天才冒険者リオの英雄譚 童貞・処女しか入れないダンジョンを攻略せよ!   作:ナオ3

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ヒロイン(幼女)との邂逅です。


14話 童貞VS全裸幽霊幼女

――おらあ!

 

そんな愛らしいのに耳に突き刺さる声が聞こえた次の瞬間、俺の顔面に小さな足が突き刺さった。

 

 

「へぶぅ!?」

 

 

我ながら情けない悲鳴をあげて、俺はベッドから吹き飛び、床を二回転。背中を強打して息が詰まる。

 

 

(い、今……俺、なにされた?)

 

 

視界の端には、生まれたままの姿で何もかも見せながら立つ幼女。

堂々とした足幅、そしてあらゆる羞恥を超越した開放感。

我に隠すもの無し!って言葉が聞こえてきそう。

 

混乱で頭が真っ白になる中、背後から――

コンコン、と扉を叩く音。

 

 

(やべぇ……!)

 

 

嫌な汗が一気に吹き出す。

状況を説明しよう。

俺は今、ベッドから離れて床に転がっている。

すぐ横には全裸で、おっぴろげている幼女。

言い訳など通用しない。

 

その時、扉が開き、鎧の擦れる音と共に騎士二人が飛び込んできた。

 

 

(……終わった……俺の人生、ここで幕だ……)

 

 

脳裏に、仲間たちの顔が浮かぶ。

走馬灯、ってこういう時に回るもんなんだな。

 

 

(ゼイン、ミリアを幸せにしろよ……)

(ミリア、子供を沢山産んじまえ……)

(ガルド、本当に頼もしかった……)

(レイナ、すまん世話かけたな……)

 

 

冒険の思い出が鮮やかに蘇る。笑い合った日も、泣いた日も、命を懸けた戦いも。全部が、今まさに俺の背中を押してあの世へ送り出そうとしている――

 

 

「リオ殿!」

「大丈夫ですか!?」

 

 

……ん?

 

彼らの視線は俺の方だけに注がれている。

横に立つ全裸の幼女には、目もくれない。いや、というか視界に入っていない。

 

 

(そうか、見えてないのか!?)

 

 

瞬時に理解する。どうやらこの子は俺にしか見えない存在らしい。危機は……去った。多分。いや、去ったことにしよう。

 

心臓がまだバクバクしているが、ここで変なことを言えば終わりだ。俺は必死に呼吸を整え、情けない笑みを作った。

 

 

「あ、いや……ちょっと、転んじゃいまして……」

 

 

我ながら子供の言い訳レベルだが、騎士たちは安堵の表情を浮かべた。

 

「そうでしたか……驚かせて申し訳ありません」

 

「体が治っていないのに無茶をなさってはいけません。国を救ってくださった英雄なのですから、何かあれば遠慮なく我々を頼ってください」

 

 

……やめろ、その真っ直ぐな目で俺を見るな。

俺のすぐ横には全裸おっぴろげ幼女がいるんだぞ。罪悪感で心臓が痛い。

 

 

「……はい、ありがとうございます」

 

 

なんとか顔色を変えずに答えると、騎士たちは満足げに頷き、部屋を出て行った。

扉が閉まる音と共に、俺は盛大にため息をつく。

 

 

「お前なぁ……」

 

 

横を見ると、幼女はまだ堂々と立ったまま俺を見ていた。

表情は得意満面、言葉にすれば「どうだ!」と言わんばかり。

……なんだこの状況。命より精神が削られるぞ。

胸の奥に、騎士たちの優しさと立派さに対する後ろめたさがずっしり残る。

英雄だなんて呼ばれたが、現実はこれだ。

俺は天井を見上げ、静かに心の中で呟いた。

 

 

(……ゼイン、ミリア、ガルド、レイナ……俺、まだ死ねねぇわ)

 

 

そうだ、死んでたまるか。

この訳の分からん全裸幼女の正体を突き止めるまでは――。

 

 

深呼吸する

 

――とりあえず、落ち着け俺。

 

さっきから訳の分からん展開に振り回されっぱなしだ。全裸ドロップキック幼女事件から数分。

騎士たちが出て行って、部屋に残ったのは俺と、この謎の存在だけ。

 

改めて、俺は幼女を見た。いや、観察した。

 

……性別は間違いなく女だな。

美しい金髪と宝石の様な碧の瞳。

顔立ちは極めて整っている。将来はとんでもない美人になると、ほぼ確信できるレベルだ。目鼻立ちの配置が完璧すぎる。

 

