天才冒険者リオの英雄譚 童貞・処女しか入れないダンジョンを攻略せよ!   作:ナオ3

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ちょっとエッチい回です。


38話 童貞の悲しき性

目を覚ます。

 瞼の裏を刺すような白い光が、意識を強制的に現実へと引き戻す。

 精神世界に入る前よりも、外は更に明るくなっていた。どうやら結構な時間が経過してしまったらしい。

 朝だ。爽やかな、清々しい朝だ。

 だが、俺の現状は爽やかさとは程遠い。

 むしろ、極めて重厚で、甘美で、そして致命的な危機的状況にあった。

 顔を覆う極上の感触。

 鼻腔をくすぐる花のような甘い香り。

 そして、全身に伝わる人肌の柔らかさと温もり。

 俺はなるべくその感触から意識を逸らすようにして、恐る恐る上を見上げた。

 そこにいたのは、まだ「大人」なルミナだった。

 黄金の髪をシーツのように広げ、陶磁器のように滑らかな肌を露わにした、全裸の絶世美女。

 

 

(チクショウ! 戻ってねぇぞ!!)

 

 

 俺は内心で盛大に悪態をついた。

 いや、元に戻ってるなんて彼は一言も言ってないけどさ!

 「神の力は抑えられた」とは言ったけど、「身体が元に戻る」とは言ってなかったけどさ!

 でも、普通は異常事態を収めたら元に戻るのが物語の流れってもんじゃないのか!?

 ……まあ、ルミナは存在自体が普通じゃないだろと言われたら、ぐぅの音も出ないが。

 俺は一縷の望みをかけて、つい先ほどまで語り合っていた友に呼びかけた。

 

 

(レオ、聞こえるか? レオハルト様ーヘルプ!)

 

 

 ……応答はない。

 彼とのパスのようなものは完全に切れているようだ。

 

 

(駄目か……)

 

 

 今度はルミナの中にいるはずのもう一人の住人に呼びかける。

 

 

(おーい、ステラー? 女神様ー助けてー!)

 

 

 ……こっちもか。

 猫の鳴き声すら聞こえない。完全に沈黙している。

 つまり、俺はこの現状に、孤立無援で立ち向かわなければならないということだ。

 その時、頭上の美女が身じろぎをした。

 長い睫毛が震え、ゆっくりと瞼が開かれる。

 宝石のような緑の瞳が、ぼんやりと俺を映した。

 

 

「んん……リオ?」

 

 

 甘く、少し掠れた声。

 それだけで背筋がゾクリとするような色気がある。

 

 

「ああ……おはよう、ルミナ」

 

 

 俺は努めていつも通りに挨拶を返そうとした。

 だが、ルミナを直視することができない。

 視界のどこを見ても、白くなめらかな肌、豊かな曲線、そして……いや、駄目だ。

 刺激が強すぎる。ある意味で猛毒だ。

 

 

「あれ、いつもとちがう?」

 

 

 ルミナが、自分の身体を見て首を傾げた。

 視線が自分に落ち、現状をようやく把握したようだ。

 視点の高さが違う。手足の長さが違う。そして何より――。

 

 

「……おお」

 

 

 ルミナが、自分の胸に触れた。

 たわわに実った果実を、不思議そうに両手で包み込む。

 ムニュン、という効果音が幻聴で聞こえてきそうなほどの弾力と重量感。

 俺は必死に目を逸らした。

 本能が「見ろ! 見ろ!! そこには男の夢があるぞ!!」と叫んでいるが、俺はそれを理性の鎖で無理矢理捩じ伏せる。

 

 

「ルミナ、取り敢えず服を着よう、な?」

 

 

 声が裏返りそうになるのを必死に堪えて提案する。

 不思議なことに、以前のような「理性を問答無用で溶かされる」感覚はなかった。

 あの時感じた抗いがたい魅了の波動のようなものは消えている。

 どうやらあの奇妙な強制力は神の力の暴走によるものだったらしい。

 だが、この状況は心臓に悪すぎる!

