天才冒険者リオの英雄譚 童貞・処女しか入れないダンジョンを攻略せよ!   作:ナオ3

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エドワールさん、第三者視点で書くの結構便利w
なんかエドワールさんが裏主人公になりそう。


エドワール 試練

女は、俺を睨む。

その双眸(そうぼう)には、一切の妥協も許さぬ鋭い光が宿っていた。

嘘や虚実は、この瞳の前では無力だ。魂の奥底まで見透かされるような感覚に、俺の背筋は冷たい汗で濡れる。

やがて、女は薄い唇を開いた。

 

 

「リオを王にする、聞かせてもらおうか。その理由を」

 

 

鈴のような、それでいて氷のように冷徹な声。

 

 

「言っておくが、俺に嘘は通じない」

 

 

言い放つと同時に、女から濃密な殺気が滲み出た。

それはほんの僅かな漏出に過ぎないはずだが、俺の全身は瞬く間に冷え切り、心臓が早鐘を打つ。

 

 

(……俺、か)

 

 

これほどの美貌を持ちながら、その男口調が恐ろしいほどに似合っている。

そして、「嘘が通じない」という言葉も真実だろう。

この目を前にして、虚言を弄(ろう)せる者などこの世に存在しない。

 

 

「っ!」

 

「レオネル!」

 

 

隣でレオネルが反射的に剣の柄に手をかけようとしたが、アンナが鋭い声で制止した。

アンナの判断は正しい。

この女に剣を向けることは、すなわち自殺と同義だ。

理屈ではない。本能がそう警鐘を鳴らしている。

この場における最適解は、ただ一つ。

すべてを正直に話し、誠意を見せること。それしかない。

 

 

「俺がリオを王にしようとするのは……」

 

 

俺は、意を決して語り始めた。

洗いざらい、すべてを。

パルシリアの『聖約』により、息子たちを王に据えるには、この身の破滅――王族の処刑が必要となること。

俺の、そして一族の命が惜しければ、王族以外の人間を玉座に座らせねばならないこと。

そして、その身代わりとして最も好都合なのが、平民でありながら実力を持ち、しがらみがなく、騎士派からの全面的な支持を受けられるリオであること。

語り終え、俺は自嘲の笑みを浮かべた。

 

 

「最低な王と罵ってくれ」

 

 

女の視線から逃げずに、俺は続ける。

 

 

「俺はもう……家族を失いたくないのだ」

 

 

脳裏に蘇るのは、かつての温かな記憶。

父、母、そして妹と過ごした、二度と戻らない幸せな時間。

それがどれほど尊く、儚(はかな)いものだったか、失って初めて知った。

 

 

「そして……俺の家族にも喪失の痛みを味わわせたくない」

 

 

俺が死ねば、セシリアや息子たちは、かつての俺と同じ絶望を味わうことになる。

愛する者を理不尽に奪われる痛み。

それだけは、何としても避けたい。

 

 

「俺は家族と一緒に生きていたいんだ……」

 

 

つくづく、俺は王に相応しくない男だ。

国よりも、民よりも、己の家族を優先しようとしている。

だが、これが俺なのだ。飾ることのない、エドワールという一人の人間なのだ。

 

 

「エドワール……!」

 

「そうか……そうよね」

 

 

レオネルとアンナの沈痛な声が、俺の胸に深く響く。

彼らも知っている。無惨に殺された母と妹のことを。復讐という修羅の道を選び、自らを焼き尽くした父のことを。

あの時の苦しみ、あの空虚な絶望だけは、二度と味わいたくない。

女は目を閉じ、しばらくの間、沈黙を守った。

張り詰めた空気が、部屋を支配する。

やがて、女がゆっくりと瞼(まぶた)を開けた。

 

 

「……悪くない」

 

 

意外な言葉だった。

女の纏(まと)っていた殺気がふわりと和らぎ、部屋の空気が一気に軽くなるのを感じる。

 

 

「少なくとも、俺にも共感出来る」

 

 

女はそう呟き、俺の瞳を真っ直ぐに見据えた。

そこには、先ほどまでの冷徹さの中に、僅かながら理解の色が混じっているように見えた。

 

 

「リオの意志を無視するつもりは無いんだな?」

 

 

再び、嘘を許さぬ鋭い眼光が俺を射抜く。

 

 

「ああ」

 

