天才冒険者リオの英雄譚 童貞・処女しか入れないダンジョンを攻略せよ!   作:ナオ3

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またもや説明会・・・テンポ悪いなあ


29話 神殺し

「……なぜ……?」

 

 

俺はそう言うしかなかった。

 

黒髪の男は深く息を吐いた。

その吐息は重く、夜の湖上に響く。

 

 

「お前が、あの騎士と剣を交わして気絶した時――」

 

 

ぞわり、と背筋が粟立つ。

あの瞬間を見ていた?

レオンと俺しか居なかったはずの訓練場。

誰にも邪魔されない、密閉された闘技空間だった。

魔法使いでもなければ、外から覗き見ることなど不可能だ。

 

 

――なのに。

 

 

「魂をここに連れてきたんだ」

 

 

この世界は、管理者そのもの。

ここに入るということは、管理者の内部に侵入することと同義だ。

外部の存在が勝手に干渉できる場所ではない。

それを、こいつは――まるで当たり前ようにやってのけた。

 

 

「どうしてそんなことを?」

 

 

どうやって魂を引きずり込んだかも気になるが、それ以上に“なぜ”が重要だった。

 

問いかけると、男は微妙な表情で視線を横に逸らした。

その先にあるのは……相変わらず湖面に突っ伏し、ケツにルミナの右手を突き刺されたまま動かない管理者の姿。

 

何度見てもインパクトが強すぎる。

重要な話をしている最中だというのに、視界の片隅に「幼女の腕がケツに突っ込まれてる神様」があるせいで、どんな緊張感も吹き飛んでいく。

 

……シリアスな場面なのに、この光景だけで空気がぶち壊しだ。

泣きたくなる。

 

多分“やるせなさ”という名の涙腺刺激だ。

 

 

「そこの……女神の残滓を見極めるためだ」

 

 

男の言葉に、思わず息を呑んだ。

 

――見極める?

 

もしこの男が、俺と管理者のやり取りを最初から聞いていたとしたら……。

それはつまり、俺たちを“観察していた”ということだ。

 

 

「見極める……管理者が女神と同じかどうかか?」

 

 

口に出した瞬間、胸の奥に冷たいものが走る。

そうだ、俺ならそこを確かめる。

 

伝え聞いただけでも、あの女神は骨の髄までロクデナシ。

傲慢で、気まぐれで、人の命も心も弄ぶ存在――そんな化け物に似たものがもう一人いたら、誰だって放っておけない。

 

なら……もしも、この管理者が本当に“あれと同じ”だったら――。

男は、静かに頷いた。

 

 

「俺は――」

 

 

男は短く息を吐いた。

その声音には、何かを決意するような硬さがあった。

わずかな間を置き、低く、はっきりと告げる。

 

 

「女神を殺した神殺しだ」

 

 

衝撃が走る。

管理者が――女神は完全に消滅していると言っていた。

理由はわからなかった。

だが今、その謎が唐突に繋がってしまった。

 

 

「……何だって!?」

 

 

思わず叫ぶ声が、自分のものとは思えなかった。

この男が――女神を、殺した?

 

 

「……あんたが、女神を?」

 

 

問いかけた瞬間、男の表情が歪んだ。

まるで胸の奥に焼ける鉄を押し付けられたような苦痛が、顔に浮かぶ。

 

ギリィ……。

 

歯を食いしばる音が、静寂の中に響いた。

男の瞳が、燃えるような怒りに染まる。

 

 

「ああ。あの汚物を殺したのは、この俺だ」

 

 

静かな声。

けれど、その中に潜む殺意と憎悪は尋常じゃなかった。

決して作り物ではない。

積もりに積もった怨嗟と絶望が、短い言葉に凝縮されている。

 

俺は息を呑んだ。

その空気だけで胸が締めつけられる。

この男は、本気で――心の底から女神を憎んでいる。

 

と、その時。

 

 

「うう……」

 

 

腕の中のルミナが、かすかに呻き声をあげた。

 

 

「ルミナ!?」

 

 

