おっぱい大作戦   作:そらまめ

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「赤いガンダムに連れ去られた彼が発見されたようです。五体満足で生きてますよ」

 

待合室に戻ってきたシャリアは、エグザベから渡された紙コップのコーヒーを飲んだ。

 

「スラムに近い地下隔壁通路の非常口で発見されたようですが、デジタル・マイクロカセット男の仲間に狙われないよう、しばらくは軍警預かりみたいです」

 

共に上陸した副長、船務長は既にソドンへ戻ったが、シャリアとエグザベは連絡要員という名目で留まり、調査を続けていた。

室内のデジタル時計は22時を回っており、そろそろ宿泊先のホテルに戻ろうという時だった。

飄々とした態度の奥にあるわずかな落胆したその声色にエグザベは気づいた。恐らく、赤いガンダムのパイロットがシャアではない、という話でも聞いたのだろうとエグザベは考えた。

 

「シャア大佐、ではないですよね」

「大佐ではありません」

 

シャア大佐のMAVで、恐らく世界一シャア・アズナブルを知る男が言うのだから間違いないとエグザベは思った。

 

「明日には彼に面会に行きます。赤いガンダムに接触した以上、何かしら知っているでしょう」

「軍警の身柄が保護されているなら、面会は難しいのでは?」

 

一連の事件の捜査にあたり、イズマ・コロニーとジオン公国は互いに協力関係にある。

だが実際は、捜査はイズマ・コロニーの警察組織が主体で、ジオン軍の中佐や少尉であっても、軍警が協力してくれるとは限らない。

むしろ理由をつけて不要な手続きを踏ませ、事実上面会できないようにされてもおかしくない。

それくらい、イズマ・コロニー、いやサイド6そのものがジオンを嫌っている、とエグザベは今日一日の挨拶回りで感じていた。

 

「会計監査局の外交部の方同伴で、許可はもらいましたよ。二部の予定でしたが、デジタル・マイクロカセット男の件で来られなくなりました。三部の部長が来てくれます」

 

さすがだ。手が早い、とエグザベは思った。

 

「しかし、なんで会計監査局に「外交部」なんてあるんですかね。会計監査は行政のお金を管理するところでしょう。なんで我々の付き添いを」

「しかし、変わった名前ですよね、マイクロカセット男。コードネームだとは思うのですが」

 

エグザベは無視された。

 

無視はされたが、確かに妙な名前だ。

アンノウン1でソドンを襲ったパイロットは「Hi-MD男」を名乗っていた。

何かしら命名規則があるのだろうが、エグザベにはさっぱりだ。

 

「SONY」

「え?」

「Hi-MD、デジタル・マイクロカセット、旧世紀と宇宙世紀が併用されていた時代にSONYが規格したメディアの名前ですよ」

 

SONYはエグザベも知っている。

日本発の大企業で、今は携帯情報端末で大きなシェアを持つ。エグザベの端末もSONYブランドだ。

その端末で「Hi-MD」「デジタル・マイクロカセット」をブラウザで検索すると、確かに過去に発売されていた規格だと分かった。

もっとも宇宙世紀ではどちらも販売されておらず、今は好事家のコレクションに過ぎない。

 

「テロリストが、なんでそんな昔の規格名を名乗ってるんですか」

「奴らの頭の中なんて、私でも分かりませんよ」

 

シャリアは頭を抱えながらコーヒーを飲み干した。

 

(中佐、本気で困ってるな……デジタル・マイクロカセット男なんて、全裸で銃弾すら跳ね返したらしいからな)

 

デジタル・マイクロカセット男を名乗るテロリストは、全裸でアサルトライフル片手にソドンを歩き回り、銃弾が直撃しても傷一つつかず、壁やハッチを破壊して回ったらしい。

怪我人は4人。破壊箇所も航行に差し障りのない場所だったため、こうして今もソドンはイズマ・コロニー内に留まれている。

問題は、襲撃当時、ソドンに各部の関係者がいたことだ。

 

幸い、彼らに怪我人は出なかったが、ハンガーでガンダム・クアックスの整備を見学していた一名を巡って、夜遅くまで捜査本部に詰めることになった。

もっとも捜査本部といっても、シャリアたちの立ち入りは許可なしでは認められず、何のための共同捜査だとエグザベは刑事に対して思った。

 

