天才冒険者リオの英雄譚 童貞・処女しか入れないダンジョンを攻略せよ!   作:ナオ3

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家族の団らん回


39話 英雄夫妻

「そう、この紐をね……こうやって通すのよ」

 

「んん、くすぐったい」

 

 

 部屋の隅に置かれた衝立(ついたて)の向こうから、かすかな衣擦れの音と共に、アンナさんとルミナの楽しげな声が聞こえてくる。

 その幼くも、今の体格相応の色っぽさを孕んだ声が耳に届くたび、俺の理性は激しい自己矛盾と戦う羽目になっていた。

 ただでさえ、先ほどまで全裸の超絶美女ルミナと密着していたのだ。

 俺の愚息はまだその感触と熱を鮮明に記憶しており、薄手のズボンを突き破らんばかりに猛烈な自己主張を続けている。

 俺の愚息が囁いてくる幻聴がしてくる。

 

 

『親父ぃ、あの衝立の向こうに天国があるぜぇ? ちょっと覗いてみようや』

 

(馬鹿野郎! 俺は獣じゃない! ルミナの保護者だぞ!)

 

『でもよぉ、あんな声聞かされて、黙ってられる男がいるかよ? ほら、想像してみろって。アンナの手つきに身をよじる、成長したルミナの裸体を……』

 

 

 ビクンッ!

 衝立の向こうから聞こえる声に反応し、俺の愚息がさらに一段階、硬度とサイズを増した。限界突破だ。痛いくらいだ。

 

 

(くそっ、このままじゃ本当に理性がもたない! こうなったら、最後の手段だ!)

 

 

 俺は目を固く閉じ、この世で最も俺の性欲を減退させる、絶対に興奮しないおぞましい光景を脳内に強制レンダリングした。

 ターゲットは、俺の幼馴染のゼインとガルドだ!

 

 

『正気かよ!? 親父!!?』

 

(うるせぇ! このドラ息子が!! 大人しく眠りにつけ!!)

 

 

 俺は想像する。

 幼馴染でクールでイケメンなゼイン。

 同じく幼馴染で、ガチムチで男らしい熱血漢のガルド。

 その二人が、何故かオイルまみれの全裸で、ベッドの上でねっとりと絡み合っている姿を。

 

 

『ガルド……俺の魔剣を受け止めてくれ!』

 

『おうよ、ゼイン! 俺の分厚い雄っぱいで、お前の全てを受け止めてやるぜ!!』

 

 

 暑苦しい筋肉と筋肉のぶつかり合い。飛び散る汗。見つめ合う二人の熱い視線。

 そして、その背後には……なぜかミリアとレイナが幻影として浮かび上がる。

 

 

『はあ、はあ、はあ……ゼインが、ガルドと……ッ! こんなの、私が読んでる薄い本そのものだよぉ!! 尊い……尊すぎるよぉ!!』

 

 

 ミリアは鼻血を吹き出しながら、謎のスケッチブックに猛烈な勢いでペンを走らせている。すっかり腐の道に堕ちた顔だ。

 

 

『あああ……嘘でしょ? ガルドが……私のガルドが、あっちの世界に……!? いやあああああ! 脳が壊れるぅぅぅ!?』

 

 

 レイナは頭を抱え、絶望のあまり白目を剥いて泡を吹いている。

 

 

(うおおおおお!?)

(なんて、おぞましい……。地獄絵図だ……)

 

 

 効果は覿面(てきめん)だった。

 

 

 『ぎゃああああああ!!?』

 

 

 断末魔をあげる俺の愚息!

 俺の愚息は、まるで氷水を浴びせられたかのようにみるみるうちに萎縮し、大人しくなっていった。

 完全な鎮火だ。大成功である。

 だが、その代償として、俺の精神に深いダメージが残った。

 心の中で深く謝っておこう。すまん、ゼイン、ガルド。お前たちの友情をこんな形で穢してしまって。

 それにしても、なんでミリアとレイナまで出てきたんだ?

