霧の街のヒナタ   作:下駄ロボ

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……ちょっと舞い上がり過ぎたかな?

 ○○○がカニンガム教授から手紙を受け取ったその日の夜、○○○とヒナタは寮の部屋で荷造りをしていた。

 ヒナタは少女の姿に変わっている。とても上機嫌だ。

 

「何を持っていこう?」

 

 ヒナタがトランクを開けながら尋ねた。

 

「まず、普通にワインとかブランデーだよな。いつものやつ」

 

 ○○○が苦笑する。

 

「お父さんは飲める方?」

「まあ、家では普通に飲んでるな。」

 

 ヒナタが目を輝かせた。

 

「じゃあ、いつものやつにマリオさんからの〝お薬〟も付けちゃおうよ。」

「...…それは流石に辞めよう。お高い酒だと〝副業〟絡みに気付いて突っ込まれそうだ。」

「……それは確かにそうだね。」

 

 ヒナタはキッチンから瓶を大小一本ずつ取り出した。

 大きな瓶はスミス教授から譲られた酵母に切り替えて更に美味しくなった自家製ポートワインもどき。

 小さな瓶は酵母切り替え前の自家製ワインを蒸留して作ったブランデーだ。

 

「一本ずつで大丈夫かな?」

 

 ヒナタが瓶を布で丁寧に包み始める。

 

「大丈夫だろ。むしろ二本も持って行く時点で大盤振る舞いさ」

 

 ○○○が、その様子を眺めながら言い切った。

 

「本当?」

「ああ。それに、親父もブロックワインを作っているから多すぎると困るだろ」

「それならお土産はこれで良いかな」

 

 ヒナタはワインとブランデーをトランクにしまった。

 

「それに、どっちも飲んべえ共とカニンガム教授のお墨付きだ。気に入るに決まってる」

 

 ○○○がヒナタの肩を抱き、頭を撫でながら言い切った。

 ヒナタはされるがままでご満悦だ。

 

「○○○も気に入ってくれてるからね」

 

 ヒナタは○○○に身体を預け、触手で絡みついた。

 

「おいおい、まだ荷造りの途中だぜ。

 そういう事は終わってからだ」

 

 ヒナタは恥ずかしそうに触手を解いた。

 

「あはは、舞い上がってたよ」

「大丈夫だ、俺も舞い上がってる」

 

 ○○○がヒナタの頭を撫でた。

 

「わかった。じゃあ、服を入れないとね」

 ヒナタがいつもの男物の服をトランクに詰めていく。

 ズボン、シャツ、ベスト。

 

「...ヒナタ、女の子の服は?」

「え?」

「いや、実家では...その、女の子として行くんだろ?」

 

 ヒナタが首を傾げた。

 

「うん。でも、女の子の冬物の服って持ってないよ」

「...そうか」

 

 ○○○が少し困った顔をした。

 

「何か問題ある?」

「いや...母さんが何か言うかもしれないけど、まあ、大丈夫だろ」

「そう?」

「ああ。お前はお前らしくいればいいさ」

 

 ヒナタが、安心したように微笑んだ。

 

「ありがとう、○○○」

 

 荷造りが終わり、二人はベッドに座った。

 

「明日、楽しみだね」

 

 ヒナタが窓の外を見ながら呟いた。

 

「ああ」

「○○○のお父さんとお母さん、優しい人たちだったから」

「...前に会った時は、随分と驚かせちゃったけどな」

 

 ○○○が苦笑する。

 

「あの時は...仕方なかったよ」

 

 ヒナタが顔を赤らめた。

 あの日、○○○の両親が突然訪問してきた時、ヒナタは○○○の膝の上に座っていた。

 二人の関係が一瞬でバレた瞬間だった。

 

「でも、認めてくれたから」

「ああ。母さんも父さんも、お前のこと気に入ってたぞ」

「本当?」

「本当だ」

 

 ヒナタが、嬉しそうに笑った。

 

「じゃあ、明日も頑張らないと」

「頑張るって...お前、何をするつもりだ」

「料理の手伝いとか!」

「...ああ、それなら大丈夫だな」

 

