天才冒険者リオの英雄譚 童貞・処女しか入れないダンジョンを攻略せよ!   作:ナオ3

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注・ボケの過剰摂取にご注文下さい。


33話 幼女はおっぱいの夢を見るか?

 

 バシーン!!

 乾いた音が、純白の精神世界に木霊した。

 我ながら、キレの良すぎる手刀だった。スナップが効いていた。

 空気を裂く音と、打撃音がほぼ同時。達人の域だ。

 

 

(……やっべ)

(思わず手が出ちまった……!)

 

 

 振り抜いた右手の感触に、俺は少しだけ――いや、結構後悔した。

 相手は管理者だ。腐っても(腐ってないけど)神様だ。

 しかも、俺にとっては恩人のような、友達のような、不思議な間柄の存在だ。

 そんな相手の脳天(球体だからどこが脳天かわからないが、多分てっぺん)に、渾身のツッコミ手刀を叩き込んでしまった。

 

 

(でも……あんなボケを聞いちまったら、ツッコミ入れずには居られねぇ!)

(チクショウ! 管理者のボケ力が高すぎるだろ! 「おしりはだめぇ」ってなんだよ! 寝言のセンスがアヴァンギャルドすぎるわ!)

 

 

 俺の冒険者としての本能が、危険察知よりも先にツッコミを優先させてしまったのだ。不可抗力だ。そう思うことにしよう。

 叩かれた管理者の光の玉は、ボヨンボヨンと弾みながら地面(?)を転げ回っている。

 

 

「ぐおおおおお! 痛い痛い痛い! 脳が! 僕の脳が揺れるぅぅぅぅ!?」

 

「頭無いだろ……中身詰まってんのかよ」

 

 

 光る球体が必死に痛がっている姿は、シュールを通り越してもはやホラーだ。

 というか、精神体なのに物理ダメージ通るのかよ。俺のツッコミ力(ヂカラ)が概念干渉レベルに達しているのか、それとも管理者が打たれ弱いのか。

 しばらくの間、管理者は「あひぃ」「ひぐぅ」と情けない声を上げながらコロコロ転がっていたが、やがて勢い余って俺の足元にポスッとぶつかって止まった。

 

 

「……はぁ、はぁ……ひどいよリオくん……いきなり暴力なんて……」

 

「あんなボケかますお前が悪い」

 

「むぅ……あれ? リオくん?」

 

 

 管理者の光が明滅し、何かを確認するように俺を見上げる(気配がする)。

 

 

「……なんか、おっきくなってない?」

 

(お前が小さくなったんだよ、管理者)

 

 

 心の中で即座にツッコむ。

 今の自分を見てみろ。手のひらサイズだぞ。

 以前の、青白く光る人型ですらない。ただのボールだ。発光するボール。夜道で蹴っ飛ばされそうな見た目をしている。

 

 俺が呆れていると、管理者がふと、俺の背後に気配を感じたようだ。

 くるりと回転して(前後があるのか不明だが)、後ろを見る。

 そこには、黒いコートを纏った男――レオンハルトが、腕を組んで立っていた。

 その表情は冷厳。纏う空気は鋭利な刃物の如し。

 ただそこにいるだけで、空間が彼を中心に歪んでいるかのような圧倒的なプレッシャー。

 管理者の光が、ビクンッ! と跳ねた。

 

 

「……誰ぇ!?」

 

 

 悲鳴が上がる。

 

 

「なんかめちゃくちゃ怖いんだけど!? どうして!? 見られるだけで寒気がしてくるぅ!? 魂が震えてるよぉ!?」

 

 

 ガタガタと震えだす光の玉。

 そりゃそうだろう。

 多分、お前の本体(女神)をブッ殺した張本人だからだよ、管理者。

 本能レベルで天敵だと認識してるんだな。魂に刻まれた恐怖ってやつだ。

 見知らぬ人物に戸惑い、怯える管理者。

 だが、次の瞬間、管理者は何か閃いたように声を上げた。

 

 

「あ! わかった! 彼ってリオくんの双子の兄弟!?」

 

「俺と彼の何処が似てるんだよ」

 

 

 俺は即座に否定した。

 似てる要素、どこだよ。

 共通点が性別と、黒髪と、黒い目ってことくらいしか無いだろ。

 パーツの配置も雰囲気も全然違うぞ。

 あんな背が高くて、彫りが深くて、影のあるハンサムな色男じゃねぇよチクショウ!

