宇宙港:ケルゲレン
ケルゲレンの出港準備は喧々と淡々を重ねて進んでいた。
人間同士は喧々と作業を進めているが、マシンは常に淡々だ。
ケルゲレン側と宇宙港側の段取りは順調に進めらているが、宇宙港側の一部はヒヤヒヤしていた。
イズマコロニーは建設から70年以上経過して老朽化が進んでいる。
「だからって、なんで今になってもMS-DOSが現役なんだよ…」
管制室で古いコンピュータの前でキーボードを叩く新人は先輩に聞かれないように嘆いていた。
スペース・コロニーは旧世紀時代の既存技術で作られている。
古い技術でも使えれば良い、という発想の元に古いコンピュータを騙し騙し使いながら現役を極めていた。
「驚いたな、シュウジがバイクを持ってたなんて」
宇宙港に到着したジョン達はケルゲレンの元に向かっていた。
ジョンのバイクは駐車場に停めていたが、シュウジはケルゲレンにバイクを乗せるために手押しで進んでいく。
「ニャアンを迎えに行こうと思ってね」
バイクの後部にはニャアンの私物の大きなバッグが縛られている。
ニャアンはバイクを押すシュウジの後ろでマチュと話している。
シュウジとの関係をマチュがニャアンに聞いているようだ。
小声でシュウジはジョンの耳元で話す。
「ニャアンはパルダに来るみたい。下宿先を見つける間はおっちゃんの家にいてもらうよ」
昨日のニャアンの件はすんなりと通ったらしい。
ジョンが半ば独断で彼らに話したことだが、ニャアンはその話に乗った。
マチュと楽しそうに話すニャアンをチラリと見た後にジョンはシュウジの方に目をやった。
「急な話で悪い。ナガラ衆の件もあったからな」
ニャアンのリクルートは余計なお節介だろうとジョンは思っている。
それにしてもよくバイト先があっさりニャアンが辞めることを認めたとジョンは思った。
アパートの退居もあるだろうにニャアンはフットワークが軽い。
「おぉ、来たな」
埠頭のゲート前には作業服姿のおっちゃんが壁に寄りかかりながら待っていた。
「ニャアンちゃんも一緒だな、これからよろしくな」
ニャアンの肩を叩きながらおっちゃんは笑った。
「お願いします…」
テンションの高いおっちゃんにオドオドしながらニャアンは頷いた。
その光景をハロを片手に持ちながらジョンは眺めていた。
一通りの笑いを済ませた後、おっちゃんはケルゲレンに向かって歩いていく。
その後ろをバイクを押しながらシュウジは着いて行った。
「ジャック」
ニャアンは立ち止まってジョンの方を振り返った。
ニャアンは言った。
「ありがとう」
ジョンとニャアンは見つめ合う。
二人に言葉は無かった。
言葉がない時間が続いた。
それを傍から眺めるマチュはもどかしい感情を抑えながら見守る。
沈黙を最初に破ったのはジョンだった。
「バイトはどうしたんだ?」
「すんなりと言った。お前は鈍臭いからちょうど良かったって」
「大事にされてたな、アパートは引き払ったのか?」
「契約は来月まで、またイズマに来るからその時に引き払うよ」
「そっか」
済まなさそうにジョンは言葉を続ける。
「勝手に話を進めて悪かった」
「気にしないで」
言葉は少ない。
それでもお互いに言いたいことは言えたようだ。
ジョンとニャアンはシュウジ達を追って歩き始めた。
その光景をマチュは御守りを握りながら見つめていた。
ケルゲレンに乗り込み、バイクをハンガーに固定しながらシュウジは後ろに立つおっちゃんに言った。
「ジョンとちゃんと話さなくて良かったの?」
「元気ならいいんや」
その声はシュウジからはどこか後ろ暗く感じた。
「本当は話すのが怖いんや…ボンが思い出したら言われそうなんや、『何で僕を戦場に送ったの?』って」
おっちゃんはハンガーの中にある大きなコンテナに目をやる。
コンテナの上にはコンチが二人の様子を覗き見ていた。
そのコンテナの中には赤いガンダム、gMS-αが眠っている。
「ニャアンを受け入れたのはその罪滅ぼし?」
シュウジのその言葉におっちゃんは自嘲しながら言った。
「かもしれんなぁ」
ニャアンがケルゲレンに乗り込んだ後、ケルゲレンの出港を見送るためにジョンとマチュは宇宙港内に設けられた見送りスペースにいた。
頑丈なガラスの前に立つ二人に向かって後ろから転がってくる影があった。
『ハロ!』
振り向いたジョンはその影に見覚えがあった。
お好み焼き大会でサンライズカネバンの屋台にいたジョンのハロとは別個体の白いハロだ。
「サンライズカネバンのハロか、どうしたんだ?」
ジョンが白いハロのに合わせて屈むと白いハロは小さく飛び跳ねた。
『キミタチニ ツイテイク』
『君ハサンライズカネバンノ所属ダロウ。アンキー副社長ニハ言ッタノカ?』
『イッテナイ』
『オイオイ…』
ジョンのハロは呆れていた。
出港直前でもうケルゲレンには戻れない。
「後でニャアンに電話しよっか」
ピョンピョン飛び跳ねるジョンのハロと白いハロの2体を見ながらマチュは言った。
宇宙港:ソドン
ケルゲレンが出港する様子をシャリアはソドンの艦橋から眺めていた。
ゲートが開放されケルゲレンは宇宙空間へと飛び出していく。
(おっちゃん、あなたは復讐する気なのですね)
ケルゲレンの出港は滞りなく進み、ソドンの艦橋からはケルゲレンは見えなくなった。
ゲートがゆっくりと閉じていく。
宇宙の闇がゲートによって塞がられていった。
その光景をジョンとマチュも同じく見ていた。
宇宙での航行を始めたケルゲレンを見てマチュは呟いた。
「宇宙って自由なの?」
『ジユウ!』
『シガラミシカナイゾ』
2体のハロが真逆の事を言い出してマチュは苦笑いを浮かべた。
「ジョンはどうなの?」
その言葉にジョンは顎に手を当てて考える。
「…悪くはないよ」
ジョンのその言葉に複数の意味合いがある。
そして後ろ暗い思いを抱いているとマチュは悟った。
二人に見送られながらケルゲレンはパルダ・コロニーに向けて航行を始めた。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