だが――俺は大きく溜息を吐いた。

 

 

……いくらなんでも、幼女じゃ興奮できねぇ

 

 

心の声のつもりだったが、どうやらこの幼女、俺の内心を読めるらしい。

 

次の瞬間――

 

 

「おらあああ!」

 

 

二度目のドロップキック。

しかし今回は違う。俺は腰をひねり、腕を伸ばしてその小さな足を掴み取る。

 

 

「……甘いな」

 

 

そのまま体勢を崩しかけた幼女を、落ちないように抱きかかえる。軽い。羽毛布団でももう少し重いだろってくらいだ。

 

 

「そんな大技、2度も通じると思うなよ」

 

 

得意げにドヤ顔をキメる俺。

……いや、俺なにやってんだろ。

 

しかし抱きかかえられた幼女は、目を丸くして固まっていた。

――なんだその反応?

 

だが次の瞬間、その小さな拳が俺の胸に飛んできた。

 

 

「ぬおっ!?」

 

 

たかが幼女のパンチだ。普通なら、猫パンチと同じく可愛いもんだと高を括っていた。

……痛い。いや、結構痛いぞコレ。

 

拳が当たる瞬間の角度、腰の捻り、そして上半身の連動――全部が無駄なく使われている。しかも小さい分、動きが速い。

 

 

「お、お前……」

 

 

もう一発、同じ所に打ち込まれる。今度は俺も受け止める構えでいたのに、衝撃で腕が僅かに動いた。

 

 

(こいつ……ただの幼子じゃない)

 

 

見た目は子供、鍛錬の跡もない。

でも動きは正確だ。筋肉の使い方が常人じゃない。鍛えて得るものじゃない――これは、生まれつき備わったものだ。

 

才能。しかも桁外れの。

 

 

(隔絶した武才……)

 

 

俺は戦士としての直感でそう断じた。

 

この幼女、少し成長したら俺でも敵わないかもしれない。

……いや、それ以前に俺、なぜこんな全裸武才幼女と格闘してるんだ?

 

状況の意味不明さに再び頭を抱えながらも、俺は彼女を腕の中に抱きとめたまま、妙な汗をかいていた。

 

この小さな手が、いつか誰かを救うのか――

それとも、ぶちのめすのか――

 

今はまだ、分からない。

 

ただ一つ確かなのは……

 

 

「痛ぇんだよ、お前のパンチ!!!」

 

 

幼女はドヤ顔を返してきた。

その顔がまた、将来を保証された美形で腹立たしい。

 

……やっぱり、普通じゃねぇなコイツ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幼女との死闘後

 

――終わった。

 

いや、別に勝敗を決したわけじゃない。

けれど、今は一時休戦だ。

 

俺と幼女は、互いに数歩離れた位置で座り込んでいた。

額から汗が垂れる。背中もじっとりと湿っている。

……思った以上に体力を持っていかれたな。

 

向こうも同じらしい。

頬に汗の粒をつけて、胸を上下させながら――なぜか楽しそうに笑っている。

 

そして、その笑顔のまま……ドヤ顔。

いや、なんだその「やってやった感」全開の表情は。

小さいくせにやけに自信満々だな、おい。

 

……ちょっとムカつく。

 

だが、不思議なことに――

胸の奥に巣食っていた陰鬱な気持ちは、いつの間にかどこかへ吹き飛んでいた。

どうしても考えずにいられなかった王国の現状とか、これからの戦いとか、そんなものが全部霧散してしまったような感覚だ。

 

 

「……俺に用があるのか?」

 

 

少し間を置いて返ってきた言葉は――

 

 

「……みたかった……あなたを」

 

 

その声は震えていなかった。

ただ、真っ直ぐで、迷いがなかった。

 

 

「俺を、見たかった?」

 

「……うん」

 

「おしゃべりしようとか思わなかった?」

 

 

問いかけると、彼女は小さく頭を縦に振った。

 

 

(……やはり、か)

 

 

最初に騎士たちが入ってきた時を思い出す。

あの時、この幼女は完全に彼らの視界から外れていた。

真横に立ってたのに――全く気づかれていなかった。

 

 

(騎士たちはこいつの事が見えてなかった……)

 

 

普通じゃない。

何らかの理由で、存在自体が他人に感知されない……そういう性質を持っていると考えるべきだろう。

 

 

(そして――俺が見えたことは、完全に予想外だったわけだ)

 

 

だから最初、驚いたような顔をしたんだ。

なるほど……そういうことか。

 

彼女の正体は依然として謎だ。

俺は、軽く笑ってしまっていた。

 

……マジでどうしよう?

