天才冒険者リオの英雄譚 童貞・処女しか入れないダンジョンを攻略せよ! 作:ナオ3
GPT5・・・いいね、書きやすくなった(うっとり)
かつての青春時代を堪能していたが――もう終わりのようだ。
(アンナのあの様子……気づいたか?)
隣にいるレオネルの視線が、彼女に向けられる。心配そうな声が落ちる。
「どうしたんだい、アンナ?」
俺はヴァリウスに視線を送る。彼は小さく頷き、低い声で告げた。
「レオネル……アンナは気づいたのだろう」
アンナの顔から血の気が引く。
俺は一呼吸おき、彼女に尋ねた。
「……実感したのか?」
その瞬間、アンナの体が小さく震えた。
(ああ……やはり、そうか)
楽しい青春時代は終わった。ここからは、苦い現実の時間だ。
俺は、ある少年の名を口にする。
「……リオ・ハートフィールド」
俺たちの、掛け替えのない人を救ってくれた少年。その名を。
「あの少年が居なかったら……どうなっていただろうか……」
レオネルの表情に、恐怖が滲む。おそらく、アンナの末路を想像してしまったのだろう。
アンナは小さく息を吐く。
「……死んでたでしょうね」
レオネルは悲鳴のような声をあげた。
「アンナ!」
彼女は目をつむり、静かに告げる。
「事実よ、レオネル」
そして、震える声を抑えながら続ける。
「そんな不安そうな顔をしないの……もう、無くなったじゃない」
レオネルは長く息を吐いた。
「……そう、だね」
ようやく落ち着きを取り戻したようだ。だが、俺の胸は締め付けられるように痛んでいた。
「なあ、レオネル」
聞きたくない。だが、聞かずにはいられなかった。
「アンナが亡くなったら……お前は、どうしていた?」
想像はつく。だが、どうか外れてくれ――そう願いながら。
「……自害、するつもり、でした」
沈痛な表情で俯くアンナ。顔を顰めるヴァリウス。
やはり、そうか……。あれほど愛する妻がいない世界は、耐え難いのだろう。
俺の脳裏に、あの日のレオネルの言葉がよみがえる。
『僕は……アンナのいない人生に、耐えられそうにないよ、エドワール、ヴァリウス……』
あれは、そのままの意味だったのだな、レオネル。
「なるほど……リオは、アンナのみならず、レオネルの命も救ってくれたのか……」
俺は静かに呟いた。
「俺とヴァリウスは、二人の親友を失う未来が待っていたのだな……本来は」
胸の奥で、別の思考が渦巻く。アンナが本当に恐れていること――それは……。
(ああ……本当に都合がいい)
出来すぎている。まるで物語の筋書きのように。
(そして、予想が正しければ……)
リオは、過酷極まる道を進むこととなるだろう。
俺はその事実を、ただ黙って胸にしまい込む。
「レオネル、俺はお前に――王として、友として、聞かないといけないことがある」
俺が口を開くと、レオネルの表情が固まった。肩にわずかな緊張が走る。
「……はい」
「アンナは、いつから眠りから醒めなくなった?」
その瞬間、アンナがハッと息を呑む。
「エドワール!」
俺を止めようと声を上げたが、俺は静かに首を振った。
「これは……聞かないといけない事だ」
アンナは唇を噛み、言葉を飲み込んだ。
しばし沈黙が流れ、レオネルは意を決したように苦しげな表情で答える。
「……リオ殿が、ダンジョンに突入した日から……アンナは起きなくなりました」
アンナは胸を押さえ、うつむいた。その手が微かに震えている。
そこで、俺はようやく理解した。
なぜレオネルがこの事実を告げられなかったのか。
額を押さえ、深く息を吐く。
「……王国の危機が迫っていたから……か」
そう呟くと、レオネルは無言で俯いた。
伝えられなかったのではない――伝える余裕がなかったのだ。
俺は胸の奥に重いものが溜まり、自嘲を抑えきれなかった。
王国の危機しか見えていなかった。友の苦悩を察することすらできなかった。
賢王――笑わせる。名前負けも甚だしい。ここにいるのは、友の痛みを見抜けない凡庸な男だ。
だが……
(悔やんでいる場合じゃない)
俺は溜息を吐き、口を開いた。
「……そうか」
この言葉が、これほど重く感じたのは初めてだ。
だが、同時にレオネルの言葉で、俺の胸の奥にあった疑念がさらに濃くなる。
(出来過ぎてるな……)
この疑いは、今は口にすべきではない。
俺は思考を押し隠し、今は友のことに集中することにした。
「レオネル……辛かったな」
レオネルははっとして、俺を見つめる。
「いや、違うんだエドワール……僕は――」
俺は首を横に振って遮った。
「運が悪すぎたんだ」
「リオの重傷に伴う王国の危機、それに重なってアンナの昏睡……お前のような責任感のある男が何も言えなくなるのは、おかしい事じゃない」
レオネルの瞳に涙が滲み、そのまま頬を伝って零れ落ちた。
「レオネル……!」
アンナは彼を抱きしめ、共に涙を流す。
俺はゆっくりと、しかし確かな声で言った。
「おかげで俺は、王国の危機に専念することができた」
「レオネルという男を――俺は心から頼ることができた」
「お前の忍耐に、感謝を」
ここで謝罪をしてはならない。レオネルの想いを裏切ることになる。
(言うな、エドワール、絶対に……!)