 俺はどっちかっていうと親しみやすい系だぞ! 自分で言うのもなんだが!

 クール系でイケメンなゼインならともかく、童顔気味の俺と何処が似てんだ?

 神様だからガバガバなんか? 人間の顔の区別つかないタイプか?

 

 

「ええ〜? すっごくソックリだよ?」

 

 

 管理者は納得いかない様子で、俺とレオンハルトを交互に見比べる(気配?)。

 

 

「こう、魂の色とか波長がさ〜。根っこの部分が同じ匂いするよ? 」

 

「いい加減にしろ」

 

 

 レオンハルトが低い声で遮る。

 その一言で、場の空気がピリッと引き締まった。

 

 

「そこまでだ。無駄口を叩いている時間はない」

 

「ひぃッ! ご、ごめんなさい……!」

 

 

 管理者が縮こまる。ボールなのにさらに小さくなった気がする。

 

 

「今はそれどころじゃ無い。ルミナの力を制御するんだ」

 

「ルミナ? どういう……」

 

 

 管理者は首をかしげる(動作はないが雰囲気でわかる)。

 そして、ようやく違和感に気づいたようだ。

 

 

「……あれ? 僕、視点が低いっていうか……手足の感覚がない?」

 

 

 遅い。遅すぎる。

 ようやく自分の現状に意識が向いた管理者が、恐る恐る自分自身を見下ろす。

 

 

「なんじゃこりゃぁ!?」

 

 

 絶叫。

 

 

「何これ!? 手と足が無いと言うか……玉!? 僕、ただの球体になってる!?」

 

「落ち着け、管理者」

 

「何があったの僕!? 最後に覚えてるのは……えーと、僕は……僕は……」

 

 

 パニックになりながら、自分の記憶を振り返ろうとする管理者。

 その瞬間、俺の脳裏に警報が鳴り響いた。

 

 

(まずい!)

 

 

 管理者が最後に体験したこと。

 それは、ルミナによる「ルミナフィンガー(仮称)」だ。

 あの、尻(と思われる部位)への無慈悲な一撃。

 あれを思い出せば、またパニックになる。いや、トラウマで発狂するかもしれない。

 

 

「まて、俺が説明するから! 思い出そうとするな!」

 

 

 俺は必死に制止する。

 だが、思考の迷宮に入り込んだ管理者は止まらない。

 

 

「確か僕は、リオくんに名前を貰おうとして……いい感じの雰囲気で……それで……」

 

 

 記憶の糸を手繰り寄せる管理者。

 その先に待っているのは、金色の閃光。

 

 

「あ」

 

 

 管理者の動きが止まった。

 思い出したのだ。

 あの衝撃を。あの痛みを。あの喪失感を。

 

 

「ぎゃあああああああああああ!!!!」

 

 

 次の瞬間、絶叫が響き渡った。

 

 

「あががががっがががっががが!!!? お尻が! 僕のお尻が痛いぃぃぃぃぃ!?」

 

 

 球体が激しく振動し、火花のような光を散らす。

 無い尻が痛む。究極の幻肢痛。

 魂に刻まれた「尻へのダメージ」が、フラッシュバックしているのだ。

 

 

「お尻が痛いのぉ! 穴が開いた気がするのぉ! 貫通した気がするのぉ!」

 

「管理者落ち着け! 傷は浅……くねえけど! 今は物理的に尻ねえから! 落ち着け!」

 

 

 俺の言葉など届かない。

 管理者は痛みに耐えかねて、縦横無尽に飛び回り始めた。

 ヒュンヒュンと風切り音を立てて、白い空間を高速移動する光の玉。

 

 

「ひぎぃ! えぐられるぅ! 回されるぅ! 何かが奥でグリグリしてるぅぅぅぅ!」

 

「生々しい表現はやめてくれぇ!!」

 

 

 聞いてるこっちの尻がムズムズするわ!

 俺は思わず自分の尻を抑えて後ずさった。

 ルミナよ、どんだけエグい攻撃をしたんだ? ドリルか? お前の指はドリルだったのか?

 

 

「痛い痛い痛い! 尊厳が! 神としての威厳が! お尻から漏れていくぅ!」

 

「頼むから落ち着いてくれって危ねぇ!」

 

 

 

 俺の前髪に掠めたぞおい!

