こうには運河が流れている。
虹色の水着の女性は手すりの前まで歩き、ジョンに向き直る。
「王子、再び戦いが起きます。ご武運を」
それだけ言うと、女性は追ってくるジョンから逃げるように運河へと飛び込んだ。
慌ててジョンが手すり越しに運河で水しぶきが上がっている場所を見る。
だが、虹色の水着の女性の姿はもうどこにもない。
水面の動きを探ろうとするが、飛び込んだ水しぶきの痕跡以外、何も残っていない。
「ジョン!!」
必死に女性を探すジョンの背後から、クワトロが屋台で買ってきたサンドイッチセットを手に走ってくる。
「何があった!?」
「ナガラ衆が出たんです!! 早く警察に通報しないと!!」
「何だって!? ええい、警備員を呼んだ方が早い!!」
周囲のざわつきを聞きつけ、ようやく警備員がジョン達の近くにやってきた。
クワトロが警備員を呼びに行っている間、ジョンはもう一度、女性が消えた運河へ目を向ける。
水しぶきは収まり、初めから飛び込みなどなかったかのようだ。
「消えてしまった…」
ジョンはM-65のポケットからサイコフレームの試料を取り出す。
(これが何でマチュと関係があるんだ? 前世って何なんだよ…)
虹色の水着の女性が欺瞞工作として、ありもしない嘘を吹き込んだ可能性はある。
ジョンを動揺させ、彼を通してジオンに誤情報を流し、混乱を誘う。
だが、だったら「転生」「前世」という言葉を使うだろうか? と、ジョンは疑問に思った。
「ジョン、こっちに来てくれ! ナガラ衆を追うぞ!!」
警備員と話をつけたのか、クワトロがジョンを呼ぶ。
恐らくもう捕まえられないだろうと思いつつも、ジョンはクワトロの元へ向かった。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