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何もない無の空間、そこにジョンはいた。
時間も重力もない、光もない、風も虫もいない。
ここには地面の概念もないが、ジョンは寝転がるようにして無の空間にいた。
ここは夢、夢の世界だとジョンは思っている。
医学知識は応急処置しか知らないジョンだが、この空間をジョンは明晰夢(めいせきむ)の親戚だと思っている。
「アレ」に「呼び出される」時、眠っているジョンの意識はここに飛ばされる。
前々から明晰夢を見ることはあったが、イズマコロニーで暮らすようになったここ数年ではしょっちゅうだ。
原因は分かっている…
無の空間が青色に染まった。「アレ」が来た合図である。
『ジョーン!!』
快活な「少女の声」がジョンの手前10m当たりの空間に響き渡る。
「左手」が宙を浮いてジョンに迫ってくる。ジョンの顔前に到着するとジョンの頭部を触り始めた。
ジョンには見慣れた光景だ。
「ストレスか?マチュ」
『30点だったの…』
「勉強しろ」
『カラオケ!!』
ジョンを明晰夢の空間に呼び出しているのはこの「左手のマチュ」だ。
妖怪にしか見えないが、ジョンと同じ人間だ。
ジョンはこの空間では五体満足だが、マチュは左手しかない。
マチュの左手をマッサージするように触りながらジョンは物思いにふける。
アマテ・ユズリハ、それがマチュの名前でハイバリー高校に通う17歳の少女
自分と同じく明晰夢を見るようになって夢の中で会うような友人
前にマチュは逢引と表現していたがそんな所だろう。
明晰夢で遭遇した当初は未知との遭遇レベルの混乱はあったが、1年戦争のニュータイプが似たようなことをしていたという話もあるからこれもその延長だろうと2人は結論づけた。
それからは明晰夢のなかで交流を重ねてきたが、次第にジョンはこんなことを思うようになっていた。
(俺はストレスのあまり、存在しない少女を創り上げてしまったのでは?)
自分と同年代の少女を創作して夢の中でいちゃつきたい願望がこんな明晰夢を作っているのではないかとジョンは恐れていた。
『ねぇ…』
「どうしたの」
『ジョンは配達屋さんをやってるんだよね』
「何でも屋だ。配達からコロニーの外壁掃除、トイレの配管、武器の整備」
『そうなんだ』
ジョンがもしもマチュの顔が見れるならニヤニヤしているマチュが見れただろう。
(仕事の話なんか聞いてどうするんだ。トイレのつまり?)
『将来何をすればいいのかなって』
(俺に聞いてもな、俺とマチュは住む世界が違うだろう)
マチュが現実に存在しようがしなかろうが、マチュとジョンとは住む世界が違う。
父親は外交官で母親は監査局の職員、お嬢様学校に通う裕福な家庭の少女、それがアマテ・ユズリハである。
かたや両親がおらず、何の後ろ盾もない中で何でも屋をしている少年がジョンだ。
そもそも何を言えばいいかジョンには分からなかった。
「マチュのお母さん、監査局で働いているならマチュもそういう関係で働けばいいんじゃないかな」
(少なくとも僕よりはずっといい生活を送れるだろう)
その直後、青色の空間がマチュが来る前の「無」の空間へと戻った。
マチュが帰ったのである。
ジョンはわざとマチュの母親の話をした。そうすればマチュは話の続きをしたくはないだろうと思って。
せせこましいことこの上ないが、同年代の思春期の悩みを解消できるほど賢くはないし、マチュのように選択肢が多い生き方でもない。
ついでにこの話はかれこれ5回くらい話している。大概母親の話で切られる。
「母親か…」
思えばジョンは自分の母親の顔を思い出せない。
母親について考えようとした時、再び青い空間が展開された。
『言い忘れてた。また明日!会いましょう』
マチュの軽快な声が空間に響いて消えた。
「ああ」
同時にジョンは自分の意識が現実に帰っていくのを体感した。
また現実へと戻っていく、夢の世界から現実へ
ジョン・マフティー・マティックスとして
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