天才冒険者リオの英雄譚 童貞・処女しか入れないダンジョンを攻略せよ! 作:ナオ3
(俺じゃこの二人を出し抜く事は出来ない)
レオンとアンナ。
初めて会った時から、その事実は痛感していた。
(武力もそうだが……アンナ・オーリン)
彼女の剣の腕は俺なんかが測れる領域じゃない。
それ以上に厄介なのは、その知性だ。
僅かな仕草、視線の動きだけで周囲を読み取り、先を見据えて行動する……そんな気配がある。
もし敵に回したら、策を弄したところで一歩も動かせず、気づいたら詰まされているだろう。
(レオン・オーリンはわかりやすい人柄だが……武力という点で無理だ)
柔らかな物腰。
人懐こさすら漂う笑み。
だがその奥にあるのは鋼と烈火だ。
ひとたび剣を抜けば、山のように揺るがない存在になる。
(俺では戦いにすらならない)
剣を交える光景を想像する。
ほんの一太刀で終わる。
そんな結末しか浮かばない。
だからこそ――
(この二人を味方につける)
敵になれば即、終わり。
逆に味方にできれば、それだけで抑止力になる。
ルミナを狙う存在があったとしても、この二人が傍にいるとわかれば、そう簡単には手を出せない。
(そうでなくても、心理的に躊躇わせる)
(ルミナに危害を加える事を躊躇わせる。それしか、無い)
俺は方針を決めた。
――やるしかない。
「アンナさん」
声を掛けると、アンナは小首を傾げる。
その碧眼が、真っ直ぐに俺を射抜いてきた。
冷静さと鋭さを併せ持つ眼差しに、一瞬だけ胸がざわつく。
「ルミナと遊んで貰えませんか?」
「えっ?」
思わず零れた戸惑いの声。
その隣でルミナもきょとんとした顔を俺に向ける。
「……リオ?」
小さな声。不安げな響き。
その声音に、俺の胸が痛んだ。
俺はルミナの頭を優しく撫でる。
柔らかな髪の感触が指先をかすめる。
そのわずかな温もりが、俺の決意を試すように震えを走らせた。
「知らない人と話をするのは緊張するかもしれないけど」
できるだけ柔らかい声音を心掛ける。
ルミナを安心させるために。
同時に、アンナに「信じて託す」姿勢を見せるために。
「友達を増やそう。きっと楽しいぞ」
少し無理をして笑ってみせた。
内心は張り詰めた綱渡りだ。
だが、こういう時こそ表情でごまかさなくてはならない。
俺はアンナに視線を向け直し、深く頭を下げる。
「アンナさん、ルミナをお願いしても良いですか」
一瞬、彼女の瞳が揺れた。
理知的な光が陰を潜め、柔らかな色に変わる。
「え、ええ」
戸惑いを隠しきれない様子。
だがその声には、確かに喜びが滲んでいた。
(……変わったな)
さっきまで鋭さと冷静さに満ちていた瞳が、今は素顔を覗かせている。
感情に突き動かされる、等身大の人間の顔だ。
騎士としての鎧を脱いだ時、彼女はこんなにも柔らかくなるのか――そう思うと意外で、不思議な温かさを覚えた。
だが疑問は後回しだ。
今は流れを掴むことが先決。
この一手で、俺はルミナを守るための布石を打ったのだから。
「レオンさん」
視線を移す。
金髪の青年は、静かに微笑みながらも目は真剣に俺を見ていた。
「俺と外で話をしませんか?」
一拍の間。
やがてレオンは頷いた。
「……うん、僕もリオ殿と話がしたいと思っていたんだ」
その声音に嘘はない。
一切の濁りがない真摯さに、内心で安堵する。
「良かった」
ほっと笑みを浮かべて、部屋の奥にいる二人へ声を掛けた。
「エドワールさん、ヴァリウスさん、席を外します」
エドワールは頷き、穏やかに答える。
「ああ、話をするなら中庭を使うといい」
その顔には、僅かに影が差していた。
だが深くは問わない。
ヴァリウスはレオンに視線を向ける。
その瞳には、鋭い光が宿っていた。
「レオン、わかっているな?」
