天才冒険者リオの英雄譚 童貞・処女しか入れないダンジョンを攻略せよ!   作:ナオ3

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今度は問答戦です。


22話 童貞VS竜殺しの後継者? ROUND2

背中の痛みがまだ残っている。

肺は焼けつくように熱く、呼吸一つまともに出来ない。

それでも俺は立ち上がった。

膝が震えているのは、肉体の限界のせいか、それとも心の奥底で感じている恐怖のせいか――自分でも分からなかった。

 

 

「……素晴らしい」

 

 

レオンの声が、静かに響いた。

俺は反射的に顔を上げる。

その口から出てきた言葉を疑うように、呆然と。

 

 

「……は?」

 

 

思わず声が漏れる。

汗で視界が滲んでいるせいではない。

確かに、あの男は今――俺を褒めた。

 

 

「剣の腕もそうですが」

 

 

その瞳は曇りなく、まっすぐに俺を射抜いている。

軽く、社交辞令のように流す眼差しではなかった。

 

 

「優れた判断」

 

 

呼吸が浅くなる。

胸の奥がざわつく。

彼は本気で言っている。

どこまでも真剣に。

 

 

「何よりも――心が強い」

 

 

俺の内臓を握り潰すような、そんな言葉だった。

正面から浴びせられた称賛に、身体が固まる。

信じられない。

俺が?

この化け物みたいな強さを持つ男に?

 

 

「……冗談でしょう」

 

 

声が震える。

かろうじて口を開いたが、皮肉でもなく、怒鳴りでもなく――ただ困惑だけが混じった声だった。

 

 

「言い過ぎですよ」

 

 

俺は顔を背け、荒い息を整えながら、言葉を吐き出す。

 

 

「俺は貴方に……手も足も出せてない」

 

 

真実だ。

俺の全力は、あの人の片手一振りに吹き飛ばされた。

足掻いても、工夫しても、一歩も動かせなかった。

格が違う。

どう言い繕っても、それだけは否定出来ない。

 

 

「……貴方が敵になれば」

 

 

頭の中に浮かぶのは、いつもの小さな影。

無邪気に笑う少女。

俺が守ると決めた存在。

 

 

「ルミナを……守ることは出来ない」

 

 

言葉にした途端、胸が重く沈んだ。

心臓を圧し潰されるような痛みが走る。

どんな理屈を並べても、この現実だけは変えられない。

 

その男が、俺を称賛するなんて――滑稽だ。

 

俺は拳を握りしめた。

爪が掌に食い込む痛みだけが、かろうじて俺を現実に繋ぎ止めてくれる。

 

 

(違う……俺は強くなんかない)

 

 

膝が笑う。

肩が震える。

心臓が喉を叩き続ける。

 

 

(俺はただ……足掻いてるだけだ)

 

 

越えられない壁を前に、剣を握り、立ち上がり続けているだけ。

それを「心が強い」と言うなら――それはきっと、慰めに過ぎない。

 

俺は視線を地面に落としたまま、何も言えなくなった。

返す言葉が見つからない。

喉の奥で、言い訳と怒りと情けなさが絡み合い、重く沈んでいく。

 

レオンは俺を見ていた。

その瞳は決して冷たくはない。

むしろ――悲しみに満ちていた。

 

 

「……そうですね」

 

 

短く呟いた声は、鋼ではなく、柔らかな紙のように脆く揺れていた。

次の言葉を紡ぐたび、その重みが俺の胸を圧迫していく。

 

 

「力があっても、より大きな力に圧し潰される」

 

 

静かに、けれど確かに。

彼は己の内に刻まれた現実を吐き出していた。

 

 

「そして……力があっても、欲しいモノが手に入るとは限らない」

 

 

俺の喉が詰まる。

さっきまで剣を振るっていた男の声とは思えないほど、弱々しい。

その瞳が伏せられ、影を帯びるのを俺は見た。

 

 

(……レオンさん)

 

 

俺は言葉を失った。

この人は――強い。

ただ強いだけじゃない。

俺とは比べものにならない、頂に立つ存在だ。

 

