おっぱい大作戦   作:そらまめ

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今回で第17話は終了になります。


17-10 嘘つきジャック

「ニャアン!?」

 

ジョンは後ろからニャアンに羽交い締めにされていた。

信じられないほど強い力で、ニャアンはジョンに密着する。

体勢が悪かったこともあり、ジョンはうまく対抗できず、そのまま捕まってしまった。

 

困惑するジョンを、ニャアンは鼻息を荒くしながらさらに強く抱きしめる。

 

「ちょっ、ニャアン!? ジョ…いや、アレックスが困ってるからやめよう!」

 

突然の行動にシュウジも困惑しつつ、ジョンから引き剥がそうとする。

 

「嫌!!」

 

元々人の少ない店内で、ジョンたちの声を聞いて客や店員が顔を覗かせるが、誰も介入しようとはしない。

 

「何やってんだアイツら…」

 

店員がトランシーバーで指示を仰いでいるが、どう対応していいか分からず困っている様子だった。

 

見知らぬ少女に羽交い締めにされているジョンを見たクワトロは、急いで会計を済ませ、ジョンの元へ向かおうとする。

 

「離してくれ!!」

 

CQCの要領で投げ飛ばすことはできたが、ジョンはニャアンにそんなことをしたくはない。

どうにか説得しようと顔を覗き込むが、ニャアンの顔は乱れた髪に隠れて見えない。

 

「嫌!!」

 

その叫びの直後、ジョンの首筋に鋭い痛みが走った。

 

「うわっ!」

 

ニャアンがジョンの首筋に噛みついていた。

まるで食いちぎらんばかりに噛み続け、歯は皮膚の奥へと食い込んでいく。

 

「ニャ…アン…」

 

名前を呼ばれたニャアンは、乱れた髪の隙間からジョンを睨み上げる。

 

金色の瞳と、ジョンの青色の瞳が交差した。

そのギラついた瞳には、絶望と歓喜が入り混じったような感情が宿っている。

 

その瞳を見た瞬間、ジョンは初めてニャアンの匂いや体つきに意識を向けた。

化粧の香りは以前と変わらないが、体臭はどこか前よりも柔らかく良い匂いになっている。

体つきも、昔の痩せた印象から少しふっくらとしている。

 

衣服も以前より洒落ており、生活が豊かになったことが一目で分かった。

 

(良い生活してるみたいだな、ニャアン…)

 

今はそんなことを考えている場合ではない。

だが、ニャアンの暮らしが安定していると分かると、痛みに顔を歪めながらもジョンはつい微笑んでしまう。

 

その微笑みを見たニャアンの獣じみた緊張がゆっくりと解けていく。

噛む力が弱まり、首筋の痛みも徐々に和らいだ。

 

「ジョ…アレックス!!」

 

クワトロが慌てて駆け寄る。

 

「僕は無事です、クワトロさん」

 

噛むのはやめたものの、ジョンの首の咬み傷から流れる血を見たニャアンは、次の行動に出た。

 

「んっ…」

 

ニャアンは咬み傷に舌を当て、血を吸い取るように舐め始めた。

予想外の感触にジョンは眼を見開く。

 

「ニャアン、やめようよ!!」

 

血の味を確かめるように舐めるニャアンを、シュウジは引き離そうとする。

しかし、噛んでいなくてもニャアンの力は尋常ではなく、逆にジョンを抱きしめる腕の力を強めてしまう。

 

「ん、んっ…」

 

背中から腕を回すような形になり、舐め続けるニャアン。

 

「アレックス、この子は…?」

 

目の前の異様な光景に呆然としつつ、クワトロが問う。

ジョンは周囲を見回した。店員と警備員がこちらを気にしているが、干渉しないようにしている。

 

(後で説明します…)

 

ジョンが視線で伝えると、クワトロは小さく頷いた。

 

「…この子たちは観光客です。僕を拘束してる子は、人違いをしてるみたいです」

「僕たちはサイド6から来ました。すみません、ニャアンが勘違いしちゃって…」

 

ジョンとシュウジの言葉を聞き、店員たちは少しだけ納得したような顔をする。

 

「ふむ、この子が勘違いしたとはどういう意味だ?」

「ニャアン、好きな人がいるんです。でも三ヶ月前に突然いなくなって…アレックスがその子に似てるみたいで」

 

シュウジの言葉に、ニャアンは顔を赤くしながら咬み傷を舐め続けている。

 

(好きな子…?)