低く、念を押すように。
レオンは無言で頷いた。
その頷きが、何を意味するのか。
答えを知るのは、まだ先だ。
俺は振り返り、ルミナに視線を落とす。
「俺もレオンさんとお話ししてくるから、アンナさんと仲良くな」
「……うん」
小さく頷いたルミナ。
どこか元気のない声に、胸が痛んだ。
俺はその頭にそっと手を置き、撫でる。
「行ってくる」
出来るだけ優しい声で言ってやった。
ルミナの瞳が、少しだけ潤んだ気がした。
中庭に向かう途中、俺はひたすらにレオンさんを観察していた。
いや、観察せざるを得なかった。
(立つだけで実力の一端が見えてくる)
(歩いてるだけで敵わないとわかる)
何気ない所作一つ一つが洗練されている。
力を誇示するわけでもなく、ただ自然体でそこに在るだけで「強者」としての威圧感を放つ。
歩幅、背筋の伸び、呼吸の安定――その全てが無駄なく研ぎ澄まされていた。
ここまで実力差があると、もう笑えてくる。
(剣では絶対に敵わない)
(なら、心で攻めるしかない)
目的はただ一つ。
ルミナに手を出させないこと。
戦って勝てないなら、別の方法を使うしかない。
情でも友情でも、信頼でもいい。
とにかく「ためらい」を植え付ける。
もし彼が剣を振るう瞬間、ほんの一刹那でも躊躇わせることができるなら――それだけでいい。
中庭に到着する。
白い石畳が広がり、鮮やかな花々が整然と咲き誇っている。
庭師の手が行き届いているのだろう。王城にふさわしい美しさだ。
だが、そんな景色は今の俺にとってどうでもよかった。
周囲に人影はない。
ここから先は――俺とレオンさんだけだ。
「すみません、突然」
レオンさんは苦笑して答えた。
「気にしないで下さい。僕も望んだことです」
一切の裏がない。
本心でそう言っているのが伝わってくる。
(……やっぱり、この人は本物だ)
だからこそ、辛い。
こんな人物を情で縛り付けるなど、俺のやろうとしていることは打算そのものだ。
だが――
(だが、ルミナの未来を望むなら)
(どれだけ辛くてもやれ)
俺は自分に言い聞かせる。
悪行を成すのはルミナの為じゃない。
俺自身の為だ、と。
ルミナの為とは言わない。
その言葉を口にしたら、俺が俺でなくなる気がした。
だから――これは俺自身の戦いだ。
「俺が話したい事は」
心を落ち着け、真正面から口を開いた。
「ルミナについてです」
その瞬間だった。
レオンさんの穏やかな表情が一転する。
無表情。
鋭い目。
まるで首筋に冷たい剣を添えられたような錯覚を覚える。
(やはり)
(エドワールさん……いや、陛下から何か密命を受けているのか)
思考が加速する。
エドワールは善良だ。
俺はそう信じている。
だが同時に、王国の為なら非情な決断を下せる人間だと思う。
(あの人とは個人的に信頼できる)
(だが、エドワールさんは王だ、手放しに信じるわけにはいかない)
考え過ぎかもしれない。
杞憂で済むなら、それでいい。
だが僅かでもルミナに害が及ぶ可能性があるなら――
やれ。
俺はそう覚悟を決める。
(そうだ、俺は今から目の前の男の心を――斬り裂くんだ)
その決意と共に、静かに息を吐いた。
「……随分と真剣な顔をしますね」
言葉が自然と口を突いて出た。
俺自身の声が、わずかに乾いていたのを自覚する。
レオンさんの瞳に映るのは、紛れもなく俺――だが、その奥底には別の何かを見据えているようでもあった。
彼の心は、遠く別の場所を守ろうとしている。
(ここまで顕著な反応をするとは、予想外だ)
正直なところ、ルミナの名を口にした時に、わずかでも反応が見られれば御の字だと思っていた。
眉が僅かに動く程度でも十分だ、と。
だが――目の前の男は違った。
