天才冒険者リオの英雄譚 童貞・処女しか入れないダンジョンを攻略せよ!   作:ナオ3

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ダンジョン攻略記なのにダンジョンアタックどころか戦闘すら殆どない・・・タイトル変えるべきかな?


21話 童貞VS竜殺しの後継者? ROUND1

俺とレオンは、城の奥にある騎士団専用の訓練場に足を踏み入れていた。

 

中庭で交わした言葉が、まだ胸の奥に残響のように響いている。

 

短い沈黙の後、彼は口を開いた。

 

 

「リオ殿……いえ、リオ」

 

「僕と、剣を交わしてください」

 

 

それは願いであり、挑戦であり、あるいは証明でもあった。

 

 

(……来ると思った)

 

 

内心で小さく息を吐く。

俺たちは剣士だ、剣を交わす以上にわかりあう手段は無い。

 

 

 

「……ああ」

 

 

声は不思議と穏やかだった。

迷いはもうなかった。

 

言葉は十分に吐き出した。

ならば次は、行動で示す。

 

――訓練場に入った瞬間、その場に居合わせた騎士たちが一斉に姿勢を正した。

 

 

「すまないが、この場を借りたい」

 

 

レオンが静かに告げただけで、ざわつきは消えた。

数秒の沈黙の後、全員が無言で頷き、整然と動き出す。

そして――誰ひとり逆らうことなく、その場を後にした。

 

 

(……良かった)

 

 

思わず胸の内で安堵する。

同時に、嫌でも理解する。

 

 

(やっぱり、レオンは特別なんだな)

 

 

ただの騎士なら、理由を確認くらいはするだろう。

だがこの場では誰もそれをしなかった。

レオンが一言「借りる」と言えば、それが絶対の命令になる。

 

 

(こんなのが何人も居たら、俺、泣くぞ……)

 

 

心の中で軽口を叩く。

だが、それは誤魔化しだ。

彼が騎士の中でどれほど特別な存在か――今、目の前で思い知らされている。

 

少なくとも、その影響力は騎士団長に匹敵する。

 

去り際、騎士たちはちらりと俺を見た。

心配そうに、だがそれ以上に、畏敬を込めた眼差しで。

 

 

「死ぬなよ」

 

「負けてもいい、折れるな」

 

「今度一緒に酒を飲もうぜ」

 

「尊敬する、マジで」

 

「リオ殿……ご武運を!」

 

 

次々にエールが飛んできた。

一瞬、何が起こっているのか理解できなかった。

 

 

(まるで戦場に出るみたいだなおい!?)

 

 

心の中で全力でツッコむ。

だが、その言葉を口に出すことはなかった。

声を張り上げる代わりに、拳を握る。

彼らの言葉が、確かに背中を押しているのを感じていた。

 

 

「こちらに」

 

 

レオンの声が響く。

 

中に足を踏み入れると、そこはまるで武器の宝庫だった。

整然と並ぶ剣、槍、斧。

全て刃は潰されているが、見事な品揃えだ。

どれも一級品であることが、一目で分かる。

 

 

(……これが、騎士団か)

 

 

思わず唸る。

冒険者としてそれなりに場数は踏んできたが、これほど整った武具庫は見たことがない。

 

無数の武器の中から一本を選んだ。

奇をてらわない、オーソドックスなロングソード。

自分にとって最も馴染みのある武器だった。

 

レオンもまた、ロングソードを手に取った。

その瞬間――同じ剣のはずなのに、格が違って見えた。

ただ持って立つだけで、剣が輝きを増したように感じられる。

 

 

(……ここまで圧倒的だと、笑えてくるな)

 

 

苦笑する。

同じ剣を持っているのに、ここまで差が出る。

その現実に、焦燥ではなく、逆に可笑しさが込み上げてくる。

 

 

(そして俺は……そんな男と剣を交わす)

 

 

口元が歪む。

それは恐怖でも絶望でもなかった。

むしろ逆だ。

 

 

「最高だ……!」

 

 

心の底から言葉が漏れた。

 

もちろん、最優先はルミナを守ることだ。

そのために、レオンの心に食い込もうとしている。

だが、それでも――剣士としての血は騒ぐ。

 

英雄に因んだ名を背負い、誰もが敬う男と剣を交える。

それがどうしようもなく、嬉しかった。

 

 

(レオン……お前が俺の何を見たいのかは分からない)

 

 

実力差に気づかないはずがない。

この勝負がどれほど一方的になるか、レオン自身が一番分かっているはずだ。

 

 

(なら――全てを出してやる)

(俺の全てを、お前にぶつける!)

