白髪交じりの天然パーマの金髪、グラサンが似合いそうだ。
↓
白髪交じりの金髪、グラサンが似合いそうだ。
4-1
イズマ:スラム街
ニャアンが着用している学生服は恐らく盗難品だ。
サイズが微妙に合っていない。
防犯登録証が削られた自転車、恐らくこちらも盗難自転車だ。
すり減った靴、歩き方、体臭…
観察できる範囲で見てもニャアンがどんな生活を送っているのかはジョンは概ね窺い知ることができた。
「家に来ない?今日のバイトまでまだ時間があるから」
ニャアンの問いかけにジョンは頷いた。
積もる話もあるし、向こうの現状を聞いておきたいというのもジョンにはあった。
抱擁から解放され歩いてニャアンの部屋があるアパートまで行く道中でニャアンが自身の自転車を恨めしそうに押していた。
自転車が無かったら抱擁の姿勢のままアパートへ行くことになっていただろう。
道中の会話は少ない。
お互いが近くにいることの安心感の方が喋ることより居心地が良かった。
ただ、道中でもジョンはニャアンとどう接するのが正しいか分からなかった。
(どんな形であれ生きていてくれて嬉しい。だが、もう昔のような関係にはなれない)
ジョンにとってニャアンはアイランドイフィッシュ時代の幼馴染でブリティッシュ作戦でコロニーから脱出する際に離れ離れになって以降、死んだと思っていた。
あの頃のジョンはニャアンが好きだった。
断片的な記憶しか残っていない今でもはっきりと言える。彼女のことを友人としても異性としても好きだったと。
ただ、あれから5年が流れた。
離れ離れになってもう会えないと思って悲しかったが、既に整理はついている。思い出の小箱に置いてあった記憶にすぎない。
だが、思い出の小箱の隅に忘れていた少女が再び現れた。
それがジョンのニャアンに対する心情だった。
ジョンはニャアンの横顔を見た。
自転車を押すニャアンは隠そうとしているようだが、顔がほころんでいた。
その顔になるまではジョンと同様に死んだと思った友人と再会できた歓喜もあるだろう。
だが、それだけではあるまい。
ニャアンの目、その表情に薄暗くて粘着質な意思が混じっている。
危険なオーラだ。情念というべきか。
(美人局で済めばいいんだがな)
口には出さないが、これから連れていかれる場所がそういうところである可能性は十分にある。
自分が知っている過去のニャアンならそういうことはしないだろうが、今のニャアンの立場は分からない。
ついでにガタガタメンタルで大して頭が回っていない自覚もあるので下手なことはできない。
「昔の人だってそう言ってるの、私とジョンもそうであっていいじゃん」
「ジョン、もしもあなたが会いたくないならいい、だったら…」
「私がジョンを探してみせる」
前にマチュに言われたことだ。
あれから大して時間は経っていないが、マチュは今も自分のことを探しているのだろうか。
最後に見た明晰夢の中でこの話には触れなかった。
母親とこの夢の話をすると言って夢は終わってしまった。
その結果をジョンは知らない。
あの時のマチュからは今のニャアンと似たような情念を感じ取れた。
(今のニャアンは闇バイトでの生活を強いられているのは間違いない。僕一人ではどうにもならないが、何とかできないか)
(それとマチュとちゃんと向き合わなきゃダメだ。…マチュ)
2人で歩くうちに次第にジョンのメンタルも落ち着いていった。
ニャアンの自宅までは徒歩でも大した時間をかけずに到着することができた。
外装がボロボロになったアパート、日本語、中国語、ハングル文字が書かれたチラシが壁に貼られた階段を登り、ニャアンの自宅の玄関に到着した。
「女の子の家に上がるなんて初めてだな」
冗談混じりでジョンは言った。事実である。
それを聞いたニャアンはリュックから自宅の鍵を取り出しつつ
「ふふっ」
小さな声で笑った。
釣られてジョンも笑う。
「はは…」
ジョンはニャアンが背負っていたDeli Eatsのリュックを見た。
フードデリバリーサービスの名が刻まれたリュックは違法物品の運び屋が利用していることが以前ニュースで取り上げられていた。
そのことに対してDeli Eats側は大した対策を取らずSNSのコミュニティでボロクソに言われていたのをジョンは見たことがある。
学生服でフードデリバリーサービスのリュック、防犯登録証がない自転車、ジョンは確信した。
(ニャアンの闇バイトは違法物品の運び屋だ)
ふと、ジョンは自分のドラムバッグが震えていることに気づいた。
振動の主は端末だ。ドラムバッグの隠しボタンを押してサブポケットに入れた端末を手に取ると、そこには大量の通知が並んでいた。
殆どがイズマ支部と何でも屋からだった。
「やばいな、そういえば飛び出してきたんだった」
ニャアンとの再会でガタガタメンタルが落ち着いていたジョンはようやく自分が誰にも言わずにここまで来てしまったことに気づいた。
「どうしようかな」
途方に暮れるジョンを見てニャアンは端末を覗き見た。
「仕事先に電話してあげたら?迷惑かけてるようだったら早めに連絡しないとダメだよ。取り返しのつくうちに話さないと」
ニャアンの言葉には実感が籠っていた。それもそうだなとジョンは思った。
「外で電話するよ、終わったら家に入っていいかな」
「うん、待ってる」
頭を抱えながらジョンはボカタにリダイヤルし始めた。
その光景を見ながらニャアンは扉が閉まるまでジョンを見ていた。
スラム:アパート(ニャアン宅)
ジョンが家の中に入ってくるまでにニャアンにはやらなければならないことがあった。
ジョンに見られる範囲を掃除しなければならない。
一人暮らしだからと横着していた出しっぱなしなっている衣類を片付けたり、ベッドメイクをしたり掃除機をかけたりとにかく大忙しだ。
正直、ジョンが会社に電話をしていなかったらこの部屋を見られていたのでニャアンはジョンの会社に感謝したいくらいだった。
何であんなに通知が来ていたのかは後で聞くとしても、ニャアンは今の状況に高揚感が止まらなかった。
出せる飲み物はあるか、余分なスリッパはあるか、トイレは綺麗かととにかくジョンが入ってくるまでの短時間のうちに気にするべきことは多い。
それがニャアンには嬉しい。
これまで散々自身の運命を呪ってきたが、ジョンと再会できただけで全て帳消しにできる自信がニャアンにはあった。
ニャアンはジョンのことが好きだった。
過去形なのはすでに諦めていたからだ。
一年戦争でコロニーから脱出後は生きることだけを第一に今まで生きてこれた。日々の暮らしの中で彼への恋心など忘れていた。
忘れたはずなのだ。それでも生きるための悪行を重ねるたびに彼と友人達と過ごした日々を時折思い出してしまう。
あの時、何で彼の手を離したんだろう。
ジョンは自分を救命ポッドに入れるために1人で死地に残った。
彼が死んでしまって自分の恋心は強制的に諦めさせられた。
それならもういいかと思って吹っ切れたつもりだった。
それが今になってまた現れたのだ。
彼が生きている以上、もう諦める理由はないのだ。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
-
ジョン・マフティー・マティックス
-
アマテ・ユズリハ(マチュ)
-
ニャアン
-
シュウジ・イトウ
-
シャリア・ブル
-
シロウズ
-
サンライズカネバン社長
-
シイコ・スガイ