これはまるで――愛するものを危機から守る男の目。
レオンさんは深く頷き、静かに言った。
「はい。……僕にとって、大切な人の未来が掛かっていますので」
その声は力強く、曖昧さが一切ない。
まるで誓いを口にするかのような、確固たる響き。
「……アンナさんですか?」
気づけばそう尋ねていた。
レオンさんは小さく笑みを浮かべる。だがそれは苦笑に近い。
「それもあります」
たった一言。けれど、その答えに含まれる意味は重すぎた。
(彼女だけではない、か……)
胸の内にざらつくものが広がる。
つまり――ルミナの存在が、レオンさんにとっての「大切な人」に累を及ぼす可能性がある、ということか。
もしそうなら、ルミナはただの「子供」ではない。
俺は息を整え、正面から問いかけた。
「ルミナは……王国にとって、それだけ重要な存在、なのですか?」
問いかけた瞬間、中庭に漂う空気が凍り付いた。
だがレオンさんは沈黙を選んだ。
その眼差しは鋭く、だが答える意志は欠片もない。
俺を睨んでいるわけではない。
ただ、言葉を封じている。
(……話す気は、無さそうだな)
やはり。
予想はしていた。
あの二人を護衛につけるほどだ。
それだけで「特別」なのは明らかだった。
簡単に真実を口にできるような代物じゃない。
(そりゃそうだ)
(俺に打ち明ける理由なんて、今のところ無い)
なら、俺にできることは一つしかない。
――ルミナに、とことん感情移入させること。
たとえ彼女が王国にとってどれほどの存在であろうと、俺にとってはただの少女だ。
笑って、泣いて、甘える……子供だ。
俺は胸の奥に浮かぶ笑顔を思い出す。
(俺は……ルミナがどれだけ特別な存在だろうが、どうでもいい)
ただ一つ――
(あの娘の笑顔が失われる未来だけは、絶対に許せない)
それが、俺の答えだ。
それが、俺の戦いだ。
だからこそ、目の前の男に向き直る。
中庭に吹く風が、ふと止まったように感じた。
静寂の中、俺は言葉を紡ぐ準備を整える。
――これ以上、この男をただの護衛として見るつもりはない。
俺は、ルミナの未来を賭けて、この男と向き合う。
そして、この会話の先で、何があろうと引くつもりはない。
レオンの蒼い瞳を、俺は真っ直ぐに見返した。
互いの視線がぶつかり合い、目に見えない火花が散る。
(ここで目を逸らしたら……心で負ける)
そう自分に言い聞かせ、俺は一歩も退かない覚悟を込めた。
「レオンさん」
低く、だが揺らぎのない声で呼びかける。
その瞬間、レオンの眼差しはさらに鋭さを増した。
「はい」
一切の感情を押し殺した声。
だが、その奥底には何かを警戒する硬質な光がある。
「ルミナの事情を知っていますか?」
この問いに、レオンはほんの僅かに息を詰めた。
そして、短く、重く頷く。
「……陛下から、聞いています」
苦しげに眉を寄せ、表情を歪める。
まるでその内容を思い出すこと自体が負担であるかのように。
(やはり……そこまで衝撃的な話だったということか)
俺は小さく息を吐いた。
逃げも隠れもしないつもりで、次の言葉を紡ぐ。
「なら、話は早いですね」
この時、レオンの目が一瞬だけ細まった。
こちらの出方を探るように。
「ルミナは、出会ってから……一週間も経っていません」
自分でも信じられない短さだ。
それでも、あの小さな手を離す気は微塵もない。
苦笑しながら、自分の中の矛盾を口にする。
「あの娘の正体とか……全然わかっていないんです」
その言葉に、レオンの視線がさらに鋭くなる。
「……それなのに傍に居ることを許しているのですか?」
虚偽を一切許さない剣のような視線。
そして、その視線は一歩も退かず、俺の胸の奥まで切り込んでくる。
「どう考えても怪しいでしょう」
その声は追い打ちをかける。