そのレオンが。

「力があっても無力だ」と告げている。

 

 

「……貴方は」

 

 

絞り出すように言葉を口にした。

どうしても届かないと思った相手――絶望を与えた存在。

 

だが違う。

目の前のこの男は、絶望を与えるのではない。

己もまた絶望に呑まれ、抗ってきた人間なのだ。

 

剣の軌跡から伝わってきた重み。

圧倒的な壁のような力の裏に隠された、無数の痛みと傷跡。

 

 

(この人も……戦ってきたんだ)

 

 

幾度となく、勝てない敵に立ち向かい。

守れなかったものを胸に刻み。

それでも剣を捨てずに歩いてきた。

 

だからこそ、彼は強い。

だからこそ、彼の言葉は、こんなにも重い。

 

俺は俯いた。

目を合わせることが出来なかった。

もし見てしまえば、自分の弱さと、この男の傷が同時に突き刺さる。

耐えられる自信がなかった。

 

拳を握りしめる。

爪が皮膚を破りそうになる痛みが、かろうじて俺を現実につなぎ止めていた。

 

 

(俺は……どうする?)

 

 

目の前に立つこの男は、俺を簡単に殺すことが出来るだろう。

だが彼はそうしなかった。

ただ、真実を告げただけだ。

 

 

「力があっても……」

 

 

その言葉が耳に残り、離れない。

力ではどうにもならない。

 

けれど――俺はまだ立っている。

そして、彼も。

 

中庭に吹き抜ける風が、沈黙を切り裂く。

訓練場の石畳には俺の足跡と、砕けた破片が散らばっている。

全てが、この瞬間の証だ。

 

俺は唇を噛みしめ、胸の奥に芽生えた言葉を飲み込んだ。

それを吐き出せば、この男の痛みに踏み込むことになる。

まだ――その資格はない。

 

だからただ、呟くことしか出来なかった。

 

 

「……貴方は」

 

 

それ以上、言葉は続かなかった。

 

レオンは俯いたまま、静かに沈黙を守っていた。

その姿は、強者の背中ではなく――苦しみを抱えた一人の人間に見えた。

 

俺の胸の奥で、重く鈍い痛みが響き続けていた。

 

 

「リオ」

 

 

不意に名前を呼ばれ、俺は顔を上げた。

俯いていたレオンが、こちらに視線を向けていた。

その瞳には、先ほどまでの悲しげな影ではなく、何か強い意志が宿っていた。

 

 

「はい」

 

 

思わず背筋が伸びる。

この男に呼ばれると、それだけで身構えてしまう。

 

 

「……僕には恩人が居ます」

 

 

静かな声だった。

だが、その一言には、彼の人生そのものが凝縮されているかのような重みがあった。

その声音に触れた瞬間、胸の奥にずしりとしたものが落ちる。

これは軽い思い出話ではない。生死を分けた、魂に刻まれた言葉だ。

 

俺は黙って耳を傾けた。

 

 

「失われる未来を、失った過去を取り戻してくれた」

 

 

淡々とした語り口。

だがそこには、確信があった。揺るがぬものがあった。

彼にとって、それは絶対に覆すことのできない真実なのだろう。

 

 

「運命に見放された僕とアンナを救ってくれたのです」

 

 

アンナ――その名が出た瞬間、俺は息を呑んだ。

理知的で、優しく、それでいてどこか脆さを抱えた女性。

彼女の存在を思い浮かべた途端、レオンの言葉の意味がより鮮明に突き刺さる。

彼は妻と共に、何か大きな絶望を背負ってきたのだ。

そして、その絶望を救った存在が確かにいた。

 

 

「それが……貴方が守りたい人なのか?」

 

 

気付けば、言葉が口を突いていた。

問いを投げる俺の声は、想像以上にかすれていた。

それほどまでに、彼の語る「恩人」という響きに胸を打たれたのだ。

この男にとって「恩人」とは、命を救ってくれた者以上の意味を持っているのだと。

 

計り知れない重み。

 

