天才冒険者リオの英雄譚 童貞・処女しか入れないダンジョンを攻略せよ! 作:ナオ3
ギャグがスルスル書けるw
「ルミナ、どうしてここに?」
「ん、むかえにきた」
即答。
間髪入れずに言い切ったその声音に、冗談や迷いの欠片はない。
どうやら本気で迎えに来たらしい。
……すっげえありがたい。
ありがたいんだ。
けど問題は――。
「迎えにって……出られるのか?」
俺が慎重に問いかけると、ルミナは小さく首をコテンと傾けた。
「……どうやって?」
その仕草があまりにも無邪気で可愛らしくて、思わず泣きたくなる。
いや、違うんだよ。そうじゃないんだよルミナ。
(……これってもしかして……)
俺は頭を抱えた。
「……二次遭難かよ……」
自分を迎えに来たのはいい。
来たはいいけど……帰る方法知らずに来たんかい!?
目の前の少女は、そんな俺の葛藤なんか気にも留めない。
大きな瞳をきらきらさせて、俺が何を心配しているのかまるで理解していないようだった。
(頼むから、勢いだけで突っ走らないでくれ……!)
ただでさえこの場所は特殊なんだ。
そこにルミナまで巻き込まれたら、俺の心臓がもたない。
なのに――ルミナは胸を張って「迎えに来た」と言い切った。
その小さな体で、まるで当然のことのように。
(……ほんっと、肝が据わってるというか。いや、無鉄砲すぎるというか……)
俺は額を押さえながら、どうしようもなく苦笑を浮かべてしまった。
不安もある。怖さもある。
けど――同時に、ああやっぱりルミナはルミナだ、と安心している自分がいた。
そんな俺の心配を余所に――。
「にょおおおおお!!!」
水面に甲高い悲鳴が響き渡る。
管理者が尻を抱えて転げ回っていた。
青白い光の人型が、バシャバシャと水飛沫を上げながら湖を転がりまわる光景は……まるで陸に打ち上げられたばかりの魚だ。
(……管理者に聞くしかねぇな)
「大丈夫か?」
恐る恐る声をかけると――。
「あひいいいいいい!!!」
……大丈夫じゃねぇな、こりゃ。
しょうがない、気が進まんが……。
「……ふん!」
俺は管理者の頭を軽く小突いた。
「あふん!」
変な声をあげるな!
「はあ、はあ、はあ……」
ぜぇぜぇと肩で息をする管理者。
水面に転がり、瀕死の魚みたいに痙攣している。
「大丈夫か?」
思わず声をかける。
「はあ、はあ……え、リオくん!!」
ばっ!と上半身を跳ね起こす管理者。
その顔は驚きと喜びと困惑が全部入り混じった、なんとも言えない顔だった。
「……ああ、リオだ」
俺は苦笑しながら頷く。
ようやく――本当にようやく目が覚めたらしい。
「どうしてリオくんがここに!?」
「あー、それはだな」
説明しようとした矢先――管理者は額を押さえ、呻き声を漏らした。
「いや、そもそも僕は……うっ、頭が……!」
(あ、やべぇ。この流れ……黒歴史掘り起こしコースじゃねぇか)
俺は慌てて両手を突き出し、管理者の言葉を遮った。
「お前は疲れてるんだ。ほら、深呼吸だ、深呼吸」
「え、でも……」
「いいから!」
「す、すー……はー……すー……はー……」
素直に呼吸を繰り返す管理者。
青白い光をふわふわと漂わせながら、腹式呼吸を続ける姿は、神秘的というよりシュールでしかなかった。
数十秒後。
「……ふぅ」
管理者は肩を落とし、ようやく落ち着いた様子を見せる。
「……どうだ? 少しは落ち着いたか?」
「うん……ありがと、リオくん」
あの間の抜けた笑顔。
なんだかんだで可笑しさがこみ上げる。
(なんか既視感あるな……?)
