ショッピングモール:喫茶チェーン店
「ニャアンさんはジョンの幼馴染なんだ」
「この間、再会したばかり、一年戦争で別れて6年ぶりだからしばらくだね」
「…そうなんだ。大変だったね」
スコーンをパクパク食べるニャアンを横目に見ながらジョンは正面を向いた。
テーブルで対面するマチュは蓋付きの紙コップに注がれたアイスティーを一口付けるとジョンの方へ向き直った。
蓋付き紙コップを見るとタマキの件をジョンは思い出す。
タマキのことを思い返すと、なるほど母娘だなとジョンは得心した。
似ているのだ。
タマキから感じ取った色気に近いものをマチュからも感じる。
赤く染めた髪とピアスが似合うマチュだが、年を取ったマチュもいいなとジョンは思った。
「可愛いな…」
マチュに目を合わせてジョンは言った。
シュウジの時もそうだが、ジョンはマチュの顔を冷静に見る機会があまりなかった。
満面の笑みとジト目があの顔から出力されていると考えるとジョンの心が鷲掴みになった。
「えっちょそんなこと、でも幼馴染もまぁ」
何かを言おうとしたマチュはしどろもどろになり顔が赤くなっていく。
何やっても可愛いなとジョンは思ったが、次に口に出す言葉を考えていた。
スコーンを食べ終わりニャアンはミルクがたっぷり入ったカフェオレを飲み始めた。
ジョンは自分の分のスコーンを載せた皿をニャアンに渡した。
「僕はいい。食べてくれ」
「ありがとう」
ニャアンはいい笑顔で皿を受け取った。
ジョンはマチュに向き直った。
「あの時は言えなかったが、マチュと現実で会えるとは思わなかった」
ジョンは感慨深そうに自分の右手を見た。
あの夢の中ではこの手でマチュの手を握っていた。
「正直、マチュは夢の中にしかいないと思っていた」
左手しか見えなかったマチュがこうして現実の存在として自分の前にいる。
その事実を改めてジョンは感じ取っていた。
「夢みたいだ」
「ここは現実だよ」
顔を赤くしながらもマチュは自身の左手をジョンの前に出した。
ジョンは自分の右手をマチュの左手に重ねる。
右手と左手を絡めあう。
お互いの体温を感じ、お互いを見つめあう。
好きだ、とは言葉には出さない。
それでもお互いが好きだという思いが伝わってくる。
そう思う度にジョンは思うのだ。
いずれはマチュとも別れなければならない。
マチュの世界から去らなければならない。
それでも今だけはこうしていたかった。
死ぬほど気まずい。
そう思いをしながらニャアンはカフェオレに口を付ける。
隣で2人だけの世界が構築され、誰も立ち入りができない。
自分達以外の客達はこの席の光景を遠巻きに見ている。
(ここでやらないでよ…)
ジョンに対してはニャアンも異性として思うところがある。
出来ることなら2人の世界に割って入りたい。滅茶苦茶にしてやりたいという気持ちがないわけではない。
だが、強固すぎる。
ジョンとマチュは自分と変わらない年のはずなのになぜあんな空間を作り出せるのか。
ニャアンの自宅でジョンが語ったマチュの話、訳が分からないことばかりだったがそれでもこの空間に至るまでの経験を積んできたというのか。
社会的に見れば自分はこのアマテという少女とは敵対せずに済みそうだ。
だが、異性としてのジョンは諦めるしかない。
諦めたくなくてもこんな光景を見せられたらもうどうしようもなかった。
自分のドロリとした感情を押し殺して2人の世界が終わるのを待つ。
それしか今のニャアンには出来ることが無かった。
少しの時間が流れた後、ニャアンは気付いた。
(良い匂いがする)
居心地の良い匂いがニャアンの鼻を突いた。
匂いの方向をニャアンが見ると、そこには1人の少年が立っていた。
頭の上にカニのようなロボットを乗せ、両腕に球体のペットロボットを抱えた少年はジョンとマチュの光景を見て困ったような表情を浮かべていた。
話しかけようにもその隙が見えてこないようだ。
少年は作業服のズボンとタンクトップを着用し、この場ではとても浮いていた。
遠巻きに見ていた客達の一部は突然現れた少年を見て困惑していたが、ニャアンは別の意味で困惑していた。
(ジャック!?…ジャックに兄弟がいたの!?)
少年の青髪とジョンの金髪を入れ替えれば顔は殆ど同じだ。
『仲ガ良イノハ結構ダガ、他ノオ客サントシュウジガ困ッテイルダロウ、ジョン』
球体のペットロボットが少年の腕から飛び出してジョンの頭に直撃する。
「ウェッ…ハロ!?」
ハロの直撃で2人の世界はひとまず終了した。
「ちょっ、大丈夫、ジョン?」
割って入ってきたハロを見てマチュは苛立ちながらもジョンを労わるように見た。
ハロがぶつかった部分をさすりながらジョンはハロが飛んできた方向を見ると驚いたような表情を浮かべた。
「シュウジか」
「久しぶりだね」
シュウジはジョン達の座る席に近づくと頭に乗せたコンチをテーブルに降ろした。
テーブルに置いたコンチはジョン達に「初めまして」と言うようにマニュピレータを振った。
「僕も話に混ぜてくれないかな、ジョン」
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