飛んでいくサイコフレームを追って、ジョンは走る。
サイコフレームの行き先を追っていけば、何かがあるかもしれない。
漠然と、ジョンはそう考えていた。
地下通路は避難警報と、遠くから押し寄せてくる人々の足音と怒号で、音が埋め尽くされている。
幸い、照明は点灯したままなので、暗闇で周囲が見えなくなる心配はなかった。
ジョンは走る。
相変わらず揺れは続いており、このままではコロニーに穴があくのではないかと思えるほどだ。
コロニーが頑丈に造られていること自体は、仕事を通してジョンも知っている。
だが、フリーダムの武装であれば、外壁を破壊することもおそらく可能だろう。
地下通路には、地下隔離通路へ直接アクセスできるハッチが存在している。
ハッチは目立たない位置にあり、テンキー式のロックが施されていた。
サイコフレームは、そのハッチの前までふわりと浮遊していく。
ジョンが追いついたのを確認するかのように、サイコフレームは見えない手でテンキーを叩き、ロックを解除した。
「開いた…」
驚きに目を見張るジョンをよそに、サイコフレームはそのままハッチの先へと進んでいく。
「ジョン! どこに行くんだ!!ハッチが開いてる?」
ジョンを追ってきたクワトロは、ジョンがハッチの先へ消えていくのを見た。
急いでその後を追おうと駆け寄るが、ハッチは一人でに閉まり始める。
「何で閉まる!?」
まるで、クワトロをジョンの元へ行かせまいとするかのように、ハッチはロックされ、クワトロは取り残されてしまった。
「くそ、とにかく連絡するか…」
ジュウゾウに電話を入れようと端末を操作したその瞬間、これまでにないほどの衝撃が、クワトロの体を揺さぶった。
フリーダムとジークアクスは、アマテラス・コロニーの外壁部に突っ込んでいた。
もつれ合ったまま、二機は広い坑道となっている地下隔壁通路まで到達し、そこでようやく動きが止まる。
寝転がった姿勢のフリーダムは、ジークアクスを蹴り飛ばして距離を取ろうとした。
ジークアクスは器用に受け身を取り、バーニアを噴かして着地する。
オメガサイコミュが起動したジークアクスのコックピット内で、エグザベは必死にコンソールを操作していた。
「何で言うことを聞かないんだ!?」
この戦いにおけるジークアクスの機動は、もはやエグザベの技量によるものではなかった。
オメガサイコミュが突然起動し、エグザベの操縦入力を受け付けなくなっていたのだ。
そして、勝手に戦闘を開始し、周囲との連携も取れないまま、ここまで来てしまった。
エグザベは制御を取り戻そうと、インストーラーデバイスを抜いたり、生死に関わると理解しながらもコンピュータの再起動を試みたりした。
だが、どんな行為もジークアクスには拒まれ、機体は一切受け付けない。
この戦いにおいて、エグザベは完全な傍観者になっていた。
それでも同時に、ジークアクスの鮮やかすぎる動きには、ある種の感銘すら覚えていた。
(感心している場合じゃない…次にできることを…)
そう考えようとした矢先、ジークアクスは自ら動き出した。
外壁に突撃する際、ジークアクスはフリーダムを盾にするような形で突っ込んでいた。
ジークアクス自体はたいしたダメージを受けていないが、フリーダムは衝撃をまともに受けていたのか、よろけている。
その隙を突くように、ジークアクスはフリーダムを無視して、地下隔壁通路の横道へと歩き出した。
もう相手をする気はない。
そう言わんばかりのジークアクスの行動に、フリーダムは呆気に取られたように上体を起こす。
追撃することはなく、その背中を見送ると、外壁に開いた穴を塞ぐように周囲の隔壁が閉鎖されていった。
タラップを降り、ジョンは地下隔壁通路内の足場に降り立った。
地下隔壁通路内には照明が一切ない。
サイコフレームの鈍い緑色の光だけが、周囲をぼんやりと照らしている。
その光を頼りに、ジョンは地下隔壁通路を見渡した。
(ここは、コロニー建造時に使われて以来、廃止されたエリアだ)
地下隔壁通路には、定期メンテナンスのために今も使用されている区画のほか、コロニー建造時に使われたのち、そのまま封印状態にある区画も存在する。
ジョンがサイコフレームに導かれて辿り着いたのは、記録すらろくに残っているか怪しい廃通路のひとつだった。
ジョンは一瞬、ソリテールを取り出そうとしたが、ソリテールは向こう側のアマテに預けたままだったことを思い出す。
代わりに、M-65のポケットから端末を取り出し、内蔵のライトを点灯させた。
端末の光が地下隔壁通路の内部を照らし出す。
そのとき、足場から見下ろした通路の下に、妙なものが並んでいることにジョンは気づいた。
「モスボールだ…」
地下通路内には、モスボール処置が施された兵器が並んでいた。
戦車、装甲車、ジープのような車両、それらが人目につかないよう、ひっそりと眠っている。
(何でこんなところにあるんだ?)
普通、こういった兵器を保管するのであれば、もっと管理しやすい場所があるはずだ。
にもかかわらず、わざわざ人目につかない場所に保存している意図が、ジョンには読み切れなかった。
(しかも、どれも古い…間違いなく博物館行きの代物ばかりだ)
端末のライトが兵器群を照らす。
そのシルエットは明らかに年代物で、農業コロニーにあるような装備ではなかった。
どう見ても、宇宙世紀以前の兵器たちだ。
場違いな光景に、ジョンは思わず言葉を漏らす。
「ここは一体なんなんだ?」
足場を進んでいくと、ふいに足元に金属製の板が落ちているのに気づいた。
拾い上げてみると、それは兵器の銘板だった。
古びた、少し変わった書体の日本語が刻まれており、ジョンは足元の暗がりに眠るモスボールされた戦車を見下ろした。
ここに書かれているのが、この戦車の名前なのだろうと思いながら、ジョンはさらに奥へと歩みを進めていった。
隔壁によってジークアクスとフリーダムが分断された直後だった。
突然、ジークアクスのコックピットハッチが開いた。
「えっ?」
ほぼ同時に、ノーマルスーツのシート固定機能がアンロックされる。
続いて、ジークアクスは四つん這いになるように姿勢を変えエグザベはコックピットから吐き出されるような形で外へ放り出された。
「うわっ!」
速度は抑えられていたとはいえ、エグザベはどうにか受け身を取り、地下隔壁通路の地面へ着地する。
「何なんだよ、一体…」
エグザベが無事に着地したのを確認したかのようにジークアクスはハッチを閉じ、そのまま起き上がった。
そして、エグザベの上を跨ぐようにして通路の奥へと進んでいく。
「えっ、ちょ、待て!!」
唐突すぎる展開に驚きつつも、エグザベはジークアクスを追いかけようとした。
だが、ジークアクスはエグザベに合わせるつもりなどないかのようにスピードを上げ、あっという間にその姿を消してしまった。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