ハイバリーハウス学園:アンヌマテネクラス
『11th/July/0085 PM 05:30』
教室の壁かけ時計が刻む時間を見ながらマチュの友人4人組は教室に残っていた。
奇跡的に今日と明日は4人組の塾とバイトが被らないことも相まって教室で駄弁っていた。
「アマテ、変わっちゃったね」
その呟きに残りの3人は頷いた。
「恋する女の子、ってああいうのを指すのかな」
「ここだと男の子との接点あんまりないもんね」
「喜々として学校を帰っていく姿なんてこれまで見たこと無いよ」
4人組がここ一週間のマチュを思い返した。
「浮かれポンチ」としか言いようがない。
自分達の前ではいつもの姿勢を崩そうとはしないが、節々がポンチなのだ。
「割と前から結婚願望はあったよ。1か月前の世界史ではそんなこと言ってたし」
「じゃあ、本当なのかな。進路希望調査にお嫁さんって書いた噂」
お嫁さんかーと1人が嘆いた。
「お母さん認めてるのかな、アマテの家は外交官と会計監査局の部長さんでしょ。お母さんからすれば大学に行ってそういうキャリアを積んでほしいんじゃない?」
「金持ちは選択肢がいくらでもあるというけど存外そうでもない。選択肢がいっぱいあるだけ恵まれているのか」
「あたしはサウスハービーに…」
「無理でしょ」
コロニー公社イズマ支部:MS運用部事務室
この一週間はガンダムのソドン搬入準備にかなりの時間を割いた。
ガンダムは既に荷造りを終えており、明日宇宙港まで持っていけば準備は完了だ。
ジョンのジオンへの入国申請も既に完了しており、後はジョンも明日ソドンに乗れば良い。
観光だけならパスポートだけでも良いが、ジョンの場合はジオン工科大学に滞在することになったので仕事、ということでそれなりの申請が必要だった。
電子タバコを片手に部長は端末でニュース動画を見ていた。
『7月6日未明、木星船団公社所属の資源採掘艦ジュピトリスが地球へ向けて移動中の事故により沈没した件についてネット上で流言飛語が飛び交っている』
『Vの字の光を見た』
『事故ではなくテロリストによる攻撃でジュピトリスは沈めれた』
『ジオンの仕業か』
コメンテーターが好き勝手言い出したのを見て部長は端末の画面を閉じた。
「部長、元気ないですね」
「ジョンが2か月いなくなっちまうもんな、無理ないよ」
調子が出てない部長を見て後輩君とボカタが小声で話し合う。
今日のジョンは早めに退勤してジオン入りへの準備を進めていた。
ジョン個人の荷造りは既に終わっているが、寮の個室の掃除と休みを兼ねて退勤していた。
「そういえば、今日の昼に空調機の替えが届いた。明日から入れ替え作業だぞ」
「先輩いないのに行けるんですかね」
後輩君ほ誰も座っていないジョンのデスクを見た。
宇宙港:見送りスペース
ジョンは右手首を見た。
そこには何もない。
赤い紐はあの日の内に解かれた。
マチュはずっと結んでいたかったようだが、日常生活に支障しかないのでマチュは泣く泣く紐を解いた。
その代わり端末には頻繁にマチュから連絡が来るようになった。
一度メッセージが来たら一時間以内に返さなければ連続でメッセージが来るようになったのでジョンはこまめに端末を見るようになっていた。
明晰夢をジョンは一週間見ていない。
ジョンが抱いているハロが言った通りになった。
サンライズカネバンの白いハロについてはパルダについたニャアンにハロの件を伝えると
「またイズマに来るからその時に持って帰る」
と言われたためにマチュが預かっている。
ジョンとニャアンは毎日電話でやりとりをしているが、向こうでの生活は今のところ問題はないようだ。
おっちゃんとその奥さんのシイコ、息子さんとシュウジに囲まれていて幸せだという。
「明日か」
ガラス越しに見る宇宙は美しくもどこか孤独に思える世界に見えた。
宇宙港に係留されているソドンを先ほど見た時、艦底にMAが接続されているのをジョンは見た。
「あれがキケロガか」
グラナダから持ち出しただけで騒ぎになるようなサイコミュ搭載MAという話は何なのか、キケロガは宇宙港の中でも存在感を放っている。
『マチュニハチャントオ別レヲ言ワナイトナ』
ハロがジョンを見上げた。
「分かっているさ…」
『タマキニモチャント挨拶ヲシロヨ』
「分かっているさ…」
ベッドの上でタマキに見つかった時と同じくらいの暗澹たる思いがジョンにはあった。
気晴らしのために宇宙港に訪れていたが、却って憂鬱になってしまった。
帰ろうと見送りスペースから出ようと出入り口に目を向けた時、見送りスペースに電動スケートボードが突っ込んできた。
「ジョン君、ここにいると思いました」
スケボーにはシャリアが乗っていた。
停止したスケボーを手で持ってシャリアはそれをジョンに渡そうとする。
「差し上げます」
「いりません」
シャリアはグッグッグッとスケボーを押し付けてきたのでジョンは仕方なくスケボーを受け取った。
(動力付きだが、普通のスケボーと重さは同じで重量バランスも悪くない。普通にトリックできそうだな…)
『何ノヨウダ、シャリア』
不機嫌そうにハロは言った。
「警告に来ました」
先程のノリノリが嘘のようにシャリアは神妙な顔になった。
「明日のイズマ出港までは周囲に気を付けてください。私の勘がそう言っています」
政府官舎:マチュの自宅
マチュはここ数日は幸せだった。
毎日ジョンに会えるのが嬉しくて仕方ない。
タマキとイザキが自分達の交際を認めた理由は分からない。
だが、自分とジョンが一緒にいるところを見てタマキが少し悲しそうな顔をしているのが気がかりだ。
(お母さん、なんであんな顔をするの?)
デスクに座ったマチュは苛立ちと不安の中にいた。
ジョンの端末にメッセージを送ったが、返事がこないこと。
そして明日、ジョンがイズマを離れる。
「嫌だよ…」
ジョンと絶対に離れたくない。
ジオンに行ったら二度と会えなくなる。
そんな確信がマチュにはあった。
マチュはリュックからポーチを取りだした。
ポーチの中に入れている御守りのT字型金属片を握った。
『マチュ ジョントイッショニ イタイカ?』
ベッドの上で転がる白いハロはマチュに問いかける。
「死ぬまで一緒にいたい」
『ソウカ…テダスケデモスルカ』
白いハロはマチュに聞こえないように呟いた。
マチュはあることへの決意を固めた。
テーブルの上に置いてあるパスポートをマチュはじっと見つめる。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