 俺が叫んでも、パニック状態のボールは止まらない。

 ピンボールのように跳ね回り、俺の顔スレスレを通過していく。

 その時。

 

 

「ふう……」

 

 

 深く、疲れたようなため息が聞こえた。

 レオンハルトだ。

 彼は呆れたように首を振ると、目の前を横切ろうとした光の玉に向かって、無造作に手を伸ばした。

 ガシッ。

 鈍い音がした。

 ノールックで、片手キャッチ。

 高速移動していた管理者が、一瞬で静止させられる。

 メリメリメリ……。

 レオンハルトの指が、光の玉に食い込んでいく。

 球体は歪んだ形に変化し、ひしゃげたマシュマロのようになった。

 

 

「ぶぎょおぉ!? 中身! 中身がでりゅううううう!?」

 

 

 管理者が、屠殺される家畜のような断末魔をあげる。

 握り潰される! 神様が握力で潰される!

 

 

「むっ、力を込めすぎたか? すまん」

 

 

 レオンハルトが「しまった」という顔をして、パッと力を緩める。

 プハッと空気を吸い込むような音と共に、管理者は元の球体に戻った。

 だが、その光は虫の息のように弱々しい。

 

 

「し、死ぬかと……二度死ぬかと……」

 

「すまなかった。小さくて加減が難しい」

 

 

 レオンハルトは悪びれもせず言い放つと、掌の上の管理者に視線を合わせた。

 その目は真剣そのものだ。

 

 

「遊んでいる場合ではない。ルミナの力を抑えてくれ、管理者」

 

「え……ルミナ?」

 

「ああ。このままだとリオとルミナが危ない」

 

 

 レオンハルトの声には、切迫した響きがあった。

 そうだ、忘れるところだった(忘れてないけど)。

 現実世界の俺は今、大変なことになっているのだ。

 

 

「俺からも頼む、管理者! ルミナが大変な事になっちまうんだ!」

 

 

 俺は必死に訴える。

ルミナの心もそうだが肉体面でも心配だ。

 貞操の危機。下手人はリオ・ハートフィールド。

 今の自分の有り様を早く何とかしたい。

 大人になったルミナの胸に顔を埋め、身動きが取れなくなっている現状。

 このままでは窒息死か、社会的な死か、あるいは理性が崩壊して獣になるか。どのルートもバッドエンドだ。

 

 

「大変なこと……?」

 

 

 管理者はまだ状況が飲み込めていないようだが、俺とレオンハルトの気迫に押され、緊急事態であることだけは察したらしい。

 震えながら、小さな声で尋ね返す。

 

 

「ど、どうすれば? 僕、今こんな姿だし……力なんて全然……」

 

「やり方はある」

 

 

 レオンハルトが即座に答える。

 

 

「今のお前はルミナと同化している状態だ」

 

「ど、同化!?」

 

「ああ。お前の一部を取り込んだのだろう。だから今、お前はルミナの一部としてここに在る」

 

 

 レオンハルトの説明は簡潔だった。

 だが、内容はとんでもない。

 

 

「同化って!? 何があったらそうなるのさ!? 僕、食べられたの!?」

 

「近いな。尻から侵食されたと言ってもいい」

 

「いやぁぁぁぁ! 思い出したくないぃぃぃ!」

 

 

 

 

 再び発狂しかける管理者を、レオンハルトが視線だけで黙らせる。

 

 

「泣き言は後だ。同化しているなら話は早い。ルミナの力は、今のお前にとって『自分の力』と同義だ」

 

「えっ?」

 

「自分の手足を動かすように、ルミナの中に溢れる奔流を整えろ。主導権を握る必要はない。ただ、流れを導くだけでいい」

 

 

 レオンハルトのアドバイスは具体的だった。

 神殺しとして、強大な力と向き合い続けてきた彼だからこそわかる感覚なのだろう。

 

 

「お前ならルミナの力を制御出来る筈だ。元はと言えば、お前の力なのだからな」

 

「そ、そう言われても……こんなちっぽけな僕に……」

 

 

 管理者は自信なさげにモジモジしている(球体だけど)。

 だが、レオンハルトは待ってくれない。

 

 

「やれ。今すぐにだ」

 

「は、はいぃ!」

 

 

 レオンハルトの圧力に屈し、管理者は意を決したように光を強めた。

 集中する。

 ルミナと繋がっているパスを探り、そこに溢れる莫大なエネルギーの奔流に干渉しようとする。

 

 

「ううぅ……やってみる……! 動け、止まれ、鎮まれ……!」

 