 

俺は額に手を当てながら、静かに天を仰いだ。

全裸の、しかも幽霊のような幼女。

あらゆる経験を持ってしても、こんな存在の“取り扱い”は未知数だ。

 

 

(マニュアルが無い……取説もねぇ)

 

 

誰かに相談? いや、無理だ。

第一、こいつは騎士たちにも見えてなかった。

つまり俺が口に出した瞬間、「頭の可哀想な英雄様」扱いされる未来しか見えねぇ。

 

……手探りでやっていくしかねぇな。

そう、俺は決意した。

腹を括らなきゃ始まらない。

 

 

「えーと……名前は?」

 

 

俺は出来る限り自然な声で尋ねた。

こんなことを聞く時こそ、変に深刻にならないほうがいい。

 

だが幼女は、ほんの一瞬目を伏せ――悲しそうにぽつりと答えた。

 

 

「……ない」

 

(あんぎゃあああああ!!!?)

 

 

俺は心の中で絶叫した。

 

 

(いきなり一歩目からアウトおおお!? )

 

 

だが、動揺をおくびにも出さないのが大人のたしなみだ。

表情はあくまで平静を装って――

 

 

「そうか」

 

 

短く返し、少し間を置いてから続けた。

俺はリカバリーの天才だ!

 

 

「とりあえず、不便だから名前をつけるぞ?」

 

 

俺の声に、幼女は目を瞬かせた。

警戒というよりは、どうしていいかわからない――そんな表情だ。

 

 

(よし、ここで失敗するわけにはいかない)

 

 

ヒント、何かヒントを!

俺は周囲を見回した。

何か、きっかけになるものはないか。

 

机。

椅子。

花瓶。

カーテン。

ベッド。

 

――どれも、名前の由来にするには冴えない。

 

 

(なんか、なんかねぇのか……!)

 

 

そんな風に視線を彷徨わせたあと、ふと彼女のほうに向き直る。

 

……そこで、俺は言葉を失った。

 

窓から差し込む月明かり。

その柔らかな光に照らされた彼女は、まるで輪郭が淡く揺れているように見えた。

髪も肌も、光に溶けるように儚い。

 

 

(……寂しい気持ちになるな)

 

 

いつ消えてもおかしくない。

そんなあやふやな存在感。

 

けれど、不思議と――目を離したくなかった。

 

その時、俺の中でひとつの言葉が直感的に浮かんだ。

考えるよりも先に、口が動いていた。

 

 

「……ルミナ」

 

 

光を意味する名前。

迷子の女の子が、いつか自分の光を見つけられるように――そんな祈りを込めて。

幼女は小さく口を開け、俺の顔をじっと見た。

 

 

「……ルミナ……」

 

 

どう、だ?

 

その一言は、まるで確かめるようだった。

だが、それきりじゃなかった。

 

 

「ルミナ……ルミナ……ルミナ……」

 

 

まるで宝物を抱きしめるみたいに、何度も何度も、その名を繰り返した。

声が小さくなることも、大きくなることもなく、ただ淡々と――でも嬉しそうに。

俺は、なんだかこそばゆくなって、頭をかいた。

 

 

(……そんなに気に入ったのか)

 

 

名前なんてただの符号だ、と昔は思ってた。

けれど今、俺の目の前で「ルミナ」と名乗る小さな存在を見て――

それがただの符号じゃないって、少しだけわかった気がした。

 

 

――さて、どうするか。

 

 

「それじゃあ、ルミナって呼ぶぞ?」

 

 

俺は真正面から――ルミナを見た。

頷く、ルミナ。

内心、拳を握りしめてガッツポーズな俺。

 

 

「俺以外に、お前を見ることが出来る奴、居るか?」

 

 

ルミナはほんの一瞬考えるように首をかしげ、それから小さく首を横に振った。

 

 

「そっか」

(ですよねー!)