 

無理強いはしない。あくまでリオが納得した上でなければ、意味がない。

 

 

「リオが納得するならいい」

 

 

女は頷いた。

 

 

「お前達もリオを支える気はあるのだな?」

 

「無論だ。俺だけでなく、一家総出で支える事を約束する」

 

「僕もだ。リオは僕の恩人だ」

 

「私もよ。娘に会わせてくれたもの」

 

 

俺たち三人の言葉に迷いはなかった。

 

 

「そうか、なら引こう」 

 

 

女は完全に殺気を収めた。

まるで嵐が過ぎ去った後の静寂のように、部屋に平穏が戻る。

 

 

「俺の事は……そうだな、レインと呼んでくれ」

 

 

レイン。

それが、この圧倒的な強者の名か。

 

 

「エドワール王、リオが受け入れない場合は俺が何とかしよう」

 

「いや、あれは建国王が定めた理念で……」

 

 

俺は慌てて首を振った。

聖約は、始まりの騎士レオンハルトの妻子を殺めてしまったことへの、王家の永遠の自戒だ。

我が国唯一の宗教組織であるレオンハルト教団にとっても、その教義の根幹に関わる極めて重い問題。

これを覆すことなど、天地がひっくり返っても不可能だ。

 

 

「俺なら出来る」

 

 

レインは平然と言い放った。

 

 

「とても大変な事になるだろうがな。まあ、今はいい」

 

 

さらりと流されたその言葉に、俺の背筋に悪寒が走る。

……果てしなく嫌な予感がする。

この女なら、それこそ物理的に世界をひっくり返すような、常識外の手段を使ってきそうだ。

 

 

「さて、俺だけ尋ねてばかりでは不公平だ。何か聞きたい事はあるか? 答えられないなら、答えられないと告げる」

 

 

レインの提案に、アンナが口を開いた。

 

 

 

「色々聞きたいけど先ずは……貴女はリオの何?」

 

 

 

そうだ。それが一番の謎だ。

リオに関する話題が出た時の、あの尋常ではない反応。

ただの知り合いや、通りすがりの協力者というレベルではない。

レインは暫く沈黙した。

その表情に、微かな迷いが見えた気がした。

そして、意を決したように口を開く。

 

 

「リオは……俺の息子だ」

 

 

……は?

俺たちの思考が停止した。

部屋の時間が止まったかのような錯覚。

リオが……彼女の息子?

目の前のレインは、どう見ても二十歳程度にしか見えない。

十八歳の息子がいるようには到底思えない。

アンナという例外は居るが...

もしや闘術を修めているのか?

高位の使い手ならほぼ不老になる。

彼女が使えても不思議では無い、というより使えない方がおかしい気がする。

始まりの騎士、レオンハルトが編み出した秘技

もしかしたら、彼女はレオンハルトに並ぶか越える実力者かもしれん。

混乱している俺達を見てレインは。

 

 

「一応言っておくが、リオは血のつながった実の息子だ。養子とかでは無い」

 

 

我々の困惑を察したのか、レインが淡々と補足する。

 

 

「でも、リオは孤児ですが……」

 

 

レオネルがおずおずと尋ねる。

そうだ、リオは身元不明の孤児であった。

 

 

「ああ、赤子のリオを孤児院の前に捨てた最低な親だ」

 

「貴女は!……っ!?」

 

 

アンナが激昂しかけ、立ち上がりかけた。

だが、レインの表情を見た瞬間、その怒りは急速にしぼんでいった。

レインは無表情を保とうとしている。だが、その瞳の奥には、耐え難いほどの苦渋と、心底からの不本意さが渦巻いていた。

我が子を捨てたことへの後悔、自責、そして断腸の思い。

それが演技だとしたら、彼女はこの世の全ての人間を騙せる稀代の詐欺師だろう。

アンナは、怒りではなく悲しみを湛(たた)えた瞳で尋ねた。

 

 

「……どうして?」

 

「……リオの為だ。それしか、言えん」

 

 

レインの声は震えていた。

それ以上、踏み込むことはできなかった。

あまりにも辛そうだったからだ。

俺たちには想像もつかない、余程の事情があるに違いない。

愛する我が子を手放さなければならなかった、血を吐くような事情が。

 

 

「……今度は俺から質問させもらうが、良いか?」

 

 

空気を変えるように、レインが言った。

 

 

「ああ」

 

「俺が聞きたい事は……ルミナの事だ」

 

 

ルミナだと!?

