サイコガンダムはその姿を変えていく。
異形の姿から人型へ、ゆっくりと変わっていった。
「第一関門突破か」
その様子をハンブラビのカメラ越しに見ていたゲーツは安堵した。
作戦は始まったばかりなので安心など全くない。
だが、そもそもドゥーとサイコガンダムがちゃんと変形してくれるかも怪しかったので変形してくれただけでも良かった。
MS形態に変形を完了したサイコガンダムは足底のスラスターを吹かしながら道路に埋まった自動車の上を飛んでいく。
5分前にエコーズの部隊から突入開始の連絡が入った。
それに合わせてゲーツ達はミノフスキー粒子をイズマコロニー内に散布した。
電波障害が発生するレベルにまで濃度を上げた後からサイコガンダムとハンブラビをコロニー内に展開した。
エコーズの暗殺の結果はレーザー通信装置を持つ連絡要員を待機させているので彼らから結果を聞くことになる。
出来ることはやった。
後は軍警の目を引くことが出来れば良い。
問題なのはソドンだ。
ジオンが動き出す前に何とか決着がついて欲しい。
この戦いの中で一番警戒しなければならないのはソドンとキケロガ、その中にあるサイコミュを搭載したクアックスという名のガンダムだ。
クアックスはナガラ衆のMSにボコボコにされたらしいが、最新鋭のMSであることに変わりはない。
(待てよ…ナガラ衆のMSはどこにいるんだ?)
ゲーツは奇妙なことに気付いた。
テロリストがMSを運用するとなると保管場所も整備も相応に苦労することになる。
ましてや、ジオンの最新鋭MSをボコボコに出来るMSなんてものを持ってるナガラ衆はその苦労を一体どこで味わっているんだ?
そんな疑問を持ちながらもゲーツは任務の方に集中した。
今の自分がやらなければならないのはドゥーのお目付け役だ。
数十メートルスラスターで進んだ後、サイコガンダムはバーニアで一気に宙に飛び上がった。
50m以上の巨体がバーニアで力任せにコロニー内の無重力になる中央部にまで飛び上がった。
「いいぞ、ドゥー」
これなら一気に目立つだろう。
コロニーの中央部ならキシリアの滞在しているホテルまですぐに行けるのでエコーズが失敗しても自分達が代わりに暗殺ができる。
ハンブラビのIFFが警告を発する。
自分達を追って4機の軍警用のMS-06が飛んできたのだ。
「M.A.V戦術か」
ゲーツはサイコガンダムに近寄り接触回線で話しかける。
「軍警ザクが4機、やってくれ」
その言葉を聞いてドゥーはサイコガンダムのビーム砲の指をMS-06に向けた。
ビーム砲から放たれたメガ粒子は4機のMS-06に回避行動を取らせる間もなく着弾し、4機のMS-06とそのパイロットはこの世から消滅した。
メガ粒子の残り香が周囲へと拡散し、そこに瓦礫を積み上げていく。
軍警のMS-06が他にも何機か建物の影に隠れているのが出てこない。
「ドゥー、そちらのセンサーにもザクが見えてるだろ、隠れてるザクを撃ってくれ」
接触回線でゲーツが話しかけるがドゥーは返事をしない。
「数は6、うぉっ」
サイコガンダムがバーニアを展開して自分達の頭上の方向へと飛び始めた。
このままいけばビル街に突っ込んでしまう。
暴れる分には構わないが、ドゥーの行動が不可解だ。
「ドゥー!どうしたんだ!?」
装甲が分厚いサイコガンダムならともかくハンブラビがこの速度でビルにぶつかったらまずい。
やむを得ずゲーツはサイコガンダムから離れる。
「ドゥー!ぶつかるぞ!回避しろ!」
この距離ならミノフスキー粒子散布下でも無線は使えるはずだ。
ゲーツはドゥーに無線で呼びかける。
『ふ…ふ…けた』
だがドゥーはゲーツに返事もせずにそのまま突き進む。
パープルカラーの「何か」が人型に変わった時、ジョンはあれからバイオセンサーと同じようなオーラを感じた。
あれに乗っているのは自分と大差ない年齢の女であるとジョンの本能が囁く。
パープルカラーの隣にいるMSは護衛だろうか?