 

 

剣を握り直した。

その指先には迷いがない。

勝敗ではない。

示すのは――心だ。

 

 

 

 

 

訓練場の空気は、嵐の前の静けさのように張り詰めていった。

 

広場は、普段から騎士たちが稽古に使っている場だった。

石畳が広がり、周囲には観客席のような段差がある。だが今は人影はない。

静かで、広い。

二人の剣士が真っ向から向き合うには、これ以上ない舞台だった。

 

俺は手にしたロングソードを振るった。

空を切る音が乾いた広場に響く。

 

 

(体調は万全だ)

 

 

剣を握る手に力を込めながら、心の中で呟いた。

あの薬の効果だ。

マテリアルを使って調合された特製の回復薬。

体の隅々まで血が巡り、軋んでいた筋肉が嘘のように軽い。

 

 

(……本当に怖いくらい効果的だな)

 

 

苦笑する。

便利すぎて、逆に不気味だ。

だが今は考えない。

目の前の男と向き合うために、この万全の状態をありがたく享受する。

 

剣を何度か振り、重さと長さに体を馴染ませていく。

肩の力を抜き、腰の回転に刃を乗せる。

数度繰り返すうちに、感覚は自分のものになった。

 

 

(……よし)

 

 

振り終えて、深く息を吐いた。

それからゆっくりとレオンに向き直る。

 

 

「すみません、お待たせしました」

 

 

言葉に嘘はなかった。

剣を構えるのに、ようやく心も体も整った。

 

レオンは静かに首を振る。

 

 

「いいのですか?」

 

 

その声音は柔らかい。

だが、瞳は真剣だった。

 

 

「ええ。これなら……全力を出せそうです」

 

 

俺は答える。

するとレオンは一瞬、柔らかく微笑んだ。

まるで旧知の友を労わるかのような、優しい笑み。

しかしその笑みは一瞬で消え去り、代わりに鋭い光が宿る。

 

 

「良かった」

 

 

低く、確信を帯びた声。

そして彼は表情を引き締めた。

一切の無駄を削ぎ落とした、戦う者の顔。

 

 

(……やっぱりな)

 

 

この人は、やはり強い。

剣を抜く前から、否応なく理解させられる。

 

 

「では――そちらから」

 

 

促すように、レオンが一歩だけ重心を落とした。

それはわずかな動きだったが、風景が変わったように感じる。

空気が震え、肌に冷たい圧が乗る。

 

俺は剣を強く握った。

 

 

「……ありがたく」

 

 

短く礼を言うと、呼吸を整える。

胸の奥にある余計な雑念を吐き出す。

視界が狭まり、音が遠ざかる。

ただ、目の前の男だけが世界の中心になる。

 

 

(……入ったな)

 

 

ゾーン。

感覚が極限まで研ぎ澄まされるあの状態。

以前は偶然に頼りだったが、業魔との死闘を経てからは、もう自由に入れるようになっていた。

 

視界の端まで鮮明に見える。

レオンのわずかな息遣いすら、耳に届く。

石畳に立つ自分の足の裏が、やけに重く、確かに感じられる。

 

だが――

 

 

(……隙が、ない)

 

 

いくら集中しても、目の前の男からは一切の隙が見えなかった。

いや、むしろゾーンに入ったことで余計に分かってしまった。

彼との実力差が、どれほど絶望的かを。

 

 

(……参ったな)

 

 

心の中で乾いた笑いが漏れる。

研ぎ澄ませば研ぎ澄ますほど、相手が遠ざかっていく。

俺が剣を振るう未来より、斬られる未来の方が容易に想像できる。

 

だが――

 

 

「……さて」

 

 

息を吐き、心を決めた。

 

 

(行くか)

 

 

臆するな。

勝ち負けじゃない。

俺の全てを、この男にぶつける。

それこそが、今の俺にできる唯一の証明だ。

 

剣を構える。

視界の全てが、一点に収束していく。

広場に吹く風の音が遠ざかり、世界から音が消える。

 

広場に沈黙が落ちる。

空気が重い。

自分の呼吸の音さえ、やけに大きく聞こえた。

 

俺は両手で剣を握り、静かに振りかぶる。

柄を通じて伝わる冷たさが、掌に食い込む。

 

 

(行くぞ)

 

 

ゾーンに入った意識は、余計な雑念を排除する。

頭の中は白く澄みきり、残るのはただ一つ――斬るという意志。

 

 

――ただ前だけを見据えて踏み出した。

 

 

「――ッ!」

 

 

大きく踏み込んだ。

石畳を蹴り、地面が砕ける。

体全体の力を一点に集め、渾身の一撃を叩き込む。

 

今までで最高の踏み込み。

最高の加速。

最高の剣筋。

 

全てを削ぎ落とした、ただ一つの直線。

全身が悲鳴を上げるほどの力を込め、振り下ろす。

 

だが――

 

 

「……!」

 

 

金属が噛み合う乾いた音が鳴り響いた。

レオンの剣が、そこにあった。

 

しかも――片手。

 

右手一本だけで俺の全力を受け止めている。

 

 

(な……!?)