レオネルとアンナの肩が強張る。

自分たちの娘のことだ。緊張するのは無理もない。

レインは軽く息を吐いた。

 

 

「そう緊張するな。あの娘はリオの大切な家族だ。決して危害は加えん」

 

「そうですか……」

 

「なら、どうしてルミナを調べてるの?」

 

「ルミナを護る為だ。お前達の子だというのは盗み聞きして知ったが、どうしたら死んだ胎児がリオの前に現れたんだ? 先ずはルミナの正体を知らねば護り方を決められん」

 

 

言うべきだろうな。

彼女程の実力者がルミナの保護に協力してくれるなら極めて心強い上に信頼出来そうだ。

俺たちは顔を見合わせ、そして知る限りの真実を話した。

業魔の遺骸を浄化して得た、奇跡の素材『マテリアル』。

取り込んだレオネルとアンナが若返り、その際にアンナの体内に宿っていた死んだ胎児がマテリアルによって形を得たこと。

そしてリオの前に現れ、『ルミナ』として生を受けたこと。

全てを聞き終えたレインは、手で顔を覆い、絶句していた。

指の隙間から漏れる吐息が、彼女の驚愕の深さを物語っている。

常識外れの俺たちの話に、さすがの彼女も言葉を失ったようだ。

 

 

「道理で……」

 

 

やがて、レインは納得したように呟き、顔を上げた。

 

 

「事情は全て理解した。お前達のルミナへの想いもな。その上で告げよう。あの娘もダンジョン攻略に参加させるべきだ」

 

「なっ……!?」

 

 

レオネルとアンナが色めき立つ。

当然だ。まだ幼い、しかも奇跡的に取り戻したばかりの愛娘を、危険な戦場に送り出せと言うのだから。

 

 

「……どうしてですか?」

 

「理由を聞かせて?」

 

 

二人の声には怒りが滲んでいる。

レインは静かに息を吐き、諭すように言った。

 

 

「ルミナはリオと運命を共にしている。それはお前達もわかるだろう?」

 

 

アンナは口ごもった。

 

 

「リオがダンジョン攻略をやめれば……」

 

「自分でも受け入れられない理屈を言うべきじゃない」

 

 

レインの言葉は鋭く、そして的確だった。

 

 

「リオがヴァージニアを攻略するのは避けられん。それはお前達も薄々感じているだろう?」

 

 

そうだ。

あまりにも、お膳立てが過ぎている。

リオがダンジョン攻略へと向かうためのレールが、不可視の力によって強引に敷かれているように感じるのだ。

俺たちがいくら抗おうとも、その流れは止まらない。

 

 

「リオがヴァージニアを攻略する、その流れを変えようとすると碌(ろく)な事にならんぞ? 次から次へと攻略する理由が出てくるだろうな」

 

 

レインは遠い目をして、まるで何かを見透かしているかのように語る。

 

 

「ルミナに関してはあの娘次第だな。リオと違って強制されてるわけではないが……」

 

 

そこで言葉を切り、レインは複雑そうな表情を浮かべた。

 

 

「ルミナのリオへの執着は俺も驚愕する程強いのだが? あれだけ幼いのに成長して女として自意識が芽生えたらどうなるか……恐ろしい」

 

 

彼女の声には、本気の戦慄(せんりつ)が混じっていた。

いや、待て。

レインほどの規格外の存在が恐れるほど、あの幼女は「凄い」のか?

俺はルミナの姿を思い出す。

『リオー!!』と無邪気に抱きつく愛らしい姿。

だが、その裏で時折見せる、底知れない瞳の暗さを。

リオがメイドの胸元に視線を向けた際、一瞬だけルミナの瞳から光が消えるのを、俺は目撃したことがある。

なんというか……レオネルとアンナの愛情の重さを足して、さらに煮詰めて凝縮したら、ああなるのだろうか?

俺は恐る恐る、レオネルとアンナを見た。

 

 

「そんなに見ないでくれ、エドワール……」

 

「わかってるわよ、私達が重いって事は……」

 

 

二人は気まずそうに視線を逸らした。

やめよう。あの娘の将来の恋愛事情を考えるのは。胃に穴が開きそうだ。

 

 

「ルミナに関しては今はなんとも言えないが...」

 

「今はそれでいい、俺も幼子を戦いの場に出したいとは思わん」

「...確実にあの娘はリオに着いていくと思うが」

 

 

うん、ルミナはアンナの娘だし...

