キシリアの耳にナガラ衆襲来の報が届いたのは、パープルウィドウがグラナダを出航して間もない頃だった。
「現在、ソドンと防衛隊がアンノウン5と交戦中。支援のため、キケロガを向かわせています」
「今、分かっている範囲での被害は?」
「死者は出ていません。ただし負傷者36名。コロニー外壁に破孔が確認されています」
パープルウィドウはイオマグヌッソへ向けて航行中だった。
表向きは竣工式の警備と作業員との交流が目的とされているが、
乗組員の誰もが、それが建前でしかないことを理解していた。
「三ヶ月ぶりだな。ナガラ衆が姿を現すのは」
キシリアは涼しい顔で言った。
長年彼女に仕えてきた者であれば、その言葉は嘘だと分かる。
「ジオンのあらゆる諜報機関が奴らの足取りを追いましたが…成果はなく、この結果に」
「キケロガがいる。問題はない。イズマでナガラ衆に付けられた黒星、アマテラスで返してもらおう」
キシリアは車椅子を押しながら、二人はMSハンガーへと入った。
MSハンガーは乗組員の中でも限られた者のみ立ち入れる区画だ。
そしてそこには、異様な状態で固定されている赤いガンダムが佇んでいた。
「これが…ガンダム、ですか」
関節の各所はロックされ、コックピットは完全に封印されている。
イズマでも似た機体は目撃されていたが真偽は定かではない。
だが、目の前のこれだけは疑いようもなく本物だった。
本来であれば大ニュースになるはずの代物だが、パープルウィドウにこれが搭載されている事実を知る者は、ごく一部に限られている。
キシリアの隣に立つ部下も、どういう経緯でこれがここにあるのか理解していなかった。
ただ、ゼクノヴァ発生地のエンデュミオン・クレーターで発見されたという噂だけは耳にしている。
「しばらく二人になりたい。貴殿はゲート前で待て」
「了解しました」
部下は、車椅子に座る少年を気にかけながらもハンガーを後にした。
残されたのはキシリアと、車椅子に拘束された青髪の美しい少年のみが残った。
「…こ、こは…?」
少年がかすれた声を発した瞬間、
キシリアの表情はわずかに柔らかくなった。
「エンデュミオンは神話に登場する美しい少年の名だ。月の女神セレネの寵愛を受け、その美を保つため永遠の眠りについた」
無重力でも使えるよう調整された車椅子の上、少年の青い長髪がゆらりと舞う。
キシリアは丁寧にその髪を首元へ戻した。
「貴様にとってのセレネは…シャロンの薔薇か?シュウジ・イトウ」
自分の名前を呼ばれた少年は、混濁した視線でキシリアを見上げる。
「…だれ…?」
キシリアは視線を下ろし、封印された赤いガンダムを指した。
「これから貴様が愛する少女と会わせよう」
少年は思考がまとまらず、震える唇で言葉を探す。
「……マチュ…」
舌足らずな声で少年は呟く。
その視線の先、赤いガンダムのデュアルアイは目隠しのシートで覆われていた。
「貴様の愛する者は誰なのだろうな?」
キシリアの表情は少年からは見えない。
ただ、その声音はどこか甘く、そして冷たい。
「ジョン」
マチュは、どこからかジョンの叫び声が聞こえた。
『待ってくれ!! 彼らはここの防衛隊だ!! 誤解してるんだ!!』
『カガリって誰だ!?』
『よせ!! このままだとコロニーにぶつかる!!』
「ジョン!? どこなの!?」
ジョンが必死に誰かへ訴えかけている。
マチュは思わず頭上にあるコロニーの空を見上げた。
宇宙港内に複数あるシェルターはほとんど埋まっていた。
引率の職員と教師は端末の案内アプリを使い、空いているシェルターを必死に探していたが、生徒全員を収容できる場所は宇宙港からやや離れた区画にしかなかった。
避難者・利用者が入り乱れた宇宙港を抜け、野外通路を通ってシェルターへ向かうことになった生徒達は、不安そうに周囲を見回しながら早足で進む。
避難警報と遠くから響く怒号で張り詰めた空気の中、誰も言葉を発しなくなっていた。
そんな時、全員の端末が一斉に警報音を鳴らす。
画面にはコロニー損傷予測が表示され、どこかに穴が開く危険が告げられた。
「コロニーに穴が開きます!!何かに捕まっ」
言葉の途中で、マチュ達から少し離れた場所に大穴が開いた。
その裂け目から、2機のMSがもつれ合うようにコロニー内部へ突っ込んでくる。
既に夜間で疑似太陽ライトは落ちており、建物の灯りが弱々しく機体を照らし出すだけだった。