俺は咄嗟に呼びかける。

小さな身体がびくんと震え、眉をひそめる。

 

男の顔が一瞬、ハッとしたように動いた。

次の瞬間には、その瞳から殺意と怒気がすっと消えていく。

 

 

「……すまない」

 

 

短く、けれど心のこもった謝罪の言葉。

本当に済まなそうな声だった。

 

 

「いや、あんたが女神を心底憎んでるのは、よくわかったよ……」

 

 

俺は息を吐き、ルミナをあやしながら答えた。

 

あれほど鋼のように冷静な印象を与える男が、これほどまでに感情を剥き出しにするとは思わなかった。

それほどまでに――この男にとって女神は許しがたい存在だったのだろう。

 

少しの間、沈黙が流れる。

 

再び、管理者を見る男。

その目は、暗い深淵を思わせるほど冷たく、鋭かった。

 

 

「あの女神に似ているなら、消そうと思っていたが……」

 

「っ!?」

 

 

その言葉に、全身の血が一気に逆流するような感覚が走った。

対処する必要がある、そんなレベルの話じゃない。

「消す」――その一言に込められた確信が、冗談ではないことを告げている。

 

 

(言ったことを全面的に信じるなら、この男は本当に女神を殺した)

 

 

俺の背中に、ぞくりとしたものが走った。

管理者は、人間がどうこうできる存在ではない。

だが、この男なら――出来る。

出来てしまう。

何故か、その確信が湧き上がってしまう。

 

もし、男が管理者を危険だと判断したら……。

 

頭の奥で、思考がぐるぐると回る。

その時は、何としてでも説得しないといけない。

理由を説明し、納得させ、管理者を守らなければ。

そう強く思うほど、背筋に冷たい汗が伝っていく。

 

男は、そんな俺の考えを見抜いたかのように、ふっと息を吐いた。

 

 

「そんな顔をするな。お前の危惧は不要だ」

 

 

その声は重く、しかし先程までの殺気はない。

長い溜息を吐き、額に手を当てて小さく首を振った。

 

 

「つまり?」

 

 

俺は慎重に尋ねる。

 

 

「殺さない。お前との会話で、あれとは別の存在だとわかった」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、体から力が抜けた。

張りつめていたものが、一気に解けていく感覚。

 

 

「……そうか」

 

 

胸の奥が、少しだけ軽くなる。

 

やはり、管理者と女神は別の存在なのだということを、この男も判断してくれた。

その事実に、確かな安心感が胸に広がっていった。

 

胸の奥が少しだけ軽くなる。

 

 

「それに、そこの幼子に言い負かされた挙げ句に、尻「そこに触れてやるなあああああ!!!」

 

 

反射的に俺は叫んでいた。

 

 

「ふむ?」

 

 

男は小首を傾げ、不思議そうにうめいた。

いや、“ふむ?”じゃねぇ!!

神様の尻に幼女の腕がズッポリ刺さってるんだぞ!?

危険とかそういう問題じゃない、これはもう倫理と尊厳の問題だ!

 

 

「会話だけで十分だろ! 俺との会話で善性の存在だってわかるだろ!」

 

 

管理者の尊厳を守るため、俺は叫び続けた。

 

 

「それ以上は不要! 余計! 地雷を自分から踏むような真似はやめろ!!」

 

 

俺は拳を握りしめ、声を震わせる。

こんな時に何を真剣になっているんだ俺は。

だが、今だけは引けない。

 

 

「人の心があるなら言うな! 触れるな! そして忘れろォ!!!」

 

 

男は俺の必死の訴えにも動じず、腕を組み、上を向いたり下を向いたりしていた。

そして――唐突に、俺の方を見て言った。

 

 

「……お前との会話で、あれとは別の存在だとわかった」

 

「言い直した!? 今さら!?」

 

 

何事もなかったかのように綺麗にまとめやがった!

完全に“尻”のくだりを無かったことにしたよこの男!!

 

いや、まあ、忘れてくれるのは助かるけど!

それはそれでモヤモヤするわ!!

 

 

(くそっ……クールな顔してこれだよ!!)