 

 管理者が念じる。

 俺は固唾を呑んで見守る。

 頼む、成功してくれ。俺はどうでもいいがルミナの未来がかかってるんだ。

 

 

「そう簡単に出来るわけ……」

 

 

 管理者が弱音を吐きかけた、その時だった。

 スゥッ……。

 空間に満ちていた圧迫感が、霧が晴れるように消え失せた。

 張り詰めていた空気が緩み、温かな光が満ちていく。

 

 

「……出来たわ」

 

「軽っ!?」

 

 

 凄くアッサリと解決した事に、俺は思わずツッコんだ。

 拍子抜けするほど一瞬だった。

 さっきまでの悲壮感はなんだったんだ。

 

 

「いや、なんかすっごく馴染むんだけど? え、これ僕の体? ってくらいスムーズに命令が通るよ?」

 

 

 管理者が驚きの声を上げる。

 どうやら、相性は抜群だったらしい。

 レオンハルトは、空間が安定した事を確認すると、満足げに頷いた。

 

 

「嵐の様な力の奔流は納まったか。よくやった」

 

「えへへ……褒められちゃった」

 

 

 管理者が照れている。

 チョロいなこいつ。

 だが、これで終わりじゃない。

 レオンハルトが俺の方を向いた。

 

 

「リオ」

 

「あ、ああ!」

 

 

 レオンハルトが俺の両腕を掴み、手を上にした状態で広げさせる。

 まるで何かを受け取るようなポーズだ。

 

 

「えっ、どうしたんだ? 何か降ってくるのか?」

 

「じっとしていろ。仕上げだ」

 

 

 レオンハルトは目を閉じ、集中する。

 すると、白い空間の彼方から、金色の光の粒子が集まってきた。

 蛍のように舞い、俺の手のひらの上で螺旋を描く。

 それは、ルミナの力の結晶。

 そして、彼女の存在そのもの。

 光が集束し、形を成していく。

 まばゆい輝きが収まると――そこには。

 白いワンピースを着た、見慣れた幼女の姿があった。

 俺の腕の中に、ちょこんと収まっている。

 大人の色香も、豊満な果実もない。

 小さくて、軽くて、愛らしい。

 いつものルミナだ。

 

 

「ルミナ!?」

 

 

 俺は驚くと同時に、深い安堵の息を吐いた。

 戻った。

 あの、心臓に悪い(けど魅力的だった)美女から、俺の知っている家族の姿に。

 

 

「ぷひゅ」

 

 

 その横で、空中に浮いていた管理者が、糸が切れたように地面に落ちた。

 ボヨヨン、と弾んで転がる。

 

 

「……管理者?」

 

「……無理……もう無理……お尻の穴が……拡がるぅ……」

 

 

 どうやら思い出してしまったトラウマで気絶したらしい。

 衝撃は計り知れない。

 

 

「ああ……尻抉られたトラウマは根深いな……」

 

 

 合掌。

 ともあれ、これで一件落着だ。

 俺は腕の中のルミナを抱きしめ直す。

 慣れ親しんだ幼子の姿に戻った事に、嬉しさがこみ上げる。

 ……まあ、あの美女姿が見られなくなったことに、ほんのわずかな、指先ほどの悲しみがないとは言わないが。男だし。

 でも、やっぱりこっちの方がしっくりくる。

 レオンハルトは、俺とルミナ、そして地面に転がる管理者を一瞥して、静かに言った。

 

 

「これで危機は去った」

 

「ありがとう、アンタのおかげだ」

 

 

 俺は心からの感謝を伝える。

 彼がいなければ、どうなっていたかわからない。

 

 

「礼には及ばん。俺が招いた事態でもあるからな」

 

 

 レオンハルトは淡々と答える。

 そして、真剣な眼差しで俺を見据えた。

 

 

「これから先、お前達は運命を共にする事が決まった」

 

 

 俺、ルミナ、そして管理者。

 奇妙な共同体。

 神と、神殺し(幼女)と、一般人(俺)。

 

 

「拗れる前に話し合うんだ。今の状況、互いの関係、そしてこれからどうするか」

 

「……そうだな」

 

 

 避けては通れない道だ。

 俺たちはもう、ただの冒険者と迷子の少女じゃない。

 

 

「アンタは? これからどうするんだ?」

 

 

 俺が尋ねると、レオンハルトは視線を遠くに向けた。

 

 

「俺はこれから、ルミナについて調べる」

 

「調べる?」

 

「ああ。彼女が何者なのか。その出自、可能性」

 

 

 レオンハルトの声は硬い。

 

 

「知らねばどうすれば良いのかわからん。」

 

……ルミナが危険と判断されたらどうすればいい?