「あとデジタル・マイクロカセット男ですが、もしかしたら生きてるかもしれません」

 

その言葉に、エグザベは一瞬、何を言っているのか分からなかった。

 

「中佐、テロリストはビームサーベルで焼かれたんですよ。ビームサーベルに焼かれて生きてる人間なんかいません」

「あの騒動の後、ソドンに警察の鑑識が来ましたが、焼かれた場所を調べても、生体組織の欠片すら見つかりませんでした」

「サーベルで焼かれたなら、蒸発したのでは?」

「そういうケースもあります。しかし、接触部位がバラバラに吹き飛び、ハンガー内に微量でも肉片が出るはずです。それすら見つからなかった」

 

さすがに死んでいるだろう、とエグザベは思う。

しかし、あのテロリストの思想はまるで分からないし、どうやってソドンへ侵入したのかも不明。

全裸で銃弾を弾いた原理すら謎だ。

そんな意味不明な男なら、生き延びている可能性を否定できない。自分を下した男の仲間であれば、なおさらだ。

 

(ただ、何だろうなぁ)

 

コーヒー2杯目を飲み始めたシャリアの後ろにある窓は、グラナダでは珍しいほど大きい。

窓の外では、ビルの夜景の光がコロニーのシリンダーを這うように輝いている。

 

「このコロニーで、何かとんでもないことが起きてるんじゃないか?」

 

Hi-MD男とデジタル・マイクロカセット男。

彼らのテロ以外にも、何かが水面下で始まっている、そんな確信がエグザベにはあった。

 

 

 

デジタル・マイクロカセット男の騒動から3日が経った。

相変わらず周囲やニュースではソドンを巡って揉めているらしいが、マチュの周りではタマキがこれまで以上に忙しくなっていた。

だが今日は、タマキがマチュを自家用車で学校まで送っていくと言った。

 

夜中に帰宅したタマキだが、フレックスタイム制を利用して少し時間をずらして出勤するらしい。

タマキの仕事は秘密が多いので、あまりマチュには話してくれないが、ハイバリー高校の近くで仕事先の相手と合流するので都合が良いとのことだ。

 

車窓から見えるのは、普段の地下鉄通学ではあまり見ない地上の光景。

Deli Eatsのリュックを背負って自転車を漕ぐ、他校の制服を着た少女。

通勤を急ぐ車の列。

手を繋いで歩く小学生の集団登校。

泥酔して道路に嘔吐する酔っ払い。

それを見て関わらないように歩くサラリーマン。

コンビニで朝食を買って帰る作業員。

 

自動運転に切り替わった車の中で、タマキは切り出した。

 

「アマテ、好きな男の子がいるの?」

 

進路希望調査を見たのだろう、とマチュは思った。

 

「うん。結婚したい」

 

ある程度予想はしていたが、はっきり言われるとタマキは悩んだ。

あの進路希望調査は、別に間違ったことが書かれているわけではない。

タマキとしては、マチュは大学進学をするつもりだと思っていた。

そのために塾にも通わせ、学校の成績も良好だ。

男女の清い交際であれば、タマキだって無理に反対したくはない。

だが気がかりもある。マチュに「男の影」がないのだ。

 

タマキはマチュの全てを知っているわけではない。

それでも、男の子と交際しているのなら、何かしらの痕跡が残るはずだ。それが、何もない。

 

「どんな男の子なの」

 

ここでタマキが意見を言っても、マチュは聞き入れないだろう。

まずはマチュに話してもらうことに決めた。こうでもしないと、昔のマチュのようになってしまう。

 

マチュはしばし逡巡し、言った。

 

「現世に未練がないような人」

「私がジョンを縛り付けなきゃだめなの」

 

マチュがお熱な男の子の名は、ジョンというらしい。

 

「そのジョンって子とは、いつ会ったの?」

「しょっちゅう会うようになったのは2年前。同い年なんだ」

 

タマキは驚いた。

自分や夫にも気付かれず、2年も交際していたのか!?

 

「ほぼ毎晩」

 

毎晩!? 何してんの!?