だが、マチュの動体視力はそれを確かに捉えていた。
片方が、ストライク。
その瞬間、マチュはスーツケースを放り出して走り出した。
「アマテさん! どこに行くんですか!?」
ハイバリーハウス学園の教師が叫ぶ。
他の全員は、吸い出されないよう近くの手すりや柱にしがみつき、
ある者は近くの屋根付き通路へ飛び込んで避難行動に入った。
「勝手な行動をするな!! 戻ってこい!!」
職員が叫んだ直後、マチュの体がふわりと浮いた。
「あっ」
空気が外へ流れ出し、マチュの身体は数メートルも持ち上げられる。
「アマテさん!!」
教師が助けに行こうと手すりを離そうとした直後だった。
宇宙港のMSゲートから、一機のMSがマチュのいる方向へ急速接近する。
この非常時、MSが宇宙港から出てくること自体は不自然ではない。
不自然なのは、その機体がジークアクスだったことだ。
ジークアクスは、宙に浮いたマチュを両腕のマニュピレーターでまるで赤ん坊を扱うように優しく包み込み、そのままコックピットへと収容した。
そして、周囲に他に投げ出された人間がいないことを確認すると一気に飛び去った。
「え、えぇ…?」
「アマテさんが…モビルスーツに連れ去られた…?」
呆然とする一同だったが、吸い出しがこれ以上強まる前に、彼らは我に返り、近くの避難通路へ全力で逃げ込むことを選んだ。
フリーダムの胴にしがみついていたストライクだったが、地表が近づいていることに気付き、フリーダムから離れた。
迫る地面へ安全に着地するため、スラスターを総動員して姿勢を制御する。
着地点に人がいないことを確認し、ストライクは三点着地の要領で地表に降り立った。
(まずい、コロニーに穴が空いたぞ)
頭部カメラが外壁の損傷箇所を捉える。
本来であれば戦闘どころではない。
直ちに穴を塞がなければ、物資も人も吸い出されてしまう。
ザクの小隊とメビウス・ゼロは、ストライクとフリーダムを追撃するため、
開口した外壁部からコロニー内部へ進入した。
突入後、ザクの小隊はトリモチランチャーを放ち、可能な限り穴を封じようとする。
『う…うぅ…』
上手く着地出来ず、地面に激突したフリーダムが、苦しげに起き上がる。フェイズシフト装甲のおかげで外装は無事だが、内部フレームや電装系にダメージが出ているようだった。
それでも戦闘行動は可能らしく、すぐに遠くのストライクを捉える。
ジョンは、自分達がいる場所に気付いた。
ここは昨日、ララァに案内された街、コミリーの職場の近くだ。
少し行けば、コミリーが歌っていた公園もある。
フリーダムがストライクへ迫ってくる。
彼は落下の際に共に降ってきたMSの部品を左手で掴み、失われた右マニュピレーターの位置へ押し当てる。
ジョンは後退しながらアーマーシュナイダーを二本抜き構えた。
やがてMSの部品はフリーダムの腕に吸い込まれるように融合し、右マニュピレーターが徐々に復元されていく。
(…MSのやることじゃないぞ)
再生した右マニュピレーターでフリーダムは腰のビームサーベルを引き抜いた。
ストライクのIFFは依然としてフリーダムを味方と判定しており、イーゲルシュテルンは使用できない。
距離を取ろうと後退したその瞬間、ストライクのフェイズシフト装甲が突如グレースケールへ落ちた。
『何故!?』
コンピュータにエラー表示はない。
それなのにストライクはフェイズシフトダウンを起こし、次の瞬間には再度フェイズシフトを展開し始めた。
ストライクの色が変化していく。
胸部が青、胴体と脚部が赤、四肢と頭部が白に変わる。
向こう側の世界から戻った直後と同じ配色だ。
唐突な変色に驚きながらも、
ジョンは迫るフリーダムから目を離すことができない。
『そうだよ…ストライクはその色でなきゃ。ストライクは白。ルージュは赤』
フリーダムはビームサーベルを展開する。
『ルージュの色はカガリのものだ』
『そのカガリさんは、君にとって何なんだ?』
ジョンは何とかフリーダムに戦意を収めさせようとするが、
その気配はまるで無い。
『僕は戻らないと…戻らないとダメなんだ…』
フリーダムはジョンと会話しているようで、実際には別の時間と記憶の中を彷徨っているようだった。
フリーダムがバーニアを吹かす。
ストライクはアーマーシュナイダーを両手に握り、真正面からフリーダムへと飛び込んだ。
