政府官舎:マチュの自宅
汚れたシーツがドラム式洗濯機の中で回っている。
その光景を見た後、タマキはリビングに戻り先程までマチュ達が座っていた椅子を見て呟いた。
「馬鹿…」
タマキの口から交際のGOサインを出して1時間が経っていた。
マチュ達は最寄りの宇宙港へ行ってしまった。
どうやらサンライズカネバンのケルゲレン出港の見送りにいくらしい。
どこでサンライズカネバンとのコネクションが生まれたのかは謎だが、タマキの心中は入り乱れていた。
「馬鹿」
それは自分かマチュ達へか、100回言っても足りないくらいだ。
タマキの端末の着信音が鳴り響き、ディスプレイに表示された名前を見てタマキはすぐに応答した。
『ジョン君のこと、ずいぶん探したんだぜ。こんな近くにいたなんて』
「電話で最初に言うことじゃないでしょ。私はまだ納得できてないわよ」
電話先の夫の声はニヒルというべき音だろう。
『アマテめ、前からジョン君のことを知っていたなら引きずってでも連れてきて欲しかったな』
「…今度、パルダから戻ってきたら引っ叩くわよ」
『僕をいくら叩いても良い。でもな、アマテが僕達にジョン君のことを隠していたように僕達もアマテに隠していることがあるだろう?』
夫の言葉にタマキは返す言葉もない。
『大いなる偶然が全ての始まり。
芽生えた意識は行動を、行動は情熱を生み、情熱は理想を求める。
理想はやがて、愛に行き着く。
愛はすべてに呵責なく干渉し、創造の嵐を育む。
そして、放たれた雷は誰を打つ…
僕がアマテに教えた昔の言葉だ。そろそろ僕達もアマテに言うべきだろう』
タマキはリビングに掛けられた写真の前に立ちじっと眺めた。
写真に写る幼いマチュをタマキは撫でた。
「コーディネイター」
電話の向こうにいる夫が悲しい顔をしているのが見えなくてもタマキには分かった。
『アマテがコーディネイターだといずれはジョン君に伝えなければならない』
コーディネイターという言葉がタマキに重くのしかかる。
『遺伝子を調整された人間の存在はタブーだ。生きてることすら知られてはいけない』
「仕方ないじゃない、そうじゃなきゃアマテは生まれて…」
17年前のことをタマキは思い出す。
あの時は希望と絶望が混じった自分がいた。
『だからこそ、僕はジョン君を認めた。僕、イザギ・ユズリハが認めるよ。彼なら秘密を守ってくれる』
夫、イザギはジョンのことを信用しているようだ。
タマキには分からなかった。なぜ会ったこともないイザギがジョンを信用し切っているのか理解できなかった。
「イザギ、何であなたはそんなにジョン君のことを信用しているの?」
その言葉にイザギは僅かな逡巡の後に答えた。
『ジョン君とはダバオで生まれた縁がある。僕とアマテはダバオでジョン君と会ったことがある』
「何よ、その話…」
イザギがダバオに行った話は聞いたことがある。
一年戦争最初期、イザギは出張で地球のダバオに降りたことがある。
その時、マチュも連れて地球に降りていたのだ。
当時のタマキは外交3部の仕事の多忙が極みに達しており、当時の事はあまり聞いていない。
ただ、あの時のマチュのことはよく覚えている。
イズマに帰ってきたマチュは髪を赤く染めていた。
そして別人のように心がボロボロになっていた。
『ジョン君には常人にもニュータイプにもない特別な力がある。だからダバオで出会ってしまったのかもしれない』
その言葉は抽象的すぎてタマキには理解できなかった。
だが、ジョンとアマテがずっと昔に会っていたというのはタマキには完全に初耳だった。
それをイザギは黙っていたのだ。それに対する怒りはあれどタマキは彼らが抱える過去が気になった。
一体何が過去にあったのか。
『ジョン君はMS、ストライクガンダムに変身出来る』
「はっ?」
タマキはイザギが何を言っているのか分からなかった。
『歴史上初めてのモビルスーツ戦の舞台はサイド7では無くてサイド2のアイランドイフィッシュだ。そこでジョン君は0ザク、ザクと戦った』
「ちょっと、何を?」
『落下するコロニーの残骸をジョン君はミーティアで追撃した』
「ちょっと待って、さっきからずっと何を言ってるの?」
捲し立てるようなイザギの言葉をタマキは無理矢理止めた。
『今から話すのはそういう訳の分からない話だ。訳の分からない話の積み重ねだ。だが、ジョン君を知る上では必要な話だ』
タマキはジョンという人間にはそこまで嫌悪感を抱いてはいない。さっきのことがあっても尚、そこは変わらなかった。
だが、マチュといい、イザギといい、何で彼にそこまでこだわるのか分からなかった。
だが、ジョンが自分の知らないマチュを知っているのも恐らくは本当だろう。
ストライクガンダムだのミーティアだの訳の分からない単語が出てきた。
だが、この場でタマキが出来ることはイザギの話を聞くことしかなかった。
(何で解放されたんだ?)
宇宙港に行くまでのハイウェイをジョンとマチュを乗せたバイクが走る。
ジョンはさっきからその疑問がずっと頭に浮かんでいた。
「バイクっていいよね。こうやってギュッと出来るんだから!!」
風に負けない大声でマチュがジョンに語りかける。
さっきの件から大して時間が経っていないのにこんな能天気な態度を取るマチュがジョンには不思議で仕方なかった。
ハイウェイを走っているのはジョンとマチュのバイクだけだが、後ろから一台のバイクが走ってくるのが見えた。
2車線でお互いのバイクが並んだ時、ジョンとマチュは気づいた。
隣のバイクを運転しているのはヘルメット越しだが、シュウジだ。
(シュウジ!?バイクの免許持ってたのか?)
(やっぱり兄弟じゃないの?ジョンとシュウジ)
シュウジがバイクを運転していた。
しかも二人乗りだ。
「やぁ、おはよう」
シュウジもジョンに気付いたようで左手を挙げてジョンに挨拶した。
シュウジにしがみついている人物もジョンはすぐに気付いた。
(ニャアンだ…)
なぜかシュウジのバイクにニャアンが同乗していた。
初めてバイクに乗るのかジョン達に気付かずにシュウジにしがみついている。
マチュのハンドサインにも気付いていない。
ハイウェイの速度にニャアンは震えていた。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