天才冒険者リオの英雄譚 童貞・処女しか入れないダンジョンを攻略せよ!   作:ナオ3

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説明会はそろそろ終わります。


10話 叫べ、童貞

 

 

「……よし、この話は後にしよう。後はパルシリア王国に任せる!」

 

俺は心の底から叫んだ。

 

思わず口から飛び出していた。というか、脳がもう情報処理を放棄していた。限界だ。未来の童貞・処女厨国家とか、想像するだけで精神ポイントがマイナス振り切る。

 

誰かに託す、これ最強。責任は回避、思考は停止。はい、現実逃避モード発動。

 

 

「そうだね……そうしよう……」

 

 

管理者もどこか疲れた声で同意してくれた。いやお前、光ってるだけの存在のくせに、どうしてそんなに“しおれてる”のが伝わってくるんだよ。

 

青白い光がふわぁ~っと、ため息でも吐くように揺れている。

 

疲れ果てたように光がぼんやり揺れ、管理者も俺と同じテンションで答える。まさかここまで話してきて、こんな終わり方になるとは思ってなかった。

 

俺と管理者の間に、変な空気が流れる。……妙な親近感を覚えるのは、たぶん疲労のせいだ。頭がズキズキして、もう突っ込む気力も残っていない。

 

しばし、気まずい沈黙が流れる。

 

俺はその場に座り込み、湖面に映る星をぼーっと眺めていた。目の前の青白い光――ダンジョンの管理者。こいつとこんなに深く話すことになるなんてな……。

 

そんな空気の中、管理者がぽつりと声を出した。

 

 

「これで、伝えないといけないことは全部伝えたつもりだけど……何か、聞きたいことはある?」

 

 

俺は思わず唸る。

 

聞かれた俺は一度考え込んだ。これまでの会話をゆっくり頭の中で巻き戻してみる。童貞・処女しか入れないダンジョンの理由、素材になる魔物の話、業魔と穢れの関係、国家戦略としての童貞保護政策(?)……と来て、ふと一つだけ残っていた疑問が浮かび上がる。ゆっくりと顔を上げる。今までの話を思い出しながら、ふと気づく。

 

俺の脳内では既にキャパオーバー寸前だけど、それでも、ひとつだけ、ずっと引っかかっていた疑問があった。

 

そういえば――

 

 

「……管理者。お前は、何者なんだ?」

 

 

本当に聞きたかったのは、これだった。

 

今まで散々付き合ってきたこの“存在”について、俺は実は何も知らない。ただ「ダンジョンの管理者」で、「このヴァージニアを作った」と言っていること以外は全くの謎。性別も年齢も、そもそも人間なのかどうかもわからない。

 

俺が知ってるのは、ダンジョンを作ったということ。でも、それ以外――根本的な「正体」は、何一つ知らない。

 

ただ“人知を超えた存在”っぽいことだけが、薄々わかってきた程度だ。

 

管理者は少しの間、沈黙した。そして、寂しげに光を揺らして言った。

 

管理者は少しだけ沈黙して、そして、ぼそっと言った。

 

 

「ダンジョンの“管理者”のことじゃないよね……ごめん、言えないんだ」

 

 

あっさりとした答えだった。普通なら「は? なんで?」って返すところだけど、不思議と怒りは湧いてこなかった。

 

どこか抜けてるとこはあるけど、基本的にはずっと真面目に、誠実に、俺の疑問に向き合ってくれた。ボケたり、ぶっ飛んだ発言したり、トラウマえぐったりもあったけど、それでも向き合おうとする姿勢だけは本物だった。だから俺も、納得できた。

 

だから、素直に思う。

 

――こいつには、こいつの事情があるんだろうな。

 

 

「ちゃんと姿を出して、名乗るのが筋だと思う」

 

 

管理者は少し光を揺らしたあと、はっきりと首を横に振った。

 

 

「だけど駄目なんだ。僕が、じゃなくて……君の為に」

「……俺のため?」

 

 

驚いた。てっきり、何か自分側の都合があるんだと思っていたのに、まさかの“俺のため”。

 

管理者はしばらく沈黙し、空気が静かに、しかし重く揺れる。そして――

 

 

「……今から、僕の“本当の声”で君に呼びかける。そうすればわかると思う」

 

 

場の空気が凍った。

 

これまでの会話の中で、そんな重みを持ったセリフはなかった。

 

“本当の声”。

 

本当の声? 今の声だって十分“普通じゃない”のに、本当の声ってなんだ? 聞いて何が起こるっていうんだ? 