 

 

「なによ...」

 

「いや...」

 

 

ルミナに関しては保留にしよう。

俺は、今まで胸の内に抱えてきた最大の疑問を、レインにぶつけることにした。

ありとあらゆる状況が、リオを攻略へと導こうとしている。

これは偶然ではない。

 

 

「俺は、誰かの作為を常々感じていた」

 

「エドワール?」

 

「……」

 

 

レオネルは不思議そうな顔をしているが、アンナはやはり気付いていたようだ。彼女の表情には驚きはない。

 

 

「その懸念は正しい」

 

 

レインは重々しく頷いた。

 

 

「そうだ、これは作為だ。運命の、な」

 

 

忌々しそうに、彼女は吐き捨てた。

その瞳には、運命という名の理不尽に対する激しい憤りが燃えている。

 

 

「そうでなくば、リオを戦わせるものか……!」

 

 

その言葉は、血を吐くような叫びにも聞こえた。

母親としての悲痛な叫び。

 

 

「すまないが聞かせてくれ。貴女が戦う事は出来ないのか?」

 

 

俺は核心を突いた。

これほどの実力者であるレインが、自ら戦えば済む話ではないのか。

 

 

「俺は戦えない」

 

 

レインは即答した。苦渋に満ちた声で。

 

 

「戦えば攻略出来る自信はある。その代わり、より大きな問題が発生するぞ? それこそ、世界が滅ぶくらいの、な」

 

 

世界が、滅ぶ。

彼女が言うと、それが誇張や比喩には聞こえない。

背筋が凍りつくようなリアリティを持って、その言葉は俺に突き刺さった。

 

 

「今回はここまでにしよう。お前達も限界だろう?」

 

 

レインは溜息交じりに言った。

俺は無言で頷く。正直、精神的な疲労が限界に達している。

レオネルとアンナも、同様に憔悴(しょうすい)しきっていた。

 

 

「エドワール王、俺は貴方にどうしても言わないといけない事がある」

 

 

帰り支度を始めようとした俺を、レインの声が呼び止める。

俺は身構えた。

一体何を言われるというのだ。

 

 

「何でしょうか?」

 

「ああ、それは……」

 

 

レインのこめかみに、青筋が浮かんだ。

先ほどまでの冷静沈着な態度が嘘のように、彼女から明確な「怒気」が放たれる。

 

 

「謁見の間で、リオの初恋を無惨に散らした件についてだ」

 

 

…………あっ。

思考が真っ白になった。

思い出す、パルシリアの黒歴史である若者達の青春が木っ端みじんになった瞬間を。

いや、本当にあの連鎖は酷かった。

あれは、俺の失策だ。

知らなかったとはいえリオがミリアに想いを寄せていたのに、あんな形で俺はゼインとミリアの関係を公の場で明らかにしてしまった。

そもそも、アンナの言う通り、公の場で聞くべきじゃなかっただろ俺!?

何故俺はあんな所で若者達に童貞処女か尋ねてしまったんだ、馬鹿だろ!?

あああああ!!!あのリオの悲痛な叫びが蘇ってくるううう!!?

 

 

「失恋するのはいい、それもまた青春だ。だが、あんな形で終わらせたお前には、タップリと言いたい事がある。いいな?」

 

 

レインの背後に、鬼の形相が見える気がした。

母親の怒り。それは、どんなドラゴンよりも恐ろしいものだ。

俺は助けを求めるように、レオネルとアンナに視線を向けた。

 

 

「ごめん、エドワール……」

 

 

レオネルは申し訳なさそうに目を伏せた。

 

 

「タップリ言われなさい。私はレインの味方よ」

 

 

アンナに至っては、腕を組んでレインの隣に並び立つ勢いだ。

 

 

「覚悟しろ……!」

 

 

レインが一歩、近づいてくる。

セシリア……。

無事に帰れたら、思い切り甘えてもいいだろうか?

俺は心の中で妻の名を呼びながら、説教という名の新たな試練へと足を踏み入れたのだった。




ちなみに、レインさんは処女です(重要)
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