紅葉狩りと題したサイド6のパルダ・コロニーからジオンのアマテラス・コロニーへの旅行だったが、急遽決まったこともあり、多少の皺寄せが来ていた。
何せ、仕事が終わった直後、おっちゃんがシュウジ達に向かって
「今からジオンに行くで。紅葉狩りや!!」
と言い出したことが発端であり、家に帰って大急ぎで準備を済ませ、宇宙港のジオン行きスペースシップに間に合わせたこともあって、準備が何もかも足りていなかった。
その最もたる例が端末の充電器だった。
サイド6とジオンで使われているコンセントの規格が違うため、本来ならトラベル用途の変換プラグを準備しなければならなかったが、おっちゃんの家には無かった。
充電器については現地調達、端末のモバイル通信も現地で設定しようという体たらくで、紅葉狩りがいかに突拍子もない話だったのかと、シュウジは家電量販店の棚に陳列された商品と睨み合うニャアンを見て思っていた。
「もうこれでいいんじゃないかな?」
買い物カゴに入っているトラベル用変換プラグを見て、シュウジは退屈そうに言った。
「もう少し安いのがあるんじゃないかな。安くしようよ」
ジオンでも通信できるようになった端末で値段を見比べながら、安い変換プラグを探すニャアンにシュウジと彼の頭に乗っているコンチは面倒くさそうに共に頭を掻いた。
シュウジ達がいる場所は、宇宙港近くにある大型家電量販店だ。
正しくは、複合ビルのフロア全体が家電量販店になっている。
シュウジ達の泊まるホテルは宇宙港近くの部屋をファミリープランで予約しており、こういった電化製品を買うのであれば、自然とここへ足を運ぶことになってしまった。
(値段がどれも大して変わんないんだから、さっさと買ってシイコさんと合流しようよ)
宇宙港近くのホテルなら変換プラグの貸し出しや販売くらいあるだろうと思いつつも、ホテルには到着時に荷物を預けただけでチェックインもしていないため、そういった情報を調べていなかったことが悔やまれた。
思いは届かず、観光先で何をしているのだろうと虚しくなりながら、シュウジは現実逃避気味におっちゃんのことを考えた。
おっちゃんは、
「ちょっと友達に会って来るわ。先ホテル行っといてな」
と言い残し、シュウジ達をシイコに任せてどこかへ行ってしまった。
坊やもいるので長くはかからないだろうと思いつつも、シュウジはおっちゃんの行動にどことなく闇を感じていた。
(何があったんだ…)
おっちゃんが紅葉狩りを突然言い出したのも、その「友達」とやらに会うための方便だろうとシュウジはすぐに分かった。
自分達を巻き込んだのも、サンライズ・カネバン社長が単独でジオンという外国に行くことへの違和感を減らすためだろう。
そこまでしてやることは、決して表に出せない話だろう。
おっちゃんという人間が、赤いガンダムをサンライズ・カネバンで秘密裏に運用する程度にはアウトローじみた行動を取れる人物であることは、シュウジにはよく分かっていた。
(お互い後ろ暗いことは多かったからね。詰めはしないよ、おっちゃん)
自分がおっちゃんに拾われ、赤いガンダムを手にするまでの経緯を思うと、シュウジはおっちゃんの行動にケチをつける気にはなれなかった。
「これにする。ごめんね、待たせちゃって」
ようやくニャアンが決めたようだ。
鋭い目つきの中のイエローの虹彩が、申し訳なさそうに揺れている。
「いいさ。悪いのは規格統一できてない世の中だよ」
値札を見て、どれも大差ないと改めて思いながら、シュウジとニャアンはレジへ向かった。
「なんでコンセントってこんなにいっぱいあるんだろう?」
「大人の事情だよ。一度決めて、お金がいっぱいかかる物はなかなか変えられないから」
弾薬の規格統一、コンピュータの規格、どれもお金が絡むと規格と言いながらバラバラになる。
「MSにしても、ジオンのMSは規格がバラバラだったりして苦労したみたいだね。統合整備計画っていうのもあったらしいけど全然進まなくて、今になってようやく進んでるらしいよ」
説明を聞き、ニャアンの頭上に?マークが浮かんでいるのが、シュウジには見えた。
ユニバーサル規格の話をしようとしたところで、道中の展示品の大型テレビが目に入って足を止める。
『…現在でもナガラ衆の足取りは掴めておらず、アンノウン4までのMSも発見できていません』
テレビにはニュース番組が映し出されており、ナガラ衆の特集が組まれているようだ。
エンデュミオン・クレーターで自身をナガラ衆と発表したこともあり、それまで関係者しか使わなかった「ナガラ衆」という名称が、マスメディアでも一般的に使われるようになっていた。
テレビには、アンノウン4呼びのガンバレルストライクとなったジョンの姿が映し出される。
『アンノウン4については、テロリストの鎮圧、ナガラ衆のMS撃破という点から、サイド6と我が国ではナガラ衆に属さないMSと認識しています』
サイド6とジオンはナガラ衆の処置について、調査しつつ、事を起こした場合は逮捕または殺害する方針らしい。
しかしストライクについては扱いに困っているようだった。
ナガラ衆と敵対しているようではあるが、ストライクは法的にアウトな武装をし、所属も不明。
放置はできないが、敵と断じるにも難しい。
そこで現在のジオン軍の判断は「とりあえず様子を見る」だった。
「あれから3ヶ月か。ジョンはどうしてるんだろう」
シュウジはそう言ってニャアンを見る。
ニャアンは端末を覗いていた。表示されたキーボードをタイプした後、上着のポケットにしまう。
「アマテからメッセが来てた」
そう言うと、ニャアンはテレビをなるべく見ないように歩き出した。
ちょうどテレビには、ゼクノヴァで消えるストライクの光景が映し出されていた。
ニャアンはジョンを消える瞬間を見たくなかった。
「アマテもこっちに来るみたい」
「なんで?」
シュウジはニャアンの隣を歩きながら問いかける。
「研修事業で学校の人と来るみたいだよ」
「そういえば、学校って交換留学とか研修で遠くに行ったりするらしいもんね。アマテもそれか」
「みたいだね。もうそろそろ着くみたいだよ」
学校に行っていないシュウジには話に聞く程度の知識しかないが、マチュが通う高校のことを考えると、研修でジオンに来るのも不思議なことではなかった。
(こうやって理由付けてジオンに行く手段があれば、あんなに拗れなかったのかな…)
マチュがソドンに密航しようとした時のことを思い返す。
ジョンとジオンで会える正当な理由があれば、あそこまで面倒なことにはならなかったのではないかそう思うと、
(どうにかならなかったのかな…)
と答えの出ない問いが胸に残る。
とはいえ、シュウジには少し安心していることもあった。
3ヶ月前にマチュとニャアンが大喧嘩した後でも、こうして互いにメッセで交流が続いていることだ。
もっとも、マチュとニャアンは仲良しというわけではなく、淡白なやり取りのまま3ヶ月続いているようだった。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