 ミリアが腐女子になって、レイナが脳破壊されてるなんて。俺の頭の中はどうなってるんだ? ストレス溜まってるのかな……。

 そんな馬鹿な葛藤を繰り広げているうちに、衝立の向こうの気配が変わった。

 

 

「よし、着れたわね。こっちにおいで」

 

「ん」

 

 

 足音がして、衝立の横からルミナが姿を現した。

 俺は息を呑んだ。

 着替え終わったルミナが身に纏っているのは、ドレスや可憐なワンピースではない。

 実用的な細身のズボンに、しっかりとした生地のジャケットだった。

 野外で活動するような、頑丈で地味な色合いの服装。

 一見すると野暮ったい男装のようなスタイルだが――それが、ルミナには不思議なくらいに似合っていた。

 成長したルミナの、無駄な肉のない引き締まった肢体。それでいて女性特有の柔らかな曲線は隠しきれていない。

 長い手足がズボンのラインを美しく際立たせ、ジャケットの襟元から覗く白い首筋が、妙に色っぽい。

 美しい金髪が、その無骨な服装と鮮やかなコントラストを描き、彼女の「凛とした美しさ」を限界まで引き出している。

 アンナさんは少し申し訳なさそうに苦笑した。

 

 

「城に持ち込んだ私の予備の服って、こんな実用一点張りのものしか無いのよね。少しは女らしい服を持ってくるべきだったわ」

 

 

 後悔するアンナさんだが、俺は首を横に振った。

 

 

「いや、とても似合ってる。すっげえ格好いい!」

 

 

 俺が本心から絶賛すると、ルミナは無表情のままだったが、その白い頬がほんのりと桜色に染まった。

 

 

「ん!」

 

 

 照れたように、こくりと頷く。

 その仕草の愛らしさと、男装の麗人のような容姿のギャップ。街を歩けば、男だけでなく女からも黄色い悲鳴が上がりそうだ。

 

 

「ふふ、リオくんが褒めてくれて良かったわね」

 

 

 アンナさんが優しく微笑み、扉の方へと向き直る。

 

 

「レオーン、終わったわよ。入ってもいいわ」

 

 

 ガチャリ、と重い音を立てて、部屋の扉が開いた。

 

 

「入るよ」

 

 

 レオンが、落ち着いた足取りで部屋の中に入ってくる。

 その顔を見た瞬間、俺の胸にチクリと罪悪感が走った。

 さっきまで大人ボディの幼女と密着していた上に、彼の奥さんに俺の暴れん坊将軍を堂々と見せつけてしまったのだ。

 彼の顔が直視できない...

 そんな俺の卑小な想いをよそに。

 レオンの足が、ピタリと止まった。

 彼の視線の先には、男装姿の大人ルミナがいる。

 レオンの瞳が限界まで大きく見開かれていた。

 だが、その目は決して美しい女性に見惚れている男の目ではない。

 その奥で、激しい動揺、驚愕、そして……深海のように暗く、底知れない「悲哀」が渦巻いているのが見て取れた。

 彼は、まるでこの世ならざる亡霊を見たかのように、あるいは二度と叶わないと諦めていた幻の夢を見たかのように、ルミナから目を離せずにいた。

 口元が微かに震えている。

 

 

「……君は、ルミナかい?」

 

 

 掠(かす)れた声だった。喉から血が滲むような、絞り出された声。

 

 

「……うん」

 

 

 ルミナが静かに頷く。

 その瞬間、レオンは胸が詰まったように息を呑み、大きな手で顔を覆った。

 

 

「そうか……もし……もしも……あんな事が無ければ……こんな……」

 

 

 指の隙間から、押し殺したような、ヒュウという悲痛な吐息が漏れる。

 後悔と、痛みと、狂おしいほどの愛しさが綯い交ぜ(ないまぜ)になった、慟哭に近い感情。

 彼のような屈強な男が、今にもその場に泣き崩れてしまいそうなほど、脆く、小さく見えた。

 

 

「……っ」

 

 

 俺は戸惑った。

 どうしたんだ? 何が起きている?

 何故、大人になったルミナを見て、彼がここまで動揺する?

