僚機がやられたことで、残りの1機はヒートホークを構えて警戒態勢を取ろうとした。
それを見たガンダムは走り出す。
足元に避難民がいないことを確認しつつ、ガンダムは腰の左右にあるウェポン・スペースから2本の得物を取り出した。
原型機には腰にマシンガンのマガジンを取り付けられる機構が存在したが、それを利用したものだ。
ガンダムは両手に得物「ナイフ」を構えて、暴走MSに向かって突進した。
暴走MSがウェポン・ラッチにマウントされたヒートホークにマニピュレーターをかけた瞬間、ガンダムが両手に構えた2本のナイフが頭部とコックピットに突き刺さった。
超振動能力を持つナイフと、超硬スチール合金の装甲によって凄まじい火花が発生し、やがて暴走MSの動きが止まった。
機能停止した暴走MSからナイフを引き抜くと、ガンダムは腰のウェポン・スペースにナイフを戻し、暴走MSを道路にゆっくりと倒した。
暴走MSの機能が止まっていることを改めて確認したガンダムが、暴走MSからシールドと警棒を剥ぎ取ると立ち上がった。
その光景をニャアンはずっと見ていた。
自分を死地から救ったガンダムに見惚れていた。
あのガンダムからは軍警ザクのような横暴さはない。
何より、あのガンダムのパイロットは自分たちを心配してくれた。
ニャアンにはそういう直観があった。
この地域の避難民の大半はスラム街の住民だ。もしガンダムではなく軍警が暴走MSを止めに来ていたら、足元の自分たちなどお構いなしに暴れまわっていたはずだ。
あのガンダムは自分たちを守りながら戦ってくれた。
『モビルスーツの周囲は危険です!! すぐに離れてください!!』
『ただちにシェルターへ向かってください』
あの暴走MSを止めることすらできなかったイズマ軍のプチ・モビルスーツのスピーカーから流れる避難勧告に、ニャアンは苛ついた。
「うるさい…」
イズマ軍のプチ・モビルスーツを睨みつけて、ガンダムが立っていた場所にニャアンは視線を戻すが、そこにはガンダムはおらず、機能を停止して道路に寝転がされた暴走MSしか残されていなかった。
「いいんですか、手伝いに行かなくて?」
ブリッジの3Dモニターには、軍警察から情報共有されたリアルタイムのデータが表示されている。
12機の暴走MS相手に、10機の軍警のMS-06とガンダムの奮闘により6機が機能停止となった。
ソドンもUAVを投入して監視データを軍警と相互提供しており、何もしていないわけではない。
修理完了したクアックスを投入すれば一瞬で終わるのに、とコモリは思っていた。
「ソドンがここにいること自体は法律に反していません。理由あってのことですから。しかし、今の状態でガンダム・クアックスを暴走ザクと戦わせるとなると、条約なり何なりに反します。それを無視して投入するにしても視線が多すぎる。戦いがテレビでライブ中継されていますからね」
コモリの疑問にシャリアが答えた。
シャリアの横には規則集と条約類をまとめた紙の束が簡易デスクに置いてある。
3Dモニターの隣にはテレビ・モニターが設置され、ちょうどガンダムと暴走MSの戦闘が中継されていた。
暴走MSの死角から剥ぎ取っていた警棒を頭部に突き立て、ナイフをコックピットに突き立てたガンダムを見て、シャリアは満足そうな表情をしていた。
(もしかして中佐は、また赤いガンダムが出てくることを期待しているのかも)
コモリはふと、ブリッジにエグザベがいないことに気付いた。クアックスが出撃できないため、シャリアと共にブリッジに上がっていたはずだった。
「そういえばエグザベ君はどこに行ったんですか?」
「スクランブル待機のため、自発的にクアックスに乗っていますよ。彼、真面目ですね」
コモリに目を合わせることなく、シャリアはテレビ・モニターに映るガンダムを見続ける。
映像が切り替わり、暴走MSにやられる軍警ザクが映り、シャリアが少し落胆したようにコモリには見えた。
(自分たちでどうにもできなくて、ガンダムに助けてもらってるじゃない)
「あなたはキラキラを見たことある?」
「キラキラって何?」
少女の言う「キラキラ」とは何か。麻薬か何かかとマチュは思ったが、どうもそういう類の話ではないらしい。
「ガンダムに乗っていると、すごい綺麗でシュウジと一緒になれるんだ」
「それは気持ちいいことなの?」
「うん。あなたもジョン君とやってみたら?」
「どうやってできるの?」
「うーん…ジークアクスと赤いガンダムを持ってくる」
「赤いガンダムって一年戦争のMSでしょ。ジークアクスなんて、どこから持ってくるの?」
マチュはジークアクスというMSのことは知らないが、赤いガンダムのことは知っている。ジョンを助けてくれたMSだ。