シュウジたちが避難しているシェルターでは、外に設置されたモニターカメラの映像が映し出されていた。
収容人数は20名、その場にいる全員がストライクとフリーダムが繰り広げる激戦を固唾を飲んで見守っていた。
フリーダムのビームサーベルの斬撃をかわし、ストライクはフリーダムの関節部めがけてアーマーシュナイダーを突き立てようとする。
だが、双方の攻撃は紙一重で外れ、かすめ合うだけだった。
やがて二機は殴り合い、もつれ合うように地表へ倒れ込む。
その光景を、避難者と共にシュウジたちも見ていた。
「ジョン、あんなカラフルになっちゃって、3ヶ月いない間に色を変える技でも習得したのかな?」
シュウジは小声で呟きながら、手元で顔を歪めているニャアンをコンチと共に必死で宥めていた。
ストライクとフリーダムがコロニー内部へ突入してきた直後、モニターにストライクの姿が映ると、ニャアンはシェルターの外へ飛び出そうとしたのだ。
『ジャックに戦ってほしくない! 止めに行かなきゃダメ!!』
『今のニャアンが行ってもどうにもならないよ!!』
暴走寸前のニャアンを押さえつけるシュウジ。
そのとき、シイコがニャアンの前に立ち、彼女の頬を平手で打った。
『今出て行っても死ぬだけよ。今のニャアンちゃんに何ができるの?ジョンくんみたいにガンダムを上手く操れるの?』
多少は頭が冷えたのか、ニャアンも他の避難者と同じく、モニターを見つめ続けた。
「ジャック…死んじゃやだよ…」
シュウジはモニターに映る攻防を見て、ストライクの勝ち筋が全く見えてこないことに気付いていた。
フリーダムには遠距離火器があるが、コロニー内部での被害を考えてか、何故か使用していない。使っているのは頭部バルカンらしきものと、二本のビームサーベルのみ。
一方ストライクは、頭部バルカンとアーマーシュナイダーしか武器がない。
左腕にはジークアクスのシールドがあるようだが、防御している暇はないようだ。
ガンバレルストライカーが健在なら話は別だったが、今のストライクはほとんど丸腰に等しい。
このままでは、ストライクはバッテリー切れまでのジリ貧で敗北する。
(待てよ…羽の生えてる奴、なんであれだけ動けるんだ?なんでスタミナ切れにならない?)
以前ジョンは言っていた。
ストライクはバッテリー駆動だ、と。
シュウジは、バッテリーで動くMSなどストライク以外知らない。
フリーダムも似た形をしているので同じだと思っていたが動き方が明らかに違う。
(もしあいつが融合炉で動いてるなら…ジョンに勝ち目はない)
バッテリー駆動のMSと、ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉を積むMSでは、継戦能力に天と地ほどの差がある。
「ッ!!」
シュウジは歯噛みする。
加勢したくても、愛機の赤いガンダムはパルダ・コロニーに置いてきている。
こんなに近くで戦闘が起きているのに手出しできない。
そのもどかしさに、拳を震わせた。
コンチは心配そうにシュウジの頭を優しく叩く。
シイコは、疲れ切って眠る幼子を抱いたまま、
モニターをじっと見つめていた。
「…白い方が負けるわ」
彼女もまた、シュウジと同じ結論に至り、ストライクの行く末を見守るだけだった。
「一体どうなってるんだ!?」
地上へ出た瞬間、すぐ近くで繰り広げられているMS同士の殴り合いを目にし、エグザベは思わず声を上げた。
ジークアクスから振り落とされ、地下隔壁通路を彷徨い続けていたエグザベは、どうにか地上へと通じる通路を発見し、必死に外へ向かっていたのだ。
地上に出たらすぐにソドンと防衛隊へ状況を伝えなければとそう考えていた矢先の光景だった。
エグザベが出た場所は公園のようだった。
紅葉樹の赤が、ガス灯風の街灯に照らされて夜の闇に浮かび上がっている。
本来ならば美しいと思える光景だが、今はそれどころではない。
近くにシェルターか通信設備が無いか探そうとしたエグザベは、歩道を走る女性の姿に気づいた。
その女性は、殴り合っているMSの方へ向かって走っている。
「何をやってる!! 危ないぞ!!」
服装を見る限り、公務員でも軍属でもない民間人だ。
このままでは戦闘に巻き込まれる。
エグザベは女性を止めようと後を追った。
数キロ離れていてもMS戦闘の振動は地面越しに伝わってくる。