レオネルは、俺の配慮を悟ったのか、小さく頷き「はい」と答える。
アンナも涙を流し続けていた。
二人の肩が震え、涙が止まらない。ヴァリウスがそっとハンカチを差し出すと、レオネルは受け取り、アンナの涙を拭った。
その様子を見ながら、俺は心の中で考える。
(レオネルにとっては、不運な出来事が重なった……そう見える)
(だが、別の見方をすれば――最高のタイミングでもあった)
(ある程度元気な時と、死ぬ手前の状態……どちらがより恩を感じる?)
もし俺が同じ立場なら、死の淵から救われた時の方が、その恩はより深く心に刻まれるだろう。
そして今、レオネルとアンナは――まさにその状態だ。
(偶然か? いや……)
考えは堂々巡りになる。だが今、この疑念を表に出すわけにはいかない。
時間が、ある程度ゆるやかに過ぎていく。
沈黙は重く、だが不思議と落ち着きもあった。レオネルとアンナは、互いの手を握ったまま、まだ互いの存在を確かめ合っている。
「……アンナ」
俺は口を開いた。声はできる限り柔らかくした。
「色々と考えるべきことはあるが……今は、俺とヴァリウスに任せてくれないか?」
アンナは俺の方を見上げる。答える前から、彼女の瞳に浮かぶ懸念がわかる。
顔も見たことがない――だが、命を救ってくれた恩人である少年。
リオ・ハートフィールド。
その名が、彼女の胸の中で強く響いているのだろう。
(……そうだな。お前は、あの少年の未来を案じている)
過酷な道を歩むことが、もう決まってしまっている少年。
彼がこれからどれほどの試練を受けるのか、アンナは直感的に理解しているのだ。
レオネルは、そんなアンナの様子から何かに気づいたはずだ。
だが、あえて気づかないふりをしている。
(レオネル……お前は……)
俺たちが何も言わないことに、何も問わない。その無言の信頼が、ありがたくも、痛かった。
(すまん、レオネル)
(お前にだけは、言いたくないんだ)
(この奇跡が、仕組まれている可能性があるなんて……)
(お前に、だけは……)
胸の奥で、静かにそう呟く。
「ヴァリウス」
俺が呼びかけると、彼は短く「ああ」と応じ、立ち上がった。
「レオネル、アンナ」
彼は二人を見据え、淡々と告げる。
「別の部屋に検査器具が置いてある。お前たちの状態を調べるぞ」
「若返り……特にアンナは瀕死の状態から生還したばかりだ。調べる必要がある」
レオネルとアンナは顔を見合わせ、静かに頷いた。
彼らも理解しているのだ。今の自分たちの状態が、常識では説明できない領域にあることを。
俺は椅子から立ち上がらず、言った。
「俺はここで待っている。考えたいことがあるからな」
アンナは扉に向かいかけた足を止め、俺を振り返った。
その目は、不安と期待が入り混じっている。
「……エドワール」
俺は笑顔を作る。
この笑顔が、彼女の不安を少しでも和らげることを願って。
「後は任せろ」
アンナはしばし黙し、やがて静かな口調で言った。
「……リオを……お願い」
短い言葉だったが、そこに彼女の全てが詰まっていた。
あの少年を――守ってくれという願いだ。
「――ああ、任せてくれ」
俺は頷き、言葉を返す。それは約束ではなく、誓いだった。
アンナは微かに笑みを浮かべ、ヴァリウスと共に部屋を出ていく。
その背中をレオネルが追い、扉が静かに閉じられた。
残された部屋には、俺一人。
深く息を吐き、椅子に体を預ける。
目をつむり、人から王に頭を切り替える。
――始めよう
(そもそも、リオという存在自体が……都合が良すぎる)
俺は椅子に深く腰を沈め、静かに目を閉じた。
(あれ程優秀で、しかも純潔の男が、パルシリア王国に居るか?)