 

 

だが驚きはそれだけではなかった。

刃から伝わる衝撃が、思ったよりも軽い。

いや、軽すぎる。

 

俺の全力を込めた斬撃なら、腕を痺れさせ、骨まで響くはずだ。

それなのに、返ってくる反動は柔らかい。

まるで深い水に剣を突き立てたような、奇妙な感覚。

 

 

(どういう……?)

 

 

視線を下げる。

そして理解した。

 

レオンの足元。

石畳に、蜘蛛の巣のような細い亀裂が走っている。

 

 

(衝撃を……地面に逃がしたのか!)

 

 

腕力だけじゃない。

剣に伝わる力を、足へ、地へ、無駄なく流し込む技巧。

常人なら気づきもしない境地。

 

俺は歯を食いしばる。

そして迷わず、次の一撃を繰り出した。

 

 

「はぁッ!」

 

 

刃を返し、横薙ぎ。

腰を深く捻り、速度を乗せる。

鋭い風切り音が広場を裂く。

 

レオンは動かない。

ただ剣を滑らかに傾け、俺の斬撃を受け流す。

受け止めた瞬間、またも足元の石畳が小さく軋む。

 

 

(……本気か!?)

 

 

全力の斬撃を受けても、一歩も退かない。

汗一つかかず、呼吸さえ乱れない。

 

 

「ぐぅッ……!」

 

 

さらに踏み込み、斬撃を畳み掛ける。

上段から、下段から、横一文字。

突き、払い、返し。

思いつく限りの技を重ねていく。

 

石畳を削り、風を裂き、空気が震える。

刃と刃が火花を散らし、何度も激突する。

その度に金属音が轟き、衝撃が腕を痺れさせる。

 

だが――

 

レオンは動かない。

 

ほんの半歩すら退かず、全てを正面で受け止める。

まるで山に立ち向かっているような気分だった。

切り立った断崖に必死で斬りかかっているのに、岩肌は欠けもしない。

 

 

「……くっ!」

 

 

焦燥を押し込め、さらに速度を上げる。

呼吸を荒げ、筋肉を酷使して、限界を踏み越える。

踏み込みの度に石畳が割れ、足裏に痛みが走る。

 

だが――届かない。

 

全てを受け止められた。

全てを見切られた。

 

レオンの剣筋は静かで、淀みがない。

無駄な力を込めず、流れるように。

呼吸も、瞳の光も、揺るぎひとつ見せなかった。

 

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

 

ようやく俺は距離を取った。

剣を下げ、肩で大きく息をする。

喉が焼けつくほどに乾き、全身が鉛のように重い。

 

 

(……やはりか)

 

 

確信した。

 

レオンも俺と同じ――いや、それ以上にゾーンへ入っている。

この境地に慣れきっている。

深く、自由に、自在に。

 

 

(俺なんかより、ずっとだ……)

 

 

自嘲が漏れる。

ゾーンに入れたことを、俺は誇りに思っていた。

だがこの男の前では、その誇りは薄氷のように脆い。

 

 

(入れない方がおかしい、か……)

 

 

苦笑が浮かぶ。

あれだけの強さを持つ男が、この領域に踏み込めないわけがない。

俺が特別なんじゃない。

この男が、それだけの存在なんだ。

 

胸の奥に、熱と悔しさが渦巻いた。

それでも――笑ってしまう。

 

 

(……上等)

 

 

絶望的な実力差。

それでも俺は剣を握る。

この場に立っていることが、何よりも誇らしかった。

 

 

俺は肩で息をしながら、荒い呼吸を必死に整えていた。

肺が焼ける。全身が軋む。

だが、まだ終わりじゃない。

 

俺が息を整えたのを見届けると、レオンは静かに口を開いた。

 

 

「……次は僕の番です」

 

 

その声音に、不思議なほど揺らぎはなかった。

緊張も、昂ぶりも、何もない。

ただ、淡々とした宣告。

 

 

(来るか……!)