18m級の機体が殴り合っているのだ、当然といえば当然だが――
エグザベは妙な違和感を覚えた。
士官学校時代に歩兵体験コースを受けたことがある。
MSは戦闘機、戦車、ミサイルの役割を担える汎用性が期待されていたが、
実際には弱点も多く、単独では既存兵器にすら負けうる。
そして何より印象的だったのが、ザクの重さだ。
18m級で50t前後に抑えられているとはいえ、巨体が地面を蹴るたびに地鳴りのような衝撃が歩兵の身体に響いた。
だが、今の衝撃はザクとは比べものにならない。
ザクよりも重いことは間違いない。
それでも、あの二機はザク、いや最新鋭であるジークアクスよりも軽快に動いている。
(…何なんだ、あのMSは)
同じ技術で作れば重い方がずっと動きが鈍いはずだ。
あの二機は明らかに違う技術水準で作られている。
エグザベは女性に追いついた。
「死にたいのか!? あそこで戦ってるのが見えないのか!?」
走る女性の肩を掴み、エグザベは引き止めようとする。
女性は振り向き、エグザベを見た。
「軍人さんですか? だったら行かせてください」
そう言い、エグザベの手を払いのけて再び走り出そうとする。
「ダメだ! 向こうで戦っているのが見えないのか!? 何をしに行く!?」
もしかしたらあの場所に、大切な人や物があるのかもしれない。
だが、巻き込まれて死んでしまえば意味がない。
ルウムの戦況を思い出し、エグザベの胸に嫌な記憶がよぎる。
「私は止めねばなりません。キラを…止めます」
「キラ? 知り合いか?」
女性は凛とした表情で答えたが、その直後、二人の足元を強烈な衝撃が襲った。
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
バランスを崩した女性をエグザベは慌てて抱きとめ、二人とも地面に転げ落ちる。
砂埃が舞う。
エグザベは衝撃の正体に気づき、目を見開いた。
自分たちのすぐ目の前に倒れ込んだストライクがこちらを見ていた。
パワーが明らかに違う。
フリーダムが殴り合いに応じてくれているため、どうにか戦闘は成立しているが、それでもストライクは押されっぱなしだった。
バッテリーはまだ残っているものの、フェイズシフトダウンも近い。
クワトロを説得するためとはいえ、ラウンドムーバを外したのは明らかに悪手だった。
『僕は帰らなきゃいけないんだ!!』
アーマーシュナイダーは両腕に残っているが、フェイズシフト装甲にダメージを与えるには、ビームライフルかサーベルで穴を開け、そこに突き刺すしかない。
(デュエル相手にやったな、それ。待て、デュエルって何だ?)
自分の思考に突然浮かんだ「デュエル」の名にジョンは戸惑う。
その一瞬の隙を突き、フリーダムはストライクを蹴り上げ、公園の方へと吹き飛ばした。
『ふぉっ』
姿勢を立て直す暇もなく、ストライクは公園の木々をなぎ倒しながら地面に叩きつけられる。
(ダメだ、このままじゃ埒が明かない。いったん撤収してクワトロさんと合流してから、フリーダムをどうにかしよう)
未だ宇宙にいるであろうメビウス・ゼロの存在を考えながら、ストライクは起き上がろうとした。
その時、ストライクのセンサーが人間を検知した。
光学カメラが向いた先には、見覚えのある人物が立っていた。
怯えた様子の二人の姿が映る。
『エグザベさん!? 何でコミリーさんも!?』
ストライクの外部スピーカーを通してジョンは叫ぶ。
「えっ? それに乗ってるのはジョン君なのか?」
エグザベは聞き覚えのある声に驚きを隠せない。
「ジョン様、大丈夫ですか?」
エグザベの手から離れ、コミリーは心配そうにストライクを見上げた。
『何とか…ここは危険ですから離れて!!』
遠くでフリーダムがこちらへ迫ってくる。
『エグザベさん、ジークアクスはどうしたんですか!?』
「分からない! 勝手に動き出して…それよりジョン君、生きてたんだな!! 良かった、心配したんだぞ!!」
自分の身を案じてくれるエグザベに、ジョンは一瞬嬉しさを覚える。
だが、今はそれどころではない。
二人をコックピットに収容して撤収するべきだ。
そう判断し始めた矢先、コミリーがストライクへと歩み寄ってきた。
「ジョン様、貴方のお力をお借りしたいのですわ」
『コミリーさん?』
「私は彼を…キラを止めたいのです」
何故、バジーナ夫婦ががキラの名を知っているのか?