 

 

即答の内心ツッコミ。

だってそうだろう、もしも他に認識できるやつがいたら、わざわざ全裸で俺と接触させるわけがない。

そんな大惨事の予感しかしないシチュエーション、普通は避けるだろう。

 

俺は額に手を当て、静かに頭を抱えた。

 

 

「……いい加減、服着せねえと」

 

 

全裸の幼女と、18歳の健康な男子が部屋で向かい合っている――その絵面のやばさたるや、万が一にも誰かに見られたら社会的に死ぬ。いや、社会どころか王国の歴史書に名前が残るレベルで死ぬ。

 

 

(ああ、やばい……この状況、やばすぎる)

 

 

だがここで問題がひとつ。

 

 

「ルミナに着せられそうなのは……」

 

 

俺は部屋を見渡す。

が――ベッド、机、椅子、棚、カーテン、洗面器、そして俺の私物。

 

 

「……幼女の服なんてあるわけないって……」

 

 

当然だ。

俺は嘆息しながら毛布を巻き付ける事を考えたが、全裸に毛布って事後みたいだ。

 

 

(どうする……どうする俺……)

「……ああもう、なんかワンピースみたいなもんは無いか!?」

 

 

思わず声が出た。

その瞬間――頭の中で、真っ白な布地のワンピースを着たルミナの姿が、自然と浮かんだ。

小さな肩、膝までの丈、風になびく柔らかなスカート――

 

……と、その時だ。

 

ルミナが、ふわりと光り出した。

 

 

「……え?」

 

 

ルミナが不思議そうな声をあげる。

目を瞬かせる俺の前で、その光が形を取り――気づけば、そこには白いワンピース姿のルミナが立っていた。

 

 

「……ルミナ?」

 

 

ルミナ自身も何が何だかわからないようで、スカートの裾をつまみ、くるりと回って自分の服を確かめている。

 

 

「……俺が想像した服が出た?」

 

 

自分の脳みそが生み出した仮説に、俺は半信半疑だった。

だが、試す価値はある。

 

 

(よし……別の服も試してみるか)

 

 

女らしい服と言えば……ミリアだな。

そう思った瞬間――脳裏に、あの時の悪夢がよみがえった。

強烈すぎる視覚的衝撃。

全ての布面積を敵に回したような衣装。

――そう、ドスケベバニーのミリア。

 

 

(……あっ)

 

 

思ってしまったが最後。

次の瞬間、ルミナの服が――黒光りするボディスーツ、網タイツ、耳、尻尾という、完全なるドスケベバニーへと変貌していた。

 

 

「うおおおおおおおおい!?!?」

 

 

俺は心臓を鷲掴みにされたような衝撃で飛び退いた。

そして同時に、脳裏に浮かぶひとつの単語――

 

 

(社会的死)

 

 

全裸の幼女でもアウトなのに、幼女ドスケベバニーとか……もはや俺の人生は終わるどころか、未来永劫の地獄行き確定じゃないか。

 

 

「待て、キャンセル! クーリングオフ!!」

 

 

必死に頭を振り、あわてて白いワンピースを思い浮かべる。

するとルミナの服は再びふわりと光に包まれ、元のワンピース姿に戻った。

 

 

「ふ、ふぅ……」

 

 

心臓の鼓動がやかましい。

俺は額の汗をぬぐい、何事もなかったかのように立ち直る。

 

 

「……さっきのふく……なに?」

 

 

ルミナがきょとんとした顔で尋ねてきた。

その無垢な瞳を見て、俺は真顔で答える。

 

 

「大人の服だよ。まだ早い」

 

 

ルミナは首を傾げながらも、なぜか「ふーん」と納得したように見えた。

 

 

(……二度と想像すまい)

 

 

俺は固く心に誓った。

 

――にしても、ワンピース姿のルミナは、さっきまでよりもずっと普通の子供に見える。

……いや、普通の幽霊子供に、か。

 

 

「……よし、とりあえず見た目の危険度は下がったな」

 

 

俺は小声でつぶやき、ひとまず安堵の息を吐いた。

 

 

やっと本題に入れる。

 

 

俺はルミナをまっすぐ見て、口を開いた。

 

 

「それで、ルミナ……お前はどうしたい?」

 

 

誰も認識できない。

騎士たちの反応でそれは確信した。

なら、このままじゃ、この子はどうやって存在していくんだ?

それを考えると、胸の奥がざわつく。

 

ルミナは俺の問いに、すぐには答えなかった。

小さな手を胸の前で握りしめ、視線を落としたまま。

唇はわずかに動きかけて、結局何も言葉を紡がない。

 

その沈黙を見た瞬間、俺の中で何かが決まった。

 

 

(あー……駄目だこりゃ)

 

 

わかってしまった。

たったこれだけの時間なのに、俺はもうこの子に情を抱いちまっている。

なんだよ、ほんの数時間前まで、俺の人生に「全裸幽霊幼女」なんて単語、存在すらしてなかったのに。

 

溜息をひとつ吐いて、俺は言った。

 

 

