白い悪魔が巨大化するならピンクの悪魔は変身します。
ショッピングモール:第2公共広場(お好み焼き大会会場)
『サンライズ・カネバンお好み焼き出張所』
というのれんを屋台に垂らしながら2人の男が口論をしていた。
「君も厄介だな!ペイルライダー君!!」
「自分の世界しか知らないあなたが!」
「知らぬさ、人は自分の周囲しか知らぬ。知れば誰もが望むだろう。犬のような女の子になりたいと、猫のような女の子になりたいと!!」
「なんとぉ!!」
「ここが決戦のバトルフィールドだ!!」
シモダとペイルライダーがお互いに目の前の鉄板で焼かれているお好み焼きを丁寧に焼いていく。
丁寧でも速い。
速いけど丁寧。
だが列に並ぶ客達は2人の様子、口論の方に耳を傾けていた。
焼いてる風景よりそっちの方が面白いからだ。
「PTSDになった少年のオナニーを人は笑い、嘲った。少女達の残酷さを人は希望と称え同情した。見ろこの欺瞞を!!男と女、性別で人は悩み苦しみ。老人達は若い女を求めて現実を見ない!!」
「それはあなただけの考えでしょう!!」
「そうとも。自分が誰よりも常識的で良心的だと思い込む。人は単純で愚かなのだ!!」
「焼き加減が甘い!!」
「繋がりを求めて祭りで盛り上がり、同調し、批判すら許さず、若い女の子にしか興味がない!!しょせん人は100年で進化などしない。老人を打ち倒す若者は生まれてこないし、老人はそんな若者が嫌いだ!!老人は次世代への継承を失敗した!!これが現実だ!!」
「その主張は世界じゃない!君だ!今だ!!」
ペイルライダーが鉄板に並べられたお好み焼きを連続でひっくり返す光景を見て客達は
「おぉ」
と歓声を挙げる。
「お好み焼き焼くのに何騒いでるんやアイツら?」
あの列に並んでいる客達はお好み焼きよりもあの2人の会話目当てで並んでいる。
「ニュータイプでももうちょいちゃんと話すで…」
おっちゃんは隣で焼いているシュウジを見た。
こちらはこちらでお好み焼き名人スーツを装着して黙々とお好み焼きを焼いている。
「ジョンが近くにいる」
シュウジの呟きを聞いておっちゃんの顔が強張った。
ここにシュウジ達がいるのは偶然が重なった故の産物だ。
元々、お好み焼き名人スーツを投入予定のお好み焼き大会の会場がイズマ・コロニーにある大型ショッピングモールで行われたこと、シュウジが会いたいジョンがイズマ・コロニー、それもこのショッピングモールの近くに住んでいること自体が偶然でしかない。
シュウジはお好み焼き大会が終わったらジョンに会いに行く予定だったが、向こうがすぐ近くにいるなら話は変わってくる。
「屋台、頼んでいい?」
フルフェイスのバイザーを上げてシュウジは言った。
「ボンと話が終わったらこっちに呼んでや。お好み焼き、みんなで食べよう」
シュウジは頷いた。
ショッピングモール:1F中央ホール
ジョンがニャアンに追いついたとき、ニャアンは息切れをして立ち止まっていた。
息を切らしながらジョンはニャアンに近づく。
「かなり…鍛えたね」
自分よりは余裕がありそうなジョンを見てニャアンは言った。
はぁ、はぁと2人は息が上がっているがジョンはまだまだ問題なく動ける。
「この間腕立て伏せ100回、腹筋90回、3km走は9分30秒は記録は取れた。僕より鍛えてる人はいっぱいいる。ニャアンも鍛えたね」
「自然と身に着いたよ…」
ジョンはニャアンに肩を貸してニャアンもジョンに手を伸ばす。
「さっきは悪かった」
2人の身体は自然と密着し、互いの汗の匂いが交じり合う。
「ごめん、私もいきなり」
「いいよ。僕が無神経だった。ガンダムの話は後で良い。飯でも奢るよ」
お好み焼きを考えたが、ゆっくり座れるフードコートで良いかとジョンは思った。
「上のフードコートで良い?安上りで申し訳ない」
「良いよ。ジャックが奢ってくれるなら」
走っていて気分も晴れたのだろう。ニャアンは笑いながら言った。
飯を奢るという言葉にも惹かれたのだろう。現金な奴だとジョンは思いながら介添えを解いた。
ショッピングモールを走り回る2人の光景は悪い意味で周囲に目立った。
周囲の客も迷惑そうに遠巻きに見ていたが、男女の2人が肩を組んで笑顔で話している光景を見ると
「ああ、痴情の縺れかな?」
「和解した?」
というように各々で解釈して後は誰も興味を無くした。
