軍警察本部ビル:ビル前広場
ジョンとハロはのんびりとツーリングを続けていた。
時間帯的にはもう昼食時なので外食先はどこも混んでいる。
食事も取らずにジョンは以前お世話になった軍警本部ビルの近くを訪れていた。
本部ビル前の簡易駐車場にバイクを停めてジョンはヘルメットのバイザーを開けて視線の先を見た。
「地位協定反対!!」
時間は昼食時、コロニー内の季節は夏に調整されているのに市民団体は元気よくデモ活動をしている。
理由は空に浮いてるソドンであるとジョンは察した。
「テロ事件の解決のためいつまでも軍艦をコロニー内に留めるのはおかしい!!今すぐ本国へ帰れ!!」
「軍警は閉場しているのか!?」「営業しています!!」
「暴走ザクの説明をちゃんとしろ!!インストーラーデバイスを入れ替えただけで無人で動くのはおかしいだろ!!」
(元気だな)
彼らの政治思想にはまるで興味がないジョンだったが、わざわざ昼休みに近い時間帯にデモをやる根性はさすがというべきだろう。
市民団体を威圧するために彼らの前に駆り出された軍警のMS-06のパイロットが飽きて怠そうにしているような気をジョンは感じていた。飽きてMS-06のモノアイをグリグリ動かしている。
こういうデモ活動はバイトが多いとジョンは聞いているが、中々に疲れそうなバイトだ。
『実際問題、立テ続ケニ起キルテロヲイズマノ警察組織ガ防ゲテナイノハ事実ダ』
ハロは市民団体を眺めながら言った。
彼らを眺めるのも飽きてきたジョンはそろそろ立ち去ろうとバイクに跨った。
ちょうどその時、ジョンの端末に着信が入った。
ヘルメットのスマートデバイス機能により端末と同期したヘルメットには部長の名前が表示された。
ジョンはヘルメットに備え付けの通話ボタンを押した。
ボタンを押して通話状態になった途端、部長の声がヘルメット内に鳴り響いた。
『You、今すぐ戻ってきてほしいZE!』
部長の声は焦っているというか疲弊しきっていた。自分が電話に出てくれたこと自体にも安堵しているみたいだった。
その態度を見る分に何かあったなとジョンは思った。
「どうしたんですか?」
『理由は後だ。着いたら応接室に来てくれ、大至急DA!』
相当にやばいことがあったとジョンは察した。
こうなった以上はイズマ支部へ戻るしかない。
休日返上だ。
「分かりました。安全運転で行きます」
ジョンはそう言って通話を切るとバイクのキーボタンを押した。
『イズマ支部へ戻ルノカ?』
「何かあったらしい。ここからなら30分以内で行ける、この間みたいに薬は盛られないからな」
バイクを発進させて車道へと流れ込ませる。
通行量はそんなに多くはない。支部へ最寄りの幹線道路へとバイクを進めていく。
ジョンは部長からの緊急の呼び出しの内容について考えていた。
あの飄々とした部長が焦りを隠せないくらいだから余程の事があったのだろう。
そう考えていると上空の天気が次第に崩れていってることにジョンは気付いた。
コロニー内の天気はあらかじめ設定されており、今の時間帯は晴れているはずだ。なのに雨雲がジョンの周囲の上空には雨雲が出来ていた。
怪訝に思いながらもジョンは道路端にバイクを停めてドラムバッグからオリーブドラブのポンチョを取り出して羽織った。ドラムバッグにも防水カバーを被せる。
「ハロ、今から雨が降りそうだ。君の防水機能はどれくらいある?」
『水陸両用、宇宙モ万能、問題ナイ』
ハロは誇らしげに語った。
「なら結構、行こうか」
そういってバイクに跨った時、雨がぽつぽつと降ってきたことに気付いた。
雨に濡れながらのツーリングはキツイ、ポンチョは蒸れるが保温効果はないので冷めると一気に冷たい。
それでも行かなければならないのでジョンはバイクを発進させた。
幹線道路は不気味なくらい静かでジョンとハロを載せたバイク以外は何も走っていない。
雨は次第に強くなっていき、それは次第に土砂降りへと変わっていった。
(おかしい、部長の呼び出しはこれか?)
コロニーの空調設備の故障で天気がおかしくなることは以前にもあった。
特にイズマ・コロニーは築70年を迎える古いコロニーだ。
設備系統に不備が起きたら担当者は苦労するだろうが、ありえない話ではない。
周囲が昼間なのに暗くなり、バイクのライトで照らすくらいになった時、ジョンの前方に人影が見えた。
(ここは車両専用道路だぞ、何故人がいるんだ!?)
