天才冒険者リオの英雄譚 童貞・処女しか入れないダンジョンを攻略せよ!   作:ナオ3

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少し政治的な話が出ますが、パルシリア独自の話と思ってください。


レオネル 過去への想い

エドワールと別れ、外に出た。

胸の奥に燻るものを抱えたまま、重たい扉を押し開ける。

 

夜の空気が肌に触れた。

けれど、それは冷たさよりも痛みを伴って突き刺さる。

火照った心と体を冷ますには足りない。

 

剣を交わした直後の熱が、まだ体の奥に残っていた。

全身を駆け巡る血潮は落ち着かず、まるで戦いがまだ終わっていないかのように筋肉を震わせる。

 

心臓が鼓動を打つたびに、熱と痛みが同時に押し寄せる。

胸が焼け、頭が軋み、呼吸が整わない。

冷やしたいのに冷えない。

 

空を仰いだ。

漆黒の夜に浮かぶ月は、無情なまでに澄んでいた。

その光はあまりにも静かで、僕の荒れ狂う心とはあまりにかけ離れている。

 

 

(……どうすれば、鎮まる?)

 

 

拳を握る。

砕けた剣の感触がまだ残っていた。

リオの叫びが、剣に込められた願いが、何度も胸を抉るように蘇る。

 

僕は深く息を吐き出した。

けれど熱は収まらない。

むしろ吐息と共に、胸の奥の焦燥が広がっていくようだった。

 

その時、誰かの気配を感じた。

刃を交える前から知っている、慣れ親しんだ気配。

警戒よりも先に、懐かしさが胸に滲む。

 

振り返った僕の目の前に――巨躯の男が歩み寄ってきた。

 

大地を踏みしめるたびに響く、重厚な足音。

近づくごとに空気が揺れるような圧をまとい、影が覆いかぶさる。

 

眩しく光る頭。

まるで月光を反射するかのように輝き、夜の闇にひときわ異彩を放っていた。

 

騎士団副長――ガウェイン。

 

 

「……」

 

 

胸の奥に、自然と力が籠もる。

数え切れぬ戦場を共にした男。

無骨で、乱暴で、だが誰よりも誠実で、信じられる戦友。

 

彼がそこに立っているだけで、空気の重さが変わった。

その姿を目にして、言葉にならぬ感情が胸を突き上げた。

 

 

「よう、レオネル」

 

 

片手を挙げて笑うその顔は、気安さと同時に揺るぎない信頼を滲ませていた。

……だが僕は顔を合わせづらく、唇を噛んで呟いた。

 

 

「ガウェイン……」

 

 

名前を呼んだ瞬間、胸に重さが広がる。

彼は副長であり、長年の戦友。だが今は顔を合わせづらい。

 

 

「魔道具の映像で見ていたぜ。お前とあの坊主の戦いを」

 

 

低い声が夜気を揺らした。

映像……そうか、あの戦いは記録されていたのか。

汗が背を伝う。自分が煽り立て、全力で少年と剣を交えた姿を、彼も、そして騎士団も目にしていたのだ。

 

 

「そうか……」

 

 

情けない返答しか出てこなかった。

 

 

「ああ、大したもんだ」

 

 

ガウェインは腕を組み、ゆっくりと頷いた。

 

 

「教わったわけでもねぇのに闘術を使うなんてよ」

 

 

その声音に混じるのは驚きではない。

確信――経験を積んだ者にしか分からない重み。

 

 

「……わかるのか?」

 

 

思わず問い返していた。

ガウェインは鼻で笑った。

 

 

「わからないわけねぇだろ。あんな歪な技」

 

 

即答だった。

まるで当然のことを言うかのように。

 

胸がざわついた。

やはり、僕の目が間違っていたわけではない。

リオの剣筋――あれは確かに、正規の指導を受けた者ではない。

常道を踏み外し、独力で積み上げたがゆえの“歪み”。

だがその歪みが、常識ではあり得ない境地に彼を押し上げていたのだ。

 

 

(……やはり、そうなのか)

 

 

僕は拳を握りしめ、言葉を失った。

胸の奥で、恐怖と誇らしさがないまぜになって渦巻いていた。

僕は思わず目を伏せた。やはり、この男の目からもリオの異常な才は隠せなかったのだ。

ガウェインは無精ひげの顎を掻き、にやりと笑みを深めた。

 