 

でも、ここまで付き合ってくれた管理者を、疑う気にはなれなかった。もしそれで何かがわかるなら、受け止めるしかない。

 

それはきっと、管理者の“正体”に直結する何かだ。

 

――それを聞けば、俺にも何かわかるのだろう。

 

俺はごくりと唾を飲み込む。

 

この一瞬で、背筋が伸びる。冗談抜きで「何か」が来ると本能が告げている。

 

けど、ここで逃げたら、聞けることすら聞けない。

 

 

「……やってみてくれ」

 

 

俺はそう答えた。いや、覚悟を決めた。

 

これまで、ここまで一緒に話をしてきた存在の、正体に少しでも近づけるなら――

 

俺は、知りたい。

 

正直、怖かった。けど、それ以上に知りたかった。

 

ここまできたんだ。情報のひとつやふたつ、命のリスクで得るのが冒険者ってもんだろうが。

 

そして、それが“俺のために隠されている”のなら、知った上で、受け止めたい。

 

そう思った。

 

今思えば、それが運の尽きだった。

 

 

「……じゃあ、いくよ。本当の“声”で、君に呼びかける」

 

 

管理者がそう告げた瞬間、空気が変わった。空気というより“世界”そのものが震えた気がした。俺の周囲を包む空間が、静かに、だが確実に密度を増していく。

 

……管理者が、静かに光を強くしていく。

 

思わず、息を飲む。

 

何かが、始まる。

 

このあと、何が起こるのか――その瞬間、俺はまだ、知る由もなかった。

 

そして

 

 

 

 

 

「           」

 

 

 

 

 

――無音。

 

いや、音は出ている。確かに聞こえている。

 

でも理解できない。言葉じゃない、理屈じゃない。

 

意味はわからない。内容もわからない。

 

なのに――圧倒的な感動。涙が溢れそうになる。体の奥の奥が熱くなる。包み込まれるような幸福感。優しさと安心感に全身が溶けていく。

 

心が震える。魂が震える。熱くて、あたたかくて、どこまでも優しくて、何もかもを包み込むような――

 

ああ、俺、泣いてるのか? なんで? なんでこんなに――

 

幸福だ?

 

おいおい、ちょっと待て。俺、今までこんな気持ち感じたことあったか? いや、ない。圧倒的な感動と、抱きしめられるような安心感。そして――満たされる。

 

これが“本当の声”……なのか?

 

ああ、もう何もいらない。すべてが満ちている。

 

このまま精神が蕩けて、意識が溶けて、ふわふわとどこかへ――

 

 

「……ごめんなさい」

 

 

聞こえた瞬間、時が止まった。

 

ミリアの声。

 

その瞬間、意識がぶち壊された。

 

 

「ぐぼあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

 

 

崩れ落ちる俺。膝をついた。

 

ミリアの声だった。

 

何度思い返しても、あの一言は地獄の入り口だ。

 

謁見の間で告白もしてないのに放たれた“ごめんなさい”。予告なしに心臓に突き刺さった言葉。死ぬかと思ったあの日が、鮮明に蘇る。

 

 

「……ごめんなさい」

「げぼえぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」

 

 

ループ。ループ。ごめんなさい地獄。

 

過去最大のトラウマが、神の声の中で再生される地獄の円環。しかも音質クリア、臨場感MAX。

 

やめろ!繰り返すな!

 

 

「ごめんなさい」

「ぴっぎょおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

ループしてんじゃねぇかあああああああ!!!!!!

 

魂が癒された次の瞬間、魂が焼き払われている。なにこの落差、天国と地獄のセット販売か!?心が忙しすぎて死ぬ!!!

