おっぱい大作戦   作:そらまめ

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8-7 決断

コックピットに乗った時、マチュが感じたのは優しさだった。

優しさがマチュを包み、誰かがマチュに語りかける。

 

『ジョンの所に行きたいんだろう?』

 

「うん」

知らない男の声にマチュは頷いた。

 

コックピットのモニターが点灯して外部カメラの映像を表示する。

シートの後ろからインターフェースがマチュの手元に降りてくる。

何もかも初めての光景だ。

それでもマチュはそれらを見た時、自分がこのマシンをどうやって操作をするべきなのかがすぐに分かった。

 

インターフェースに手を置いてマシン全体をイメージする。

「ジークアクス」

このガンダムの名前をマチュは呼んだ。

ジョンのガンダムG3のようにジョンの匂いはしない。

新品の車のような匂いだ。

マチュはジークアクスのハイヒールの親戚のような足で一歩一歩カタパルトへ向けて歩かせる。

歩かせるという表現は違う。

ジークアクスをマチュは自分自身が歩いているような感覚で動かしていた。

 

『シールドは持って行った方が良い。君の身を守ってくれる』

 

その声にマチュは素直に従った。

ハンガーに掛けられたシールドをマチュは丁寧に外す。

シールドを左腕のマウントラッチに取り付ける。

準備が終わったマチュはジークアクスをカタパルトに足を置いた。

 

『強い衝撃が来る。舌を噛まないようにするんだ』

 

カタパルトの向こうはブルーシートで覆われて見えない。

これからマチュは見たことがない世界へ行くのだ。

「行こう、ジークアクス」

ジョンを待つのであればソドンの外来部屋にいれば良い。

待っていれば良いが、マチュは不安だった。

このまま待っていてもジョンはソドンに来ない。

もう一生会えないような気がするのだ。

「ジョンを迎えに行こう」

シャリアの言うようなニュータイプの素質が囁いているのか分からない。

それでも自分の感性を信じてみることにマチュはした。

 

カタパルトからジークアクスが飛び出して行く。

青い壁を突き破り、夜間帯になり暗くなったコロニーの空にジークアクスは飛び出した。

 

背部のバーニアを駆使して飛ぶのは最初は上手くいかない。

それでも段々とコツを掴めてきた。

『ジークアクス、誰が乗っている!?』

『ジークアクスのパイロット、聞こえているか!?』

マチュは無線の音声を切った。

どこで音声を切るか初見では分からないはずなのに何故かマチュには分かった。

 

段々と飛行に慣れてきた時になってマチュは初めてサイコガンダムとその暴虐に気付いた。

軍警のMSがスクラップになり、街へ落ちていく。

逃げ惑う人々がスクラップの下敷きになって潰れる。

老若男女関係なく、その場にいた人間が死んでいく。

その場にいた犬や猫のような愛玩動物も死んでいく。

「何で…」

これまで空を飛ぶことに必死で気付かなかった。

空の上からマチュは不条理に死んでいく人々を見た。

不条理に怒りを感じながらも同時にマチュに悪寒が走る。

 

もしかしたら、ジョンも巻き込まれているかもしれない。

そんな恐ろしい発想に至った時、マチュは普通じゃいられなかった。

テロリストのサイコガンダム

ナガラ衆の仲間かもしれない奴らにジョンが殺された。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

ジークアクスのバーニアを吹かしながらマチュは遠くにいるサイコガンダムに向かって突っ込もうとした。

お前がジョンを殺したのかとマチュは噛みつこうとした。

 

そんなマチュの視界の端に奇妙な飛行機が見えた。

4つの樽みたいな物をくっ付けて下にガドリング砲を取り付けた変な形の飛行機だ。

その戦闘機を見ているとマチュは先程までの恐怖が嘘のように収まった。

(あれにジョンが乗っているんだ)

マチュには不思議な確信があった。

何でジョンが飛行機に乗っているのか分からない。

だが、飛行機はサイコガンダムの方へと向かっている。

 

またおいていかれる

 

「ジョン!!待ってよ!!置いてかないでよ!!」

マチュはジークアクスを飛行機の方へ向かわせる。

飛行機はかなり早い。ジークアクスでは追いつけない。

「何で私から逃げるの!?」

マチュは叫んだ。

視界から消えないように追いかける。

サイコガンダムが先ほどよりも近い。

高架橋の近くまで来たところで飛行機は急に速度がゆっくりになっていった。

「逃がさない」

ジークアクスは飛行機を掴む。

その勢いのまま高架橋の下へと突っ込んでいく。

 

自分を組み伏せながらこれまでの経緯を語るマチュは誇らしげだった。

 

ジークアクスをソドンから窃盗するような形で飛び出してきたことにジョンは頭痛で頭が爆発しそうだった。

 