 ただ似ているとか、見惚れているわけじゃない。

 根本的な、彼の魂の根幹を揺さぶるような「何か」を、ルミナに見出している。

 あまりの尋常ではない様子に俺はたまらず声をかけた。

 

 

「どうしたんだ、レオン!?」

 

 

 辛そうだ。彼が抱えている絶望の深さに、俺まで息苦しくなる。

 あと少しで彼が泣き出しそうな、崩れ落ちそうな危うさがあった。

 

 

「……ああ、いや、ごめん」

 

 

 俺の声でハッと我に返ったのか、レオンは顔を覆っていた手を下ろした。

 無理矢理に表情を取り繕おうとしているが、その目元は赤く充血し、顔には隠しきれない苦渋が張り付いている。

 

 

「いいんだ、それよりも辛そうだぞ? 何があったんだ?」

 

「それは……」

 

 

 レオンが言葉に詰まる。

 その時、アンナさんがスッと無言で動き、俺とレオンの間に立った。

 彼女の顔にもまた、レオンと同じような、いや、より一層深い、複雑な感情が滲み出ていた。

 だが、彼女はそれを強靭な精神力で抑え込み、俺を真っ直ぐに見つめた。

 

 

「お願い。今は、そっとしてあげて」

 

 

 静かな、けれど絶対的な意志を伴う、懇願の声。

 それ以上は聞くな、という明確な境界線が引かれた。

 

 

「……わかった」

 

 

 俺は引き下がるしかなかった。

 俺のような部外者が興味本位や浅薄な善意で土足で踏み込んでいいものではない。本能がそう告げていた。

 レオンとアンナさんが抱える心の傷は、俺が想像するよりもずっと深いのかもしれない。

 それこそ、決して触れてはならない、血を流し続けている聖域のように。

 

 

(でも、どうしてルミナを見て?)

 

 

 疑問は重く残る。

 ルミナの成長した姿が、彼らの何に触れたというのか。

 思案の海に沈みかける俺の意識を、アンナさんがパン!と柏手を打って現実に引き戻した。

 

 

「リオくん、今はルミナの事よ」

 

「っと、そうだったな」

 

 

そうだ、まだ聞いていない事があった。

 

 

「ルミナ、身体の調子は?」

 

 

 屈み込み、ルミナの目線に合わせて尋ねる。

 

 

「だいじょうぶ」

 

 

 少しの間観察してみるが、本当のようだ。

 ...やはり、心臓に悪い。

 余りにも魅力的過ぎる。

 

 

「そうか……さて」

 

 

 これからどうしよう?

 ルミナと同じ部屋で暮らす?

 ……いや、流石に無理だ。

 

 

(駄目だ、今のルミナと同じ部屋で生活なんて出来ない)

 

 

 こんな絶世の美女が、俺に対して無警戒に甘えてくるのだ。

 今は正気を保っていても、夜、同じベッドで寝息を立てられたりしたら?

 もしも俺が獣の欲望に負けて、ルミナを傷つけるような真似をしてしまったら、俺は自分自身を一生許せない。死んで詫びるレベルだ。

 俺が真剣に部屋を分けることを考え始めた、その瞬間。

 ルミナの肩が、ビクッと跳ねた。

 

 

「リオ!」

 

 

 ルミナが、かつてないほど焦った顔をした。

 まるで、捨てられることを直感した子犬のように。瞳孔が揺れ、切羽詰まった表情で俺に近寄ろうとする。

 

 

「はい、落ち着きなさい」

 

 

 飛びつこうとしたルミナの背後から、アンナさんが流れるような動作で羽交い締めにした。

 俺も焦って身を乗り出す。

 

 

「ど、どうしたんだルミナ!?」

 

 

 俺が動こうとした瞬間、今度は背後からレオンの大きな手が俺の肩を抑えた。

 力は全く入っていない。ひどく優しい感触なのに、まるで岩に縫い留められたように一歩も動けなくなる。

 

 

「アンナに任せて」

 

 

 耳元で、レオンが静かに囁く。

 ルミナは「離して!」とばかりに少し暴れるが、アンナさんは力ではなく、巧みな重心移動と関節のコントロールでルミナを完全に無力化している。

 

 

「大丈夫よ、ルミナ。リオくんは貴方を嫌いになったわけじゃないわ。ただ、困っているだけ」

 

 

 耳元で優しく囁きかけられ、背中をゆっくりと撫でられると、暴れていたルミナの力が次第に抜けていった。

 荒い呼吸が落ち着き、ルミナが大人しくなる。

 何故ルミナはあんなに慌てたのか...