 二人は笑い合った。

 窓の外では、冬の風が木々を揺らしている。

 

---

 

 翌朝、寮の玄関。

 早朝の冷たい空気の中、○○○とヒナタは出発の準備を整えていた。

 トランクを手に、コートを着込んだ二人の前に、寮母が立っている。

 

「ヒナタちゃん、その格好で大丈夫?」

 

 寮母が、少女の姿に変わったヒナタを見て尋ねた。

 ヒナタは男物のズボンにシャツ、その上に厚手のウールコートを羽織っている。

 

「はい、大丈夫です」

 

 ヒナタが元気よく答える。

 

「女の子の服、持ってないのね」

「...はい」

 

 ヒナタが少し恥ずかしそうに答えると、寮母は優しく微笑んだ。

 

「まあ、いいわ。○○○君のお母さんなら、きっと何とかしてくれるでしょう」

「え?」

「ふふ、楽しんできなさい」

 

 寮母が意味深に笑う。

 

「...寮母さん、何か企んでません?」

 

 ○○○が疑わしそうに尋ねると、寮母は首を振った。

 

「何も。ただ、あなたのお母さんは心配性だから、きっと色々と世話を焼くだろうなって思っただけよ」

「...やっぱり何か言われそうだな」

 

 ○○○がため息をついた。

 

「大丈夫よ。ヒナタちゃんなら、きっと可愛がってもらえるわ」

 

 寮母がヒナタの頭を撫でる。

 

「はい! 頑張ります!」

 

 ヒナタが張り切って答えた。

 

「それから、これ」

 

 寮母が、小さな包みを○○○に渡した。

 

「これは?」

「あなたのお母さんへのお土産。私が焼いたクッキーよ」

「...ありがとうございます」

 

 ○○○が受け取ると、寮母は満足そうに頷いた。

 

「さあ、行きなさい。列車に遅れるわよ」

「はい。行ってきます」

「行ってきます!」

 

 二人が寮を出ると、寮母は玄関から手を振った。

 

「気をつけてね!」

 

 駅までの道を歩きながら、ヒナタが尋ねた。

 

「寮母さん、何か知ってるのかな?」

「多分、母さんと何か話したんだろうな。前に実家に来た時」

「どんな話?」

「……俺達がいちゃついてるとか、そういう話だと思う」

 

 ○○○が肩をすくめた。

 

「それっていつもの事じゃない?」

「……そうだな」

「そうだよ」

 

 ヒナタがクスクス笑った。

 

「気にしてもしょうがないよ。今からどうにか出来るものじゃないし」

「……それもそうだな」

「それに、何かあっても、今回持っていくお土産で親父も母さんも機嫌良くなるはずだ」

「そうだといいけど……」

「絶対大丈夫だって」

 

 二人は駅に向かって歩き続けた。

 朝の西アーカムは、いつもの霧に包まれている。

 だが、今日の霧は、どこか温かく感じられた。

 駅のホームには、既に何人かの乗客が列車を待っていた。

 

「オリンピア行き、あと十分だな」

 

 ○○○が時計を確認する。

 

「うん」

 

 ヒナタがトランクを抱えて、ワクワクした顔で列車を待っている。

 

「...そんなに楽しみか?」

「うん! だって、○○○の実家だもん」

「そんなに喜ばれると照れるな」

「……ちょっと舞い上がり過ぎたかな?」

 

 ヒナタが顔を赤らめる。

 

「ちゃんと招待されて行くんだから気にしなくても良いだろ」

「...そうだね」

 

 遠くから汽笛の音が聞こえてきた。

 

「来たぞ」

 

 蒸気を吐き出しながら、列車がホームに滑り込んでくる。

 

「さあ、行こう」

 

 ○○○がトランクを持ち、ヒナタの手を引いて列車に乗り込んだ。

 窓際の席に座ると、ヒナタは外の景色を眺めながら、幸せそうに微笑んだ。

 

「オリンピア、楽しみだね」

「ああ」

 

 列車がゆっくりと動き出す。

 西アーカムの霧が、次第に遠ざかっていく。

 二人を乗せた列車は、穏やかな家族の時間が待つ、州都オリンピアへと向かっていた。

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