ニャアンの息が戻ったのを確認するとジョンはニャアンと共に歩き出した。
フードコートのある階までエスカレーターに乗った2人はぼおっと上を眺めていた。
ニャアンが聞きづらそうにジョンに言った。
「ジャック、さっき話に出てきたマチュさんだけど…マチュってアマテさんのこと?」
そういえばその辺の説明をしてなかったなとジョンは思った。
「マチュというのは子供の頃のあだ名だね。僕はあんまりアマテ、とは呼ばないな」
「アマテさんにはちゃんと告白できたの?」
ニャアンにとってはあまり聞きたくない話だった。
自分の身体を捧げても構わないと思った異性が別の女に靡く恋愛話を聞きたくはない。
現実問題、もし彼女持ちの男性を呼び出したことであらぬ誤解を持たれてたとしよう。
そこから自分の生活が破壊されるではないかというリスクをニャアンは抱えたくなかった。
誤解を持たれても良いというほどの度胸と余裕はニャアンには無かった。
「出会って早々、ディープキスを貰ったよ」
その言葉を聞いたニャアンは後ろに引いた。
「可愛い子だった。僕には勿体ないくらいに」
ジョンは遠い目で天を仰いだ。
「それで、告白は?」
「有耶無耶だ。言葉にはしていない」
一体何があった?
そしてそんな行動を取れるアマテ・ユズリハとは何なのか?
ニャアンはある種の恐れを抱いた。
気がかりなことが多すぎる。
「分かんないことが多いけど、これまでジャックはアマテさんの顔を見たこと無いんだよね」
「ああ」
「どんな子なの…?」
そろそろエスカレーターが上に登りきる。
どんな子、と言われてジョンは少し悩んだ。
きちんと説明するのはフードコートでも良い。ここでは端的に話をしなければならない。
「すごく、いい人」
ニャアンの頭にハテナマークが浮かんでいるのがジョンには見えた。
外見的特徴を話した方が良いかと思った時、エスカレータの降り口にマチュに似たような少女が立っているのが見えた。
赤く染めた髪と洒落た私服、仁王立ちでジト目で自分達を見ている。
「あんな感じの子かな」
似てはいるが、ここにマチュがいるわけないだろうと思ってニャアンの方を振り返ろうとしてジョンはもう一度少女の方を振り返った。
少女はジョンを貫いて絡めるような目で見ている。
その顔と漂う雰囲気を見てジョンは確信した。
「マチュだ」
エスカレータはもうすぐ登り切ろうとしている。
マチュを見れて嬉しいが、突然のことでジョンはさすがに驚いた。
心の準備が出来ておらず、出来ればエスカレータに逆走してもらいたいジョンだったが、エスカレータはいつも通りの仕事をした。
エスカレータは登り切り、否応なしにジョンとニャアンはエスカレータから降りざるを得なかった。
ジョンとニャアンは仁王立ちしているマチュの眼前に立たされることになった。
「マチュ」
ジョンが呼んだその言葉にマチュは腕組を解いて手を後ろに組んで笑顔を浮かべた。
「会いたかったよ、ジョン。その子は友達?」
「そうだよ」
ジョンとマチュが会うのは一週間も経ってはいなかったが、それでも明晰夢で殆ど会っていた時期と比べると久しぶりに感じた。
「お茶しない?この間の事も謝りたいの、その子も一緒にどう?」
笑顔を浮かべながらもマチュはニャアンを見た。
その鋭い視線を見てニャアンはジョンの後ろに下がった。
「僕は構わない。ニャアンは?」
ちょうどいいかな、とジョンは思ったが、同時にマチュがおかしいことにも気付いていた。
明るく振舞っているのは分かるが、何か違和感があるのだ。
この状態のマチュとニャアンを会わせるはある種の危うさを感じた。
だが、マチュときちんと話せる機会というのもあまりない。
それにニャアンが虹色の水着の女性と接触し、彼らがマチュにも目を付けていることを情報共有する必要もある。
ここで断るという選択肢はジョンにはない。
「うん…ジョンも一緒なら」
ジョンの後ろに隠れながらもニャアンは頷いた。
断る理由もないし、何よりジョンのガールフレンドというのも気になった。
「じゃあ行こ、案内する」
マチュに連れられてジョンとニャアンは歩き出した。
軽快な足取りをするマチュの足取りを見てジョンは違和感が大きくなっていくのを覚えた。
どことなく彼女の心の陰が大きくなっているような気がした。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