失われる未来を、失った過去を取り戻してくれた。

それは、誰にでも果たせることではない。

たった一人の存在が、彼とアンナにとって、どれほど大きな意味を持っているのか。

その比重は、俺が想像できる範疇を遥かに超えていた。

 

 

(……だからこそ、守りたいのか)

 

 

自分の命を懸けてもいいと思えるほどの存在。

誰に否定されようと譲れないほどの「大切な人」。

俺にとってのルミナと同じか、それ以上の重さを抱えているのだろう。

 

だから、彼は迷わず答えたのだ。

「恩人」と。

まるで、それだけで全てが説明できると言わんばかりに。

 

俺は言葉を失い、ただ彼の瞳を見つめた。

その眼差しに宿るものの深さに、どう返せばいいか分からなかった。

 

レオンは迷いなく頷いた。

その頷きは重く、揺るぎなかった。

まるで自らの全存在を肯定するかのように。

 

 

「……ルミナが、その人に害を、成すと?」

 

 

その問いを口にした時、自分の心が震えた。

信じたくない。そんなはずはないと、叫びたい。

だが、口から出た声は震えながらも、確かに相手に届いていた。

 

ルミナが――あの少女が。

俺の隣で笑い、泣き、時に怒り、時に甘えてくるあの娘が。

誰かにとって「脅威」となるのか。

 

心臓が強く脈打ち、喉が渇く。

頭では否定したいのに、レオンの真剣な眼差しが「事実」を告げているように思えた。

息を詰める俺を見据えながら、彼は口を開こうとしていた。

 

重い問い。

自分の口から出てしまった言葉に、内心で舌打ちした。

認めたくない。そんな未来など考えたくない。

だが――彼の真剣な眼差しに、否応なく現実を突き付けられる。

 

 

「その、可能性があります」

 

 

レオンの言葉は、刃物のように胸に突き刺さった。

彼はゆっくりと顔を上げる。

 

高い天井を仰ぎ見るその姿は、まるで見えない運命そのものを睨みつけているかのようだった。

静かなはずの訓練場が、その一言で急に冷たく感じられる。

空気が重く沈み、息が詰まりそうになる。

 

 

「ルミナという少女は、極めて特異な存在なのは僕にもわかります」

 

 

淡々と告げられたその声に、俺の背筋は冷たくなる。

彼は断じて、感情で物を言っているわけではない。

騎士として、王国を支える者として、冷徹な眼差しでルミナを見ている。

 

俺の脳裏に、ルミナの笑顔が浮かぶ。

積み木で遊びながら無邪気に笑った顔。

ケーキを口いっぱいに頬張って目を丸くした顔。

俺の袖を掴んで「一緒にいて」と訴える、不安げな顔。

 

 

(……そのルミナが、特異? 害を成す可能性……?)

 

 

理解したくなかった。

だがレオンの声には揺るぎがない。

まるで確信に裏打ちされた重さがあった。

 

彼が言うのなら、ただの噂話や杞憂では済まされない。

 

俺は唇を噛み、拳を強く握りしめる。

守りたいという思いが、胸の奥で強烈に膨れ上がった。

それでも、言葉にして返すにはあまりに衝撃が大きすぎた。

 

 

 

「……」

 

 

言葉が出ない。胸の奥に鉛を詰め込まれたみたいだ。

ただ黙って、レオンの次の言葉を待つしかなかった。

 

 

 

レオンの歯が鳴った。

ギリ、と強く食いしばる音。

 

 

「あの少女を知れば、多くの欲深き者を招く」

 

 

声が低く、怒りに震えている。

その拳がわずかに震え、白くなるほど強く握られているのが見えた。

 

 

「他者を傷つけ、奪うことに何の痛みも覚えない」

 

 

言葉の一つ一つが鋭く、俺の胸を突き刺す。

 

 

「獣にも劣る畜生共を……!」

 

 

憎悪。

そこに宿っていたのは、紛れもなく憎悪だった。

どうしようもない怒りと嫌悪。

 

 

(……見てきたんだ)

 

 

