ショッピングモール:第2公共広場(お好み焼き大会会場)
「良かったの?ジョンと会わなくて?」
サンライズ・カネバンの屋台に戻ったシュウジは黙々とお好み焼きを焼き続けるおっちゃんを見て言った。
シュウジがおっちゃんから目を反らして仮設のフードスペースを見るとそこにはジョン、マチュ、ニャアンが席どりをしていた。座る席とテーブルを確保するとジョンは立ち上がり、サンライズ・カネバンの方へと足を進めた。
ジョンは行列に並んだが、既に書き入れ時は過ぎている。すぐにジョンの番が来る。
「おっちゃんはジョンの友達なんでしょ?」
「…せやな。シュウジ、あれを頼んでいいか?」
「アレ、だね。分かった」
屋台に復帰する際、シュウジはお好み焼き名人アルティメットフォームになっていた。
自信満々の表情を浮かべながらシュウジはヘルメットのバイザーを下ろした。
「アルティメットフーム ゼクノヴァターボ!!」
シュウジがそう高らかに宣言すると、明らかにお好み焼きを焼くスピードが速くなった。
速いが丁寧、生焼きになるようなことは一切ない。
その光景を目の前で直視したジョンは困惑した。
何が起きているのか分からないジョンの隣にサンライズ・カネバンの腕章を付けた男が歩いてきた。
「あのスーツは全人類にお好み焼きの焼き方という叡智を授けるために俺が作った。完成に至らなかったHADESの技術を応用してゼクノヴァターボを搭載している」
「誰なんだあんた一体?」
年上相手には基本的には敬語で接するジョンだが、目の前の男はあまりにも不審すぎる。
身構えるジョンに対して男はやれやれと言いたげな表情を見せる。
「昔の名は捨てた。今の俺の名はペイルライダーだ。それよりもだ。シュウジのゼクノヴァを見ろ」
ペイルライダーと名乗る男はシュウジの方を指さした。
お好み焼きの生地と野菜、肉の匂いが漂う。
「コロニーでは肉の加工がオートメーション化している。昔の人間は機械化こそあれど自らの手で屠殺をしてきた。だが、コロニーでは昔以上に人間が家畜の血を見る機会が減った」
ペイルライダーへの不信感はさておき、その話はジョンも聞いたことがある。
コロニーでも旧世紀からの技術の継承と需要から酪農と畜産は続けられている。
だが、旧世紀から続く家畜の糞尿から発生するメタンハイグレードの問題は技術が進んだからと言っても無視できる物ではない。
イズマ・コロニーにおいては難民の流入で空気の問題も表面化してきたことから縮小の話がポツポツと出ていた。
人口肉も家畜から取れる肉と変わらないくらいに美味しくなっているので人口肉の売り上げを伸ばしたい企業の思惑もあって、近い内に技術継承以外では消えていくだろうという話だ。
「MSでの戦闘もそうだ。俺達は血を見ることへの免疫がなくなってきている」
その言葉に毒ガスが撒かれたアイランドイフィッシュと道路の轍に突っ込んだ女性の死体の生肉、ルウムの残骸についた人の跡を思い出し、反論したくなるジョンだったが、ペイルライダーの話を最後まで聞くことにした。ペイルライダーが何かを言おうとした時、ペイルライダーの隣に男が歩いてきた。
「断言しよう。そのうちギロチンでパフォーマンスをする政治家が出てくる」
「教授…!!」
「おっと、人前では言わないで貰おうか。今の私はシモダだ」
「彼はジョン、シュウジの友達です。見てくださいこの髪型、シロウズにそっくりでしょう」
「シロウズ、確かにこの少年は似ている。シロウズにはスーツ作りにも協力してくれたな。イオマグヌッソの賜物だろう。イオマグヌッソの建設現場に改良型お好み焼き名人を2機、持って行ってくれた」
また面倒なのが出てきたなとジョンが思っているとシュウジの隣に立っている男がジョンを見て叫んだ。
「ボン!いやシュウジの友達!!出来たで!!」
コロニーの第一次産業で口論を始めたペイルライダーとシモダを置いてジョンは男の手招きに応じて屋台の前に向かって歩き始める。