媚薬で一夜を過ごしたのも大問題だが、最新鋭の兵器を強奪するのはそれ以上だ。

しかもその原因は自分だ。

自分がジオン行きを選んだ結果、マチュはジークアクスを盗むという行動を取った。

(全部…僕のせいだ)

マチュの笑顔の前にジョンも表面的には笑う。

その笑顔が消えるのを見たくなかった。

その笑顔が消えるなら自分が消えても良かった。

 

 

 

『……パー…ドウ…エグ…ベ専用……ャン…出撃…』

『……ンの被害…大…』

『ジ……クスを…スト』

『パープルウィド…ソド…救助へ』

ミノフスキー粒子が薄れてきたので無線通信は多少できるようにはなっていた。

ジークアクスの無線機からジオンの無線をジョンは傍受していたが、断片的な情報しか入ってこない。

 

ジオンの艦艇はソドン以外にもパープルウィドウがいるらしい。

「パープルウィドウはキシリア・ザビのチベだ。そんなのがわざわざソドンにまで出向いている。ということはドゥー達の狙いはキシリア・ザビ、イズマに来ているのか」

ザビ家の長女がイズマに来ているなんてニュースはジョンは全く知らない。

「キシリアってあのザビ家の?」

タマキの仕事柄そういう話もマチュは政治の話をいくつか聞き齧っていた。

20代でジオン公国軍突撃機動軍総司令官の要職を務める女傑、そんな人物がお忍びでイズマに来ているのだ。

「何で?」

「イオマヌグッソかな」

マチュの疑問にジョンが答えた。

 

『赤イオマグヌッソ、青イオマグヌッソ、黄イオグマッソ…』

『サイゴガ チガウゾ』

 

ハロ達の会話をスルーしてジョンは話を続ける。

「ソーラ・レイを平和目的のために作ったものらしい、地球環境を回復するためにジオンが一大事業として動いているとは聞いたが…」

ジョンはイズマ支部でこの話を聞いたことがある。

『全地球環境改善用 光増幅照射装置 イオマグヌッソ』

というジョンからしたら無駄に長い名前だが、この装置の開発、建設にはとんでもない予算がかかるらしい。

 

一年戦争で荒廃した地球環境を回復させる計画の一環らしいが、胡散臭い噂が絶えないことで支部内でも有名だった。

機密性が高くまともな話がコロニー公社に入ってこないし、ソーラ・レイを利用しているという話から兵器に転用する気なんじゃないかと言われている。

「資金援助の話に来たの?」

イズマコロニーは難民問題こそ抱えているが、サイド6全体で見れば経済的には他サイドよりはずっと豊かだ。

資金援助の話をするのにイズマを選ぶチョイスは謎だが、タマキの仕事ぶりを見るにイズマはそういう会談の場としては悪くないのだろう。

マチュの推測にジョンも頷いた。

「そうかもしれないね。ペルガミノ大統領は経済面ではかなり評価されている人だ。違法だったクランバトルを合法化してビジネスにしたのもペルガミノが大統領就任してからの成果と言われるくらいその辺りの儲けがある」

そこまで考えてジョンは自分の中である程度納得の行く推測に落ち着いた。

キシリア・ザビが何かしらの理由でイズマに来訪、それを狙って地球連邦の協力を得たテロリストがサイコガンダムを使ってキシリアを暗殺しようとしている。

現状、ジョン自身が知れる情報だけで事態を推測するとこれしかない。

 

「マチュはイズマ支部に行ってほしい、そこにはシェルターがある」

お互いに少し落ち着いた後、ジョンが開口一番に言った。

サイコガンダムの轟音を遠くに聞きながら2人はジークアクスのコックピットの中にいた。

流れ弾から逃れるためだ。

「ジョンも行くの?」

イズマ支部はジョンの職場だ。ジョンもシェルターに避難するかとマチュは一瞬思ったが、ジョンは首を横に振る。

「サイコガンダムとその僚機を止めに行く。イズマをこれ以上破壊させない」

「…戦うの?」

「そうだよ。場合によってはパイロットを殺してでも止める」

 

軍警のMS部隊は全滅したも同然だ。

ソドンとキケロガも戦闘不可能になった。

ナガラ衆のセカンドVはあれから姿が見えない。

 

セカンドVはサイコガンダムには一切手を出していない。

セカンドVがサイコガンダムの味方ならとっくにキシリアは死んでいるはずだが、HIDEKOは未だに健在だ。

ナガラ衆は利害の一致による協力こそあれど、どの勢力にも属さず独自の意思で行動しており、彼らはサイコガンダムの手助けはするが殆ど手を出さないつもりのようだ。

 

もうイズマコロニーでサイコガンダムを止めれる者はいなくなった。

 