「……落ち着いたか?」
「……うん」
よし、これでまともに話ができるだろう。
だが――。
「むぅ」
ルミナが、ぷくっと頬を膨らませていた。
あからさまに不満げな顔。
その小さな体から放たれる視線の圧力がやばい。
じーっ……。
(た、頼むルミナ……大人しくしててくれ……!)
俺は必死にアイコンタクトを送る。
どうにかして「今は邪魔するな!」と伝えようと、眉と目と口を総動員する。
だが、ルミナの頬はますますぷくーっと膨れ上がった。
(おいおい、これ以上空気入れたら破裂するんじゃねぇのか!?)
頭の中で、パンッ!と風船が割れるイメージが浮かぶ。
ルミナの顔が本当に破裂するわけはないのに、なぜか本能的に怖くなる。
(うおぉ……こえぇ……)
背中を汗がつーっと流れる。
俺は勇気を振り絞り、口を開いた。
「……久しぶり、じゃねぇな。管理者」
精一杯、苦笑混じりに声をかける。
実際にはそう日が経っていないはずなのに――あまりにも濃すぎる日々を過ごしたせいで、随分と久しぶりに感じてしまう。
「あはは、確かに」
管理者も、ふっと微笑んだ気がした。
丁度いい機会だ……伝えなければならない。
「管理者」
「なんだい?」
俺は決めたんだ。
「俺は――ダンジョンを攻略する」
静かに告げると、湖面に波が広がるように、言葉が胸に落ちた。
「……そっか」
管理者は一拍置いて、苦笑に似た表情を浮かべる。
「すまない。お前があれだけ気遣ってくれたのに」
「謝らないで」
首を横に振り、青白い光の瞳が真っ直ぐこちらを見据える。
「ありがたいのは僕の方だよ。それに、こうなると思っていたしね」
まるで最初から見抜いていたかのような声音。
俺がここで「諦める」なんて選択をするわけがないと。
「でも、これだけは言わせてもらうよ」
管理者は一歩踏み出し、真正面から俺を捉える。
「お願いだから、抱え込まないで」
その声は真剣で、そして温かかった。
「……ありがとう、管理者」
俺は深く息を吸い込んだ。
湖の空気が肺に満ち、胸の奥で熱を帯びる。
「俺は義務でも正義感からでもない」
言葉が自然と溢れた。
誰に聞かせるでもなく、ただ自分自身に刻み込むように。
「ただ、自分の好きなものを、自分の手で守りたいんだ。俺自身のために戦うんだよ」
その言葉は、俺の全てを映していた。
レオンとの戦いで嫌というほど思い知らされた。
俺は――。
愛する者を護りたい。未来を切り開いてやりたい、ただそれだけのために命を懸ける。
困っている人が居るなら助けになってやりたい。
理不尽な未来を拒み、己の手で切り拓く。
そのためなら、どれだけ自分の血を流しても構わない。
「……俺は、そういう奴だ」
俺は俺の意思で、俺の選んだ戦いを続けるのだ。
「リオくん……」
管理者が、ようやく迷いを振り切ったかのように真っ直ぐな声を出した。
「わかった。僕は君に賭ける」
そう言って、感極まったようにこちらへ歩み寄ってくる。
――が。
「今から僕の本当のほぉぉぉぉ!?!?」
奇声と共に、管理者の体が宙に跳ねた。
次の瞬間、バシャーンと湖面に倒れ込み、尻を抱えながらのたうち回る。
「ぼぼぼぼぼ、僕のおしりがぁああああああ!!!」
水飛沫を撒き散らして転げ回る様は、神秘も威厳も完全に吹き飛んでいた。
視線をやると――そこにはルミナ。
両手を組み、小さな人差し指だけを突き立てている。
表情は滅茶苦茶不機嫌。
いつもの淡々とした声とは違い、低く冷たい響きでひとこと。
「……ちかい」
背筋にぞわりと寒気が走る。
今まで聞いたこともない、不機嫌そのものの声音。
「ルミナぁぁぁ!?!?」
思わず絶叫する俺。
管理者は両手で尻をがっちりガードしながら、怒声を張り上げた。
「ぼ、僕のおしりに攻撃したのはお前かぁ!」
「す、スマン管理者! ルミナ、それはマズイって!」
慌てて手を振る俺。
流石に女の子がやっちゃいかん技だろ、それは!