 強制的な魅了が無くなった分、俺は「素のルミナ」の美しさを、より鮮明に、冷静に理解してしまっていた。

 朝日に透ける美しく長い金色の髪。

 女神さえも嫉妬しそうなほど整った顔立ち。

 そして、ミリアが見たら血涙を流して悔しがりそうなほど完璧なプロポーション。

 今のルミナは、まさに「美の暴力」だ。

 

 

「リオ……」

 

 

 俺に問いかけるルミナ。

 大人びた艶のある声と、幼さを感じさせるあどけない口調。そのアンバランスさが、脳を揺さぶってくる。

 

 

「……どうした?」

 

「きれい?」

 

 

 その言葉の意味がわからない程、俺は鈍感じゃない。

 彼女は純粋に聞いているのだ。今の自分が、俺にとってどう見えるかを。

 俺はルミナを傷つけないように、そして自分自身に嘘をつかないように、正直に答えた。

 

 

「綺麗だ。心臓がバクバクしてる」

 

 

 本心だ。

 童貞云々を抜きにしても、顔が熱くて爆発しそうだ。

 男として、これほど美しい存在を前にして平然としていられるはずがない。

 

 

「だから……その……あまり近寄らないでくれ」

 

「どうして?」

 

「魅力的過ぎて……ちょっとやばいんだ」

 

 

 俺は白状した。

 ルミナが不思議そうに首を傾げる。

 

 

「そうなの?」

 

「ああ……正直、ルミナをいやらしい目で見ない自信は無いんだよ……」

 

 

 情けない。

 あれだけ「家族だ」と言っておきながら、異性として意識してしまっていると告白するなんて。

 最低だ。

 けど、変に誤魔化してルミナを傷つけるくらいなら、自分の恥を晒した方が遙かにマシだ。

 ルミナは悪くない。俺の自制心の弱さが、男としての未熟さが全ての原因なんだ。

 だが。

 

 

「リオ」

 

 

 ルミナが近寄ってきた。

 無表情に見えるが、その白い頬がほんのりと朱に染まっている。

 

 

「みて」

 

 

 彼女は短く言い、さらに距離を詰めてくる。

 俺は反射的に逃げようと身をよじった。

 しかし――。

 ドンッ。

 その瞬間に、ルミナに腕を掴まれ、押し倒された。

 マットに背中が沈む。

 その上から、ルミナがのしかかってくる。

 視界が肌色で埋め尽くされる。

 嫌でもルミナの全身が見えてしまった。

 腰のくびれ、滑らかな太腿、そして豊かな胸。

 情欲よりも先に、そのあまりの美しさに心を奪われてしまった。

 窓から差し込む朝日に照らされたルミナは、これ以上無いほど神々しく、美しかった。

 

 

「ルミナ!?」

 

「にげないで」

 

 

 ルミナが俺の肩を押さえつける。

 俺は思わず振り払おうと力を込めた。

 だがビクともしない。

 

 

(嘘だろ!?)

 

 

 相変わらずルミナに力負けしている!?

 神の力は抑えられた筈なのに、どうしてさ?

 もしかして……これが「素」の身体能力なのか?

 成長したルミナって、こんなにも物理スペックがやばいの!?

 滅茶苦茶武の才があるとは思っていたけど、純粋な筋力だけで俺を制圧するほどとは!

 

 

「リオ……」

 

 

 ルミナの顔が近づいてくる。

 吐息がかかる距離。

 大きな胸が俺の胸板に押し付けられ、形を変えて潰れる。

 柔らかさと弾力。

 心臓の鼓動が、直接伝わってくるようだ。

 この感触だけで死にそうになる。

 

 

「待て! ルミナ待ってくれ!!」

 

「やだ」

 

 

 拒絶された。

 ルミナは止まらない。

 頬を赤く染め、潤んだ瞳で俺を見つめながら、ゆっくりと顔を寄せてくる。

 これは遊びじゃない。

 本能的な、あるいはもっと深い衝動に突き動かされているような。

 唇が、くっつきそうになる。

 あと数センチ。数ミリ。

 その瞬間。

 

 

「はーい、ストープ!!」

 

 

 凛とした、よく通る女性の声が部屋に響いた。

 俺とルミナの動きが凍りつく。

 視線を向けて見ると、ベッドの横に一人の女性が立っていた。

 

 

「アンナ、さん?」

 

 