「ジョン、だったら私も行く」

マチュはジョンが行く先に何処へでも着いて行くつもりだった。

あんな怪物のような相手と戦うのにジョン1人だけを行かせるつもりは毛頭なかった。

「死ぬよ」

ザラザラしたジョンのザラつきが更に鋭くなった。

 

マチュがどうしてMSを操縦できたかはジョンには謎が多い。

天賦の才というものかもしれない。

だがどんな天才でも死ぬときは死ぬ。

マチュもいつかは死ぬ。だが、今ではない。

「死なないよ、ジョンがいるから」

ジョンの言葉にマチュは強く否定する。

「それにあんな変な飛行機で勝てる相手じゃないでしょ、ジークアクスなら勝てる」

『変ナ飛行機ジャナイ、ガンバレルストライカーダ。メビウス・ゼロノ血ヲ引イテイルンダ』

『カテル!! カテル!!』

2人の会話を聞いていたガンバレルストライカー(ハロ)と白いハロが互いに返事をする。

 

「もしかしたらサイコガンダムに勝てる手段が僕にあるかもしれない」

 

「ハロ、君もナガラ衆と同じ力を持っているんだろう?」

 

ジョンはガンバレルストライカー(ハロ)に語りかける。

「ニャアンが言ってたからな。奴らはMSに変身できると」

ジョンはニャアンの話を思い出す。

 

ニャアンの目の前でνガンダムに変身した虹色の水着の女性

そしてジョンの目の前でガンバレルストライカーに変身したハロ

 

ナガラ衆とハロは恐らく同類だろうとジョンは察していた。

『…OPPAI-SENSEダ』

ガンバレルストライカー(ハロ)は言いずらそうだ。

『ナガラ衆ハ人間トシテノ身体以外ニ機械ノ身体ヲ持ッテイル』

「この間のショッピングモールの話?」

あのファタンジーじみた話かとマチュは思った。

ジョンの深刻そうな話である程度は信じてはいたが、マチュは未だに半信半疑だった。

変なテロリストだとは思っていたが、人間がMSに変身するなんてありえない。

「ハロ、ニャアンが昔の僕を知っていた。昔の僕はピンクの悪魔と呼ばれていたと」

 

 

『普通、人間がMSに変身したなんて誰も信じない。僕もニャアンだから信じるのであってネットで書いてあっても信じないよ』

『ジャック、まさか…』

『あの時のこと覚えてないの?』

『ニャアン』

『前に話した通り、僕の記憶は断片的にしか覚えていない。ニャアンは僕が知らないことを知っているはずだ。だったら教えてほしい。僕はアイランドイフィッシュで何をしたんだ?』

『ジャックはね』

『ガンダムになれるんだよ…』

『ガンダム…?』

『証拠は、何を証拠にそんなことを?』

『ジャックはガンダムになったの』

『あの時のジャックはすごかった。ジオンからピンクの悪魔って呼ばれてた!!』

 

 

あの時の緑地公園の出来事をジョンは思い返す。

自分はガンダムになれる。それもピンクの悪魔と呼ばれるくらいの代物だ。

ガンダムになれるならあのサイコガンダムを止めることができるはずだ。

そしてその力を持つ者が目の前にいる。

 

ジョンはジークアクスのコックピットのハッチを開ける。

コックピットからゆっくりと降りてジョンはガンバレルストライカーの前に立った。

「ハロ、僕はどうやったらガンダムになれる?」

『…本当ニ良イノカ?』

「ニャアンには悪い。だが、今あれを止めれるのはガンダムだけだ」

 

 

ホテルは目と鼻の先だ。

サイコガンダムは屋上へとゆっくり上昇していく。

ドゥーは任務に集中しながらもストライクのことがどうしても脳裏を支配していた。

ストライクを殺したい。

自分の穢れでストライクを汚したい。

汚しつくして自分の物にしたい。

ストライクをマーキングしたい。

煩悩と殺意をストライクに対して抱きながらドゥーの駆るサイコガンダムは屋上へと到着した。

サイコガンダムがキシリアを確認するのと同時に空から一機のMSが降下してきた。

「キシリア様!!」

エグザベ専用ギャンがハクジを構えてサイコガンダムの前に立ちはだかる。

 

『久々に俺の出番だな』

その光景をどこからか見つめる者がいた。

『この間はガンダムだったからな、専用のギャンならどうかな』

 

エグザベの脳裏に言葉が走る。

嫌な覚えのある言葉だ。

 

『EXAMシステムスタンバイ』

掘り下げが足りないと感じる主要人物

  • ジョン・マフティー・マティックス
  • アマテ・ユズリハ(マチュ)
  • ニャアン
  • シュウジ・イトウ
  • シャリア・ブル
  • シロウズ
  • サンライズカネバン社長
  • シイコ・スガイ
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