おっぱい大作戦   作:そらまめ

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18-5 シェルター

地下通路を大きく揺らすほどの衝撃で、ジョンとニャアンは水平エスカレーターごと倒れ込んだ。

 

揺れを検知した水平エスカレーターが緊急停止したことも相まって、ジョンはニャアンが床にぶつからないよう、自分を背にして倒れ込む。

ニャアンは無意識のうちに、ジョンの腰にホールドしていた脚を解いていた。

 

「いっつぅ…」

 

受け身を取れなかったがゆえの痛みに顔をしかめながらも、ジョンはニャアンが無事であるのを確かめて、胸をなで下ろした。

 

少し離れたところにいるシイコたちも無事なようだ。

シュウジは幼子を気遣い、クワトロは周囲を警戒しながらジョンの方へ歩いてくる。

 

「大丈夫? ジャック?」

「ジャックじゃない。…けど、大丈夫。海没するよりはマシだよ」

 

ニャアンの手を借りて、ジョンは立ち上がった。

 

「ジョン、ララァからの連絡だ」

 

立ち上がったジョンの耳元で、クワトロが低くささやく。

 

「外壁部でソドンとクアックスがフリーダムと交戦中だ。うちからはザク3機を出しているが、船の護衛で助けに行けない」

 

クアックスという名に、ジョンは少し驚いた。

ジークアクスそのものは、ジョンからすればつい昨日見たばかりだが、それはあくまで向こう側の世界での話だ。

 

「何でジークアクスがここに?」

「地球へ向かう航行中に、フリーダムが宙域のレーダーに引っかかったから見に来たらしい。パイロットはエグザベ・オリベ少尉。バーで飲み合った知り合いだろ?」

「…そこまで把握しているんですね」

 

ジョンの行動を調べていれば、エグザベと接点があることまでは辿り着けるだろう。

 

だが「バーで会っていた」ことにまで把握が及んでいるあたり、クワトロと、恐らくはその背後にいるジュウゾウは、徹底的にジョンのことを洗っているのだと知れて、ジョンは背筋にうっすら寒気を覚えた。

 

同時に、ソドンが地球へ向かう予定だったという事実も気がかりだった。

向こう側の世界では、ソドンはマンガルールへ降下していた。

 

ここでも似たようなことをしようとしているのかもしれない、とジョンは思う。

 

そんな二人の内緒話を、ニャアンは不安そうに見つめていた。

小声で話してはいるが、耳を澄ませば内容は聞こえる。

 

何の話をしているのかまでは分からない。

けれど、クワトロの話を聞いたあとに浮かんだジョンの表情を見て、ニャアンは嫌な過去の断片を思い出していた。

 

今のジョンの顔は戦いに行くときの顔だ。

 

『ただいまコロニー全域に非常事態宣言が発令されました。

住民の皆さまは、速やかに指定のシェルターへ避難してください。

繰り返します…』

 

地下通路内に設置された放送装置から、一斉に避難警報が流れ始める。

 

イズマ・コロニーなら、トモヨ・クロサワのAI音声が流れるのだろうが、アマテラス・コロニーのアナウンスは、特徴のない無機質な合成音声だった。

避難警報を耳にして、クワトロは地下通路の先にあるシェルターへの標識を指さす。

 

「非常事態です。シイコさんたちは、シェルターへ避難してください!」

「そのつもりよ」

 

突然のことで泣き出した幼子をあやしながら、シイコは淡々と答える。

シュウジは、シイコと幼子をエスコートするようにそばに立った。

 

「俺は零式で出る。ジョンはシイコさんたちと一緒にシェルターへ行ってくれ」

「僕も行きます」

 

ジョンの言葉を聞いた瞬間、ニャアンはハッとしたように顔を上げる。

 

「ダメ!!」

 

叫ぶなり、ニャアンはジョンの左手を掴んだ。

絶対に行かせないと言わんばかりに、その手を握り潰さんほど強く力を込める。

 

「ジャックはいっちゃダメ!!」

 

切羽詰まった声に、ジョンは困ったようにクワトロを見る。

 

「ストライクへの変身については、ジュウゾウ様は特に触れていない。だが、変身すれば、そのあと苦しくなる」

「フリーダム相手にザクじゃ無理です。ストライクなら」

「そういう問題じゃない」

 

クワトロはそこで会話を切り、シイコとシュウジの方へ向かう。

その背中を追うように、ニャアンがジョンの手を引っ張って歩き出した。

 

「君はこれまで、ナガラ衆相手に戦ってきたようだが、本来ならとっくに逮捕されている。どんな事情があれ、未登録のMSでドンパチやったという事実は消えない」

 

クワトロの言葉に、ジョンは反論できなかった。

警察官でも軍人でもないのに、テロリスト相手とはいえストライクで交戦している。

少なくとも、ジョンの知る範囲の法律のいくつかには明確に違反していた。

 

「それにだ。ナガラ衆との戦いに巻き込まれて、怪我をしたり死んだ人がいたら、君はどう責任を取る?」

 

