淫らだ。
その夢の中でジョンはマチュの身体を貪っていた。
凌辱と言って差し支えないだろう。
あのディープキスの時に感じた肌の感覚がジョンの中に浸透していき、下半身に熱がこもっていく。
夢の中でも分かる。久々の感覚…夢精だ。
こういう時は変な時間に起きる。
起きて、精液が付いた下着と服を脱いでシャワーを浴びなければいけない億劫さを、久々にジョンは味わおうとしていた。
(マチュには悪いが、射精するのは久しぶりだ)
以前、先輩方に女遊びを教えてもらったことがあった。
その時はあらかじめエロの勉強をしてから行ったので、頑張って勃起しようと努めた。
だが、相手方のヴァギナを見た時、ジョンはとても女遊びをできる精神ではなくなってしまった。
あれを見ると死体を思い出すのだ。
タイヤの轍に埋まった女性の死体、むき出しになった下半身の生肉に虫が群がっている光景をジョンは見たことがある。
それ以来、ジョンは女遊びをしていない。
性処理をしようとアダルトビデオを見ても、そういう気になれなかった。
自身の身体をオカズにされたマチュには悪いことをした。
本人には見られたくない光景だ。
そろそろだな、とジョンが思った時だった。
目の前のマチュが突然、ガンダムの姿になった。
そのガンダムは灰色に覆われ、2本のV字アンテナを携えた顔立ちをしていた。
ジョンはびっくりするよりも先に困惑が勝った。
この顔はどこかで見たことがある。懐かしさすら覚える。
仕事で操縦しているガンダムとは違う意匠の顔立ち、全くの別物に見えるが、ジョンにはこれもまたガンダムだとすぐに分かった。
その顔に表情はない。だが、この顔は悲しんでいるとジョンは感じた。思わずジョンは聞いた。
「君は誰だ?」
ガンダムはその両手でジョンの頬に触れた。
『ごめんなさい』
マチュの声でガンダムはジョンに謝った。
『アマテもガンダムも、全て捨ててあなたには生きていてほしかった』
ジョンは気づいた。このガンダムの頭の額には文字が刻まれている。
『CINQUE X-105』
これがこのガンダムの名前だろうとジョンは思った。
頬の両手が離れ、ガンダムの頭が元のマチュの頭に戻った。
『ストライク、あなたとキラはガンダムと呼んでくれた』
キラとは誰だ?
『シャロンの薔薇は気づかない。その運命すらナガラの糸で結ばれている』
シャロンの薔薇?
『キラはあなたを愛していた。でもそれは夢のような時だった…』
そう言うと、夢の中のマチュはジョンに抱きついて、その身体の中へと消えていった。
同時にジョンは目覚めた。
夢精の快感と共に、ジョンは消灯した部屋のベッドの中で目を覚ました。
射精の快感はすぐに消えた。
ただ、あのストライクと名乗るガンダムを思い出すと、取り留めようのない涙がこぼれた。
泣きながらジョンは替えの衣類とタオル、洗面用具を持ってシャワー室へと向かった。
シャワー室のデジタル時計は午前0時29分を表示していた。
自身の精液で汚れた下着を含めた衣類を脱いで全裸になったジョンは、シャワーを浴びながら思考に浸る。
(そういえば明晰夢を見なかったな)
明晰夢の中ではマチュに格好をつけていた自分だが、現実では大してカッコいいわけではない。
現にマチュをオカズに夢精して、夜中にシャワーを浴びているのだ。
我ながらダサいとジョンは感じていた。
気がかりなのは、エロい夢こそ見たが明晰夢ではないことだ。
現実で出会ってしまったから、見なくなった?
仮に今日、明晰夢を見たらえらいことになりそうだ。
応接室はその後、大荒れだった。
『嫌だ、私が悪いのになんでジョンが!!』
フリーズから立ち直ったマチュが大人たちに猛抗議した結果、その場から強制退場させられた。
タマキもシャリアたちと言葉を交わした後、ばつが悪そうにジョンを見て応接室から去った。
部長もジョンをジオンへ出張させる手続きを早急に始めるべく去っていった。
申し訳なさそうな表情を浮かべながら去る部長の背中を、ジョンは見送った。
部屋に残ったのはジョンとシャリアの2人だ。
『さて、ジョン君』
遠くからマチュの叫び声が聞こえる。
『アマテさんはどうでしたか?』
『太陽』
ジョンは即答した。
今日初めてジョンはマチュの容姿を見た。
確かに美少女だ。それは間違いない。
本人が語る通りのプロフィールであることも間違いない。
だが、左手だけでは分からなかったこともある。
『彼女の生きる意志だ』
ジョンとマチュが接したのはディープキス3回と、お通夜のような応接室での対面だけだ。
とても良い出会いではなかったし、「グダグダ」という言葉に尽きる。
それでも分かったことがある。
アマテ・ユズリハは太陽なのだ。
当然、善悪・本音と建前を使い分ける人間で、言っていることすべてが正しいわけではない。間違いだらけだ。
それでも太陽のような人間なのだ。
彼女の世界を守りたい。
その答えにシャリアは微笑んだ。
『僕がジオン出張に納得した理由の一つがそれです』
『なぜです?』
『この間のソドン襲撃犯、どうも僕のことを知っているみたいだった。僕のことを王子と呼んでいた』
『王子?』
『僕のことを探しているなら、見つかるのは時間の問題だ。だったらソドンに乗せてもらってイズマを離れれば…』
『少なくとも、あなた絡みでアマテさんがテロリストに目を付けられるリスクは減る』
ユズリハ母娘の外交問題の尻ぬぐいをさせられる形だが、それでも良い。
グダグダな形であったが、現実のマチュを一度でも見られたのだ。
キスもしてもらえた。
もういつ死んでもいいやとジョンは思った。
マチュのエネルギーをもらったおかげで、暴走MS以来、疲れていた心もだいぶ良くなった。
今回は明晰夢を見ることがなかったが、それが今後も続いていけばいいと思った。
ジオンにいる間は長い。
女心と秋の空、明晰夢を見なくなり、キスの記憶を忘れる。
そしてジョンのことを忘れる。
それがジョンが考えるマチュの最良だった。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