 

嫌な予感がジョンの背中を走る。

 

「アレックスは俺の親戚だ。最近、アマテラスに来たんだ」

「それまでは?」

「サイド6のパルダだ」

 

「あら、それじゃうちと同じね」

 

背後から声がして、ジョンに寒気が走った。

 

「何だか大きな声がしたから来てみたけど…大胆ね、ニャアンちゃん」

 

振り返ると、幼子を抱いたシイコが立っていた。

幼子はジョンを見て楽しそうに笑っている。

 

「ここは人様に迷惑。周囲を見ないとダメよ」

 

シイコはニャアンを軽く叱り、警備員に頭を下げながら歩き去る。

 

「とりあえず、アレックスから離れなよ、ニャアン」

「…うん」

 

シュウジに言われ、ニャアンはようやくジョンを解放した。

 

「ふぅ、驚いたよ」

 

ジョンは安堵の息を吐く。

そしてニャアンと向き合い、明るく取り繕うように言った。

 

「二人とも紅葉狩りに来たのかな? この時期は観光客も多いし、テンション上がっちゃったか」

 

「ジャック、なんでそんなこと言うの? なんで、そんな名前をしてるの?」

 

ニャアンは震えていた。

先ほどまでの高揚は消え、悲しげな瞳でジョンを見つめる。

 

「僕はアレックス・ディノだよ…ニャアンさん」

 

その言葉を聞いた瞬間、ニャアンの表情が変わった。

何度か息を吸っては吐き、決意したように

 

「嘘つきジャック!!」

 

叫んで再び飛びかかってきた。

 

「えっ!?」

 

避ければ床に激突すると判断し、ジョンは受け止めた。

ニャアンはそのまま抱きつき、太ももでジョンの腰をがっしりと締め付ける。

 

「やめなよニャアン!?」

「良いのよ、シュウジ君」

 

止めようとする二人をシイコが制する。

警備員とはすでに話をつけているらしく、店内は通常通りに戻っていた。

 

「これはだいしゅきホールドっていうのよ、アレックス君」

 

ニャアンはジョンの金髪に顔を埋め、香りを吸い込むようにしている。

 

「ジャックがジャックって言うまで離れないよ」

「…あらあら。外へ出ましょう、二人とも」

 

シイコは楽しげに微笑みながら、呆然とするシュウジとクワトロを誘導した。

 

 

 

ニャアンにだいしゅきホールドをされた瞬間、ジョンの頭に経験したことのない記憶が流れ込んだ。

 

ニャアンの重みを受けた途端、ジョンはまるでストライクのコックピットに座っているような錯覚に陥った。

 

そして、記憶の中で

ジョンは赤いガンダムと戦っていた。

 

その赤いガンダムは、見たこともない変形機構を持っていた。

身体全体が巨大なクローのように変形し、その中心からビームを撃つ。

 

雨が降る森の中、海の近い場所、向こう側のマンガルールのような景色だ。

そこでジョンはストライクを駆り、赤いガンダムと戦っていた。

 

『お前は真面目すぎるんだよ』

 

変形して迫ってくる赤いガンダムを見て記憶の中のジョンはそう言った。

ストライクは森の中に隠していたオリーブの巨砲を構え、突進した。

 

巨砲の銃口が、クロー形態の中心部にあるビーム射出口に突き刺さる。

 

巨砲から赤い閃光が放たれ、赤いガンダムを貫いた。

 

その記憶が頭から離れず、ジョンはその時の感情まで思い出していた。

 

『悲しかった』

 

ジョンはニャアンを抱えたまま、クワトロたちに連れられて店を後にする。

 

どこへ向かっているのか分からない。

会うはずのないシュウジ達と再会し、何をどうすればいいのかも分からない。

 

イズマ・コロニーでの日々が、急に胸に蘇る。

 

「マチュ、どうしてるんだろうな…」

 

その呟きを、ジョンにしがみついたままのニャアンは聞き逃さなかった。

金色の瞳が、じっとりと青色の瞳を見つめていた。

 

掘り下げが足りないと感じる主要人物

  • ジョン・マフティー・マティックス
  • アマテ・ユズリハ(マチュ)
  • ニャアン
  • シュウジ・イトウ
  • シャリア・ブル
  • シロウズ
  • サンライズカネバン社長
  • シイコ・スガイ
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