アマテ・ユズハリ→アマテ・ユズリハに修正しました。
「俺は…」
「ペイルライダーが好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
男の奇声がレジャーコロニーとして有名なフランチェスカの「嘆きの丘」に響き渡っていた。
ゲテモノ枠として叫んでストレス発散を期待されたスポットだが、ここではコロニー内に作られた海が綺麗に見えるスポットの1つとしても作られている。
とは言っても朝から人がいるのは珍しい。
「絶対作って見せるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
珍しく朝からこの丘を訪れたカップルは男の絶叫にドン引きしていた。
「帰ろう、クリス」
「そうねバーニィ」
カップルは見なかったことして回れ右で元来た道を帰って行った。
後ろでは男はまだ叫んでいる。
「待ってろEXAMMMMMMMMMM」
エグザムて何だよと2人は思った。
一年戦争がジオン公国の勝利に終わったことは否定しようがない事実だ。
いびつな形から始まった地球連邦政府と宇宙移民政策、ミノフスキー粒子とMS、ジオニズムをコンクリートミキサーにかけた結果、45億人の死人を出したコロニー落としと20世紀のグレートウォーのような総力戦が5年前に現実として発生したのだ。
その時のマチュは12歳、テレビやインターネットでは世界の終わりのような話ばかりが流れていた。
サイド6はこの戦争では中立を掲げていた。
中立といっても戦いが起きない訳ではない。
リボー・コロニーでも小規模な戦闘があったというニュースをマチュはおぼろげながら覚えている。
自分はコロニーの中にいて戦火とは無縁だ。
物流なり情報統制なりで不自由が少々あれど兵隊の暴力と自分と同い年の少女が春を売るような現場をマチュは見たことがない。
マチュが世間知らずというよりイズマ・コロニーの大勢がそうだろう。
母親のタマキの友人で従軍した知り合いもいるが、彼らの苦労話を聞くたびにそういう無神経なことは言わないようにマチュは気遣ってきた。
従軍した者達は勝者であるジオンの人は口は軽いが、負けた連邦の人は口は重かった。
自分が想像する以上の過酷な現実を経験して生きて帰ってきたと思うとマチュは何も言えなかった。
そういう戦争のグロテスクな話を思い起こすたびにマチュは思う。
(ジョンは5年前、どうしてたんだろう)
明晰夢、ジョンがそう話した謎の空間にマチュが入れるようになったのは一年戦争が終わってから数年が経った頃だ。
ある日、いつものように眠ったら奇妙な空間にいた。
青空、マチュは地球の実物を見たことがないが、青空が一面に広がる空間でマチュはいた。
正確には身体の一部、左手だけが目の前にあり、他の身体はどこにもなかった。
左手以外は透明人間、ただし左手以外は何も触れない。側から見ればよく分からない状況だが、その時のマチュは直感的に理解した。
「どこだここ?」
「誰かぁー!!」
自分の近くで情けない少年の声が聞こえてくる。振り返ると緑色の作業服を着たような少年が半泣きで周囲を見渡していた。
「何か青くなってるし、なんだよこれ」
右往左往している彼は本気で困ってるような感じなのでマチュは声をかけた。
「あの…」
マチュの声は少年の耳に届いた。
少年は一瞬フリーズして自分の方向を見た。そして言った。
「手だけが浮いてる…幻覚見てんのかな…シロー兄さん」
ブツブツ言い始めた少年の呟きはマチュには聞こえなかった。
「あの世に来ちゃったよナダさん…」
ヘナヘナと少年は無の空間に座り込んだ。
これがアマテ・ユズリハが知っているジョン・マフティー・マティックスのファーストコンタクトだ。
なんとも締まらない話だとマチュはあの時のジョンを思い出す。
あの時のジョンは幼い頃の自分を思い出すくらいに怯えていた。
そんなかっこよさのカケラもないジョンだが、それからも何度も明晰夢の中で会うこともあったので自然と交流することになった。
思えばあのファーストコンタクトの時から自分はジョンに惹かれていたのかもしれない。
マチュはプライバシーをなるべく伏せる形でジョンと雑談を続けた。
左手しか実体のない自分と情けないジョンとの間ではどこかで線引きをして交流しなければならないとマチュは無意識で思っていた。
年齢、学校、日常でどんなことをあったかを雑談で話しながらも自宅の住所や家族、身の上事情は極力伏せて話した。
明らかに自分に不信感を持っているマチュに対してジョンは特に詮索はしなかった。
対するジョンの方も自分の話はあまりしなかった。マチュに話すのは仕事の話ばかりだ。
仕事で忙しい母親のタマキは家庭に仕事の話を持ち込まないような人間だったが、ジョンはそういう人間だった。
やれ、トイレ詰まりの配管作業後の昼食に出たカレーライスを無理に食べただの、プチモビルスーツで宇宙に吹き飛ばされただのそういう話だ。
マチュはそんなジョンに文句を言ったことがある。
たまには仕事の話以外の話もしたらどうだと、それをマチュに言われるとジョンは少し悲しそうな顔で笑った。
その顔は連邦の帰還兵が持つ笑顔とどこか似ていた。
さて何年も明晰夢で交流を続ける同世代の男女、10代の性欲も当然表に出てくる。ジョンの陰茎が自分に対して苛立っているようにマチュは感じていた。
不思議と嫌悪感は無かった。むしろ左手しか実体がない自分へそういう感情を持てるジョンに呆れていた。
これがジョン以外だったら酌量の余地なくグーパンチだ。
そんなジョンも次第に自分に慣れていったのか陰茎への苛立ちはなくなった。
…それが今となっては惜しくなった
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