俺は直感する。

彼の憎しみはただの想像じゃない。

血と涙の果てに刻まれた実体験だ。

彼はきっと――守りたかったものを、奪われてきた。

 

だからこそ、彼は怒るのだ。

だからこそ、ルミナという存在が「引き金」になり得ることを恐れているのだ。

 

 

「リオ」

 

 

再び名前を呼ばれる。

俺は反射的に顔を上げた。

 

その瞳が、真っ直ぐ俺を射抜いた。

 

 

「貴方は――それでもルミナを傍に置こうと思うのですか?」

 

 

静かな問い。

だが、逃げ道はなかった。

真正面から突き付けられた刃のような問いだった。

 

心臓が跳ねる。

呼吸が浅くなる。

 

 

(……そうだよな)

 

 

分かっていたことだ。

誰かに、いつか必ず問われると思っていた。

 

そして今、ようやく真正面から問われたのだ。

 

――お前は、それでも彼女を傍に置くのか?

 

訓練場に呼吸だけが響いている。

 

俺は口を開けかけて、言葉を飲み込んだ。

軽々しく答えてはいけない。

これは、俺の覚悟そのものを試す問いだ。

 

拳を握りしめる。

唇を噛む。

 

胸の奥で、ひとつの問いが繰り返し響いていた。

 

――俺は、それでもルミナを傍に置こうと思うのか?

 

答えを出すのは、今しかない。

 

 

目を閉じる。

 

胸の奥で、ざわつくものがあった。

 

 

(……なぜ、俺はあの娘を傍に置こうとする?)

 

 

頭の中で問い返す。

 

思い返す。

あの夜。

幽霊のように現れた少女を拾った時、ただ目を逸らすことができなかった。

見て見ぬふりをすれば、胸の奥がざわついて、きっと眠れなくなる。

だから傍に置いた。

 

 

(正直、最初は寝覚めが悪くなると思った)

 

 

助けなければ後悔する。

放置すれば、一生まとわりつく悪夢になる。

ただそれだけだった。

 

だが――今は違う。

 

思い出す。

一緒に飯を食った時の、ぎこちないけど楽しそうな表情を。

俺にちょっかいをかけて、くすくす笑った声を。

 

 

(守りたいと思った。あの娘の未来を)

 

 

誰にも名前を呼ばれず、誰にも愛されず、ただ世界に置き去りにされてきた少女。

そんな人生を、俺は許せなかった。

 

 

(ひとりぼっちにさせたくないと思った)

 

 

ずっと孤独だったのだから、せめてこれからは違うように――と。

 

 

(幸せになって欲しいと願った)

 

 

飯を食って、遊んで、誰かと笑って。

そんな当たり前を、当たり前に享受できるように。

 

理由はいくらでも出てくる。

胸の奥に溢れるように、次々と。

 

けれど。

 

 

(違う……そうじゃない)

 

 

俺は自分の胸の内を深く探る。

彼女を守りたい、幸せにしたい――それは確かに本心だ。

だが、その奥に、もっと単純で、もっと素直な感情が眠っている。

 

 

(そういうことか)

 

 

俺は笑みを浮かべそうになった。

馬鹿らしいほどに、あっけない答えだった。

 

目を開く。

目の前に立つレオンの姿が映る。

真剣な眼差しで俺を射抜く、その強さと重さを正面から受け止める。

 

そして――胸を張った。

 

 

「俺は」

 

 

言葉を置くごとに、心臓が高鳴る。

 

 

「俺は、あの娘と一緒に居るのが楽しいんだ」

 

 

声が震えなかったのは奇跡だと思う。

胸の奥から、ただ真っ直ぐに放り出した言葉。

取り繕いも理屈もない。

ただ、それが真実だった。

 

頭の中に光景が溢れる。

 

彼女が初めて見せた笑顔。

遊んでいるときの無邪気な瞳。

互いにくだらない話で笑い合った時間。

 

 

(あの娘と一緒にいるのは楽しい)

 

 

それがすべてだった。

守りたい、幸せにしたい――その気持ちは確かにある。

だがそれすら、この「楽しい」という感情の上に積み重なっているに過ぎない。

 

