おっぱい大作戦   作:そらまめ

194 / 204
18-2 恋愛指南

「ニャアンさん」

 

ジョンの首元の噛み傷は出血が止まっていた。

歯形の傷跡を舐め続けるニャアンを見て、ジョンは困った顔のまま隣にいるシュウジへ視線を向けた。

 

「いつまでそれ続けるの?」

 

だいしゅきホールドを継続し続けるニャアンに、シュウジは呆れたように言う。

 

「ジャック…今までどこに行っていたの」

 

シュウジの言葉に、ニャアンは傷跡から舌を離し「どうするかな…」と言いたげなジョンの表情を見つめた。

 

「僕は君が探している人じゃないよ。本当に、本来なら傷害事件だぞ。

ニャアンさんはまだ混乱しているみたいだし、宇宙港に着いたら降ろしていいかな? シュウジ君」

 

あくまでアレックス・ディノを名乗るジョンへ、シュウジは肘で軽く突いた。

 

(何でそんな平然としていられるの?)

 

シュウジは無言でジョンの目を見つめる。

その意味にジョンはすぐ気づいた。

 

(ニャアンは昔から、割とタガが外れやすいんだ)

 

アイランド・イフィッシュでの生活を思い出し、ジョンも視線を返す。

 

(ちゃんとニャアンと話をしてから来てよ?)

 

目を細め、シュウジは静かに無言の圧をかけた。

 

「僕は許す。でも、ニャアンは許すかな?」

 

そう言い残し、シュウジは前方のシイコたちへ歩いていった。

 

 

 

ジョンたちは宇宙港へ続く水平エスカレーターに乗っていた。

宇宙港近くの街は地下通路で各地と接続しており、グランド・セントラル・グラナダのような大型駅の地下街が、宇宙港やショッピングモール、大型家電量販店、公園、広場にまで伸びている。

 

地下通路には水平エスカレーターが敷かれ、ジョンたちはそれに乗って宇宙港へ向かっていた。

 

シイコの夫でありサンライズ・カネバン社長のおっちゃんは、夕方に友達と会うため別行動を取っていた。

合流地点として宇宙港のドイツ料理店を予約していたため、ジョンたちもそこへ向かうことになった。

 

本来なら無関係のはずのジョンとクワトロだったが、

「ニャアンが迷惑をかけたから」「いろいろ話したいから」

というシイコの押しにより、なし崩し的に同行することになってしまっていた。

 

まだ午後6時だというのに、宇宙港へ続く地下通路に人影は少ない。

便利ではあるが、景色を見たい観光客はタクシーやバスを使うのでここを歩く者は多くないのだ。

 

そもそも、この地下通路を使いたがった理由は明らかだった。

シイコがニャアンとジョンに話をさせるためだ。

 

話せなければレストランで続ける気なのだろう。

ジョンはシイコの顔を以前どこかで見た覚えがあったが、思い出せなかった。

しかし、ただ一つだけ確信があった。

 

シイコは、イズマ支部のボカタなど比較にならないほど兵士のオーラをまとっている。

 

(どこまで考えているんだ?)

 

数歩先で白髪を揺らすシイコを見つめながら、ジョンは内心で呟いた。

 

 

 

「…それでは」

 

端末での通話を終えたシイコがクワトロに向き直る。

 

「レストラン側も、二名追加を承諾してくれたわ」

 

ジョンとクワトロの分の予約を追加していたらしい。

 

「ありがとうございます…しかし、本当に良いのですか? 我々は邪魔では?」

「良いのよ。私もあなたたちのこと、もっと知りたいから」

 

クワトロの遠慮を、シイコは軽く切り捨てる。

 

「旦那さんのことですか?」

「今は友達と会ってて別行動よ。三人のことなんて私に丸投げ」

 

眠る幼子を抱えながら淡々と続ける。

 

「うちの子には今のうちから世界を見てほしいの。そう思って連れてきたの」

「良いことだと思います」

 

クワトロは短く返し、シイコと見つめ合った。

 

 

 

「何故、ニャアン君はアレックスにあんなことを?」

 

先に口を開いたのはクワトロだった。

 

後方ではだいしゅきホールドを継続するニャアンと、それを受け入れるジョン、そしてシュウジが話している。

 

「ジョン君には、あれでも足りないくらいよ」

 

シイコは吐き捨てるように言った。

 

「彼はアレックスでジョンではありません」

「人一人いなくなったところで世界は変わらない。けれど、ニャアンちゃんはああなった。あれでも抑えてる方よ」

 

クワトロの抗議を無視して続ける。

 

「ニャアンちゃんは昔からジョン君のことが好きだったの。でもジョン君は別の女の子が好きになった」

「ありがちな話です」

 

クワトロは淡々と返す。

別の女の子とは、恐らくはアマテ・ユズリハという少女だろう。

 

「ニャアンちゃんとしては、ジョン君が幸せなら別の子でも良かった。でもジョン君はいなくなってしまった。…あなたも知っているでしょう? 月で起きたこと」

「ええ」

「だからニャアンちゃんはその子を責めたの。『あの子のせいでジョン君は不幸になった』って」

 

シイコは視線を清潔な地下通路へ向ける。

 

「でも、こうしてジョン君はまたニャアンちゃんの前に現れた…クワトロさん。奥様とはどういう縁で?」

「元々幼馴染でした。その縁です」

「ジョン君とニャアンちゃんも幼馴染なのよ。…でも幼馴染同士が結ばれるって少ないわ」

「そりゃあそうでしょう。僕とコミリーはレアケースですから」

「幼馴染でも恋人でも、結局、結婚できれば勝ち。だからね、ニャアンちゃんはもう身を引いたりしない」

 

シイコは淡々と言った。

 

「ジョン君とアマテちゃんの運命の赤い糸なんてハサミで切って、ジョン君の糸を自分に手繰り寄せればいい…私はニャアンちゃんにそう言ったわ」

 

「…恋愛指南ですか、シイコさん」

 

クワトロは苦笑混じりに言った。

つまりニャアンがジョンに抱きつき噛みつく狂気じみた行動は、シイコの示唆によるものだった。

 

「旦那さんには何て言うんですか?」

 

雰囲気を変えようと、クワトロは話題を振った。

 

シイコは変わらぬ笑顔で告げる。

 

「あの人、シャアを殺したがってるの」

「…シャア?」

「シャア・アズナブル。ジオンの英雄よ?」

 

唐突な話題転換に戸惑うクワトロ。しかしシャアの単語に反応してしまう。

 

「ふふっ…夫は戦争中、何をしていたのか話してくれなかった。でも最近になって教えてくれたわ」

 

シイコは端末を操作し、一枚の写真を表示させた。

 

「これ、覚えはないかしら?」

 

そこにはテム・レイ博士と、おっちゃんのツーショットが表示されていた。

 

「テム博士と夫よ。テム博士の顔、あなたに似てるわね?」

「…」

「気になる? あっ、そういえばテム博士にはご子息がいたって夫が言ってたわ」

 

シイコは端末をしまい、再びクワトロを見る。

 

「もしかして、クワトロさん。あなたって…アムロ君かしら?」

 

クワトロは真顔のままシイコを見つめ返す。

掘り下げが足りないと感じる主要人物

  • ジョン・マフティー・マティックス
  • アマテ・ユズリハ(マチュ)
  • ニャアン
  • シュウジ・イトウ
  • シャリア・ブル
  • シロウズ
  • サンライズカネバン社長
  • シイコ・スガイ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。