予めスピードを落としていたジョンはすぐにブレーキを握ってバイクを停めた。
ジョンと人影は50mくらいの距離を保っている。
バイクのハザードランプを点灯させてジョンはバイクから降りて人影に近づこうとした時だった。
「久しぶりだね、ジョン・マフティー・マティックス。オルフェ・ラム・タオとはもう誰も呼ばないか」
人影がジョンに対して語りかけてきた。その声は土砂降りの中なのにいやに周囲に響き渡っていた。
「何なんだお前は?…ハロ、録画頼む」
『OK』
人影はゆっくりとジョンに向かって歩いてくる。
「5年ぶりだね」
人影がバイクのライトで照らされてその姿が顕わになった。
ジョンはヘルメットのバイザーを開けて信じられないような物を見たようなショックを受けた。
ジョンの目の前には全裸の少年が立っていた。
少年といっても容姿はどことなくニャアンに似ていて、股間から生えているペニスで少年だと判断するくらいには美少女寄りの顔立ちだ。
少年は立ち止まり、ジョンを見つめた。
ジョンも少年を見返す。
「やっぱり、ニュータイプは癌だ。今度は負けないよ、僕がイオマグヌッソを使ってニュータイプを滅ぼせばいい。ジョン、その時僕とまた戦おうよ。5年前のリベンジだ」
ジョンは全く面識がない少年だが、少年はジョンのことを知っているようだった。
ジョンには初見のワードばかりだが、特に説明することもなく少年は言葉を続けた。
「シャロンの薔薇…月の処女、ララァ・スンは世界を変えれない。彼女の騎士も愚か者だ。世界を変えるのはナガラの力を持つ者だというのに」
全く嫌になるね、と世間話をするようにジョンに語りかける少年だが、ジョンは彼が何を言っているのかさっぱり分からなかった。
「僕は昔から赤ちゃんが嫌いなんだ、お母さんと赤ちゃんをいっぱい殺せるイオマグヌッソはいいね」
ジョンはいい加減口を開くことにした。
「さっきからずっと何言ってるんだ?」
少年は笑ったまま答えない。
「眠たくなってきちゃった、まだ本調子じゃない」
少年はそういうと次第に姿が消えていった。
「今度会うときはちゃんとOPPAI-SENSEを使えるようになってね」
その言葉を最後に少年の姿は完全に消滅した。
あまりに非現実的な光景にジョンはしばらくかたまったままだった。
『ジョン、シッカリシロ、ジョン!!』
ハロの声でジョンは正気に戻った。ヘルメットの時計はあれから5分も経っていなかった。
「ハロ、夢か?」
『夢ジャナイ、夢ジャナイ、変態ガイタ。バイク、ハロガ動カスゾ』
まるで夢のような光景だった。
土砂降りの中に立つ訳の分からないことを捲し立てる少年、自分のことを知っているような少年がいたのだ。
正気には戻ったが、呆然とするしかない。
土砂降りだった雨は止み、雲の隙間から日差しが入ってきていた。
バイクの運転をハロに任せながらジョンはおぼろげながら思う。
(あの少年は危険だ)
バイクはイズマ支部へと向かって走っていく。
コロニー公社イズマ支部:庁舎前
イズマ支部の周囲には雨は降らなかったようだ。
庁舎前の芝生に雨雫すらない。
入口近くの芝生の前でジョンはバイクから降りた。
ヘルメットとポンチョを脱いでバイクにかけるとジョンは庁舎を見上げた。
建物は全く濡れていない。
すぐ目の前にある3階の窓ガラスにも水滴すらない。
あの豪雨は局地的な物だったのだ。コロニーの環境を考えると考えづらい話だったが、現実としてジョンは豪雨の中で頭のおかしい少年と遭遇した。
(オルフェ…人違いだよな、でもなんで僕のことを知っていたんだ?)
うーん、と悩んでいるとM-65フィールドジャケットのポケットに入れていた端末に部長からの着信が入った。
ジョンは建物に背を向けて端末の通話ボタンを押した。
『You、着いTA?』
先程とは異なり、部長も幾分か落ち着いてるようだ。
「やっと到着しました。今、庁舎前の芝生のとこですよ。バイクを戻したらすぐ行きますので」
『芝生の所なら応接室まですぐだな、早く来てくれYO』
「部長、さっきすごい雨が降ってましたけど空調機でも壊れたんですか?」
電話を切る前にジョンはさっきのことを聞きたかった。
空調機が壊れたか、何かしらの機械的故障なら修理にMSを使うかもしれないと思ったからだ。
『その件なら、ボール君とザク君に行って貰ってる、色んな意味で大変なことになってるZE』
電話の向こうにいる部長の後ろをドタバタとした足音が部屋から飛び出して行ったのがジョンにも聞こえた。
「僕もガンダムで行きますか?」
『Youは別問題と向き合ってもらう…あれいないZE』
それだけいうと通話は向こうから切ってしまった。
「何が起こってるんだ?」
M-65のポケットに端末を入れた時、ジョンはバイクの台座に乗ったハロがジョンの頭上を見上げていることに気付いた。
ハロのカメラがジョンの頭上を見ている。
『ジョン、上カラ来ルゾ、気ヲ付ケロ』
そう言われたジョンは振り返って庁舎を見上げた。
3階の窓が勢いよく全開に開かれ、そこから人が飛び出してきた。
MS操縦で鍛えられたジョンの動体視力はその人物の様相をはっきりと見れた。
その人物の性別は女、年齢はジョンと大差ない。
背はあまり高くない。
服装がハイバリー高校の制服、髪型はツーブロックで赤く染めている。
地毛は黒に近い色だろう。
耳には三日月のピアスを装着している。
先程の頭のおかしい少年のインパクトが目の前で落下してくる少女のショックで上書きされた。
何の迷いもなく3階から飛び降りた少女はジョンへと突っ込んできた。
本能的に少女を受け止める態勢を取ったジョンは自分に向かって飛び込んでくる少女の顔に浮かぶ表情をはっきりと見た。
その表情は歓喜に満ちていた。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