 

「あの坊主は任せな。基礎を叩き込んでやるからよ」

 

 

その声は、頼もしさに満ちていた。

口は荒いが、彼ほど基礎を徹底的に叩き込める者はいない。

彼はまさに「礎」を教えるために存在しているような男だ。

 

 

(……ガウェインなら安心だ。基礎を教えることに関して、彼以上はいない)

「頼む」

 

 

思わず、言葉が短く洩れた。

信じられる相手に委ねられる安堵がそこにはあった。

 

 

「おうよ。お前とアンナにとって恩人なら、俺の恩人でもある」

 

 

即答だった。

その声音はぶっきらぼうで、だが一片の迷いもなかった。

彼にとっては、それで十分なのだ。

 

ありがたい。本当にありがたい。

胸に熱いものが込み上げる。

それでも――その奥に疼く感情は、感謝だけではなかった。

そんな僕の表情を見て、ガウェインは肩を竦めて苦笑した。

 

 

「レオネル、そんなすまなそうなツラすんなよ」

 

「……顔に出ていたか」

 

「出てたな」

 

 

短いやり取りの中に、長年の付き合いだからこその重みがあった。

僕が言葉を繕おうとした瞬間、ガウェインは先回りするように言い切った。

 

 

「しかし……」

「事情は騎士全員が知ってる」

 

 

その言葉に、心臓が跳ねた。

あの夜――エドワールから真実を聞かされた時の光景が、鮮明に脳裏に蘇る。

 

 

「……あんなこと聞かされて取り乱すなっていうほうが、情が無い」

 

「っ……」

 

 

ガウェインの言葉は重い。けれど、優しさがあった。

 

 

「俺たち騎士は闘術を修めれば老化が緩やかになる。傷の治りも早い、病気とも縁が薄くなる。……まあ、寿命も伸びるよな。戦死するやつが多いけど」

 

 

ガウェインは肩を竦めるように言った。

彼は一息置き、目を細めて付け加えた。

 

 

「だが、その代償として……子どもが出来にくくなる」

 

 

僕は言葉を失い、唇を固く結んだ。

胸の奥で痛みが走る。

 

そう――闘術の段階を進めていくほど、人は生物としての力を得ていく。

肉体は強靭になり、生命力はあらゆる病や怪我に抗う。

まるで神に近づくかのように強化されていく。

 

だが、その進化は同時に“人としての自然”を削ぎ落とすものでもあった。

繁殖力は確実に落ちる。

男女ともに子を成す力は薄れる、しかも段階を上げるほど可能性が低くなっていく。

 

 

「四段階まで至った騎士同士なら、奇跡と言っていい」

 

 

ガウェインの言葉が、胸に深く突き刺さった。

 

ああ……。

僕もアンナも、そのことは覚悟していた。

 

僕とアンナは、ともに四段階に至っていた。

極めて稀な存在――誇りであると同時に、重い宿命でもあった。

その代償として、子どもを授かる可能性は限りなく低くなる。

 

それでも、ゼロではない。

「いつか」――その言葉を胸に、僕たちは未来を思い描いていた。

 

いつか騎士を引退し、剣を置き、ただ夫婦として生きる時間を選べる時が来るだろう。

その時は闘術を使わず、肉体を静かに“普通”へと戻していけばいい。

焦らず、ゆっくりと。十年かけても、二十年かけても構わない。

 

子どもを授かれる可能性は、確かにあったのだ。

僕たちはそう信じていた。

 

 

――あの時までは。

 

 

「俺たち騎士にとっちゃ、子どもってのは特別だ」

 

 

ガウェインの声は低く、けれどそこには確かな温もりが宿っていた。

戦場を幾度も渡り歩いてきた男の声色とは思えないほど、静かで柔らかい響き。

 

子ども――。

 

闘術を修めた騎士にとって、それは奇跡に近い存在だ。

老化は緩やかになる。病や傷にも強くなる。寿命だって伸びる。

だがその代償として、子を授かることは極端に難しくなる。

 

だからこそ、授かった子どもは――命以上の重みを持つ。

騎士として戦場に立つよりも、ひとつの命を残せることの方が奇跡に近いのだ。

 

 