 

 

肩を落とす俺をよそに、男は平然と腕を組み直し、淡々と立っている。

俺は確信した。

この男……天然だ。

真顔でボケをかますタイプの天然だ!

 

 

(ちくしょう!クールな顔してボケ属性とかあざとすぎるんだよ!!)

 

 

頭を抱えながらも、俺は必死に冷静さを取り戻そうとした。

 

――どうしてこんな地獄絵図の真ん中で、ボケとツッコミをやらなきゃいけないんだ俺は。

 

誰か説明してくれ、このカオスを。

冷静な声で男が言う。

 

 

「とりあえず、幼子の手を抜こうとするのはやめておけ」

 

 

やめておけ、じゃねぇよ! 見ろこの惨状を!!

俺は思わず声を荒げた。

 

 

「いや、早く抜かないと……この瞬間にも管理者の尊厳がガンガン削れてるんだよ!!」

 

 

だが男は真顔のまま、冷静に告げる。

 

 

「抜いたら爆発するぞ。比喩ではなく、ボンっとな」

 

 

男は、手を小さく開いて“爆発”のジェスチャーをした。

あっさりと爆弾発言を言いやがった。

 

 

「はあああ!?!?」

 

 

思わず耳を疑った。

爆発!? 今なんて言った!?

 

 

俺の脳裏に最悪の光景が浮かぶ。

――管理者、空に向かって吹き飛ぶ。

青白い光とともに「ひぎゃあああああ!!!」と叫びながら“ボンッ”て爆発四散。

……あんまりにも悲しすぎるぞ管理者ぁ!!

 

 

「中身――神の力が、幼子に移るまで待つんだ」

 

 

男の言葉を聞いた瞬間、思考が止まった。

 

 

「はっ?」

 

 

神の力が……ルミナに?

頭の中で理解が追いつかない。

 

 

「待ってくれ! どうしてルミナに神の力が!?」

 

 

焦りが声に滲む。

この状況の何がどうなって、ルミナが神の力なんてものを取り込んでるんだ!?

 

 

「そこの幼子は神殺しになった。俺と同じだな」

 

「……は?」

 

 

耳を疑う。今、何て言った?

神殺し――? この小さな娘が?

 

 

「神殺しを達成すると、神の力を奪える」

 

「神殺しって……神殺しって……」

 

 

思わず情けない声が出た。

どう考えても、今のルミナは“神を殺した”というより“ケツに手を突っ込んだ”にしか見えない。

 

 

「一応、管理者は生きてるだろ!?」

 

 

俺の問いに、男は瞑目した。

 

 

「……精神的に屈服してしまったんだろうな。神殺しは、それでも成立するんだ」

 

 

静かな声。

けれど、その響きには、どこか哀れみのようなものが混じっていた。

 

 

「ただ、それだと一部しか奪えんがな」

 

 

男は目を開き、夜空を見上げる。

そこには満月が浮かび、湖面に光を落としている。

 

 

「完全に気絶している。……無理もない」

 

 

俺も空を見上げた。

月はあまりにも穏やかで、こんな修羅場を照らしているとは思えない。

 

 

「そりゃ、突然尻を勢いよく抉られたら気絶するよ……」

 

 

自分でも口にしてから顔を覆った。

なんだこの状況。 

 

 

「ケツに手を突っ込んで神殺しって……ルミナぁ……」

 

 

言葉にならない呻きが漏れた。

冗談にも限度がある。

ルミナを見る。

俺の腕の中で穏やかに眠っていた。

まるで、何事もなかったかのように。

その小さな顔には、涙の跡がまだ残っている。

 

そっと額の髪を撫でる。

本当に、どうしてこうなったんだ。

 

 

「神の力って……ルミナはどうなるんだ?」

 

 

自分でも声が上ずっているのが分かった。

何が起こるのか、まったく想像がつかない。

 

男は、しばらく黙ってルミナを見つめていた。

その目は氷のように怜悧で、それでいて――確かに、彼女を案じていた。

 

 

「……わからない」

 

 

