イズマ支部のドーム型倉庫に収容されたサイコガンダムの残骸を見て、サイド6の大統領補佐官カムラン・ブルームと相方のレイニー・ゴールドマンは唸っていた。
パルダ・コロニーから多忙の中やってきたカムラン達がサイコガンダムを見ているのは、ペルガミノ大統領からの命令であった。
3ヶ月前のイズマ・コロニーでのテロ事件後、大破したサイコガンダムは内部調査のため、イズマ支部が保有する巨大なドーム型倉庫に運び込まれていた。
テロリストが使用していたMSということで内部調査が進められ、機体の一部が修復されていた。
射出されたコックピットブロックを再び取り付け、最低限の動作ができるように整備されたサイコガンダムを見て、ゴールドマンは何度も唸り声をあげる。
「誰がこんな物をテロリストに…」
3ヶ月に渡る調査を経ても、このサイコガンダムがどこで造られた物か軍警は把握できていなかった。
製造工場を示すものが一切なく、捜査は手詰まりのままである。
「これ、ジオンの方に引き渡すらしいですよ」
「正気ですか? 大統領は」
「要人暗殺を狙ったテロリストの調査をジオンの科学捜査研究所で進める…。3ヶ月経っても容疑者すら見つからないので、痺れを切らしたんでしょう」
「その引き渡しの前に我々に視察させたのか。あの狸め」
ゴールドマンの恨み言のような呟きを、カムランは苦笑いで受け流した。
「何? ナガラ衆が?」
『マルクトは閉鎖、周囲を捜索していますが、発見できていません』
「奴らは神出鬼没だ。恐らくだが、もうそこから逃げ切っている」
クワトロからの連絡を、ジュウゾウは愛車の中で聞いていた。
アマテラス・コロニー内でも大規模なマルクトでナガラ衆の一人がジョンと接触してきたと、クワトロはジュウゾウに説明していた。
『警察はしばらく周囲の捜索を続ける予定です』
「彼は無事か?」
ナガラ衆からの接触と聞いて、ジュウゾウはジョンのことが心配だった。
『怪我はしていません。ただ、妙な金属片を渡されたみたいです』
クワトロは神妙な声で答える。
『ジョンと接触したナガラ衆は、それをサイコフレームと言ったそうです』
「何!?」
その名前を聞き、ジュウゾウは思わず声を荒げた。
自動運転に切り替えていなければ車が大変なことになるほど、ジュウゾウの手元は震えていた。
「…すまない、続けてくれ」
思わず大声を出したことを詫びつつ、ジュウゾウは震える手で端末を握り直した。
『その金属片は警察に提出。3Dスキャン装置でデータを取り、今はジョンに返却されています』
「証拠品なのに警察は預からなかったんだな。それに、なぜ彼がサイコフレームを持っている?」
『警察としては必要なデータは最低限取れたので、必要時には提出するよう義務づけられた程度です。ナガラ衆はジョンに持っていろと言っていたようで、ジョンは律儀に守るつもりのようです』
「警察に対しては、彼に用意していた名前を使ったんだろうな?」
『もちろんです』
ジュウゾウの動揺は次第に落ち着いてきた。
警察に証拠品の提出を行う際、ジョンが本名を使うのではないかという懸念があったが、用意した身分をちゃんと使っていることで不安も和らいだ。
クワトロとの通話を終え、ジュウゾウは一息ついた。
そのタイミングを見計らったように、端末が震えだす。
ディスプレイに表示された名前を見て、ジュウゾウは通話ボタンをタップした。
「無事にこちらに着いたみたいだな。航跡アプリでスペースシップの動きは見ていた」
『シイコ達も連れて来て良かったんですか? 我々だけでも良いのでは』
「サンライズ・カネバンの社長が一人、サイド6からジオンに来るのは不自然すぎるだろう。家族サービスだ、家族サービス」
『家族サービス、か』
電話越しに聞こえてくるサンライズ・カネバン社長のおっちゃんの声を聞いて、ジュウゾウは微笑む。
「私達はもうすぐ帰れるかもしれない。そうすれば君も『家族』に会えるぞ」
『…』
「彼がゼクノヴァに消えた時はどうしようかと思ったが、たった3ヶ月で帰ってきた。この運命、最大限に活用させてもらおう」
カーナビゲーションシステムを見ながら、ジュウゾウは多少崩れていた姿勢を正した。
『…ここに来て、一気に歯車が進むようですよ』
「夜までは家族サービスをしっかりしろよ。君の子はハイハイできるようになったばかりだろう。あとは養子が二人か、大変だろう。三人も子供がいるのは」
『シュウジとニャアンはボンの大切な人です。大変などと私が思う資格はありません』
「彼への贖罪か、スガイ?」
電話先の声が震えているのを気に留めず、ジュウゾウは言った。
「夜、あの場所で会おう。明日には准尉も来られる。それにソドンもこちらに来るよう、シャリアに頼んでいる」
それだけ言うとジュウゾウは電話を切った。
「人が良すぎると帰る時に辛いぞ… 須貝3曹」
電話の向こうにいたおっちゃんの顔を思い浮かべながら、ジュウゾウは車を手動運転に切り替えた。
スペースシップのファーストクラスの座席に身を埋めながら、マチュは端末の画面を眺めていた。
ブランケットを被り、割れたディスプレイに映る写真を見て、マチュは切なそうに目を細める。
端末には、ジョンとマチュがツーショットで撮影した写真が表示されていた。
割れたディスプレイに映るジョンを見つめながら、胸の奥で膨らむ欲望と、それを押しとどめようとする理性が、眠気の中で揺れ続けていた。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