「特にお前らみたいに、深い愛で結ばれた夫婦ならよ……」

 

 

ガウェインの視線が、真っすぐに僕の胸を射抜く。

僕は言葉を返せず、拳を固く握りしめた。

 

アンナと僕。

互いを選び、互いを支え、幾度もの死線を共に乗り越えてきた。

そんな二人に授かった命は、どれほど尊いものだったか。

 

彼は苦々しく笑い、視線を外した。

 

 

「……邪竜との戦いの前、事前に診断した時にアンナが妊娠していることがわかっていた。

それを、先代国王陛下が隠蔽するように医者に指示したって、そりゃよぉ……理由はわかるけど、あんまりだろ?」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に黒い熱が蘇った。

心臓を鷲掴みにされるような感覚。怒りと絶望が同時に沸き上がり、視界が赤く染まるようだった。

 

アンナは四段階の騎士。彼女が抜けた時の影響が大きいことは理解できる。

戦線は薄くなり、誰かがその穴を埋めるために命を落としたかもしれない。

だが――それでも。

 

怒りは収まらなかった。

 

妊娠がわかっていれば、僕は絶対にアンナを戦場に出さなかった。

アンナも辛いだろうが、命を宿す重みを知っている。必ず待っていただろう。

 

そして仲間たちも。

もし子どもを宿していると知ったら――誰一人として戦場に送り出しはしない。

どんな命令があろうと阻止する。

それだけ「子ども」という存在は、僕たち騎士にとって重いものなのだ。

 

剣と血に生きる僕たちにとって、子どもは未来そのもの。

戦場に散る命を日々見届けてきたからこそ、未来へ繋がる命がどれほど尊いかを知っている。

 

アンナは――本来なら戦場に出ないはずだった。

あのとき、再起不能の怪我を負わずに済んだ。

彼女の体は傷つかず、未来を抱いたまま、穏やかな時間を過ごせた。

 

その代わりに、僕や仲間たちが被害を受けていたかもしれない。

もしかしたら命を落としていたかもしれない。

 

だが、それでいいのだ。

 

未来への希望がそこにあるなら、悔いはない。

戦友たちだってそうだ。

子どもという未来を守るためなら、誰もが奮起する。

 

僕だってそうだ。

もし戦友に子どもができたと聞いたなら、自分の命を懸けてでも守るだろう。

 

騎士とは――そういう生き物だ。

 

だからこそ。

 

――怒りは、消えない。

 

思い返す――世界が壊れるような、あの日のことを。

 

こことは別の訓練場に、僕とアンナは呼び出された。

不思議に思いながら足を踏み入れたその広間で、僕は言葉を失った。

 

何故か、完全武装の騎士たちが整列していたのだ。

ただの訓練場であるはずの場所が、戦場に変貌したかのような異様な空気。

普段は朗らかな声を上げる若者たちも、老練な熟練騎士も、皆一様に鎧に身を包み、無言で立ち尽くしていた。

 

その中心に立つのは――ガウェイン。

長年共に戦場を駆け抜けた副長。

豪胆で陽気な彼が、ここまで顔を強ばらせるなど、戦場ですら無かった。

 

 

「……何が起こっている?」

 

 

小さく漏らした僕の声に、隣で歩むアンナは微かに目を伏せた。

その顔には驚きはなかった。

彼女は、既に悟っていたのだろう。

この空気が何を意味しているのかを。

 

そして、広間の前方。

壇のように一段高い場所に立っていたのは――エドワールだった。

 

重い沈黙が広間を満たす。

何百という鎧の擦れる音が一瞬止み、ただ呼吸だけが響いていた。

 

エドワールは鋭い視線を僕とアンナに向け、やがて騎士たち全員を見渡した。

その表情は、苦悩に塗りつぶされていた。

普段は冷静沈着で、どんな困難にも毅然として立ち向かう彼が――今はまるで拷問を受けているかのように、顔を引きつらせていた。

 

そして、口を開いた。

 

 

「これから話すことは……」

 

 

その瞬間、世界は崩れ落ちた。

 

低い声で告げられた言葉は、世界を変えるものだった。

僕とアンナに、そして騎士団全員にとって。

 

……。

 

詳細は、今も霞がかかったように覚えていない。

いや、きっと頭は理解していた。

だが心が理解を拒んでいた。

 