 

「だから傍にいて欲しいと願った」

 

 

口にすると、不思議と胸が軽くなった。

俺はようやく、自分の本心に辿り着けたのだと実感する。

 

 

「共に歩んで行けたら……きっとワクワクすると思った」

 

 

俺は、ふっと息を吐いた。

 

胸の奥に渦巻いていた言葉は、思っていたよりもずっと単純で、肩透かしのようだった。

自分でも笑えてくる。

 

 

(……俺は、その程度の理由で、得体の知れない幽霊少女と一緒に居るのか)

 

 

呆れるように苦笑した。

もっと立派な理由を用意できれば格好がついたかもしれない。

「彼女のために世界を敵に回す」とか、「あの娘の幸福のために命を賭ける」とか。

そういう大義名分を並べた方が、騎士団の英雄に向けて語るにふさわしいのだろう。

 

だが、俺はそんな気取った言葉を吐けるほど器用な人間じゃない。

 

 

「遊んだり、飯食ったり、お喋りしたりさ」

 

 

口にしてみれば、驚くほど日常的で、他愛のないことばかりだった。

 

 

「たまに悪戯してきたりと」

 

 

脳裏に浮かぶのは、あの娘の小さな仕草。

俺の背後に忍び寄って、肩を突いてきたり。

真顔でとんでもないことを言って俺を慌てさせたり。

思い返すたびに、呆れるようでいて、心の底から笑えてしまう。

 

 

「ああ、短いけど過ごした日々は面白かった」

 

 

気づけば、自然と口元が緩んでいた。

一週間に満たない日々。

長い人生から見れば取るに足らない一瞬だろう。

それでも、俺にとっては確かに色濃く刻まれた時間だった。

 

 

「そんなもんだよ、俺の理由なんて」

 

 

肩を竦めて言う。

だが、言葉にした瞬間、それが揺るぎない真実だと心から実感した。

 

――それでいい。

俺は、ただ一緒に居たい。

ただ笑い合っていたい。

それが俺のすべてだ。

 

 

「そして」

 

 

呼吸を整え、瞳をまっすぐに据える。

今度は言葉に力を込める。

 

 

「それを奪おうとする奴が居るなら」

 

 

剣を握る掌に、自然と力が籠もった。

 

 

「戦うさ」

 

 

それは決意というより、当たり前の事実を口にしただけだった。

俺にとって彼女は特別だ。

だから、奪わせはしない。

脅かそうとするなら、相手が誰であれ立ち向かう。

 

沈黙が落ちた。

 

レオンは微動だにせず、ただ俺を見つめていた。

その眼差しに、圧力も敵意もない。

だが確かに重さがあった。

英雄と呼ばれる男の眼は、嘘も虚飾も見抜くように鋭い。

だが――俺の言葉に偽りがないことを悟ったのだろう。

 

 

「……」

 

 

やがて、レオンの瞳が柔らかく揺らいだ。

ほんの一瞬だけ、そこに影が差す。

それは哀しみか、それとも羨望か。

 

 

「……そうか」

 

 

その声は、風のように静かで、しかし確かに胸に響いた。

 

俺は息を呑んだ。

自分でも馬鹿げていると思う理由を、真顔で告げただけなのに。

 

けれど、レオンの眼差しは。

嘘はなく、侮蔑もなく。

ただ、羨望と憧れが混じった眼で俺を見ていた。

 

 

(……この人は)

 

 

思わず胸の奥がざわついた。

目の前にいるのは、騎士団が誇る若き英雄。

数えきれない修羅場を潜り抜け、多くの命を救ってきた男だ。

その彼が、今の俺の言葉を羨むように見ている。

 

それはあまりにも不思議で――同時に、重い現実を突きつけられる気がした。

 

けれど俺は、胸を張って立ち続けた。

俺は俺の言葉を、俺自身が信じている。

それだけで十分だ。

 

 




ありふれた幸せを守るために立ち上がれるのがリオです。
同時に投稿しているラブコメもよろしくお願いします!
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