「殺し合おうよ。サイコガンダムとストライクで」
ドゥーがにやりと笑う。
その直後だった。
ドォォォォン
隔壁を突き破ったソドンが轟音を響かせながらイズマコロニー内部に突入してきた。
隔壁の残骸を周囲に散らしながらソドンはサイコガンダムに迫る。
「アークエンジェル…」
ジョンの無意識に呟いた言葉にハロの視線が下がる。
ジョンとドゥーは思わずソドンの方に視線を向けたが、最初に動いたのはジョンだった。
ドゥーの隙を突いてジョンはスケボーを地面に置いてハロを抱きながらスケボーのフットペダルを踏み込んだ。
「待ってよ!!」
「待つか!!」
ドゥーもすぐに気付いてジョンを止めようとするが、その前にスケボーが発進してドゥーの横を通り過ぎる。
パイロットが近くにいる以上、対人兵器は使ってこないだろうというジョンの算段だったが、幸いにも攻撃を受けずに四つん這いになったサイコガンダムの下をジョンとハロを乗せたスケボーは走り去る。
『危ナカッタナ、ジョン』
「早く離れないと不味い」
間近で見るサイコガンダムは奇妙な機体だった。
胴体にビーム砲が設けられ、装甲が必要以上に分割されており節々に人間の筋肉のような構造が見える。
(もしかしてこの装甲、簡単に外せるのか?)
モノコック構造のMS-06ではありえない話だ。
だが、これを可能にできる技術をジョンは知っている。
(ムーバブルフレーム、地球連邦か)
ジオン系のMSにはあまり見られない機構だ。
『どこに行くの?』
サイコガンダムのスピーカーからドゥーの声が響き渡る。
もうコックピットに乗ったらしい。
サイコガンダムがゆっくりと立ち上がる。
車道のミラー越しにジョンはサイコガンダムが自分の方を振り返ったのを見た。
逃げられない。
そう思ったジョンだったが、これまで離れていたサイコガンダムの僚機がサイコガンダムに近付いて接触回線で話しかけてきた。
『何で!!失敗するの!!邪魔しないで』
『ドゥー、エコーズが失敗した以上俺達でやるしかない』
『分かったよ』
スピーカーのマイクを切っていないので僚機の会話がジョンにも聞こえてきた。
『ストライク、すぐ戻ってくるよ』
不機嫌さを隠そうともせずにドゥーはそう言うとスラスターを吹かせながら一気にジョンの頭上を飛び越えた。
その風圧にジョンは思わずパワースライドでスケボーを止めた。
その巨体で鈍重そうな見た目とは裏腹にサイコガンダムは軽快に進んでいく。
僚機がサイコガンダムにしがみつきながらジョンの方にモノアイを向ける。
だが、特に何もせずにそのまま去っていってしまった。
ジョンは去って行くサイコガンダムを見た後に隔壁を突き破ってきたソドンを見た。
ソドンはサイコガンダムを追うように航行している。
破壊した隔壁の瓦礫が中央部の無重力を漂う。
(どいつもこいつもイズマを破壊しやがって…)
コロニー公社で働く人間としての怒りがジョンに込み上げてきた。
サイコガンダムが何をしにきたのかジョンには全く分からない。
ただ、公としても私としてもサイコガンダムを止めなければならないとジョンは思った。
未だに電波障害は回復しない。公衆電話も殆どない以上連絡手段も限られている。
自分の愛機はソドンに搬入されており今更乗り込むことはできない。
「ガンダムはソドンに搬入してしまったしな…」
スケボーのフットペダルを踏みジョンはサイコガンダムが飛んで行った方向へと進んでいく。
『戦ウツモリカ?』
ハロがジョンに問いかける。
「マチュが住んでいるコロニーが壊されてたまるか」
たとえここが地球と違う人口の偽物の大地と言われてもここで生まれて生きて死んでいった人間もいる。
自然災害で壊れるならまだ仕方ない部分もあるかもしれない。
だが、ドゥー達がやってることはテロリズムだ。
ナガラ衆の時もそうだが、これは自然災害ではなく人災だ。
人間がやろうとしていることならまだ未然に防ぐことが出来たはずだ。
サイコガンダムが暴れ回っているのが現実だ。
「アイランドイフィッシュの二の舞は勘弁してほしい。こっちはコロニーを管理する側なんだ」
サイコガンダムが指先からビームを発射するのが見える。
ビームで複数のMS-06がスクラップになった。
「とにかくイズマ支部と連絡を取ろう。そこからシェルターに避難するなり別働隊と合流しよう」
ジョンとしてはとにかくイズマ支部と連絡を取りたかった。
『ジョン、君ニ戦ウ気ガアルナラ手助シヨウ』
そんなジョンを見てハロはある決意を固めていた。
ジョンがソドンを見上げた時、ソドンのカタパルトから1機のMSが出撃していくのが見えた。
目の前の光景に広がる光景を見てペルガミノは脳震盪のような衝撃を受けた。
キシリアがテロリストに襲撃されたと聞き、護衛を連れて見に行ったペルガミノは廊下に転がっている遺体を見て絶句した。
テロリストと呼ばれた遺体達は軍警の装備品で身を固めていた。
「これはどういうことか、大統領」
キシリアはテロリストの遺体からスリングを外したアサルトライフルを引っ張り出してペルガミノに見せた。
「64式7.62mm小銃。それにこの格好、こんな古い銃を持っているのはイズマの軍警くらいだろう。軍警が私を殺しにきたのか?」
「いや、これは何かの誤解です!!」
「ソドンを襲撃したテロリストも同様の銃を装備していたはずだ。貴公らはテロリストと繋がりを持ってるのか!?」
ペルガミノに詰め寄るキシリアの前に立つアサーヴはキシリアの発言で笑いそうになるのを堪えた。そのテロリストと繋がっているのは自分だろうと言いたくなった。
エレベーターでこの場から去って行く男女2人の姿をアサーヴは静かに見送った。
(ナガラ衆め…)
ナガラ衆は利害の一致でキシリアに協力している。
キシリアを助けたのもあくまでビジネスにすぎない。
あの2人は次の仕事のためにキシリアの元を離れた。