ただ――エドワールの声だけが、延々と頭の中で反響していた。

心臓を握りつぶされるような痛み。

血の気が引き、視界が暗くなり、呼吸が詰まった。

 

騎士たちも同じだった。

広間を埋め尽くす彼らの顔は、悲痛に歪んでいた。

拳を震わせる者。

歯を食いしばり、唇から血を滲ませる者。

声を殺して泣いている者すらいた。

 

彼らは皆、理解していたのだ。

何が語られているのか、その意味を。

 

そして――ガウェイン。

彼は、長い付き合いの中でも見たことがないほど険しい顔をしていた。

鬼のような形相。

普段の豪胆さも、朗らかさもなく、ただ怒りと絶望を押し殺して立っていた。

 

隣に立つアンナを見る。

彼女の横顔は、蒼白に染まりながらも毅然としていた。

けれど、彼女の瞳の奥には深い影が揺れていた。

唇が小さく震えているのを、僕は見逃さなかった。

 

王国のためならば、どんな危険にも立ち向かう。

それが僕たち騎士だ。

命を賭してでも王国を守る覚悟は、誰もが持っている。

 

だが、騎士団には、不文律がある。

どれほど戦場に立ち、どれほど命を投げ出すことを強いられようとも――妊娠した女性騎士だけは絶対に戦場に出さない。

 

それは「王国」と「騎士」の間で交わされた聖約だった。

 

騎士は力と引き換えに、子を残すことが困難になる。

それは宿命であり、同時に避けようのない代償だった。

 

だからこそ、王国はそのわずかに残された可能性を――未来を――守らねばならない。

命を削り、魂を焦がして戦う騎士にとって、それは唯一の救済であり、決して汚してはならない聖域だった。

 

それはまた、始まりの騎士レオンハルトへの贖罪でもある。

王族が初代ジークフリードに対して犯した――語るのも憚られるほどの過ちを、二度と繰り返さないための誓い。

 

だが――それを、先代国王は踏みにじった。

 

過ちは、繰り返されてしまったのだ。

 

広間の空気は重く、息苦しく、まるで刃の上に立っているようだった。

誰一人声を荒げなかったのは、エドワールへの敬意ゆえだろう。

彼は苦しげに、だが正直に語った。

国を揺るがす不祥事であろうと、僕とアンナ、そして騎士たちに隠さず伝えてくれた。

 

その姿に、胸が締め付けられた。

語る彼自身がどれほど苦しいか――痛いほどわかった。

 

そして、最後に。

 

「ルミナ」という名が出た。

 

少女の姿。

けれど、その存在が死んだ胎児であり、オリジンによって形を得た存在であることが伝えられた。

 

僕は――もう何も考えられなかった。

 

ただ、耳に入ってくる言葉のひとつひとつが、脳裏に焼き付いて離れなかった。

意識の半分は遠のき、残りの半分はその場に縫いとめられたまま。

 

 

「みんな、同情してる」

 

「お前を責められる奴なんて騎士に居ねえよ」

 

 

ガウェインの言葉は慰めだった。

だが僕は……皆に拳を振るってしまった。

 

茫然自失の中でアンナの涙を見た。

その瞬間、理性は弾け飛んだ。

僕はアンナの未来だけでなく、子どもすら奪われていた。

子どもの死すら――奪われていたのだ。

 

人生の汚点になった瞬間を、僕は今でも鮮明に覚えている。

 

怒りに駆られ、思考が真っ赤に塗り潰されたあの日。

気がつけば、僕はルミナのもとへ駆け出そうとしていた。

 

 

「レオネルを止めろ!!!」

 

 

エドワールの声が、雷鳴のように響いた。

鋭い号令。迷いのない叫び。

だが、その時の僕の耳には雑音にしか聞こえなかった。

 

道を塞いだのは――仲間の騎士たちだった。

 

彼らは皆、僕と肩を並べて戦ってきた戦友たちだ。

背中を預け、命を預け、数え切れない死線を共に越えてきた者たち。

その仲間たちが剣を抜かず、必死の形相で両腕を広げ、僕の前に立った。

 

 

「……どけ」

 

 

その時の僕にあったのは、ただそれだけだった。

彼らの忠義も、信頼も、気遣いも、何ひとつ目に入らなかった。

ただ――邪魔だとしか思えなかった。

 