(技術の継承か、文化の継承というのであればネオ・チャグチャグ馬コもそうなのかな)
ジョンの知り合いに元連邦軍人のリウ・メイリンという女性がいる。
彼女は軍を退役した後、イズマ・コロニーで極東の島国の文化から派生したネオ・チャグチャグ馬コの保護のために働いている。
元から馬術が得意なリウなので馬の扱いには長けたものだ。
ジョンは彼女から馬術を教わり、プロには及ばないものの馬に乗ることが出来る。
先程のペイルライダーの話と同列にしていいか分からない。だが、リウもまたコロニーでの馬の扱いについて悩んでいるのは以前から聞いている。
(しかし、なんなんだろうな。このコロニーでの生活の違和感)
ジョンがシュウジの前まで歩くと、シュウジの隣に立つ男はプラスチック容器に入れた4人分のお好み焼きをジョンに渡した。
「何ハイトですか?」
「無料や。シュウジのコーヒーを奢ったって聞いた。悪いなぁ」
人懐っこい笑みを浮かべる男だが、その目は鋭い。修羅場を何度も経験した、それこそ元軍人だろう。
「シュウジ、お前もジョンと一緒に食べてこい」
「いいの?」
ゼクノヴァターボは解除されてヘルメットのバイザーを上げたシュウジは不思議そうな表情を浮かべた。
「あそこの可愛い子ちゃんを落としてくるんや」
男は席に座るニャアンと席の上に立つマチュを指さして言った。
「マチュを取ったらジョンに恨まれちゃうよ」
「来るならスーツは脱いでくれ、暑いだろう」
そう言われたシュウジはフルフェイスヘルメットを外した。
「マチュ…?」
男は怪訝な表情のままシュウジの顔を見た。
「赤髪の女の子だよ。おっちゃん」
スーツを脱ぎながらシュウジは言った。
おっちゃんと呼ばれた男は遠くにいるマチュの姿を見て一瞬、驚愕の表情を浮かべて、すぐに人懐っこい顔へと戻った。
スーツを脱ぎ終わったシュウジは屋台から出てジョンの前に歩いてきた。
「じゃあ、行こうか」
シュウジのその言葉にジョンは頷いた。
屋台に背を向けたジョンとシュウジの後ろでおっちゃんが呟いた。
「赤髪の子…?理屈に合わないぞ、なぜここにいるんや」
その呟きをジョンは聞き逃さなかった。
(あの男がシュウジの言うおっちゃんだろう。あのおっちゃん、僕とマチュを見て驚いたような顔をしていた。
一体何なんだあのおっちゃん。もしかしてナガラ衆とも関係があるのか)
未だに口論している2人を置いてジョンとシュウジはマチュ達の席へと戻った。
お好み焼きを入れたプラスチックの容器をジョンがテーブルに置くとマチュはジョンに抱き着き、シュウジが窘め、ニャアンがお好み焼きをそれぞれに分け始めた。
その光景を見ると怪訝な表情を浮かべていたおっちゃんは次第に表情が笑顔に変わっていた。
「これを見たかったんやろ、テムのおっちゃん」
過去の思い出に浸ろうとしたおっちゃんだったが、ズボンから鳴る着信音に苛立ちながら端末を取り出した。
端末に表示される名前を見ておっちゃんはこれまでにないくらい険しい顔つきになった。
おっちゃんは着信ボタンを押して端末を耳元にあてた。
『久しぶりだな』
電話先から聞こえる女性の声におっちゃんの顔はさらに厳しくなった。
「何の用だ」
『そう警戒するな。私とお前の仲だろう。サンライズ・カネバンにジオン公国としての依頼がある。下書きだけでもFAXで送っておこう』
「向こうの規則としてはそれはどうなんだ」
『提案される規則に決裁をするのが私の立場だ。ではまた電話する』
電話先の女性は言いたいことだけ言うと電話を切った。
おっちゃんは端末の表示に残った着信履歴を睨みつけるしかない。
遠くではジョンとマチュがお互いにお好み焼きを食べさせあって、シュウジとニャアンが楽しそうに話している光景、それが今のおっちゃんにとっての癒しだった。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