おっぱい大作戦   作:そらまめ

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政府官舎:マチュの自宅

 

小綺麗で整頓されている、ただし富裕層の住居にしては狭い。

ジョンがこのリビングに感じた第一印象だ。

ブラインドで閉められた窓の側には観葉植物と小さなサボテンが置かれ、二枚の写真が壁掛けられている。

 

木製のテーブル一台とイス四脚、イスのクッションが多少ヘタって来ているのでそれなりの期間使われてきたのだろう。

イスから立ち上がり、ジョンは壁に掛けられた2枚の写真を見る。

二枚の写真はユズリハ家の家族写真だ。

 

一枚目は幼少期のマチュがタマキに肩車をして貰っている写真だ。

この頃は髪を染めていないのでマチュの髪色は地毛の黒に近い色合いだ。

もう一枚はマチュがハイバリーハウス学園に入学した時の家族揃っての記念写真だ。

タマキとマチュの父親、外交官らしいがジョンは名前を知らない。

 

校舎前での記念写真であるが、写真に映る3人の笑顔はどこかぎこちない。

タマキの笑顔は自然だか、父親とマチュの笑顔はどこか作ったようなぎこちなさがあった。

マチュの顔は中学時代の面影が残っており今より幼い。

だが、この時点で既に髪を赤く染めている。

隣の写真のマチュとタマキの笑顔が眩しいだけに違和感が大きい。

 

(富裕層である前にキャリア官僚の家庭というべきか。僕やニャアン、シュウジと比べれば金回りに関して恵まれているのは間違いない。だが、家族仲という点では注釈が付く…)

 

シュウジは社長の家に居候していると語り、あのお好み焼き屋を見る分におっちゃんとシュウジの関係は良好だ。

イズマ支部で見たマチュとタマキはシュウジとおっちゃんよりも距離感を感じた。

タマキは親身にマチュに接しているつもりだろうが、その距離感というのをタマキはあまり分かっていない。

 

ジョンはタマキに自白剤まがいの物を飲まされそうになるくらい一方的な不信感を持たれているが、ジョン自身としてはタマキのことを好意的に思っていた。

タマキが自分に不信感を持つのは当然だし、何なら自宅に上がっていることがバレたらKBP R-92で撃たれても文句はいえない。

 

そういうのもあるからマチュとの関係は慎重に進めて行きたかったが、果たしてそれは正しいことなのか。

酔っ払いコモリからの説教の通り、側から見れば自分がマチュから逃げているのは事実だろう。

 

我ながら勝手なものだ。

ショッピングモールでは恋人紛いのことをしておいていざとなったらこれだ。

 

身分が釣り合わない、ナガラ衆に狙われているから離れる、という言葉の裏は逃げの道でしかないだろう。

しかし、自分はニャアンの自宅で呟いた。

 

『僕はマチュのことが好きだ』

 

ニャアンの好意すら自分は袖にしたのだ。

身分とナガラ衆は現実の問題として降臨し続ける。

だから逃げ続けていいのか?

自分が放った言葉すら裏切って良いのか?

「逃げるべきか、逃げないべきか、どうすればいいんだろうな」

写真に映る幼少期のマチュの目を見ながらジョンは呟く。

 

二枚の写真は薄いプラ板で保護されているが、肩車の写真をよく見ると後ろにもう一枚写真が隠れていることにジョンは気付いた。

 

それが強烈な違和感となってジョンはその隠れた写真を見たくなった。

だが、ここはマチュの自宅だ。勝手に見て良いものではないだろう。

僅かに悩んだ後、ジョンは

(不躾で申し訳ない)

と内心思いながら指紋が付かないように慎重にプラ板と肩車の写真を僅かにズラして隠れた写真を取り出した。

 

その写真を見た時、ジョンは心臓が止まるような錯覚を受けた。

 

何処かの夕暮れのビーチ、撮影場所は地球だろう。

綺麗なビーチ、ベンチに腰掛けた10歳前後の男女が満面の笑みを浮かべている。

女の子の方はすぐに分かった。マチュだ。

肩車をしていた頃から成長しているが今より幼い。

だが、髪は今と同じ赤く染めている。

そのマチュの隣にいる男の子、ジョンはその顔に見覚えがあった。

 

「僕だ」

 

自分自身、ジョン・マフティー・マティックスが写っていた。

写真の中の自分とマチュは何処までも幸せそうで、写真の中に二人だけの世界が作られていた。

 

ありえない光景が写った写真を何度も見返し、それが現実の光景であるとジョンが認識するのには大変な苦労があった。

 

キッチンでマチュとハロが何か話しているようだが、今のジョンにはどうでも良かった。

「なんだよこれ…」

自分は確かに難民として地球に降りた、だがこんなことは記憶にない。

虫食いの記憶の中、昔の自分はマチュと会ったことがあるのか?