 

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

 

なにこれ無限地獄?俺の魂だけソウルミキサーに突っ込まれてんの!?

 

そして――

 

 

「ミリア、今晩もいいか?」

 

 

ゼインだ。

 

ゼインだ。

 

ゼインだあああああ!!!

 

ゼインの声――しかも表情が、俺の知っている無表情じゃない。長年の付き合いで一度も見たことのない――スケベそうな顔!!

 

9999のダメージ。リオは瀕死だ。HPが真っ赤だ。

 

 

「もう、ゼインったら……エッチ」

 

 

ミリアの、色っぽい、甘い声。

 

はいトドメきましたぁあああああ!!!!!

 

ミリアのあの、あの清楚な声で、色っぽくそんなこと言っちゃうの!?しかも甘く、囁くように、耳元で!

 

あの清楚なミリアが、頬を染めて、妖艶に微笑む。しかも着てるのは、なんだあの布面積は!?それミリアの私服じゃねぇだろ!!

 

99999のダメージ! 会心の一撃! リオは……リオは……!

 

延々と続く、ゼイン×ミリア ラブラブ劇場!。

 

魂を揺らすBGM付き。演出過剰! 演出過剰すぎる!!

 

水浴び中に後ろから抱きつく、料理中にキス、読書中にひざ枕。

 

――そして最後――

 

ベッドの上でゼインとミリアが見つめ合いながら手を重ね――

 

 

「もうやめろばかああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 

 

俺の絶叫が夜空に木霊した。

 

俺は叫んだ。泣き叫んだ。存在がバラバラになりそうだった。

 

気づけば、俺は地面に倒れ、肩で荒い息を繰り返していた。

 

体がガクガク震えて、息が荒れて、理性が吹き飛びそうになる。

 

 

「はあっ……はあっ……はあっ……」

 

 

目が覚めた。

 

目を開けると、管理者が心配そうにこちらを見ている(たぶん、光ってるだけだけど)。

 

視界がブレる。全身が汗でびっしょり。ここまで精神をぶっ壊されたのは、業魔との死闘以来だ。いや、こっちの方がきつい!!

 

「……大丈夫?」

 

 

どこか心配そうな管理者の声が降ってきた。

 

優しさ100%、悪意ゼロ。だが俺の精神はダメージMAX。

 

俺は即座に、魂の叫びで返した。

 

 

「大丈夫じゃない!!!!!」

 

 

何がどう“大丈夫”だ!?

 

もはや生きてるだけで奇跡だ!!

 

どこの童貞があのラブラブ地獄で精神保てるんだよ!

 

 

「マジで死ぬかと思ったわ……っ!」

 

 

深呼吸、深呼吸。リオ、落ち着け。空気を吸って、吐いて、吸って――

 

 

「……わかった。もうわかったから」

 

 

やっと、少し落ち着きを取り戻してから、俺は言った。

 

 

「……だから、頼むから、アレはもうやめてくれ!!」

 

 

アレだよ、アレ!ごめんなさい連打からのラブラブ劇場!マジで精神のリンチだったからな!?何回聞いても“ごめんなさい”が脳内に響いてくるし!

 

ツッコミたい。「お前、なんで俺のトラウマ知ってんだよ!!」って。どうしてあの記憶が管理者にバレてるのかツッコミたい。でも聞いたら絶対後悔する気がして、ここは耐える。うん、耐える。冒険者リオ、ここにきて最大の我慢。

 

たぶん、俺が精神持ってかれそうだったから、管理者は“わざと”俺の心に触れたのだろう。

 

あの地獄の記憶で、俺のアイデンティティを強制的に呼び戻した。

 

やってくれって言ったのは、俺だ。

 

正気に戻してくれたのも、あいつだ。

 

――文句は言えねぇ。

 

……え? 気遣いが雑すぎるって?

 

知ってるよ!!

