「νガンダム、虹色の水着の女はそう言ったのか?」
「…うん」
ショッピングモールに併設された緑地公園。ジョンとニャアンはベンチに座って話していた。
家族連れがベンチの前を通り過ぎていくのを、ニャアンは懐かしそうに眺め、その視線に気づいた子供がニャアンに笑いながら手を振った。
それに応えて、ニャアンも手を振り返す。
家族の写真すらないジョンとニャアンにとって、あの家族連れの仲睦まじい光景はもう経験できない風景だ。
家族連れが見えなくなった後、ジョンは話を切り出した。
「虹色の水着の女性はナガラの使い。ニャアンとシュウジ、そしてマチュを知っている…想像以上に面倒なことになってきたぞ」
ジョンがニャアンに呼び出された理由は、先日の虹の水着の女性のνガンダムの件だった。
ニャアンの話をメモに取りながらも、ジョンは部長のような芝生土下座をしたくなるような心情になっていった。
ナガラ衆というテロリストのメンバーの一人が、20m級のMSに変身した。そのMSの名前は「RX-93 νガンダム」。
ナガラ衆とニュータイプの関係性を匂わせる発言。
ニャアン、シュウジ、マチュの存在を把握しており、なおかつ組織内では重要ターゲットになっている。
νガンダムもびっくりだが、ジョンが衝撃を受けたのはマチュとシュウジの名前が出てきたことだ。
シュウジは赤いガンダムの件でお尋ね者なので、ナガラ衆のような団体がシュウジと接触してきても不思議ではない。
だが、なぜマチュの名前が出てくる?
マチュがナガラ衆に目を付けられる理由がまったく分からない。
良いところのお嬢様であることには間違いない。だが、それだけなら他にも該当者はいる。
なぜマチュなんだ?
マチュのためにイズマを離れようとしたのに、そもそもナガラ衆に目を付けられているようでは、自分の判断の半分は意味がなくなる。
テロに巻き込まれてマチュが死ぬようなことになるくらいなら、自分が死んでも阻止しなければならない。
そう考えたジョンは、一瞬だけシャリアに相談することを考えた。
(いっそのこと、ヒゲマンを通してマチュとニャアンをソドンに乗せてもらえないか交渉するか?)
僅かな逡巡の後、それは無理だとジョンは思った。
そもそも自分がソドンに乗艦する理由も無理やりなのに、それに加えてマチュとニャアンを乗艦させる理由がない。
根拠がニャアンの証言だけでは、いくらシャリアでも動いてはくれないだろう。
シュウジに関しては、そもそも居場所が分からない。
ケルゲレンとリリー・マルレーンに回収されたことを鑑みるに、その艦を運用しているサンライズ・カネバンあたりが何か知っていそうだが、会社が吹き飛びそうな話を部外者である自分に話すはずがない。
シュウジには自衛してもらうしかない。
マチュに関しては、タマキを通してこの件を伝えようとジョンは決めた。
タマキが自分のことをどう思っていようが、マチュの人生がかかっているのだ。
いくらタマキに嫌われてもジョンは構わない。
マチュのために、何がなんでも動いてもらう。
「ジョン、私の話を信じてくれるの?」
「荒唐無稽な話ばかりだが、信じられる根拠はある」
縋るようにニャアンはジョンを見つめる。ジョンは落ち着いて自身の端末の写真アプリを開いた。
写真アプリで、ニャアンに転送してもらった写真を開いた。
それはあの地下空間でニャアンがνガンダムを撮影した写真だった。
虹色の水着の女性が変身した時、ニャアンは咄嗟に端末のカメラ機能をシャッター無音のまま撮影していた。
暗くて不鮮明な部分も多いが、それでも得られる情報はたくさんある。
何枚かの写真を見ながらジョンは頷く。
「ニャアンは嘘つかないだろ?」
ジョンはニャアンの人となりに全幅の信頼を寄せている。
仮に嘘をついたところで、何のメリットもないのだ。
ジョンにそう言ってもらえたことで、ニャアンは目に見えるくらい嬉しそうな表情を浮かべた。
「向こうの広場でお好み焼き大会をやってるみたいだから、昼飯はそこで食べるか。パルダからも出店しているらしい」
楽しそうに揺れるニャアンのポニーテールを見ながら、ジョンは思う。
(虹色の水着の女性の話を、僕はニャアンにはしていない。それにシュウジとマチュの本名についてもだ。間違いなくニャアンは女性と接触した)
νガンダムに変身した話は、さすがに無茶苦茶すぎる。
しかし、それ以外は概ね納得できる話ではある。
「ニュータイプの末路か…」
ニャアンの話すナガラ衆とニュータイプの関係性、それも気がかりだ。
気がかりなことが多すぎる。
「ニャアンはよく解放してもらったな」
ジョンは気になっていたことを口にした。
理屈は脇に置くとしても、人間がMSに変身するなんていう超常現象を見せられて、口封じや記憶操作をされてもおかしくはなかった。
だが、ニャアンはそんな処置はされずにそのまま解放された。
「分からない。でもアマテとシュウジって子を気にしてたから、殺しはしなかったのかな。他言無用なんて話もなかった」
「普通、人間がMSに変身したなんて誰も信じない。僕もニャアンだから信じるのであって、ネットで書いてあっても信じないよ」
ニャアンは不思議そうな表情を浮かべた。
「ジャック、まさか…」
何かを察したように、ニャアンはジョンの左手を握った。
「あの時のこと、覚えてないの?」
「あの時」という言葉でジョンは察した。
ブリティッシュ作戦の時の話だろう。
「ニャアン」
ジョンはニャアンに向き直った。
猫のようなニャアンの鋭い目を、ジョンは直視した。
「前に話した通り、僕の記憶は断片的にしか覚えていない。ニャアンは僕が知らないことを知っているはずだ。だったら教えてほしい。僕はアイランド・イフィッシュで何をしたんだ?」
ニャアンの目が動揺で揺れている。
困ったような、顔を見られていることの羞恥か、これから話すことへの怯えか、それとも全部か。
少しの沈黙の後、ニャアンは口を開いた。
「ジャックはね」
「ガンダムになれるんだよ…」
掘り下げが足りないと感じる主要人物
-
ジョン・マフティー・マティックス
-
アマテ・ユズリハ(マチュ)
-
ニャアン
-
シュウジ・イトウ
-
シャリア・ブル
-
シロウズ
-
サンライズカネバン社長
-
シイコ・スガイ