でもやっぱりおかしい。どこにも痕跡がない。

 

「ジョンはお堅いんだ。何回も会おうって言っても嫌がる。自分のことはどうでもいいから、お父さんとお母さんとの時間を大事にしろって。あと、ちゃんと勉強しろって」

「割とまともなこと言ってるのね……ジョン君」

「ジョン・マフティー・マティックスっていうの」

 

困惑するタマキだが、思ったよりまともなことを言っていて、少し安心した。

 

「毎晩、ネットで?」

「いや。ジョンとネットでやり取りしようと言っても断られた」

「…ねぇ、ジョン君とどこで知り合ったの」

「夢の中」

「夢?」

「ジョンね、この間なんか「早く病院で頭を見てもらったほうが良い」って言ったの。『夢の中で仲良くなるのはおかしいだろ』って。何考えてるんだろうね。私は左手でしか触らないけど、ちゃんといるのに」

 

タマキには、娘が何を言っているのか分からなかった。

夢の中で会う男、マチュが作り出しているとしか思えない。ジョン概念、とでも言うべきか。

 

「マチュ、本当にその子いるの?」

「いるよ!!」

 

タマキが言葉に詰まっているうちに、車は学校横の駐車場に到着した。

言いたいことはあるが、到着してしまった以上、時間切れだ。

続きは自宅で納得できるまでにどれだけの時間がかかるか見当もつかない。とんでもない長丁場になるのは確定だ。

 

「また家で聞かせて。そのジョン君のこと」

「うん!」

 

マチュの笑顔を見て、タマキはどうしようもない疲労感を覚えた。

まるで昔のマチュのようだ。

 

何だか、このままではマチュが大暴走を始めそうで心配で仕方ない。

 

助手席のドアを開けてマチュが車から降りると、タマキは正面に2人の男性が立っていることに気づいた。

2人の顔を見て、タマキはすぐに車から出た。

 

「おはようございます。シャリア・ブル中佐、エグザベ・オリベ少尉」

 

マチュは助手席の扉を閉め、物珍しさからシャリアとエグザベを見た。

ナイスミドルと青二才のコンビだ、とマチュは思った。

 

「おはようございます。すみません、昨日急にお電話してしまって」

「いえいえ…」

 

ジオンの軍人と会計監査局の人間が高校の駐車場で待ち合わせている――時点でだいぶ無理がある、とマチュは推測した。

こういう対面時のセッティングは大事だ。

 

「はじめまして、アマテ・ユズリハさん」

シャリアがマチュに丁寧にお辞儀した。慌ててエグザベも頭を下げる。

「はじめまして…」

 

何だか落ち着かない。そう思いながら、マチュも挨拶を返した。

シャリアは頭を上げ、マチュを眺める。

露骨に見られており、しかめ面したくなるのをマチュは我慢した。

 

「アマテさんも素養がおありのようだ」

「え?」

「ニュータイプですよ」

 

どういうこと? とエグザベとタマキは目を合わせるが、シャリアはエグザベの肩を叩いた。

「時間を頂いて申し訳ない、アマテさん。エグザベ君、我々も行きましょうか」

 

道中の車内の空気は微妙だった。

「すいません、ニュータイプの勘みたいなもので」

「はぁ…」

 

自分の娘に絡んだこのナイスミドルへの評価はストップ安だが、軍警が保護する人物との面会で仲介に立つ人間としてタマキを選んだのはシャリアだ。

 

「それで、なんですが」

シャリアは鞄からタブレットを取り出し、問題の人物の面会票を表示した。

「我々が面会する相手は彼。ジョン・マフティー・マティックスという少年なんですが…」

 

その名前を聞くや、タマキは半ば強引にシャリアからタブレットを取り、画面を見た。

タブレットを見るタマキの表情は、二人が声をかけるのを躊躇するほどの気迫に満ちていた。

 

「ジョン・マフティー・マティックス…実在したのね」

掘り下げが足りないと感じる主要人物

  • ジョン・マフティー・マティックス
  • アマテ・ユズリハ(マチュ)
  • ニャアン
  • シュウジ・イトウ
  • シャリア・ブル
  • シロウズ
  • サンライズカネバン社長
  • シイコ・スガイ
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