 

でも、たしかに目は覚めた。正気も戻った。今は「童貞・処女厨国家」がちょっとマシに思える程度には現実に戻ってきている。これが管理者なりの“配慮”だったのだとしたら、俺は、俺は――

 

 

「ごめんなさいだけでいいだろ!! なんであんな光景まで再生したんだよ!! ゼインとミリアのラブラブ劇場はオマケか!? 嫌がらせか!!?」

 

 

せめてもの抵抗として、ぶつけた言葉はこれだった。

 

怒りというより、泣きそうな気持ちで訴える。

 

すると、管理者は小首をかしげて、こう言った。

 

 

「えっ、何のこと?」

 

 

……え?

 

……まさかの、心当たりゼロ。

 

え? じゃあアレ、アレ全部――

 

 

「いや……何でもない」

 

 

俺は即座に話をそらした。絶対に言えない。今のが“自分の脳から勝手に再生された幻”だったなんて、死んでも認めたくない。

 

だってつまり、俺は自分の脳内でゼインとミリアのイチャイチャをシミュレートし、それを“トラウマ素材”として上書きしていたわけで――

 

しばらく沈黙が流れた。

 

それから、管理者がそっと言った。

 

 

「これで、正体を明かせない事情は、わかってくれたかな?」

 

 

 

俺は、言葉も出さずに、無言で頷いた。

 

あんな声を聞いたあとじゃ、本当の“姿”や“名前”を知ったらどうなるかなんて――もう、考えるまでもない。

 

俺は、無言で頷いた。

 

これ以上は……知るのが怖い。というか、確実に死ぬ。

 

この存在は――あまりにも、でかすぎる。

 

……たった、あれだけの“声”で、これだ。

 

 

たった一言、声を聞いただけでこうなった。しかも、それはほんの「触り」だけ。本気でも何でもない、たぶん限界まで抑えられた“本当の声”の、そのまた端っこ。なのに、だ。

 

さっきの衝撃がまだ全身に残っている。思い出しただけで、脳内に「ごめんなさい」がループする幻聴が走る。ミリアのえっちな声、ゼインの気色悪いスケベ顔、あのラブラブ地獄。おまけに状況が多様すぎて、どれだけバリエーションに富んだ妄想生成能力を俺の脳は持っているんだと自分で自分にドン引きだ。

 

もし――

 

管理者の“本当の姿”を見てしまったら?

 

“本当の名前”を聞いてしまったら?

 

……終わるな。

 

俺の魂、ふつうに消し炭になる気がする。スーって光になって空に帰るパターン。気づいたら俺の記憶から「リオ・ハートフィールド」って名前すら削除されてる可能性ある。

 

だから、わかった。

 

管理者は確かに言った。「僕が、じゃなくて、君のために」と。最初はその意味がピンとこなかった。だけど今なら、嫌でも理解できる。

 

管理者は――俺なんかが到底理解できない、“途方もない存在”なんだ。

 

規格外ってレベルじゃない。常識の外側、理屈を超えた何か。ダンジョンを管理するために存在してるけど、本質はたぶん、それどころじゃない。

 

――とんでもないやつだ。

 

そんなヤツが、俺に気を遣ってくれてた。

 

ツッコミやすいように間を作ったり、怒ったらちゃんと謝ったり、コメディ耐性をちゃんと持ってたり、絶妙に情けないところもあって。

 

このダンジョンを作り、穢れを管理し、業魔を抑え、素材の価値を操作し、そして何より――俺みたいなちっぽけな存在のために、あんなにも全力で「人間らしく」接してくれた。

 

あの声で、ほんの少しでも“本質”を垣間見ただけで、精神が崩れかけた。

 

なら、姿を見たり、名前を聞いたりすることがどれほど危険か――もう十分すぎるほど理解できた。

 

そんな俺に、管理者はぽつりと語る。

 

 

「……この場所で僕のことを知るのは、極めて不味い」

 

 

急に低く、慎重な声色になる。その声音に背筋が冷える。

 

 

「君はもう気づいてると思うけど……君は今、生身じゃない。魂だけの状態なんだ」

「魂だけ……?」

 

 

……ああ。どこかで薄々感じてた。

 

改めて辺りを見渡してみる。満天の星空。静かな湖。足元に感じるはずの水の感覚も、風の匂いもない。確かに、現実のようでいて現実じゃない。それどころか、どこか懐かしく、安心する空気すらある。