俺の心を容赦なく抉り、揺さぶり続けた。
「そんな得体の知れない存在は、普通は拒絶しますよ」
胸がさらに深く抉られる。
たしかにそうだ。
レオンの言葉は理屈の上でも、現実の上でも正しい。
そして――最後の一撃が突きつけられる。
「貴方は……あの少女を、どんな目的があって手懐けているのですか?」
容赦のない詰問。
間髪入れずに放たれる言葉は、まるで剣戟の応酬のように鋭い。
俺は息を呑む。
彼の言葉は正しい。
ルミナは確かに正体不明で、俺は彼女についてほとんど知らない。
普通なら拒絶すべきだ。
それでも、俺は彼女を手放せない。
――だからこそ、苦しい。
心の奥底で「何も言い返せない」と認めざるを得なかった。
頭では反論できても、胸の内では彼の言葉が真実として響いてしまう。
だが、俺は……意外にも心が静まっていくのを感じていた。
(そうだ。レオンさんの言ってることは正しい)
普通なら、正体のわからない存在を傍に置くのはありえない。
何を企んでいるかも、何を背負っているかもわからない者を守ろうなど……理屈で考えれば、危険すぎる。
(だが……俺は)
「……あの娘は、迷子だったんだ」
そう、迷子。
それはありふれた言葉だが、俺が見たルミナは確かにそうだった。
レオンは何も言わない。
だが、その沈黙は「続きを話せ」と促しているようでもあった。
「帰る所がわからないんじゃない」
「……そもそも、何処にも居場所が無かったんだ」
俺の声が、自分でも驚くほど低く静かに響いた。
レオンの表情が、わずかに動く。
痛みをこらえるように、奥歯を噛み締める顔。
(やはり……レオンさんは優しいな)
鋼のような強さを持ちながらも、他者の孤独や悲しみに対して無関心ではいられない。
その優しさを、俺は見抜いた。
(……俺は、今からその優しさにつけ込む)
罪悪感が胸の奥で疼く。
だが、それでも構わない。
ルミナの未来を守るためなら、どれだけ卑怯な手でも使う。
俺は視線を逸らさず、心の奥底にある熱をそのままぶつける準備を整えた。
この一歩が、彼との関係を決定づける――そう感じながら。
(まずはルミナの境遇を伝えて、同情させる)
冷静に言葉を選び、相手の心に入り込む――
そう己に言い聞かせながら、俺は息を吸った。
「ルミナは」
最初の一言は、自分でも驚くほど低く、重かった。
畳み掛けるように、声が自然と強くなる。
「温もりを知らなかった」
その言葉を口にした瞬間、胸の奥に針を刺したような痛みが走った。
温もり――当たり前に感じてきたものを、あの娘は知らずに生きてきた。
それを思うだけで、喉が詰まりそうになる。
レオンの眉がわずかに動いた。
硬い表情のまま、それでも彼の心がかすかに揺れたのを、俺は見逃さなかった。
反応を確認する間もなく、次の言葉が口を突く。
「誰かと言葉を交わしたことが、無かった」
吐き出すように、切り裂くように告げる。
その一言一言が、まるで俺自身の胸を刺していくようだった。
ルミナがどれほど孤独で、どれほど凍り付いた世界に閉じ込められていたのか――想像するだけで心が締め付けられる。
レオンの眼差しが鋭く揺れる。
彼は黙っている。だが、その瞳の奥には、抑えきれない衝撃と痛みが浮かんでいた。
「……あの娘は、名前が無かった」
最後の一言を落とした瞬間、世界から音が消えた。
沈黙が広がる。中庭の風が木々を揺らす音すら、遠くに霞んでいく。
自分の声だけが、確かな重みとなって空間に残っていた。
重苦しい空気が、胸を押し潰す。
(ああ、そうだ)
俺は心の中で呟く。
(可哀想だろ、レオン)
彼女の境遇を知れば、誰だって胸を痛めるはずだ。
剣を掲げる騎士であっても、人としての心を持つならば――
(同情したくなるよな?)
