おっぱい大作戦   作:そらまめ

31 / 204
3-8

ガンダムの状態は、メカニッククルーの想像以上に良好だった。

アーマーシュナイダーを両手に暴れ回ったガンダムを見て徹夜を覚悟していたクルーだったが、機体はまだまだ戦えると言わんばかりにハンガーに佇んでいる。

一番損傷がひどかったのはガンダムよりもアーマーシュナイダーのほうだった、というオチも付き、とりあえず朝までには整備は終わるだろうという結論に達した。

 

ガンダムを操縦していたジョンも、メカニックといくつか言葉を交わしたのち、ふらふらとハンガーを後にした。

外で待っている部長たちのもとへ出頭するためだが、ジョンと接していたメカニックは、疲弊しきった彼の表情に不穏なものを感じていた。

 

「ジョン君、疲れ切ってるよ。お前は元気そうなのにな」

 

ガンダムは何も言わない。

 

必要書類を部長に提出したあと、ジョンは寮の自室に戻った。

書類のほうも、ほとんどボカタにやってもらったようなものだ。

手が震えてキーボードが打てなくなっていた。

 

見かねたボカタから自室で休むよう言われ、ジョンは半ば無理やりベッドに横になった。

「とにかく寝ろ」と言われたが、眠りたくても眠れない。

眠ってマチュに会いたかった。あの車内で味わったマチュの匂いの錯覚を、もう一度味わいたかった。

 

疲労で重くなった頭をごまかしたくて、部屋に備え付けのテレビをつける。

こういう時のためにジェスチャー、音声認識式で良かったとジョンはニュース番組に切り替えた。

 

時刻は午前5時21分。画面右上のデジタル表記が示している。

ニュースは暴走MSの特集ばかりだ。テロップで死傷者が表示される。

現時点での死亡者は20名、負傷者は25名。公共交通機関は軒並み運休、医療現場はカオスだという。

 

昨日の20時ごろに始まり、鎮圧が終わったのは22時を過ぎた頃。

さすがにコロニー内は落ち着きを取り戻しつつあるが、あの外交三部の部長さんが働いている監査局も、今ごろ大忙しだろう。

 

自分に自白剤を盛ろうとした理由は、結局聞かずじまいだった。

あの自白剤のやり取りをした場所も戦闘現場になってしまい、なんなら最後の暴走MSを仕留めたのはその近くだ。

 

つい数時間前まで自分がいた現場。

だが、そこにいたガンダムのことを、どのニュース番組も取り上げない。

代わって軍警ザクが、華々しく暴走MSを屠る様子が繰り返し映されていた。

 

自分がガンダムとともにその場にいたことが、ジョンには夢のように思えた。

ニュースで広がる悲惨な光景も、どこか夢のようだ。

 

「マチュのおっぱいを触りたい…」

 

そんな卑猥な言葉が口をついて出る時点で、脳髄が死ぬほど疲れているとジョンは自覚していた。

これほどマチュを求めたことは、交流を始めた二年間で初めてだ。

仮にマチュが実在したとして、果たして触らせてくれるかは甚だ疑問だ。軽蔑されるのは間違いない。

 

おっぱい。

 

この四文字が脳内でリフレインしたとき、ジョンは気がついた。

自分には、おっぱいの記憶がない。

 

ブリティッシュ作戦で死んだ母の母乳を飲み、触れて育ったはずなのに、その記憶が抜け落ちている。

「母乳より粉ミルクで育った」などと揶揄する者もいるだろう。

だが、それでも母の乳首を見たことはあるはずだ。

 

マチュも、タマキの胸を見て育ったはず。

以前、シャリア・ブル中佐との面会でも話したが、ジョンには過去の記憶があまりない。

失われた記憶の中にあるはずの「おっぱい」が、ないのだ。

 

「僕は母さんのおっぱいを知らない」

 

そう思うと、目頭が熱くなった。

ジョンはベッドから立ち上がり、身支度を始める。この部屋で寝ていることが罪であるような錯覚すら覚えた。

 

今の心情がマチュに知られなくて良かった。

絶交され、明晰夢に来てもらえなくなるのが怖くて仕方がない。

 

必要な物をドラムバッグに詰め込むと、ジョンは自室から飛び出した。

 

自分は今、正気じゃない。そのわりに、靴ひもはちゃんと結んでいる。

ジョンは自室の扉を開け放ったまま、ふらふらと歩き出した。

とにかく、ここにはいたくなかった。

 

ジョンがいなくなったことをイズマ支部の人間が知るのは、その一時間後。

事務所に置いてきたハロがジョンの異常を周囲に知らせ、そこで初めて発覚した。

掘り下げが足りないと感じる主要人物

  • ジョン・マフティー・マティックス
  • アマテ・ユズリハ(マチュ)
  • ニャアン
  • シュウジ・イトウ
  • シャリア・ブル
  • シロウズ
  • サンライズカネバン社長
  • シイコ・スガイ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。