それも、否定のしようがない。

これまでのストライクの戦いで巻き込まれた被害者は、ジョンが調べた限りでは表立ってはいない。

だが、本来なら出ていてもおかしくないはずだ。

 

「争いごとは、君みたいな年齢の子がやることじゃない。こういうのは、俺たちに任せてくれ。君はニャアンさんの面倒を見るべきだろう?」

 

その言葉に反応して、ニャアンがジョンを見上げる。

 

「ジャック、私と一緒にいよ。ね?」

 

縋るような表情で、ニャアンは言った。

 

「この揺れ、普通じゃないわね」

 

待っていたシイコとシュウジに足を合わせ、一行は近くのシェルターへ向かう。

 

「旦那さんとは連絡は取れましたか?」

 

ジョンとクワトロが話しているあいだ、シイコはおっちゃんへ電話を掛け続けていた。

 

「ええ。夫も近くのシェルターに避難するみたい」

 

本来であれば宇宙港で合流する予定だったおっちゃんとは、ここで別れることになった。

それぞれがシェルターに避難し、あとで落ち合うという形に落ち着いたらしい。

 

そのとき、ジョンのM-65のポケットの中で、何かが微かに動いた。

 

(サイコフレームが動いてる?)

 

ジョンはポケットの中にあるジップロック越しに、サイコフレームへと指を伸ばす。

 

『…ジョン』

 

サイコフレームに触れた途端、ジョンの心に声が響いた。

その声には聞き覚えがあった。

 

シェルターの出入り口はすぐ近くだった。

地下通路からの出入りはエレベーター式になっており、シュウジが開閉ボタンを押す。

 

すでに何人かが避難しているようで、収容可能人数を示すディスプレイには「残4名」と表示されていた。

 

(一人、乗れないぞ)

 

クワトロを除けば、ここにいるのは五人。

一人分、枠が足りない。

シイコとシュウジはそれに気づかないまま、先にエレベーターへ乗り込んだ。

 

残っているのは、ジョンとニャアンだけだ。

 

「ジャック、今度は一緒に乗ろ?」

 

前にも似たようなことがあった、と言いたげにニャアンはジョンの手を引いてエレベーターに乗ろうとする。

シェルターが目の前にある安心感からか、指先に込められた力が、ほんの少し緩んだ。

 

(このままだと、一人取りこぼす形になる…だったら)

 

ジョンは、エレベーターの中に立つシュウジを見た。

 

(シュウジ、ニャアンを頼む)

(ジョン?)

 

ジョンの視線に気づいたシュウジは、エレベーター内部のディスプレイに表示された残りの収容人数を見て、ジョンの意図を悟った。

 

シイコ、坊や、シュウジ、ニャアンでちょうど4名が埋まってしまう。

 

「ジョン、よせ!」

 

シュウジが叫んだ直後、ジョンはニャアンの手を振りほどき、そのままエレベーターの中へと押し込んだ。

 

あまりにも唐突な行動に、ニャアンの思考が追いつかない。

 

「すまない、ニャアン」

 

ニャアンが振り向くより早く、ジョンはエレベーターの「閉」ボタンを押した。

 

ニャアンがジョンへ振り返った瞬間、扉が閉まりジョンとクワトロの姿は視界から消えていた。

 

「ジャック!!」

 

ニャアンは閉まった扉をこじ開けようとするが、当然どうにもならない。

 

「大丈夫、ニャアンちゃん?」

 

心配そうなシイコの声も耳に入らず、ニャアンは半ば錯乱したように扉を叩き、開閉ボタンを連打する。

 

「無駄だよ、ニャアン」

 

宥めるように、シュウジはニャアンの手を押さえた。

 

「何で!!」

 

その声は、怒りとも悲鳴ともつかなかった。

 

 

「また私を置いていくの!?」

 

「私を捨てるの!?」

 

「絶対に逃さない!!」

 

「死んでも死んでやる!!」

 

「アマテになんか渡さない!!絶対に渡さない!!」

 

「ジャックゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

 

狂おしいほどの叫びが、狭いエレベーターの中に響く。

その声は、ジョンの耳には届かない。

 

 

 

ジョンの行動に驚いたクワトロだったが、ディスプレイの表示が「0」に変わったことで、その意図を理解した。

 

「…すまない。坊やのことを数に入れていなかった」

 

「違うシェルターに行けばいいですし。それに…」

 

申し訳なさそうに言うクワトロの前で、ジョンはM-65のポケットを探り、ジップロックに入ったサイコフレームを取り出した。

 

「ナガラ衆からの贈り物か」

 

ジップロックから取り出したサイコフレームは、ふわりと宙に浮かび上がった。

 

宙に浮いたサイコフレームは、そのままゆっくりと地下通路の先へ進んでいく。

 

「どうなってるんだ? 何で宙に浮いている?」

 

困惑するクワトロをよそに、ジョンは迷わず、その後を追って歩き出した。

掘り下げが足りないと感じる主要人物

  • ジョン・マフティー・マティックス
  • アマテ・ユズリハ(マチュ)
  • ニャアン
  • シュウジ・イトウ
  • シャリア・ブル
  • シロウズ
  • サンライズカネバン社長
  • シイコ・スガイ
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