ついでにMSに興味がないマチュだったが、明晰夢の中でシャア大佐のガンダムについて、ジョンが仕事柄そういう話をしてくれたことを覚えていた。
ジョンは仕事でMSに乗るとは言っていたが、まさかガンダムのようなMSに乗っているわけではあるまい。
「うーん、盗むとか」
「盗む!?」
マチュは、目の前の少女が思ったよりもエキセントリックな人物だと認識せざるを得なかった。
今後に備えて性行為について勉強している自分の方が優等生だとマチュは思った。
明晰夢の中では左手しか実体化できないので、全く生かせてはいないが…。
テレビから視線を外して、シイコは息子とコンチを見ていた。
息子の遊び相手として、コンチがゆらゆらダンスをしている。
黄色の四角いロボットは、最近夫が家に連れてくるシュウジの私物だ。
最近夫の会社に雇われた少年で、夫がよく面倒を見ていた。
ただ、家出癖があるようで、今日夫が家にいないのもシュウジの捜索のためだった。
シュウジに置いて行かれたコンチは、その間、息子の面倒を見てくれていた。
ついさっき夫から電話があった。
『家出少年を捕まえたで。明日の夕食は餃子にしようや』
どうやらシュウジは見つかったようだ。
ついでに、夫が帰ってくるのは明日だと確約された。
会社の上司に迷惑をかけているシュウジだが、シイコはシュウジのことを気に入っていた。
おっとりとした美少年だが、MS乗りが持つようなシビアな感性を兼ね備えたシュウジを、シイコは好んでいた。
明日の餃子の席にシュウジも同席するだろう。
「コンチ、明日の餃子作りは手伝ってね」
シイコの声に、コンチは右腕を挙げて返事をした。
そんなコンチと、それに釣られて笑う息子に対して微笑みながら、シイコはテレビに映る光景を見た。
テレビには、イズマ・コロニーでの騒動を臨時ニュースで中継していた。
暴走MSの12機のうち7機が機能停止しており、残りも軍警ザクが相手をしていて、鎮圧も時間の問題だろう。
ニュースでは「新型インストーラー・デバイスにコンピューター・ウイルスが潜んでいて、それがきっかけで暴走した」という論調で取り上げられていた。
だが、シイコの経験則上、それはありえないと断言できた。
インストーラー・デバイスは火器管制を司るパーツであって、それにウイルスを仕込んでMSを機能停止にしたり、情報を送信させたりというのはありうる話だ。
だが、今回のように自律稼働するようなことはありえない。
一年戦争黎明期のMSにもオートパイロットの機能があって、基地へ自動帰還する機能は実装されていた。
オートパイロットの機能を生かした戦例もある。
MSを降りて、オートパイロットで無人になったMSを囮にして、グフの腕をロケット・ランチャーで吹き飛ばしたパイロットがいることを、シイコは覚えている。
ただ、あくまでオートパイロットは戦闘に参加できるほどの性能を有していない。できたらパイロットはいらない。
「どうなってるんだろね」
今はもういないマヴに、シイコは語りかけた。
ここからでも、ガンダムと暴走MSの戦闘の一端を見ることができた。
ガンダムが6機、軍警が1機というスコアで、ガンダムが3機の暴走MSを追っている姿を見て、Hi-MD男は感心していた。
「アーマー・シュナイダー」
『アナハイムに作らせておいて良かったな。納入には苦労したぜ、バレないようにするのは』
ベンチに座るデジタル・マイクロカセット男は「しかし…」と言葉を続けた。
『性能はオリジナルの7割だ。特に内蔵バッテリーの性能が酷いぞ』
「だから王子も警棒を使ってるだろう」
その言葉の直後に、ガンダムによって暴走MSの1機が機能停止した。
「アーマー・シュナイダーであそこまで捌けるなんて、キラちゃんのおかげだな」
『昔の話だ。今の王子は原子回帰と魂の洗浄を受けているから、覚えているわけがない』
「身も蓋もないな」
雑居ビルの下では、避難する人々の怒号が鳴り響くが、2人はまるで無関係なように会話を続けた。
『メモリースティック女も頑張るね』
「今回の作戦、軍警に対する嫌がらせも兼ねてるとはあるが、本当に意味あるのか」
『さあな…メッセージだ』
ベンチに置いていた端末を、デジタル・マイクロカセット男は回復途中の手で掴んだ。
柵に身をかけていたHi-MD男も柵から離れて、端末の方に目を向けた。
『やっと鉄の棺が見つかったみたいだ』
遠くでは、ガンダムによって2機の暴走MSが機能停止して道路に倒れていた。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
-
ジョン・マフティー・マティックス
-
アマテ・ユズリハ(マチュ)
-
ニャアン
-
シュウジ・イトウ
-
シャリア・ブル
-
シロウズ
-
サンライズカネバン社長
-
シイコ・スガイ