王国は大国だ。数十年に一人の逸材が現れたとしても不思議ではない……そう自分に言い聞かせてみる。
(いや、運よくいたとしよう)
だが、それで全てが納得できるかと言えば、到底そうではない。
(余りにも……場が整いすぎている)
アンナの昏睡、王国の危機、そしてリオの死闘。それらが絡み合った結果、彼は俺たち四人――いや、パルシリアそのものに絶大な恩を売った。
(特にレオネルとアンナには、返しても返しきれない程のな)
アンナの命を救った。それだけでも十分すぎる恩義だ。
だが同時に、レオネルの命も救ったのだ。
あの男はアンナを失えば間違いなく後を追っていた。
(俺やヴァリウスも、リオには多大な恩を感じている)
2人を救ってくれただけでも大き過ぎるが、俺たちが王国の危機に専念できたのは、リオが業魔の討伐に挑んだからだ。
あれがなければ、俺たちは最悪な結末に至っていただろう。
俺は息を吐いて思考を落ち着かせるとリオの取り巻く状況を考察する。
(パルシリアの全てが、リオの味方になったと考えていい)
誰もが彼を恩人として語るだろう。既にその素地は整っている。
(……流れを感じる。リオが英雄として活躍する流れが)
オリジンに造詣の深いヴァリウスがパルシリアに居ることといい、ここまで環境が整い、物語のように舞台が揃うなど……偶然とは思えない。
(いや、これは英雄というよりも……)
口の中で、ひとつの言葉が形を成す。
「……主人公」
その瞬間、背筋に氷柱が走った。思わず唇を噛む。
(……違う、そんなはずはない)
即座に否定する。だが脳裏に浮かんだその言葉は、こびりついて離れない。
主人公――それは物語の中心であり、全ての出来事の渦中に立たされる存在だ。憧れるのは自由だ。誰もが夢見る役回りだ。だが、現実でそれを背負わされたら……それはもはや栄誉ではない。
(苦難でしかない)
特に、英雄譚の主人公など――
(どれ程過酷なものになるか……想像もつかない)
試練は必ず訪れる。いや、それどころか試練は続く。終わりなく。
全てが彼を試すために存在するかのように、運命は牙を剥くだろう。
(彼の周りに起きた偶然の連鎖――いや、必然のような連鎖……まるで物語の“筋書き”そのものだ)
リオの登場は偶然だったのか。それとも、誰かが用意した脚本通りなのか。もしそうだとしたら、彼は逃げられない。結末まで走らされるだけの駒になる。
しかし、頭は勝手にさらに先を想像する。
(……もし、ダンジョンが出現したのが偶然ではなく……)
(リオが“主人公”として歩き始める、その最高のタイミングで現れたのだとしたら……?)
あまりにも荒唐無稽な考えだ。
馬鹿馬鹿しさに笑い飛ばせばいい――そう思う。
だが、唇が引きつるだけで、笑いは喉を通らなかった。
(……笑えないな)
あの日、王国近郊に突如として出現したダンジョン。
リオは偶然その近くにいた――
だがもし、それが偶然ではなく、仕組まれたものだとしたら?
脳裏に傷ついていくリオの姿を見てしまった。
(俺は……そんな未来を望んでいない)
確かに、リオがいれば王国は救われるだろう。俺たちも救われるだろう。だがその代償は、彼自身の人生だ。
(彼が「主人公」である限り、平穏は訪れない)
エドワールは腕を組み、机の上に肘をついたまま、額を押さえた。
(俺たちがこれだけ彼に恩を感じているのも……ある意味では危険だ)
思考を切り替える。
この物語を作り上げた作者を考える。
(……管理者が黒幕なのか?)
その問いが、ふと頭に浮かび上がる。
しかし次の瞬間、俺は自分の心の中で首を横に振っていた。
(……いや、しっくりこない)
直感だが、管理者は違う気がする。
もし本当にリオを主人公に仕立て上げたいなら、もっと盤面を操作するはずだ。
だが実際にあったのは、ただ“情報を外に伝えて欲しい”という依頼だけ……。
そこからは、英雄を作ろうという意思など感じられない。
(……それに、リオの人物評にも合わない)
俺は何度か、彼と直接話し、行動を見てきた。
その中で確信したのは――あいつは自分の頭で考える男だということだ。
周囲に流されず、状況を冷静に見極め、自分なりの答えを出す。
(……管理者……)
(結局のところ……俺が疑っているのは、管理者の意図じゃない)
本当に疑っているのは――この世界そのものの「流れ」だ。
まるでリオを中心に物事が収束し、形作られていくような……そんな得体の知れない動き。
(英雄、救世主……その先に待つのは、“主人公”という名の牢獄だ)
その称号は、必ず過酷な道を呼び寄せる。
(もし俺のこの予感が当たっているなら……リオはこれから、笑える日がどれほどあるだろうか)
(俺は……友として、王として、どう振る舞うべきだ)
彼の背負うものを軽くすることはできるのか。それとも、ただ傍で見守るしかないのか。
(リオ……お前は本当に、自分が何に足を踏み入れたか分かっているのか?)
俺は強く、深く息を吐き出した。
(……いや、分かっていない方がいいのかもしれん)
知れば迷う。迷えば歩みが鈍る。それが逆に彼を危険にさらすかもしれない。
(ならばせめて、俺が……)
その先の言葉を、胸の奥に飲み込む。
窓の外を吹き抜ける風が、静かにカーテンを揺らした。
アンナさんが気づいたのは余りにも出来過ぎてることですね。
リオが英雄として進み続ける状況が整いすぎています、英雄以外の道を選べない程に。