 そこにはルミナに負けず劣らずの美しい女性が居た。

 肩まで掛かる艶やかな亜麻色の髪。

 ルミナと同じく、宝石のように透き通った緑の瞳。

 ルミナと同レベルに整った顔立ちだが、その瞳には見た目に似合わぬ深い知性と、人生経験を伺わせる落ち着きがあった。

 アンナ・オーリン。

 昨日、剣を交わした騎士レオンの妻。

 彼女が、半眼でこちらを見下ろしていた。

 やばい。

 彼女はレオンと同じく、年齢に見合わぬ重厚な空気を纏っている人だ。

 レオネル騎士団長どころか、伝説の英雄レオンハルトの後継者として誰よりも相応しい漢レオン。

 そんな彼を支える才女であり、英雄夫妻の片割れの名を持つ愛妻のアンナ。

 そんな彼女に、こんな光景を見られてしまった。

 傍目から見れば――。

 幼女であるルミナを部屋から叩き出した(ように見えるかもしれない)。

 そして、どこからか連れ込んだ妙齢の全裸美女と朝から一戦しようとしている図だ。

 しかも、俺が押し倒されているとはいえ、状況証拠は真っ黒だ。

 我ながら最低だ。男の屑だ。

 きっと、夫であるレオンにも伝わるだろう。

 せっかく尊敬出来て、頼もしい友が出来たのに……。

 あああ、あの温厚で優しくて、ちょっと天然だけど頼りになるレオンに軽蔑の目で見られたら死ぬぅ!!!

 

 

(おわった……)

(この状況を上手く説明する自信なんて欠片も無い……)

 

 

 絶望のあまり顔面蒼白になる俺に、アンナさんが語りかける。

 その声色は予想に反して穏やかなものであった。

 

 

「大丈夫、エドワール……陛下から事情は聞いてるから」

 

 

 そして、ルミナの方を見て言った。

 

 

「彼女は、ルミナでしょ?」

「あ、ああ……ルミナなんだが……」

 

 

 俺は頷くことしかできなかった。

 事情を聞いている?

 陛下から?

 幼女が一晩で大人になったという超常現象を、どうすれば納得させられるんだ?

 ていうか、エドワールさんに何を聞いたんだろ?

 俺の知らない事を彼女は知っているのだろうか?

 

 

「無理に説明しなくてもいいわ」

 

 

 アンナさんは、俺の混乱を察したように微笑むとベッドに近づいた。

 

 

「取り敢えず、ルミナの事は任せて」

 

 

 そう言ってルミナの肩に手を置く。

 

 

「ルミナも、まだ早いわよ」

 

 

 アンナさんが軽く引くと、ルミナはあっさりと俺から離れた。

 俺が幾ら抵抗しても岩のようにピクリとも動こうとしなかったのに……。

 まるで魔法のように、すんなりと。

 

 

「むう」

 

 

 ルミナが頬を膨らませる。

 大人びた容姿と、子供のあどけなさのギャップが破壊的だ。

 

 

「はいはい、むくれないの」

 

 

 アンナさんは慣れた手つきでルミナの頭を撫でる。

 ……なんか、少し見ない間に凄く仲良くなってない?

 

 

(すげえ、俺と大して変わらないのにお母さんオーラがバンバン出てる!)

 

 

 俺は戦慄した。

 アンナさんのお母さんオーラが凄すぎる。

 見た目はほぼ同年齢の姉妹みたいなのに、二人の間に流れる空気がまるで母娘みたいに自然だ。

 割と頑固なルミナもアンナさんに従っている。

 これが包容力というやつか!?

 コンコン。

 その時、控えめなノック音が響いた。

 

 

「アンナ、服を持って来たよ」

 

 

 扉の外からレオンの声が聞こえてくる。

 

 

 (ヒィッ!?)

 

 

 頼む、入って来ないでくれ!

 今のこのカオスな状況を、そして俺の痴態を見ないでくれ!!

 

 

「ありがとう、レオン」

 

 

 アンナさんが扉を僅かに開け、隙間から袋を受け取る。

 レオンは部屋の中を見ようともせず、手だけを伸ばして渡してくれたようだ。

 紳士だ。心底紳士だ。

 服を受け取ったアンナさんを見て、俺はふと疑問に思った。

 

 

「……準備良すぎないか?」

 

 

 そう、何故このタイミングでレオンが女性用の服を持って来たんだ?

 まるでこうなることが分かっていたかのように。

 

 

「世話焼きな、お姉さんに話を聞いてね」

 

「お姉さん……あ〜、メイドさんか」

 

 

 納得した。

 きっと、俺が目覚める前に部屋に入ろうとしたメイドさんの誰かが中の惨状(全裸美女と寝ている俺)を見て、慌ててレオンたちに報告したのだろう。

 それを聞いてアンナさんが「着替えが必要だ」と判断し、レオンに手配させた。

 あるいは、アンナさんの予備の服を持ってきたのか。

 それにしても、全裸の美女を見て「あ、これルミナちゃんだ」と判断し、動じずに対処できるアンナさんの胆力は凄い。

 やはり、エドワールさんはルミナについて何か重要なことを知っていて、それを彼らに伝えているようだ。

 まあ、レオが精神世界で「大丈夫だ」と言ってくれてたし、一先ず保留にしよう。

 今はそれどころじゃない問題がある。

 はぁ……。

 俺は深いため息を吐いた。

 俺はこれから、メイドさんにどの面下げて会えばいいのだろうか?