 

理解しがたい現実がそこにはあった。

昔、誰かに言われた言葉が頭に思い浮かぶ。

『ひどいよっ、卑怯で臆病でずるくて弱虫な癖に…どっかいっちゃえ!!』

その声はマチュの声で脳に響き渡ってくる。

 

キッチンからマチュの足音が聞こえてきたのでジョンは反射的に写真を元に戻した。

「お待たせ〜」

マチュの明るい声に絆されるジョンだったが、今の自分の顔をマチュに見せれる自信が無く、振り返れなかった。

「あぁ、写真を見てたんだ。これ、私が2歳の時でこっちはハイバリーに入る時の写真だね」

トレーをテーブルに置いたマチュはジョンの元へと歩いてくる。

ハロも一緒だ。

「…この頃から髪染めてたんだね」

辛うじてジョンは声を出した。

「そうそう、お母さん、今まで髪染めるの許してくれなかったんだよね。高校入るからって勢いで髪を染めて何とか許して貰ったかな」

「…高校に入る前に染めたことは」

「高校デビューで初めて染めたんだよ?さっお茶飲もう」

マチュに引っ張られるままジョンは席に座った。ハロは飛び跳ねてジョンの隣のイスに座った。

 

ジョンと向かい合うようにマチュはイスに座り、自分のレモンティーを飲み始めた。

マチュの飲み方は多少崩してはいるが、作法としては間違ってはいない。

育ちの良さをジョンは感じた。

ジョンは表面を取り繕えるくらいには落ち着いたが、それでもレモンティーを飲む気にはなれなかった。

 

「マチュ、君は地球の海を見たことは?」

レモンティーを飲むように圧をかけてるマチュをスルーしながらジョンは話を切り出した。

「一年戦争の頃に少しだけあるみたい。全く記憶にないけどね」

一年戦争の頃となると当時のマチュの年齢は11歳前後だろう。

あの写真の年齢とおおよそ合致する。

マチュは地球に行ったことがある。

そしてジョンも難民時代に地球に降りた。

(お互いに記憶がないだけで昔、地球で会ったことがあるのか?)

話としてはある程度の辻褄があう。

 

この辺の話を掘り起こせば虫食いだらけの記憶の手がかりになるかもしれない。

だが、ジョンは掘り起こすのが怖かった。

開けてはいけない扉を開くような錯覚があった。

「ジョン、飲まないの?」

再びマチュの圧が掛かる。

「そうだね…」

言われるがままにジョンはレモンティーに口を付けた。

味に多少の違和感があったが、あまり気にせずに飲み続ける。

いつものジョンであれば違和感を感じた時点で飲むのをやめたが、この時のジョンはメンタルが揺らいでおり、大して気にも留めてなかった。

 

その様子を見てマチュは内心でガッツポーズを決めた。

 

「それにしてもジョン、最近寝てないの?」

ジョンがレモンティーを飲み干したのを見てマチュから話を切り出した。

「ここ1週間くらい明晰夢を見なかったじゃん。てっきり寝てないのかと」

「ちゃんと寝てるよ。むしろマチュこそちゃんと…」

『恐ラクダガ、モウ二人は明晰夢ノ中デ会ウコトハナイ』

二人の会話にハロが割り込んできた。

『現実デ会エル以上、ワザワザアノ空間デ逢引スル必要モナイカラナ』

「待て、何故ハロが知ってるんだ!?」

ジョンは驚いた。

ハロに明晰夢の話をした記憶はない。

ショッピングモールで話す機会も映画館のグダグダで半ば潰えたはずだ。

「あれ、ハロには言ってなかったの?」

マチュも不思議そうにしているのを見てもやはりマチュが吹き込んだ訳でもない。

『ソンナコトハドウデモイイダロウ』

ハロはジョンの驚きなど意に介さないように答える。

 

そもそもこのハロがどこから来たのかをジョンは知らない。

生活に馴染んではいたが、そもそも自分のバイクを勝手に持ち出した得体の知れないペットロボットであることをジョンは失念していた。

 

ハロに問いただそうとするジョンだったが、身体が次第に熱くなってきた事に気付いた。

その熱はゆっくりと全身に回り、次第に息が荒くなってくる。

段々とジョンの思考が鈍っていく。

それはマチュも同じだった。

 