俺はレオンの瞳を正面から見据える。
その奥にある心の揺らぎを探り、少しでもルミナに対する敵意を和らげるために。
だが同時に、胸の奥で小さな自己嫌悪が疼いていた。
彼女の苦しみを「説得の材料」として口にしている自分に、痛みを覚える。
けれど――それでもやらねばならなかった。
胸の奥で冷静に計算している自分と、沸き立つ感情を抑えられない自分がせめぎ合う。
「なあ、レオン」
自分の声が震えているのが、はっきりわかった。
強く在ろうと、冷静であろうと心が叫びを抑えられない。
予想外に、熱が目頭に込み上げてきて、涙が滲み視界が揺れた。
「……あの娘は……」
喉が詰まる。
これ以上声を出すのが苦しいほどに胸が痛んだ。
計算も、理屈も、相手を説得するための冷徹な思考も――全部吹き飛んでいく。
今、口をついて出るのはただの本心。
「なにも与えられずに……世界に放り出されたんだよ……!」
絞り出すように叫んだ瞬間、胸の奥から溢れる熱が涙に変わって頬を伝った。
あの娘の孤独を思い出すだけで、心臓が掴み潰されるように痛む。
誰からも名を呼ばれず、誰の手も差し伸べられず、孤独な少女――。
その現実を思えば思うほど、怒りと悲しみと悔しさがないまぜになって、自分でも抑えられない感情が噴き出してくる。
拳を強く握りしめる。
爪が掌に食い込んで痛い。だが、その痛みでさえルミナの境遇に比べれば取るに足らない。
(どうしてだ……)
(どうしてあの娘が、そんな目に遭わなきゃならなかった……!)
レオンを説得するための言葉ではなくなっていた。
ただ、心の底からの叫びが溢れ出しただけだった。
打算ありきで話しているはずなのに、勝手に言葉が溢れてくる。
まるで胸の奥に溜め込んでいた何かが、堰を切ったように。
レオンは痛みを堪える顔をしていた。
その顔を見て、さらに胸の奥が熱くなる。
「そんな娘を放り出せと?」
言葉が刃のように鋭くなる。
怒りに震える声は、鋼を打ち合わせたように響いた。
「……出来るわけ、ねぇだろ!!!!!」
声が爆ぜる。
理屈も、作戦も、すべて消え失せていた。
胸の奥に溜め込んでいた激情が、堰を切ったように迸る。
「あんな……」
喉が焼けつく。
呼吸さえ重くなり、肺が悲鳴を上げる。
「あんな顔をした子供を……」
脳裏に浮かぶのは、あの日のルミナの顔だった。
涙の意味すら知らないまま世界にひとりぼっちな少女の姿。
その姿が、焼き付いて離れない。
「ひとりぼっちのままにしておくなんて……」
全身が震える。
悔しさ、怒り、どうしようもない感情が混ざり合い、血が煮えたぎるように熱い。
「許せねぇ」
低く、地を這うような声。
その声音は、静かな殺気にも似ていた。
「許せるわけが、ねぇ……!」
涙が頬を伝う。
だが拭おうとはしなかった。
それは弱さではない。むしろ、決意の証のように感じられたからだ。
「何が正しくて、間違ってるなんか……知るかよ!」
叫びながら、自分でも理解していた。
これは理屈ではない。道理ではない。
ただの我儘だ。
だが――それでいい。
「俺は、ルミナに」
胸の奥から、言葉を搾り出す。
その瞬間、全身の血が心臓に集まるような感覚があった。
「この世界に……産まれてきて……」
声が震える。
視界は涙で滲んでいるのに、不思議とレオンの姿だけは鮮明だった。
まるで、この瞬間だけが世界のすべてになったかのように。
「良かったと……思って欲しいんだ!!!!!」
魂ごと叩きつけるように叫ぶ。
胸の奥のすべてを燃やし尽くして、ただその思いを吐き出す。
俺は、涙を流しながらレオンを睨みつける。
拳を握りしめ、爪が掌に食い込む痛みすら気づかない。
その瞳には、一切の迷いも揺らぎもなかった。
中庭に、静寂が落ちる。
風の音だけが、二人の間を吹き抜けていった。
まるで世界が、この一瞬を見守っているかのように――。
どちらも大切な人が懸かっているため過剰反応しています。