だが、ルミナは一歩も引かず、冷ややかに言い放った。
「……へんたい」
「なぁああああああ!?」
管理者が奇声を上げてのけぞる。
青白い光の体がバインと震え、水面に派手な水しぶきが飛んだ。
ルミナは続けて、きっぱりとした声で告げる。
「リオに、ちかよるな」
「ぬぉおおお!? 」
管理者が情けない悲鳴を上げて、湖面を転げ回る。
まるで誰かに浄化でもされている亡霊みたいな動きだ。
……まあ確かに。
さっきの寝惚けた管理者の言動を見れば、変態と断じられても仕方ない気はする。
(いや、あれは……うん。確かに変態だったな)
俺は頭を抱えながらため息をついた。
「ななな、なんだよ君はぁ!?」
必死に叫ぶ管理者。
その青白い顔に焦りの色が滲み出ている。
「リオの……よめ」
ルミナは無表情に、しかし断言するように告げた。
「おま!?」
俺は思わず二度見した。
いつの間に嫁になったんだルミナぁぁぁ!?
管理者は俺にしがみつきそうな勢いで迫ってきた。
「ちょ、ちょっと待ってリオくん!? 流石にこんなちっちゃい娘はマズいでしょリオくん!!?」
「違う! 俺の家族みたいなもんだが嫁じゃねぇ!!」
俺は同年代か、年上が好きなんだよ!!
ルミナは……ルミナは流石に不味いって!!
実年齢は知らんが見た目がアウト過ぎる!
「むぅ」
案の定、ルミナはまたもや頬をぷくりと膨らませる。
……いや、肯定しねぇからな!?
ここは絶対に譲れないラインだ!!
すると管理者は両手を広げて、高らかに笑い出した。
「ふははははは! 僕は最初から分かってたからね、ちみっ娘!!」
……嘘つけ。
さっきまで滅茶苦茶動揺してただろお前。
心の中で全力ツッコミを入れつつ、どうにか表情を保とうとする。
だがルミナは、管理者を真っ直ぐに指差し、容赦なく言い放った。
「……まけヒロイン」
「あごぉ!?」
管理者の体がびくんと跳ねる。
「もじょ」
「ぐべぇ!?」
白い光がぱちぱちと散り、管理者は胸を押さえて崩れ落ちる。
「さびしいおんな」
「ぴぎゃあ!?」
まるで見えない刃で切り刻まれているかのように、管理者は水面をのたうち回った。
次々と浴びせられる言葉の刃。
どういうわけか、全部クリティカルに刺さっている。
ていうか、管理者の事を女と認識しているのか、ルミナ?
バッシャーン!バッシャーン!
水飛沫を上げながら、管理者は水面をバタバタと転げ回り、ついにはぺしゃんと突っ伏した。
息も絶え絶えに倒れる管理者。
その横で、勝ち誇った笑みを浮かべるルミナ。
「はあ、はあ……幼女に何言われたって、平気だもん……」
「死にそうになってんじゃねぇか!」
後一発でKOだぞ。
俺が叫ぶと同時に、ルミナは再び指を構えた。
「……い」
「やめなさいルミナ! これ以上はイジメだ!」
慌てて止める。
流石にこれ以上は可哀想だ。
……いや、もう十分やりすぎてるんだけどな!?
後で絶対聞くぞ、それらのセリフはどこで覚えてきたんだ?