静かな室内に互いの荒い呼吸が響き渡る。

汗が額から垂れ落ち、ジョンは今の自分の置かれた状況にやっと気付いた。

「マチュ、盛ったね…」

脳が段々と色欲に侵食されながらもジョンは立ち上がってマチュから距離を取ろうとする。

「待ってよ、何処にいくの」

トロンとした目でマチュはジョンを見る。

「まさか媚薬を盛るとは…」

マチュもまた媚薬を飲んでいた。

ジョンはおぼつかない足取りでリビングから出ようとする。

 

「逃さないよ」

床に置いていたリュックを片手にマチュはジョンを追いかける。

ジョンは玄関に行こうとするが、後ろから追い縋るマチュに腰を掴まれた。

「ジョンの行き先は玄関じゃなくて私の部屋」

抵抗しようとするジョンの力は弱い。

「何で…媚薬を…」

「ジョンが悪いんだよ」

返す言葉がジョンは思い浮かばなかった。

「お互い…媚薬を飲んだのに…なんで」

「ジョンの分の媚薬には筋力を一時的に弱くする効果の物を用意したの。勿論健康には害はないから安心して」

マチュに引きづられながらジョンは彼女の部屋へと連行されていく。

道中でハロがリビングから覗いていたが、何も言わずに二人を見つめる。

 

マチュもまた色欲に支配されようとしていた。

 

だが、マチュもまた冷静でもあった。

引きずったジョンをベッドに寝かせると彼の服を流し始めた。

服を脱がすたびに露わになる裸体にマチュの息遣いが荒くなるが、淡々と脱がしていく。

 

服が引っかかることがあったが、それでも澱みなく進めていくマチュを見てジョンは残った理性で完全に嵌められたと悟った。

マットレスと枕のシーツも普段使いの物だろう。マチュの匂いがする。

その匂いで興奮する自分がいた。

「ニャアン…から聞いたよ。ジョンは添い寝したんだってねぇ」

マチュも薬が効いてきたのだろう。呂律が回らなくなってきている。

添い寝の話をするくらいに仲良くなったのかとジョンは思った。

 

やがて自分の服が完全に脱がされる。

服は丁寧に畳まれていた。

ジョンの服を脱ぎ終えるとマチュは自分の服を脱ぎ始めた。

呂律が回らずねっとりとした声でマチュは言った。

「僕はマチュのことが好きだ」

その言葉を聞いてジョンは悟った。

「…聞いてたんだな、ニャアン。ごめん」

ここにはいない幼馴染にジョンは申し訳なさがいっぱいだった。

 

服を脱ぎ終えて全裸になったマチュはリュックからコンドームの箱を取り出した。

「これ、買ったのはいつだと思う?」

ベッドの上に寝転ぶジョンに跨りながらマチュは言った。

「2年前から買ってたんだ」

「2年…そんなに前から…」

「長かった。やっとジョンを見つけたよ」

ベッド脇にある照明リモコンで天井の照明が暗くなる。

 

代わりにベッド周りに設置された複数の小さなランプが点灯し、マチュの裸体を照らした。

「私もジョンが好き」

僅かな理性が働きジョンが目を逸らした先にはデスクとイスがあった。

デスクに飾られた写真を見てジョンは呟いた。

「クラゲだ…」

クラゲの写真が何枚も飾られていた。

ジョンの視界にマチュの顔が映る。

マチュは両手でジョンの頭を自分に向けた。

 

「私を見て」

 

 

歓楽街:Bar

 

ジョン達が去った後のBarには彼らがいたことはつゆ知らずにアンキーが一人で訪れていた。

オーナーにカクテルを頼むとポケットからワイヤレスイヤホンを取り出して端末のラジオアプリでアンキーはラジオを聴き始めた。

 

『…現在、イズマの空調設備の故障対応のために正宗空調有限公司の空調機への交換が決まり、1週間後には搬入されるとのことです』

 

『…この音声はエムゲイノウ株式会社の許諾を取ったAI音声です。ユイ・イシカワの声でお送りしました』

 

「正宗空調有限公司、ずいぶん胡散臭いところに頼んだね」

ニュースを聞きながらアンキーはオーナーのカクテル作りを眺めていた。

氷の入ったミキシンググラスにドライ・ジンとドライ・ベルモットを入れてかき混ぜる。

かき混ぜた後にカクテルグラスに注ぐ。

オリーブを入れて、最後にレモンピールを少し絞る。

完成したカクテルをマスターはアンキーへと差し出す。

グラスを手に取ったアンキーにマスターは言った。

「マティーニです」

そうして出来上がったカクテルを一口飲んでアンキーは満足そうに呟いた。

掘り下げが足りないと感じる主要人物

  • ジョン・マフティー・マティックス
  • アマテ・ユズリハ(マチュ)
  • ニャアン
  • シュウジ・イトウ
  • シャリア・ブル
  • シロウズ
  • サンライズカネバン社長
  • シイコ・スガイ
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