アサーヴとしてはサイコガンダムの前にさえ立ち塞がなければいい。
キシリアの暗殺失敗をアサーヴは連絡要員には既に伝えてある。
ホテルに残っていたペルガミノにこの光景を見られた以上、アサーヴは下手に行動できない。
次策のサイコガンダムによる暗殺に移行するしかない。
そのためにもキシリアを屋上に誘導してペルガミノから離されけばならないが相当に苦労するだろうとアサーヴは思った。
公衆電話は見つかった。
ジョンは喜び勇んで電話をかけようとしたが電話自体が繋がらない。
どうやらサイコガンダムの暴れた余波で電話線が何処かで切れてしまったようだ。
ぬか喜びだとジョンは思いながら電話ボックスから出た。
『電話ハ無理ダッタミタイダナ』
ボードの上に乗ったハロがジョンの落胆ぶりから察したようだ。
「どうするかな」
サイコガンダムは暴れ回る。生き残ったMS-06も何も出来ずにサイコガンダムに潰された。
この間の暴走MS事件の傷が癒えていない。
本来ならもっとMS-06を投入できたはずだが、破壊された12機分のMS-06とインストーラーデバイスを投入した機体の再点検もありまともに動かせるMS-06をかき集めてもサイコガンダムを止めるに至らない。
ジョンはサイコガンダムの行き先を端末の地図アプリから割り出そうとした。
あらかじめオフライン用のデータを地図アプリにはインストールしていたので地図データは見ることが出来た。
サイコガンダムは真っ直ぐに進んでいる。
その行き先にあるのは高級ホテルだ。
「HIDEKOか」
イズマコロニー内でも最高級のホテルで政治関係者の宿泊先や会談の場にも選ばれるようなホテルにサイコガンダムは向かっている。
『政治家デモ暗殺スル気ダナ』
「あんなデカブツで暗殺もあるのか?目立ちすぎる」
『サイコガンダムハ囮ダ。モッパラ暗殺部隊ガ任務失敗シタノデバックアップトシテ向カッタノダロウ』
ドゥーの先程の会話をジョンは思い出す。
ありうる話だろうとジョンは思った。
『ジョン』
ハロはジョンに向き合った。
『君ハサイコガンダムヲ止メタイカ?』
「ああ」
『ジョン、君ガサイコガンダムト戦ウノデアレバ手ヲ貸ソウ』
ハロは飛び跳ねてスケボーをジョンの足元に飛ばした。
スケボーをジョンは足で止める。
ハロは転がってジョンから離れた。
『ヨク見ルンダ』
そう言うとハロはその場から姿を消してしまった。
周囲の空気が変わった。
何かの気配を感じてジョンは頭上を見上げた。
そこには奇妙な戦闘機が浮いていた。
オレンジカラーを身に纏い4基のビットのような物を装備している。
宇宙戦闘機というべきものか。
だが、こんな戦闘機を連邦軍もジオン軍も装備しているなどとジョンは聞いたことがない。
戦闘機はスラスターを吹かしながらジョンの元へと降りてくる。
ランディングギアを展開し、機首のキャノピーが自動的に解放された。
『6年ブリダ。コノ姿ニナッタノハ』
ハロの声が戦闘機のコックピットから聞こえてくる。
ジョンはこの光景に聞き覚えがあった。
ショッピングモールでニャアンが話してくれたνガンダムのシチュエーションと似ているのだ。
(ハロもナガラ衆なのか?)
ジョンは身構えながら戦闘機に近付く。
『ジョン、勘違イシテ貰ッテハ困ル。君ノ敵デハナイ』
窘めるような声で戦闘機は語りかける。
「ハロなんだな、その戦闘機は」
『ソウダ、君ヲサイコガンダムノ元マデ送ッテイコウ。乗ッテクレ』
スケボーとリュックを背負い、ジョンは戦闘機の機首へとよじ登る。
機種の部分へと登り終えるとジョンはコックピットへと向かった。
コックピットを覗き込むとそこには誰もいない。
『我々ハMSト一体ニナレル。モットモコレハMAニ近イ』
警戒しながらジョンはコックピットに乗り込む。
ジョンが乗り込んだのを確認するとキャノピーが自動的に閉まった。
「ハロ、君は何者なんだ?」
機体下部のスラスターが吹き上がり、ランディングギアが収納されていくのをジョンは振動で感じた。
『コズミックイラノ生キ残リダ。無駄ニ長生キシテシマッタ』
戦闘機は上昇していく。
『シートベルトヲスルンダ』
そう言われるとジョンはコックピットのシートベルトを締める。
シートベルトが締め終わった直後、機体本体のバーニアと4基のビットのバーニアが点火し一気に加速した。
その衝撃をジョンは身体で味わう。
『名前ヲマダ言ッテナカッタナ、名前ハ…』
思い出したように戦闘機は言った。
『ガンバレルストライカー』
戦闘機改めてガンバレルストライカーは遠くに離れたサイコガンダムを追って飛んでいく。
ガンバレルストライカーの軌跡をソドンから飛び出したジークアクスが追って行った。
掘り下げが足りないと感じる主要人物
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ジョン・マフティー・マティックス
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アマテ・ユズリハ(マチュ)
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ニャアン
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シュウジ・イトウ
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シャリア・ブル
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シロウズ
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サンライズカネバン社長
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シイコ・スガイ