どことなく世話役のようにも見える。
2機のMSを見てジョンは一瞬、ナガラ衆が出てきたと思った。
だが、ジョンの本能が否定する。あれはナガラ衆ではないと。
イズマコロニー特有の変なサイレンと避難を呼び掛けるトモヨ・クロサワのAI音声をバックにジョンは持っていたスケボーを走らせる。
ジョンは当初CL環状6号線の駅に避難しようと考えた。
駅であれば公衆電話もあるし、そこからイズマ支部に連絡しようと考えたが、あのパープルカラーがビーム砲を放った瞬間に没になった。
ビーム砲で破壊されたMS-06の残骸の一部が降ってきて出入り口を塞いでしまったのだ。
巻き込まれた人間はいなかったが、駅に入れなくなってしまった。
次策としては近場のシェルターに避難するしかないが、ここから最寄りのシェルターまでは10km以上もある。
スケボーに乗るジョンを妨げる物はない。
ジョンが地下鉄に乗ろうとしたこの通りは元からあまり人通りがないのも幸いした。
『アノMA、改札ノ前デ立チ止マラナイドコロカ、改札ヲ破壊スルタイプダナ』
ハロはジョンに抱き抱えられながらパープルカラーを観察する。
「奴らは何考えているんだ?」
パープルカラーのMAとその僚機が何者なのかはジョンは分からない。
だが、コロニー内でビーム兵器を使用しあまつさえ50m以上の巨体を持つMAを投入するなどと正気とは思えない。
コロニー公社に出向している身としてもアイランドイフィッシュの元住民としてもジョンは許すわけにはいかない。
(ニャアンがイズマから離れてて良かった)
同郷のニャアンにはこの場にはいて欲しくなかった。
ジョンはニャアンにあの嫌な場面を思い返して欲しくなかった。
それに死んでもおかしくない。
ナガラ衆の件でのサンライズカネバンへのリクルートでニャアンをイズマコロニーから脱出させていたのがここにきて効果があったとジョンは思った。
(マチュは大丈夫なのか?)
同時にマチュの身を案じながらもジョンは自分の本能がざらついてきたことを実感していた。
オーリーで段差を飛び越えながらジョンとハロを乗せたスケボーは進む。
道中に公衆電話が無いか探していた。
ミノフスキー粒子散布下で公衆電話が使えるかは五分五分だが、無いよりはマシだ。
だが、予算削減の煽りか公衆電話は見つかない。
『ジョン、スケボーヲ止メロ!!』
ハロの叫び声にジョンはすぐに反応した。
スケボーをパワースライドで止める。
スケボーが減速して完全に止まったのを確認した後、ジョンは上を見渡した。
コロニー中央の重力が無いエリアにいたMAとMSはいなくなっていた。
だが、ジョンの頭上から凄まじい轟音が鳴り響いていた。
『上カラ来ルゾ!!』
ハロの叫び声に応えるようにジョンは道路の段差にある隙間に身を隠し、スケボーでハロと自分の頭を守った。
少しの間が空いた後、頭上から落ちてきた巨体で地面とビルを削る轟音が周囲に鳴り響いた。
地球で感じたような地震と砂塵が飛び交い、ビルのコンクリートとガラスの欠片が周囲に落下していく。
何が落ちてきたのかジョンにはすぐに分かった。
スケボーから顔を出してジョンは見た。
砂塵の中、そこにはパープルカラーのMAの「顔」が自分を覗き込んでいる。
その「顔」は剣道防具の面のような顔をしていた。
面のようなセンサーのカバーの隙間、蜘蛛のようなセンサーレンズがジョンを捉える。
このMAが自分に何の用事があるか分からないが、ジョンは逃げることができないと悟った。
『思イ切ッテ、突ッ込ムカ?』
ハロがスケボーを突いて言った。これで逃げれないかという話だ。
「無駄だ」
その前に巨体に潰されるか、対人兵器で仕留められるだろうとジョンは思った。
ジョンとMAが見つめ合う空間にスピーカーのノイズが響いた。
そのスピーカーはMAの物だ。
MAのスピーカーがパイロットの息を吸う音を拾う。
ジョンはハロを抱いて身構えた。
『会いたかったよ、ストライク』
スピーカーからパイロットの声が響き渡る。
ジョンの本能の通り、その声は女の物だ。
『キラキラの中で君をいつも見ていた』
ジョンはハロと顔を見合わせた。
『僕は赤い髪の子のように君を裏切ったり、ぶったりしない』
砂塵が多少薄れてジョンはようやくMAの状況を把握できた。
MAは四つん這いの姿勢でジョンを見ていた。
MAの胸部ハッチが解放される。
ハッチは人間なら左胸に相当する箇所に設けられている。
「心臓…」
ジョンは呟いた。
人間なら心臓が近くにある場所だ。
コックピット内に与圧された空気と共に人影が降りてくる。
「そうだよ、僕は心臓なんだ」
砂塵で影になったMAのパイロットが近づいてくる。
「僕はドゥー」
ドゥーと名乗るパイロットはゆっくりとジョンに近付いてくる。
「僕と戦おうよ、ストライク」
ドゥーが近付いてくるにつれてその容姿がジョンからでも分かった。
暗い紺色のノーマルスーツ、ノーマルスーツにしては奇妙な形状をしているので特殊な物かもしれない。
顔は色素が薄く、白い長髪をまとめ、前髪をピンクのピンで留めている。
目元にはそばかすが浮いており、鼻腔テープを鼻に貼っている。
あらゆる面でマチュとは全く違うタイプの少女だ。
しかも自分のことをストライクと呼んでいる。
ショッピングモールでのニャアンも自分のことをストライクと呼んでいた。
自分の過去をこの少年兵は知っている。
この状況をどうにかしようと頭を回すがジョンはドゥーの腹の中が読めなかった。
ドゥーの碧眼から放たれる視線がジョンを貫く。
「殺し合おうよ。サイコガンダムとストライクで」
ドゥーのその言葉にMA、サイコガンダムが獣のような呻き声を出した。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