艇の進路上にあるデブリを、ガンダムのストライクバズーカから発射された弾頭が大きなデブリに着弾し、その軌道をコロニーから外した。
ガンダムに取り付けたセンサーがバズーカのデータを収集していく。
マチュとの熱烈なディープキスから3日、ジョンは通常業務に復帰していた。
復帰早々の作業は、空調器材エリアの調査の護衛だった。
コロニー外壁部に取り付けてある空調器材を調べて回るために、デブリ用の装備を整えたガンダムは2機のザクと共に外壁部を回っていた。
3日前、突然の豪雨の原因となった空調器材の不良を調べた結果、とりあえず新しい空調機が来るまでの間、予備部品の交換で何とかもたせようという判断だ。
サラミス級宇宙警備艇を改修した作業艇にガンダムたちがしがみつくと、艇は目的地へと航行していく。
「…」
『どうした、ジョン?』
ガンダムを通して元気がなさそうなジョンを見て、ザクのパイロットが接触通信で話しかけてきた。
「濃い6月だったなと思って」
時期は6月から7月へ、カレンダーもめくったばかり。
『赤いガンダムに遭遇、テロリストに襲われて拉致、暴走ザク軍団とバトル、しまいにはお嬢様と熱愛だからな』
『人生でこんなに濃い6月はなかなかないだろうよ。あのお嬢様はどうしたんだ?』
「ここ3日ぐらいは音沙汰なしです。連絡先も交換する前の強制退去でしたから。支部にも来てないみたいです」
恐らく聞かれるであろう話題だったので、ジョンは淀みなく答えた。
『冷たいな、ブッチューした後は何もなし。刹那的だな』
揶揄いを潜めてザクのパイロットは言った。
『無理ないよ、危うく外交問題になるところだったんだから』
『で、ジオンの言うことにハイハイしたがってジョンがジオン工科大学へ出張と』
「しばらく帰ってこれません」
この3日間、ジョンは明晰夢を見なかった。
その事実にジョンは安堵と喪失感を同時に覚えていた。
マチュが自分と関わって何か嫌なことに巻き込まれなければ良い。
だが、2年間の交流がこうもぷつりと途絶えるというのは思うところがある。
(カッコよくはなれないか…)
艇の進路は進み、以前にジョンとシュウジが邂逅を果たした場所まで来た。シュウジのグラフティは既に消されており、今では何かあったような痕跡しかない。
「あれは、キラキラだったな」
ジョンは呟いた。
ニャアンも以前話していた。
橋下のグラフティをニャアンはキラキラと呼んでいた。
ニャアンのことを考えていると、ちょうどコックピットの小物入れに入れていた端末が揺れた。
この辺なら端末の電波も入る。
ジョンが装着しているノーマルスーツは、スーツ越しだと端末を操作できない。
代わりに顔認証機能で通知画面を開いて、ジョンは通知を確認した。
(噂をすれば、だな)
通知画面にはニャアンからのメッセージが来ていた。
『今度の休み、どこかで会えない?』
ザクのパイロット達は、ジョンに会話が聞こえないようにワイヤーでの接触通信で会話をしていた。
彼らはガンダムの持つストライクバズーカを見て、嫌そうに言った。
『あのバズーカの名前、ストライクバズーカというらしい。ストライク(攻撃)なんて名前、大学はここを試験場だと思ってはいないか?』
ストライクバズーカと試験と称して持ち込まれたバズーカ以外に装備はある。
グランドスラムという名の大剣、RX-78-02が装備していたシールドによく似た対ビームシールドまである。
MS-06のパイロットの言葉は、イズマ支部に勤務するパイロットたちの代弁でもあった。
『ジョンを出張させろと言ったのは、シャリア・ブル中佐だったな。あの灰色の幽霊』
芝生の上で巴投げされるシャリア・ブルの姿を、この目で見た。
あれが一年戦争でM.A.V戦術の生みの親の一人とは思えなかった。
『推測を話してもいいか?』
『暇だしいいぜ』
『シャリア・ブルはジョンをジオン軍のMSパイロットとして引き抜こうとしてるんじゃないか?』
少しの間を置いてザクのパイロットの一人は答えた。
『…ありうるな』
『お嬢様たちの件だって言ってみればプライベート間の問題だろ。わざわざ外交問題を匂わせて大げさにする必要があるほど、向こうも暇じゃない』
『お嬢様はダシにされたわけか』
『ジョンはMSパイロットとしての実績はある。軍人のリストラをしながらも組織の新陳代謝をしなければならない。…それにジョンの立場はジャンク屋からの出向扱いだ。ジオン軍なら引き抜きは簡単だろう』
『なぁ、もしジョンがニュータイプだったらどうする?』
聞き手になっていたザクのパイロットは言った。
『ジオンはフラナガンスクールとかでNT戦士を育成しているらしい。
ジオンがソドンに積んでる奴の2号機を作ってるのは公然の秘密だ。
ジョンをそいつに乗せようとしたら…』
ジョンの操縦技術の高さの裏付けが、ニュータイプである可能性はある。
ジョンがニュータイプでも不思議ではない。
しかしだ。
『待て待て、憶測が過ぎる。第一、サイコミュは規制こそあれど抜け道はある。
ソドンのMSもサイコミュは搭載されているが、特に問題にはなってないだろう。わざわざフラナガンスクールじゃなくて民間のジョンを引っ張ってくる理由としては弱いぞ』
『いつの間にか規制緩和されてるぞ。知ってるか? キケロガがイズマに来るらしい』
キケロガについてはMS乗りなら誰でも知っていなければならないくらいの基礎知識だ。
基礎知識になるくらい厄介な存在ということの証左でもある。
それこそグラナダから出ただけでも問題になりそうな代物だ。
『軍警も急ピッチでザクの修理を進めている。言い訳を重ねて滞在するソドンにキケロガ、都市伝説のナガラ衆の目撃情報……何か面白いことが起きるぞ』
『その根拠は?』
あまりの高笑いに、利き手のパイロットは心配そうに聞いた。
『勘だ』
「男の子ね」
「根拠は?」
「勘」
昼休みになったクラスで、4人組の生徒が放心状態のマチュを見て言った。
あのアマテ・ユズリハが…
「ゼクノヴァでも起きるんじゃない?」
そう言った生徒は、隣の生徒から小突かれた。
「アマテさんは軟弱じゃない。放心しているように見えても、今の問題をどうするべきか必死に考えてるのよ」
その生徒がアマテを見る目は、どこかしっとりとしている。
「今度の休み、アマテも誘って遊びに行こっか。男の子のこともたっぷり聞こうね」
一人の提案に、三人は同時に頷いた。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