 

 

俺は即座に覚悟を決めた。

深く息を吐き、再びゾーンへと踏み込む。

頭の中が白く澄み渡り、余計な音も消えていく。

目の前にあるのは――剣を振るう男ただ一人。

 

 

「来い」

 

 

挑発でも強がりでもなく、純然たる覚悟の言葉だった。

 

レオンが、微笑んだ。

次の瞬間――

 

 

(……は?)

 

 

視界から、消えた。

 

気づけば、目の前にいた。

距離なんて存在しなかったかのように、瞬時に詰めてくる。

片手で剣を振りかぶりながら。

 

 

「防いでください」

 

 

その声は落ち着き払っていた。

まるで軽い稽古を持ちかけるかのように。

 

だが、違う。

この一撃は――遊びではない。

 

俺の全身が警鐘を鳴らした。

無意識に体が動く。

「受け止めたら折れる」

理屈ではない。直感がそう叫んでいた。

 

踏ん張るのを捨てた。

剣を合わせる瞬間、全力で衝撃を逃す。

わざと体を吹き飛ばされるように、力を殺す。

 

 

――轟音。

 

 

「ぐっ……!!」

 

 

体が宙を舞う。

重い衝撃が腹から背へと突き抜け、肺から空気が一気に押し出された。

景色が流れ、壁が迫る。

 

背中に焼けるような痛みが走った。

石造りの壁に叩きつけられ、俺の体はようやく止まる。

 

 

「……っは、はぁっ……!」

 

 

荒い呼吸。

背中が熱を持ち、骨が悲鳴を上げる。

だが――生きてる。

剣も折れていない。

 

 

(……助かった)

 

 

受け流した判断が正しかった。

正面から受けていれば、剣は折れ、腕は砕けていた。

レオンは片手だ。

それなのに、この威力。

 

俺は呆然と、そして……笑いそうになった。

 

 

(……これで手加減、だと?)

 

 

レオンからすれば、今のは「大分抑えた」一撃なのだろう。

なのにこの有り様。

まるで化け物だ。

 

けれど――理解できた。

 

この男はただの天才ではない。

生まれながらの才覚だけで、この強さに至ったのではない。

剣に宿る重みが、それを物語っていた。

 

数えきれぬ修羅場を潜り抜けた者の剣。

幾度も死に直面し、血と泥を啜り、命を削り続けた者の斬撃。

その全てが一振りに刻み込まれている。

 

若さと不釣り合いなほどの歴戦の風格。

どうすれば、どう生きれば、この年でそこまでに至れるのか。

理解が追いつかない。

 

 

(……いや、考えるだけ無駄か)

 

 

疑問を抱く余裕などない。

まずは、自分の体を確かめる。

 

――剣は無事だ。

腕の骨に響いたが、罅は入っていない。

筋肉は悲鳴をあげているが、まだ動ける。

背中は激痛だが、命に関わるものではない。

頭は割れそうだが、我慢できる。

 

 

(……問題は、心だ)

 

 

心が折れそうになる。

 

 

俺は今まで、幾度も死線を越えてきた。

業魔との戦いだってそうだ。

絶望的な状況であっても、勝機を信じて剣を振るった。

 

だが――今は違う。

 

戦いにすら、ならない。

人として、剣士として、格が違いすぎる。

勝てないとはわかっていたが、ここまで差があるなんて。

同じ舞台に立っていることすら、傲慢に思える。

 

 

(……絶対に越えられない壁)

 

 

もしそんなものがあるとしたら――目の前の男こそがそれだ。

 

 

(……だけど)

 

 

脳裏に浮かんだのは、ルミナの顔だった。

あの子を守ると決めた。

だから、ここで折れるわけにはいかない。

 

 

「……はぁ……はぁ……」

 

 

痛む体を無理やり押し起こす。

壁を背に、震える足に力を込める。

まだ動ける。

まだ戦える。

 

なら、行ける。

 

 

「……っ」

 

 

立ち上がった俺を、レオンはじっと見つめていた。

表情は変わらない。

だがその瞳に、かすかな光が宿ったように見えた。

 

 

(――まだだ)

 

 

心は折れかけている。

だが、それで終わりじゃない。

俺には戦う理由がある。

守るべきものがある。

 

 

「おおお……!」

 

 

震える声を吐き出し、剣を構え直す。

まだ負けていない。

負けを認めるのは――立ち上がれなくなった時だ。

 

 




舐めプしているように見えますが、レオンはリオを一切侮っていません。
戦闘描写でこんなの不可能だろと思うでしょうが、この世界特有の技術があると思って下さい。

連休が終わったので更新頻度が落ちます。
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