拳を振るった。

 

鎧にぶつかる硬い感触。骨が軋む衝撃。

呻き声が耳に届いても、僕は止まらなかった。

 

殴り飛ばした。

次の者も、その次の者も。

倒れ、苦悶する仲間を振り返る余裕すらなく、ただ道を開けるために拳を叩き込んだ。

 

剣を手に取らなかったのは――唯一の理性だったのかもしれない。

あの時、もし刃を握っていたら……考えるのも恐ろしい。

 

ガウェインが立ちふさがった。

 

 

「レオネル!! 目を覚ませ!!!」

 

 

豪腕を広げて、巨体を盾にして、何度も僕の前に立った。

だが、僕は振り下ろした。

拳を、全力で。

 

鈍い衝撃。

ガウェインの巨体が軋む音。

それでも彼は立ち上がり、また前に立った。

 

 

「まだだ、レオネル!!!」

 

 

その声に耳を貸す余裕はなかった。

再び殴り飛ばした。

 

何度も。何度も。

 

そのたびに、ガウェインは血を吐きながらも立ち上がり、また道を塞いだ。

僕の暴走を止めようとする彼の姿を、今思い出しても胸が裂ける。

 

あの時の僕は――人ではなかった。

 

仲間を殴り倒し、戦友を蹴散らし、鬼のように突き進むだけの存在だった。

 

後に思い返すたびに、胸を抉るのはただ一つ。

それは、仲間たちの目だ。

 

痛みに歪みながらも、彼らは怨嗟ではなく、必死に僕を止めようとする目をしていた。

僕を信じているからこそ、立ちふさがったのだ。

その事実が、今でも胸を刺し続けている。

 

だが結果的に、その時間稼ぎで正気に戻ったアンナが僕を止めてくれた。

本当に危うかった。

あのまま娘のもとに行っていたら――恩人であるリオに、恩を仇で返すようなことをしていただろう。

騎士である前に、人として外れるところだった。

 

 

(……本当に申し訳ない)

 

 

だから、僕はガウェインの顔をまともに見られない。

 

 

「アンナと……例の嬢ちゃんを見たぜ。遠目からだけどな」

 

 

ガウェインの声は、不思議なほど静かだった。

普段の豪胆さや陽気さはなく、ただ真剣に告げる声音。

 

 

「お前とアンナに、そっくりだ」

 

 

その言葉に、胸の奥がかすかに震えた。

思わず、苦笑いを浮かべて返す。

 

 

「そう、かな……? アンナに似ていると思ったけど……」

 

 

僕にとってルミナは、見ただけで息が詰まりそうになる存在だった。

その姿を直視することすら、危うい。

似ていると感じたのはアンナの面影。

だから、そう答えるしかなかった。

 

だが――ガウェインは即座に首を振った。

 

 

「間違いなく、お前の血も入ってる。俺が保証する」

 

 

その声に、一切の揺らぎはなかった。

長年共に戦場を駆け抜けた男の目だ。

 

 

「……そうか」

 

 

短く答えた声は、自分でも驚くほど掠れていた。

 

彼女の姿には――確かに僕の血が宿っていたのだ。

 

心の奥底で否応なく突きつけられる現実に、僕は唇を噛みしめた。

 

僕自身も、ルミナを遠目に見たとき、不思議な感覚に囚われた。

形容しがたい衝動が胸を突き上げ、理性を奪いかけた。

その瞬間、ヴァリウスに幾重にも精神制御の魔法をかけてもらわなければ、飛び込んでいたに違いない。

 

……ヴァリウスにも、本当に迷惑をかけた。

 

熱くなった体と心を冷ましに出たはずなのに、胸の奥はますます灼かれるように熱かった。

失ったもの、背負わされたもの、そして守らねばならないもの――。

すべてが胸の中で絡み合い、僕を締め付けて離さなかった。

 

 

 




先代国王のやらかしはとてつもなくデカいです。
それこそ騎士達が反旗を翻しても貴族たちは納得するくらいに。
よりにもよって王族がジークフリード家の子供を殺したも同然の行いは禁忌中の禁忌です、どちらにとっても。
ちなみに初代と二代目は血の繋がりはありません、レオネルさんとアンナさんは二代目の血筋です。
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