政府官舎:マチュの自宅
ジョンは身体の節々が訴える痛みで目が覚めた。
首を動かして横を見るとマチュが幸せそうに寝ている。
マチュを起こさないように起き上がったジョンはベッドの状況を見て絶句した。
シーツが男女二人の体液でカピカピになり、ビニール袋を被せたゴミ箱には使用済みのコンドームが何個も入っていた。
本来なら生臭い匂いが部屋に充満しているはずだが、いつの間にかエアコンの換気機能によりその空気は外に抜けている。
シーツには血が付着しており、その血の持ち主の寝顔は青ざめるジョンとは対照的にどこまでも幸福に包まれていた。
額に手を当てようとしたジョンはジョンは右手首に違和感を感じ、右手首を見るとそこには赤い紐が縛り付けられていた。
赤い紐を目で追っていくと紐はマチュの左手首に縛られていた。
ジョンが眠っている間にマチュが互いの手首を赤い紐で縛っていたようだ。
昨日のマチュの暴走ぶりから彼女の意向をジョンは何となく察した。
ジョンが思う以上にマチュは愛情深い。
だがいつまでもこの状態を続けるわけにはいかない。
これ解いていいかな?とジョンが考えていると部屋の扉が開いた。
「アマテどうしたの?お客さん来て…」
部屋の扉を開けながら現れたタマキはマチュの部屋に広がる光景を見て固まった。
起きていたジョンと目が合う。
数秒の沈黙が続く。
「お邪魔しています…」
何も言わないのもどうかと思い取りえずジョンは挨拶をした。
更に数秒が経ち、状況を飲み込めたタマキの顔が驚愕へと歪んでいく。
「…申し訳ないです」
「しゃべるなぁぁぁぁぁ!!」
リビングには全裸の男女二人とタマキが向かい合って座っている。
タマキからすれば土曜日丸々仕事で費やした後、早朝に帰ってきてみれば自宅に娘が同世代の男を連れ込んできている光景に出くわしたのだ。
しかも実態はややこしい。
マチュはジョンに惚れ込んでいるのをタマキは知っているし、ジョンが無理矢理にマチュを襲うような人間ではないだろう。
決定的なのは行為に及ぶまでの一部始終をジョンのペットロボット、ハロがビデオ撮影しており、先ほどそのビデオを見せられたタマキは困惑していた。
夫には端末でメッセージを送りすぐに電話をするように伝えながらタマキはマチュに話を聞いていた。
「アマテ、どこから媚薬なんて持ってきたの?」
自信満々にマチュは答えた。
「お母さんのピルケース。お父さんに飲ませるつもりだったんでしょ」
心当たりがあるようでタマキはハッとなった。
「ジョン君にはどこで?」
「ショッピングモールでたまたま会ったの、運命的でしょ」
「その紐は?」
「運命の赤い糸」
嬉しそうにマチュは自分とジョンの手首に結びつけた紐を愛おしそうに引っ張る。
「これ解いていいかな?」
全裸でタマキに見られるのも嫌だったのでせめて下着を履いて紐を取った方がいいんじゃないかとジョンは思っていったがその言葉にマチュとタマキから強烈な拒否反応がでた。
「絶対にダメ!!」
「何言ってんの!?」
なんでタマキが嫌がるんだろうとジョンは思ったが、言葉にはしなかった。
ジョンは自分の立場を改めて考える。
一週間以上前にイズマ支部でユズリハ母娘と揉めてそれを口実にジオンへ、それからは特に何も無かったが、昨日のショッピングモールでマチュと再会しそのまま流れのままマチュの家で…というのが周囲への説明になる。
媚薬を飲まされ、凄まじい一晩を過ごした後に紐で手首を縛られていてもジョンはマチュのことが好きだ。
とはいってもタマキが納得してくれるはずがない。
向こうからしてみれば娘の非が大きいとは言え、心情的には納得しがたいだろう。
イズマではお互いに未成年、片方は学生でもう片方は社会人、社会的にも微妙な話だろう。
(会社クビかな)
この話がイズマ支部と出向元の何でも屋に届けばジョンは間違いなくクビだ。
その後を考えると暗澹たる思いになるが、デレデレしながら自分の腕にしがみついているマチュには今の自分の顔を見せられなかった。
自分が不幸になるのは構わない。
だが、マチュはどうなるのか?
昨日の行為はマチュの自分勝手さも相応にあるだろう。
それでもマチュは捧げられる物を全て自分に贈ったのだ。
この件で別れる道になったら必ず遺恨が残る。
デレデレするマチュ、暗澹たるジョン、困惑するタマキの3者が揃った空間に端末のバイブレーションが鳴り響く。
タマキの端末に夫からの電話が入ったのだ。
「ちょっと電話してくるね…逃げないでね」
二人に声を掛けた後、タマキはリビングから出て電話を始めた。
「すまない、君の人生を滅茶苦茶にしてしまった」
申し訳なさそうにジョンはマチュに言った。
「会わなきゃ良かったのかもしれない」
その言葉を聞いてマチュは動いた。
マチュはジョンに椅子に座りながら突進し、二人ともフローリングに倒れこんだ。
倒れたジョンの上に覆いかぶさるようにしてマチュは言った。
「ジョン、私はあなたがいたから生まれてきたの」
そしてマチュは一方的にジョンに唇を重ねた。舌がねじ込まれる中、ジョンはマチュの目を見た。その目は据わっている。
「ジョン君、アマテ」
電話を終えてリビングに戻ってきたタマキは目の前の光景に声が震えていた。
タマキの声でマチュは名残惜しそうに唇を離してタマキを見た。
「何?お母さん」
「お父さんと電話で話したの、これからちゃんと話さなければならないけど、私達は…」
一息、もう一息ついて口に出すのを渋りながらもタマキは二人に言った。
「あなた達の交際を認めます」
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