「……俺の傍に居てもいいぞ」

 

 

その瞬間、ルミナが顔を上げた。

大きな瞳が、ぱっと開かれる。

 

 

「……いいの」

 

 

か細い声。

驚きと、ほんの少しの期待が混じったような響きだった。

 

 

「いいよ」

 

 

言いながら、自分でも苦笑する。

もしここで放り出したら――今後、まともに寝られる気がしない。

寂しそうな顔が、夢にまで出てきそうだ。

 

 

「好きなだけ居ればいい」

 

 

俺は続ける。

それはただの慰めじゃない。

この子に、ちゃんと帰る場所を与えたいと思ったからだ。

 

 

「お前の帰る場所は……用意してやるから」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、ルミナの目が潤んだ。

こぼれそうな涙を必死にこらえているのがわかる。

でも、次の瞬間――ぽろりと、小さな雫が頬を伝った。

 

 

ああ、もう……。

 

 

――ルミナが、小さな手を頬に当てた。

そして、その指先をじっと見つめる。

 

 

「……なに、これ?」

 

 

不思議そうな声。

その声色に、俺は思わず眉をひそめる。

 

 

「……泣いたこともないのか?」

 

 

呟いた瞬間、胸の奥がずしんと重くなった。

まさか、ここまで「生きていない」ような存在だったとは。

 

俺はルミナの正面にしゃがみ込み、その手をそっと下ろさせる。

 

 

「それは、涙だ」

 

「……これが、なみだ?」

 

 

まだ、疑問符のままの声。

何故か知識だけはあるのだろう。

けど――経験がない。

 

 

「ああ、そうだ」

 

 

俺は穏やかに続けた。

 

 

「人はな、嬉しい時や悲しい時に涙を流すんだ」

 

 

自分で言って、なんだか照れくさくなり、後頭部をぽりぽり掻いた。

 

 

「今回は……まあ、嬉しい涙だろうな」

 

 

ルミナは小さく瞬きをして、何も言わずに俺を見ていた。

その瞳の奥に、揺れる感情があるのはわかるのに、言葉にはならない。

 

 

「……泣いちまえ」

 

 

少しぶっきらぼうに言ってしまった。

けど、それは俺なりの背中の押し方だ。

 

ルミナは俺の顔を、じっと見る。

 

 

「誰もが、最初は泣くんだ」

 

 

視線を逸らさずに言葉を重ねる。

この子の瞳に、しっかり届けるように。

 

 

「お前は今、初めてこの世に産まれたんだよ」

 

 

ほんの一瞬、ルミナの肩がぴくりと揺れた。

 

 

「だから、泣いていい」

 

 

その言葉が届いたのか、ルミナの喉からしゃくり声が漏れた。

 

 

「遠慮すんな」

 

 

俺は笑って、けれど声は真剣に続ける。

 

 

「口を開けて、大声で泣き叫べ!」

 

 

そして、はっきりと言った。

 

 

「俺が全部受け止めてやる」

 

 

ルミナの瞳が、大きく開かれる。

次の瞬間――

 

 

「……っう……あああああああああああああっ!!」

 

 

小さな体の肺を振り絞るような泣き声が、部屋いっぱいに響いた。

しゃくり、叫び、涙が頬を伝って次々と零れ落ちていく。

 

その声は、扉の外で警護している騎士たちには届かない。

きっと、彼らにはこの存在が感知できないからだ。

 

でも――俺には聞こえる。

はっきりと、この子の産声が。

 

泣きじゃくる声を聞きながら、俺は何も言わず、ただその小さな肩を抱いてやった。

温もりはある。

震えもある。

そして、生きている証が、今ここにある。

 

 

俺は、笑顔を見せた。

 

 

「誕生日おめでとう、ルミナ」

 

 

その一言に、ルミナはきょとんとした顔をしたが、すぐに微笑み返してきた。

まだ涙でぐしゃぐしゃの顔なのに、その笑顔はやけに綺麗で、胸の奥があたたかくなる。

 

 

(これで……この子は、ちゃんとこの世界に産まれた)

 

 

俺はそう確信し、静かにルミナの頭を撫で続けた。

 

 

 




管理者と言う異常な存在と邂逅した経験があるにせよ適応能力が極めて高いですリオは。
本命は落とせないのに幼女は落とす男。


部屋は防音がしっかりしてると思ってください。
激しく動くとわかりますが。

騎士A「なんか激しく動いてる音がするが・・・」
騎士B「英雄殿のアレはどれだけ過酷なんだ!?」


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