 「幼女を部屋に入れたと思ったら、翌朝全裸の美女になってました」なんて、どんな弁明も通じないぞ。

 きっとメイドネットワークで俺の糞っぷりが広まってるんだ、きっと。

 でも、アンナさんは俺の心情を察してか、苦笑交じりに言った。

 

 

「……まあ、そういう事。メイドの方にも箝口令を敷いてるから、広まる事は無いわ」

 

「ありがとう、アンナさん……」

 

 

 社会的に九死に一生を得た気分だ。

 ああ、彼女の気遣いが心に染みる……。

 本当に出来た人だ。

 こんな素晴らしい奥さんを貰っているレオンが、心底羨ましくなる。

 

 

「どういたしまして」

「ほら、こっちに来なさい。着け方を教えてあげるから」

 

 

 アンナさんはルミナの手を引き、部屋の隅に備えてある衝立(ついたて)の方へ向かおうとする。

 着替えだ。

 全裸のルミナに、服を着せるのだ。

 

 

「俺が出て行くよ」

 

 

 俺は反射的に言った。

 同じ部屋で女性が着替えている状況は、思春期の男子にはキツすぎる。

 それに、これ以上ここに居たら理性が蒸発してしまう。

 だが、アンナさんは困ったように、それでいて優しく微笑んで制止した。

 

 

「……貴方は暫くそこに居なさい」

 

「え?」

 

「せめて落ち着いてから、ね?」

 

 

 意味深な視線。

 アンナさんはルミナを連れて、衝立の向こうへと消えていった。

 ……落ち着いてから?

 どういう意味だ?

 俺は怪訝な顔をして、自分の身体を見下ろした。

 そして、瞬時に全ての疑問が解決した。

 自分の股間がこれまでに無いほどいきり立っている。

 俺は思わず感嘆の声にならない声をあげた。

 

 

「すっげえ……こんなにも大きくなるんだな……」

 

 

 いや、感心している場合じゃない!

 過去に類を見ないレベルで大きく、硬くなっている俺の愚息。

 寝巻き用の薄手のズボンだから、その形、大きさ、角度に至るまでが、くっきりと浮き彫りになっている。

 ルミナにあれだけ密着され、擦り付けられ、視覚的にも触覚的にも極上の刺激を受け続けた結果だ。

 僅かに震えてる様は、まるで噴火寸前の活火山のようだ。

 つまり。

 アンナさんは、これを見ていた。

 この、元気いっぱいすぎる俺の聖剣を、バッチリと視認していたのだ。

 だから「落ち着いてから出なさい」と言ったのだ。

 この状態で廊下に出たら、新たな変質者伝説が生まれてしまうから。

 

 

「..........しにてえ」

 

 

 俺は両手で顔を覆い、ベッドに倒れ込んだ。

 恥ずかしい。

 恥ずかしすぎて頭が爆発しそうだ。

 扉の外に居るレオンに申し訳ない。

 貴方の奥さんに、俺のそそり立つ息子を見せつけてしまいましたなんて、口が裂けても言えねえ……。

 レオンはきっと、優しく微笑んでくれるだろう。

 

 

『大丈夫だよ、男なんだから仕方が無いさ、リオ』

 

 

 と、あの穏やかな声で慰めてくれるんだ……。

 やめてくれ。その優しさが一番辛い。

 泣きたい。怒られる方がまだマシだ。

 「僕の妻に汚いものを見せるな!」って殴られた方が、どれだけ気が楽か……。

 

 

「私の下着だけど、キツくない?」

 

 

 衝立の向こうから、アンナさんの声が聞こえる。

 

 

「ん、いいかんじ」

 

 

 ルミナの声。

 

 

「ふふ、機会があったら服と一緒に買おっか」

 

「うん」

 

 

 楽しそうな会話。

 衣擦れの音。

 「そこはもっと締めて」「こっちはリボンを結んで」といった、女性ならではのやり取り。

 俺はその音を聞きながら、いつ鎮まるとも知れない愚息を抱え、ただひたすらに項垂れていた。

 




世話焼きお姉さん「しまった、男の生理現象を完全に失念していた」

童貞に限らず男なら誰でもなってしまうだろと言うツッコミは受け付けません!
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