 

体の重みがない。なのに、立っていられる。そう、今の俺は“肉体”じゃない。ここにあるのは、俺の“魂”だけ――。

 

管理者は続けた。

 

 

「そして……君の目の前にいる“僕”は、対話するために切り出された、極々一部の存在でしかない」

 

 

言葉の意味を理解した瞬間、ゾクリとした。

 

 

「君が立っているこの空間そのものが、僕そのものなんだ」

「……え?」

 

 

今、俺が立っている“場所”全体が、管理者自身――?

 

……いや、ちょっと待て。

 

 

「つまり……俺、今、お前の中にいるのか!?」

 

 

なんかイヤな例えが頭をよぎったぞ!? 中にいるって!? 宿ってるとか!? 物理的に!?

 

 

「肉体という守りが無い状態で、君の魂に僕の影響が直接届く。……双方の意思に関係なく、ね」

 

 

その言葉に俺の背筋はぞわっと冷えた。精神的に影響を受ける、なんて生易しいものじゃない。文字通り存在そのものを奪われるということだ。

 

 

「そうなれば君は、僕に“支配”される」

「……っ!」

 

支配。

言い切る口調は静かだったけど、逆にその冷静さが恐ろしかった。

 

 

「それは……僕にとっても不本意なんだ」

 

声に微かな哀しみが混じっているのを、俺は見逃さなかった。

 

支配される――それは言葉としては強いけど、多分“人格が壊れる”とか“自我が消える”とか、そういう意味なんだろう。俺の心や意志が、管理者の存在に飲まれて、自分じゃなくなってしまう。

 

 

――なるほどな。全部、腑に落ちた。

 

だから“本当の姿”を見せない。名前を教えない。声も、必要最小限。あの時、ほんの一瞬だけ“本当の声”を使ったのも、それが限界だったんだろう。

 

 

「僕の正体について知ることも、リスクがあるから控えて欲しい」

 

 

管理者は静かに言った。本当に気遣ってるような、少し寂しげな声音だった。

 

……リスク。それはきっと俺に対するものだろう。

 

もし知ってしまえば、俺の存在そのものが不安定になるとか、正気が保てなくなるとか、そんなとこなんだろう。

 

本来なら、俺はとっくに壊れててもおかしくなかったんだ。最初に“光の人型”で出てきたときから、ずっと、ずっと、気を遣ってくれてたんだ。

 

言葉遣いも、説明の仕方も、失礼にならないように、優しくて、柔らかくて――

 

 

少しだけ胸がチクリとした。ありがたくて、申し訳なくて、でもやっぱりちょっと情けなくて。

 

だから――

 

 

「わかったよ。考えないようにしておく」

 

 

俺はそれだけ言った。納得はしてない、というより、本当はもう少し知りたい気持ちはある。でも、あれだけの現象を見せられて、むしろ踏み込む方が危険だと理解できた。だから、踏み込まない。それが俺の“自衛”だ。

 

ここまで付き合ってくれて、無事でいられるのもギリギリのバランスで成立してるんだ。

 

すると管理者は、ほっとしたように光を柔らかく揺らした。光なのに、表情が読めた気がする。安心した顔。安堵した空気。きっと、俺が追及しなかったことに、どこかで救われてる。

 

苦笑しかけて、俺も自然と肩の力が抜けた。

 

ああ、なんかもう、色々とわけがわからん。

 

とんでもない力を持った“何か”が、俺なんかのためにここまで気を遣ってくれてる。正体を隠して、距離を保って、接しやすい存在として会話して、導いてくれて――

 

何というか、申し訳ないような、ありがたいような、妙な気持ちになる。

 

知らないからこそ、こうして会話ができる。こうして向き合ってくれる。

このままで、いいのかもしれない。知らないってのも、ある意味で“守られている”ってことなんだろうな。

 

だから俺は、これ以上何も言わずに、静かにその光を見つめ続けた。

 

 




謎の存在が正体を打ち明けないのもテンプレね。
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