 敵になったら詰みだ。エドワールさんやレオン以上にどうしようもない。

 レオンハルトは俺の不安を見透かしたように、表情を和らげた。

 そして、大きな手で俺の頭をクシャっと撫でた。

 

 

「……心配するな」

 

 

 不器用だが、温かい手つきだった。

 

 

「お前を悲しませるような事はしない。ルミナに害が及ばないよう、最善を尽くす」

 

「レオンハルト……」

 

「必ず助ける。約束だ」

 

 

 その言葉には、絶対の響きがあった。

 英雄の誓い。

 理屈抜きで信じる事が出来た。この男は、一度口にした約束を違えるような人間じゃない。

 

 

「……頼む」

 

「ああ」

 

 

 短く応えると、レオンハルトの姿が薄れ始めた。

 役割を終え、この精神世界から去ろうとしているのだ。

 

 

「またな、リオ」

 

「ああ、またな!」

 

 

 レオンハルトは黒いコートを翻し、白い光の中に溶けるように消えていった。

 静寂が戻る。

 俺はルミナの精神世界で、一人(と一匹と一人)佇む。

 

 

「さてと……」

 

 

 俺は足元に目を向ける。

 

 

「…………」

 

 

 管理者は地面を転がっている。

 ピクリとも動かない。

 まだ気絶しているようだった。時折「おしり……」とうわ言が聞こえる。重症だ。

 

 

「話し合えって言われてもなぁ……どうしよう」

 

 

 頭を抱えたくなる。

 状況はカオスだ。

 腕の中で眠るルミナ、足元を転がっている管理者(球)。

 これをどうやって「話し合い」の場に持っていけばいいんだ。

 その時。

 

 

「ん、んんん……」

 

 

 腕の中のルミナが、小さく呻き声を上げた。

 長い睫毛が震え、ゆっくりと瞼が開かれる。

 透き通るような碧い瞳が、俺を映した。

 

 

「ルミナ? わかるか?」

 

 

 俺は心配そうに覗き込む。

 記憶はあるのか? 自我は無事か? 身体に異変はないか?

 

 

「リオ……」

 

 

 ルミナはぼんやりとした目で俺の名前を呼んだ。

 そして、ゆっくりと自分の身体に目を向ける。

 小さな手、細い腕、白いワンピース。

 そして――胸元。

 なだらかな平原だ。

 ついさっきまでの、あの雄大な山脈は跡形もない。

 完全なる更地。ぺったんこだ。

 

 

「……むう」

 

 

 ルミナが、あからさまに残念そうな声を上げた。

 眉を寄せ、口を尖らせ、不満たらたらの表情。

 

 

「どうしたルミナ? どこか痛いのか?」

 

 

 俺が慌てて尋ねると、ルミナは恨めしそうに俺を見上げた。

 そして、衝撃の一言を放った。

 

 

「リオを、のうさつするゆめをみた」

 

「……は?」

 

「おっきくなって、ボインボインになって、リオをメロメロにするゆめ」

 

 

 ルミナは自分の胸をペタペタと触りながら、深いため息をついた。

 

 

「……ゆめだった。ざんねん」

 

 

 俺は凍りついた。

 夢……?

 いや、あれは現実だったんだよルミナちゃん。

 お前が無意識に神の力を使って変身してたんだよ。

 そして俺は、その悩殺攻撃(物理と精神)で死にかけたんだよ。

 でも、それを説明する言葉が見つからない。

 何より、「悩殺するつもりだった」という事実に、俺の動揺が止まらない。

 俺は引きつった笑みを浮かべるしかなかった。

 

 

「そ、そうか……すごい夢だったな……」

 

「ん。リオ、はなのしたのびてた」

 

「伸びてねえよ!」

 

 

 俺の必死のツッコミが、白い世界に虚しく響いた。

 足元では管理者が「おしりぃ……」と呻き、腕の中ではルミナが「いつか絶対のうさつする」と決意を新たにしている。

 前途多難。

 俺たちの共同生活は、波乱の幕開けを迎えたのだった。

 

 




管理者が出るとギャグがスルスル書けるわw
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