「む〜」
頬をふくらませ、ルミナは渋々と指を下ろした。
その可愛らしい仕草と、地面に転がる管理者の無様な姿。
……ああ、もう、どっちに突っ込めばいいんだよ。
「う、うぅ……」
管理者は息も絶え絶えで湖面に倒れていたが、やがてぐらりと上体を起こした。
「くくくくく……僕をここまでコケにした幼女は、君が初めてだよぉ……!」
威圧的な声だ。
しかし、尻を押さえながら震えている姿に迫力は皆無だ。
「そりゃそうだろう」
思わず俺は即答した。
幼女にコケにされまくる神様的存在って、どういう存在なんだよ。
ルミナはそんな管理者を見下ろして、鼻を「ふん」と鳴らした。
「……ざこ」
「ぐはぁ!?」
胸を押さえてのけぞる管理者。
致命傷を受けたみたいなリアクションしてるけど、ただの一言だからな!?
「リオくうううん!!」
管理者が俺に抱きついてきた。
青白い光の体でべったりくっついてくるのはやめて。
「あの娘、一体何なの!?」
「あ~それはだな……」
言葉を探しながら、俺はこれまでのルミナとの出会いを思い返した。
最初に会ったときの衝撃、俺の懐に入り込んでくる無邪気さ、そして今こうして当然のようにドヤ顔している姿。
だが、正体は未だわかってない。
「……誰なんだろうな?」
正直な感想が口から漏れた。
「君の家族なんでしょ!?」
管理者の鋭いツッコミが飛んできた。
あの管理者がツッコミ役に回るなんて、世も末だ。
「ん」
当のルミナはと言えば、胸を大きく張ってドヤ顔を決め込んでいる。
何、その自信満々な態度?
「いや、ルミナと出会ったのはな……」
俺はとりあえず、これまでの経緯をかいつまんで話した。
俺の前に突如現れて、気づけば家族みたいな存在になっていた――そんなざっくりした説明だ。
「……」
話を聞き終えた管理者は、頭を抱えた。
「いくらなんでも怪しすぎると思わなかったの、リオくん!?」
「お前という怪しすぎる存在に出会ったから耐性ができたんだよ、管理者?」
「はううううう!?」
管理者が変な声を上げてのけぞる。
お前、自分が怪しいって自覚はないのか?
横でルミナが「んふん」と鼻を鳴らして腕を組んでいた。
完全に勝ち誇ってる顔だ。
(本当に……ルミナって誰なんだ?)
今さらながら胸に湧き上がる疑問。
一緒に過ごしているときは、ただ楽しくて、温かくて――大して気にもしなかった。
いくら考えても答えが出ない、どれもしっくりこない。
そもそもルミナは常識外の存在だ、想像の及ばない理由があると考えるのが自然だろう。
なら……
(考えても仕方ない……わからないまま、受け入れよう)
そう心に決めると、胸の中のもやは少しだけ晴れた。
(大事なのはルミナはルミナだということだけだ、そうだろ?)
「ん!」
ルミナが小さく頷いた。
やけに嬉しそうな顔をしている。
「どうしたんだ?」
問いかけても、ルミナは首を振るだけだった。
「なんでもない」
短く言い切る。
……いや、明らかにご機嫌じゃねぇか。
(……何があったんだ? さっぱりわからん)
ルミナの方はケロッとしている。
対照的に、管理者は青白い顔をさらに陰鬱にして呻くように言った。
「なんかいい雰囲気作ってる〜」
「化けるな管理者」
低い声にエコーをかけるな、恐ぇんだよ。
青白い存在のくせに、無駄におどろおどろしい声色を出すのやめてくれ。
管理者は肩を落とし、大げさにため息を吐いた。
「結局のところ、正体わからないの?」
「……ああ」
俺は短く答えた。
だが、そのままルミナの頭を撫でる。
彼女は嬉しそうに目を細めた。
「ルミナの正体なんて、正直どうでもいい」
「え?」
管理者が目を瞬かせる。
俺は続けた。
「俺の家族なんだよ」
それさえわかれば十分だ。
「リオ……」
ルミナが小さく呟く。
俺は笑って返す。
「おう」
お前だってそうだろ、ルミナ。
管理者はしばし黙り込み、やや重い口調で言った。
「……わかったよ、もう……」
その声音には、呆れと、ほんの少しの笑みが混じっていた。
天敵に出会ってポンコツ度が300%になってますw