その言葉が、胸の奥に重く落ちる。

 

 

「神殺しなんて、ほとんど例がない」

 

「……」

 

「それに、相当特殊な出自のようだな?」

 

「それは……」

 

 

言葉が詰まる。

何も、答えられなかった。

 

俺は――ルミナの正体を知らない。

いや、知ろうとすらしてこなかった。

ただ一緒に笑って、遊んで、眠って、飯を食う。

それだけで十分だと思っていた。

 

けれど今、その“知らなかったこと”が牙を剥いて俺に迫っている。

 

 

「何が起こるのか、予想すらできん」

 

 

男の声は淡々としていた。

それが逆に現実味を帯びて、心が冷えていく。

 

 

「……くそ」

 

 

奥歯を噛み締める。

ルミナの正体を知ろうとしなかったツケが、こんな形で襲ってくるなんて……。

どうすればいい?

何をすればいい?

俺はただ、胸の中の少女を抱き締めることしか出来なかった。

 

そんな俺の様子を見て、男は静かに口を開いた。

 

 

「……あまり思い詰めるな」

 

「しかし!」

 

 

思わず声を荒げる。

 

 

「神の力というのは、想いによって変質する特性がある」

 

「想い……?」

 

 

男は頷く。

 

 

「神の力は、感情や願いに共鳴する。

 怒りや憎しみに染まれば災厄となり、

 愛と祈りに包まれれば、祝福へと変わる」

 

 

万能のようで、不安定な力だな。

 

 

「その娘は、誰かを傷つけたりするような子か?」

 

「そんなことはない!」

 

 

俺は即座に叫んだ。

ルミナはそんな子じゃない。

管理者を攻撃したのは、俺のためだった。

俺を守るために暴走しただけだ。

 

 

「なら――心をしっかりと保つんだ」

 

 

男は俺の目をまっすぐに見つめた。

 

 

「お前次第だ」

 

「……俺?」

 

「そうだ。幼子がどこへ向かうのか――それを決めるのは、お前だ」

 

 

静かな声。

だが、その言葉は雷鳴のように胸の奥に響いた。

 

ルミナがどうなるか、まだ誰にもわからない。

けれど、俺が信じ続ける限り――彼女は決して道を踏み外さない。

そう言われた気がした。

 

俺はもう一度、ルミナの小さな身体を抱き締める。

その体温は確かにここにあった。

微かに震えている手を包み込み、俺は強く誓った。

 

 

「とりあえず、中途半端が一番危険だ。幼子が全てを取り込み、安定するまで待つのが無難だろう」

 

 

黒髪の男の声は静かだが、底に鉄のような響きを持っていた。

 

 

「……わかった。管理者はどうなる?」

 

「管理者は問題ない。そこにあるのはあくまで“分体”だ。本体は一応無事だ」

 

 

男は淡々と答える。

俺は思い出した。青白い身体は、もともと俺と会話するためだけに作られた器だ。

この空間そのものが管理者の本体。つまり、ここで倒れているのは“本体の端末”に過ぎない。

 

 

「分体に込められている神体と力を、幼子が取り込んでいる」

 

「……じゃあ、管理者の本体はどうなってるんだ?」

 

 

口にしてから、妙な違和感を覚える。

ただ気絶している――そんな簡単な話ではないような気がした。

 

男は目を閉じた。

その仕草は、まるで故人を悼むような静けさを帯びていた。

 

 

「感覚が繋がっている」

 

「おおう」

 

 

俺は思わず目を覆った。

その一言で全てを悟った。

 

つまり――

 

 

「なあ……」

 

 

俺はおそるおそる口を開く。

 

 

「管理者の本体は今、“ケツをやられてる感覚”をずっと?」

 

 

男は目を開けて、重い声で言った。

 

 

「……ああ」

 

 

沈黙。

 

 

俺はもう一度、月を見上げる。

そこには哀れな存在があった。

 

 

 

 

 

 




ヴァリウスさんと口調がダブってるように見えますが本来はこんなキャラではありません。
辛いことが多すぎて暗くなっています。
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