ジョンはニャアンの目をまっすぐに見た。
顔を赤くしながらも、ニャアンはこの場で自分が思い違いをしていることに気づいた。
ジョンは覚えていると思ったのだ。
0079年の1月3日から10日の惨劇、その中でジョンは奇跡を起こしたのだ。
あの凄惨な記憶を彼が失ったというのも無理はないと、ニャアンは思っていた。
しかし、あのことを本当に忘れているとは思わなかった。
「ガンダム…?」
完全に困惑している様子のジョンを見て、ニャアンは困ってしまった。
「証拠は? 何を証拠にそんなことを?」
ニャアンの困った様子を見て、ジョンはとりあえずニャアンに質問を続けることにした。
困っているのは自分の方だとジョンは思ったが、ニャアンから話を聞き出さないことには変身の真偽は分からない。
「証拠は…ジャックの身体だよ」
ジョンは自分の身体を見渡した。
いつものM-65ジャケットを中心にしたファッションに、昨日と変わらない身体。この身体がMSになるとは思えない。
「ジャックはガンダムになったの」
ニャアンは咳き込み、どこかで物が落ちるような音が響く。
ニャアンは涙目になりながらジョンを見る。
ジョンには全く身に覚えのない話だ。
断片的ながら覚えている記憶でも、ガンダムなんて出てこない。
出てくるのは0ザクと呼ばれる旧式のザクとMS-06くらいだ。
あの時は、ジオン軍が散布した毒ガスからニャアンと共に奇跡的に免れた。
コロニー公社の生き残りと、休暇のために帰省していた友人のシロー・アマダと共に行動を取っていた。
そしてジョンはアイランド・イフィッシュに不時着したマゼラン級トータチスのクルーと共に戦いに参加した。
ニャアンについては避難していたコロニー公社の生き残りに任せていたから、戦いに参加した中でジョンは最年少の10歳だった。
「そして、戦いがまた始まったらジャックはガンダムになっちゃう」
その時のことを思い出したのか、ニャアンは嗚咽を漏らしながら、緩んでいたジョンの手を振り払って走り出した。
「そんなの嫌だよ!!」
よほど思い出したくない記憶だったに違いない。ニャアンは感情のままジョンから離れていく。
「待て!!」
軽率だった。
記憶が曖昧なジョンと違って、ニャアンははっきりと記憶している。
その差をジョンはきちんと理解していなかった。
自分の育った場所が毒ガスで覆われ、家族がどうなったのかすらニャアンは知らないのだ。
ジオンの一般人は勝利の愉悦で全部忘れただろうが、ニャアンは覚えている。
あれから6年程度しか経っておらず、ようやく現実と折り合いをつけられる時期なのだ。
「ジョンはガンダムに変身できる」という話は一度棚上げだ。
ジョンは全力でニャアンの背中を追いかけ始めた。
ジョンはMS操縦のために身体を鍛え、ニャアンも運び屋を通して自身の身体を自然と鍛えてきた。
ジョンは走る。ニャアンも走る。
ショッピングモールを走る二人の男女に、周囲の視線が刺さる。
それでもペースは全く緩まない。
ジョンはニャアンに言われた通り、自分がMSになるイメージを思い浮かべた。
普段自分が乗っているガンダムに自分が乗り移り、金属の身体となり、人間でなくなっていく。
ファンタジーだ。
それでも、ニャアンが嘘は言わない。
それに嘘だったら、ショッピングモールを走ってなどいない。
ニャアンは本当のことを言っている。
それは分かる。それでも信じたくない自分がいる。
自分自身に対して、ジョンは叫んだ。
「嘘だ」
「嘘だ、そんなこと!!」
走りながら叫んだその声は、誰の耳にも届いていない。
MENコーナーにあるマネキンたちを見ながら、マチュは怪訝な顔を浮かべた。
一体は赤いサングラスと銀髪のマッシュルームカットのウィッグを被り、虎柄の服を着ている。
もう一体は全身がベルトまみれの服を着ている。
(ジョンには似合わないかな)
WOMANコーナーに戻ったマチュは、そこでベルトまみれの上着を試着しようとする友人を見ながら困惑した。
売り出し中のクラゲが描かれたシャツに購買意欲をそそられながらも、マチュは悩んだ。
マチュが求めるファッションは清楚なものだ。
ジョンが自分に好意を持っているのは間違いない。
だが、ディープキスの後のジョンの心情をマチュは知らない。
もしかしたら心変わりして、嫌いになったのかもしれない。
淫乱だと思われたのかもしれない。
今度会う時は清潔で清楚、淫乱だと思われないように、まずは服装から大事にしよう。
同時に自分の性格、明晰夢の中でジョンと接していた時の自分を思い出す。
ハイバリーハウス学園での自分の振る舞いをイメージする。
次回、ジョンと接した時の自分は清楚でカッコよくなければならない。
『快活で運動神経抜群な女の子』
友達たちから言われたその性格でジョンと接する。
自分が自覚している嫌な部分を押し殺して、ジョンに自分を見てもらわなければいけない。
とりあえず、友人のベルトファッションをマチュが止めようとした時だった。
『嘘だ、そんなこと!!』
マチュの中にプラズマが走った。
どこからかジョンの叫び声が聞こえてきた。
マチュの心に世界が入ってくる。
その世界はクリアだ。それでいて自分が求めることがすぐに分かる。
脳裏に世界のイメージが湧いてくる。
ジョンが近くにいる!
ジョンが走っている!
ジョンが誰かを追いかけている!
ジョンが追いかけているのは
誰、あの女?
その瞬間、マチュは本能のまま動き始めた。
カゴを出入り口付近にある置き場所に戻して、走るべき方向を見定めた。
そしてジョンがいるであろう店の外へ飛び出して、全力で走り始めた。
ジョンに会いたい、今すぐに!!
風のように走っていったマチュを見て、友人たちは顔を見合わせた
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