グラナダ工廠での大改修ですっかり様変わりしたソドンに、エグザベは何ともいえない心情のまま乗艦していた。
エグザベがソドンに戻ってきたのは3ヶ月ぶりだった。
そもそも、エグザベはソドンに戻ってくるはずではなかった。
エンデュミオン・クレーターでの一件の後、エグザベはグラナダ基地を根拠地にするキシリア親衛隊に転属していた。
愛機のギャンと共に新天地での生活にようやく慣れてきたという時、突然自身に特命が下った。
『地球に眠る軍事機密を回収するため、ソドンに乗艦、Gクアックスの専属パイロットに命ずる』
自身に課せられた命令を噛み砕いた内容が、エグザベの脳裏に畳み込まれる。
地球にある「軍事機密」とやらの回収のために、エグザベは自身と同じくソドンに出戻りのジークアクスと共に乗艦していた。
(大人になれば時間の流れが早くなるって、先輩達も言ってたな…)
ルウム戦役時の戦災で死んだハイスクール時代の先輩達の言葉を思い浮かべながら、エグザベはデスクワークに励んでいた。
ほんの少し前までペーパーレス化と電子化を喧伝していた世間も、紙を無くすことにはすっかり否定的だ。
旧世紀から変わらない薄さの紙と睨み合いながら、エグザベは3ヶ月前のことを思い出していた。
(キシリア様がナガラ衆と手を組んでいるっていうのは、多分本当なんだろうな…)
イズマ・コロニーで戦ったHi-MD男の言葉を思い出しつつ、エグザベは最近配備が進んでいるMS、ジェガンのことを思い浮かべた。
最新鋭のMSということもあり、キシリア親衛隊に最優先で配備されているが、エグザベはジェガンからどことなく異物めいた違和感を感じていた。
ゲルググの後継機として最先端の技術を詰め込んだ最新鋭MSと説明を受けていてもあの容姿のせいかどことなくアンノウン3、アンノウン4のようなシャープさを感じるのだ。
Hi-MD男の言葉も合わせると、ジェガンの誕生にはナガラ衆の関与があったのだろうとエグザベは何となく察していた。
そのジェガンの配備に伴い、余剰となったザクやゲルググがコロニー防衛隊に回されるようになったと聞いて、エグザベは内心複雑だった。
「どうすればいいんだろうな、俺…」
キシリア親衛隊に行く前は散々なことも多かったが、なんだかんだ楽しかった。
シャリアとコモリに振り回され、軍警本部ビルで連絡要員になったり、暴れ回るザク相手に無力感を覚えたりそんな日々がまだ半年も経っていないのに懐かしく感じる。
シャリアお気に入りのバーでジョンと話したのも楽しかった。
泥酔したコモリの介抱をし、外から連れてきたマチュの面倒を見たりした。そんな彼ともう少し話をしたかった。
今のソドンに、彼らは乗っていない。
シャリアは修理の終わったキケロガのテストのためグラナダに残り、コモリも同行している。
ジョンは相変わらず行方不明のままだ。
親しい人達がおらず、その上キシリアがナガラ衆と繋がってとんでもないことをしているのではないか、そう思うとエグザベの中にあるキシリアへの信仰心が揺らいでいた。
『エグザベ少尉、MSハンガー、急げ』
艦内放送の呼び出しを聞き、エグザベは事務室から飛び出した。
戦闘ではなさそうだが、この呼び出しがエグザベにはありがたかった。
晴れない心を誤魔化してくれるからだ。
マルクト近くにある警察署からジョンとクワトロが出てきたのは、虹色の水着の女性との遭遇から半日近く経った夕方になってからだった。
クワトロとしてはこの1日でアマテラス・コロニーの色々な場所をジョンに見せたかったが、さすがにもう無理だということでクワトロの家に戻ることになった。
ただ、その前に宇宙港近くの大型家電量販店に立ち寄っていた。
マルクトの時もそうだが、クワトロの家は宇宙港に比較的近い。
宇宙港周辺には様々な施設が揃っており、この周辺でも十分生活できそうだ。
「腕時計が壊れてるならそう言ってくれよ。新しいの買ってやるのに」
「自分の金で払いたいので…」
「ジョンの銀行口座、多分凍結しているぞ。ジョンは一文なしなんだから、あまりそういうことは言うな」
ジョンの腕時計が壊れていることに気付いたクワトロの計らいで、ジョンは新しく腕時計を調達することになった。
家電量販店の腕時計コーナー、フックに吊るされた安価な腕時計をジョンとクワトロは眺めていた。
「最近のはすごいな。ミノフスキー粒子散布下でもちゃんと使えるらしいぞ」
クワトロは「ミノフスキー粒子対応!!」とPOPに大きく書かれた腕時計を手に取る。
アナログ、デジタル、さまざまな種類が並び、その中にはジョンが使っていた腕時計と同型のモデルまであった。
「MQ-24、まだ売ってたのか」
今も腕につけている壊れた腕時計と同型モデルを見て、ジョンは少し嬉しくなる。
腕時計にこだわりはないが、見やすく簡素なこのタイプが気に入っていた。
「MSと同じ素材でできてる時計に、インターネット接続で時刻合わせ、端末と同期…お好み焼き名人をアクセルモードにする機能に、ミノフスキー粒子検知機能か、面白いな」
ジョン以上に腕時計に夢中になり始めたクワトロが、次第に値の張る物まで見始めたことにジョンは呆れながらも、遠くから子供の泣き声が聞こえることに気付いた。
何となく気になり、夢中のクワトロを放置して泣き声の方へ歩いていく。
変装も兼ねてM-65に入れていたニット帽を被り、ジョンは泣き声の方向を見る。
店内の端にある休憩スペース。
そこでは小さな子供をあやす母親らしき女性が座っていた。
服装から見てアマテラス・コロニーの住民ではなく、恐らく観光客だ。
宇宙港の近くという立地上、この家電量販店は観光客の利用も多い。
この親子も観光客だろうと判断し、ジョンはクワトロの元へ戻ろうとした。
「そこのあなた」
突然、女性から呼び止められた。
周囲を見渡しても、ジョン以外に該当者はいない。
「そこのポンポンをつけてる人」
間違いなく自分だと思い、ジョンは女性の方を振り返る。
黒髪のおかっぱ頭で童顔。ただジョンと同じく白髪が混じっている。
抱えられている子供も母親に似ていた。
先程まで泣いていたのが嘘のように、子供はジョンを物珍しそうに見つめている。
「…僕ですか?」
恐る恐る尋ねる。
何だか、この女性からは嫌な予感がした。
「ごめんなさいね。ウチの子が好きな男の子に似ているものだから、つい声をかけちゃったの」
「…気のせいですよ」
それだけ言うと、ジョンは女性から離れていった。
「私はシイコっていうの、あなたは?」
シイコと名乗る女性は楽しそうな口調で言う。
ジョンは立ち止まり、シイコの方を見た。
「アレックスです。シイコさん」
「何だか、また会える気がするするわ、アレックス君」
「…失礼します」
ジョンはシイコに対して苦手意識が湧いてきた。
何だか危険なオーラをシイコが放っている気がしてならないのだ。
早急にその場を去るジョンのその後ろ姿を見ながら、シイコは静かに見送っていた。
「気になる?あのお兄ちゃん」
我が子の視線がジョンに向かっていることにシイコは気づいていた。
「私も気になるわ…もしかしたらね」
シイコは息子を揺らさないように静かに立ち上がった。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