『コミリーさん、貴女は一体…?』
倒れ込んだストライクのコックピットへと歩み寄り、コミリーはハッチ横の開閉装置に手を伸ばした。
「ちょ、待て!!」
エグザベが慌てて止めようとするが、コミリーは構わずコックピットを開き、そのまま中へと乗り込む。
次の瞬間、ハッチが静かに閉じられた。
ハッチが閉じられると、ストライクはゆっくりと立ち上がった。
『ジョン様、そのままキラのところへ向かってください』
コックピットの中から、落ち着いたコミリーの声が響く。
『コミリーさん…何故、キラの名を?』
外部スピーカー越しの会話はエグザベにも届いていた。
ストライクの巨体が起き上がるたびに地面が震え、エグザベはどう動いていいかも分からず、一歩後ろへと下がる。
『キラは私の大切な人です。たとえどんな姿になっていようとも…』
コミリーの声は揺らいでいた。
ジョンはその響きに、彼女の覚悟と切実さを感じ取る。
『よく分かりませんが…キラは今、かなり錯乱しています。説得が通じるかどうか…』
『お願いします、ジョン様。貴方にしかできません』
短く、しかし強い想いの込もった言葉だった。
エグザベは完全に理解が追いついていなかった。
なぜジョンがアンノウン4に似た機体に乗っているのか。
この女性は何者なのか。
ジョンとどういう関係なのか。
そして、キラとは誰なのか。
状況は目まぐるしく動き、情報だけが雪崩のように押し寄せる。
だがその流れに対して、自分は何一つ手出しできない。
エグザベは完全に蚊帳の外だった。
フリーダムはゆっくりとストライクへ歩み寄ってきた。
左マニュピレータにもビームサーベルを握り、二本を連結して構える。
一方、ストライクには外観上の損傷こそないが、動きはふらつき、人間でいえば疲労困憊の状態といってよかった。
『僕は…僕は…』
錯乱から少しずつ覚めてきたのか、フリーダムの歩みは先程よりも弱々しい。
ストライクがその前に立ち塞がる。
左腕にマウントしたままの向こう側のジークアクスのシールドを構え、コミリーの乗るコックピットを守るようにする。
『君は…何なんだい?』
疲れ切ったような声でフリーダムは問いかけた。
『私はコミリー・バジーナですわ、キラ』
ストライクの外部スピーカーから、澄んだコミリーの声が響く。
『ジョン…誰を乗せているの?』
フリーダムの問いに、コミリーが静かに返す。
『キラ、お久しぶりですわ』
その声を聞いた瞬間、フリーダムの動きが止まった。
『その…話し方は…』
『キラ、私はあなたのことを、ずっと前から知っていますわ』
ストライクとフリーダムは向き合い、わずかな風さえ張り詰めた空気を揺らせない。
『私は、私ではない。違う人の記憶を持って生まれてきましたの』
(前世…みたいなものか?)
ジョンは朝方、虹色の水着の女性に言われた言葉を思い出した。
(僕のことをオルフェ・ラム・タオと呼んでいた…)
そういえば、かつて遭遇したプロヴィデンスも、ジョンをオルフェと呼んでいた。
理屈では説明がつかないが、この世界では前世という概念を前提にした方が辻褄が合うのだろう。
(じゃあ…コミリーさんの前世は?)
ジョンは、コックピットに座るコミリーをカメラ越しに見つめた。
コミリーはわずかに息を整え、静かに言った。
『キラ……私はあなたのラクス・クラインとしての記憶を持って、生まれてきましたわ』
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