 アンナさんがルミナの肩を抱いたまま、優しく問いかけた。

 

 

「ルミナ、出来る?」

 

「……ん」

 

 

 ルミナが小さく頷き、目を閉じた。

 次の瞬間だった。

 ルミナの身体を淡い光が包み込んだかと思うと、その長身がシュルシュルと縮んでいく。

 そして光が収まった後には――いつもの、幼いルミナが立っていた。

 しかも、着ていたはずのアンナさんの服は消え、いつもの愛用している白いワンピース姿に戻っている。

 

 

「ええ!?」

 

「なんと……」

 

 

 俺とレオンは、文字通りポカンと口を開けて驚愕の声を上げた。

 服ごと戻った!? 質量保存の法則はどうなってるんだ!?

 アンナさんは、俺たちの驚きをよそに、涼しい顔で説明を始めた。

 

 

「色々話を聞いたんだけどね。どうやら子供の身体と大人の身体、二つを自分で切り替える事が出来るらしいわ」

 

「切り替える……?」

 

「ええ。だから、普段はリオくんを困らせないように、子供の姿で過ごして貰うように『説得』したの」

 

「説得したからって……」

 

 

 俺は戦慄した。

 衝立の向こうで着替えていた、あのほんのわずかな時間の間に?

 どんだけ優れた話術なんだよ!?

 あの頑固なルミナからそんな重大な秘密を聞き出し、しかもあっさりと約束を取り付けるなんて。

 

 

「あ、ああ……」

 

 

 俺は頭を抱えた。

 アンナさんの状況把握能力と、問題解決能力が高すぎる。

 ある意味、剣の腕前なんかより遙かに恐ろしいスキルだ。

 俺は、隣に立つレオンにこっそりと耳打ちした。

 

 

「レオン、お前の奥さん……凄いな」

 

「ははは……彼女には一生勝てないよ」

 

 

 レオンは誇らしげに、そして少しだけ肩をすくめて笑った。

 何はともあれ、これでルミナと普段通りに過ごす事が出来る。

 別部屋にする必要もなくなった。

 俺は心からの感謝を込めて、アンナさんに向かって深く頭を下げた。

 

 

「本当に、ありがとう、アンナさん。助かりました」

 

 

 すると、アンナさんはふわりと微笑み、首を横に振った。

 

 

「ん~、アンナで良いわよ」

 

「え?」

 

「レオンの事は呼び捨てにしてるじゃない? 私だけ『さん』付けなのは、壁があるみたいで少し寂しいわ」

 

 

 俺は目を瞬かせた。

 

 

「いや、レオンは確かに呼び捨てにしてるけど、それは昨日剣を交わして、なんていうか……男同士のノリみたいなもので……アンナさんは昨日会ったばかりの女性だし……」

 

 

 アンナさんは、俺の言葉を遮り、真剣な瞳で俺を見た。

 

 

「いいの。私達は、貴方に大きな恩があるのだから」

 

「恩って……昨日、初めて会った筈では?」

 

 

 俺は首を傾げた。

 昨日、エドワールさんに俺の護衛騎士として紹介された時が初対面の筈だ。

 以前にも会った事があるなら、絶対に憶えている。

 これ程までに圧倒的な存在感を持つ夫婦を忘れる程、俺の記憶力はボケちゃいない。

 

 

「そうね、直接会ったのは昨日が初めて。でも、貴方は私達にとって、かけがえのない恩人なのよ」

 

「どういう……」

 

「貴方が、レオネル・ジークフリード様と、アンナ・ジークフリード様を助けてくれた事でね」

 

 

 ドクン、と心臓が跳ねた。

 

 

「なっ! どういう事だ!?」

 

 

 俺は思わず大声を上げて問いかけたが、直ぐにある一つの心当たりに行き着き、ハッとした。

 

 

「……もしかして、ダンジョンの?」

 

 

 彼女は、『ルナ・マテリアル』の事を知っているのか?

 心当たりなんてそれ位しかない。

 マテリアルが、英雄夫妻に何をもたらしたんだ?

 もしや、アンナ様に何かが起きたのか?

 俺は知っている。

 アンナ・ジーフリード。

 現騎士団長、レオネル・ジークフリードの妻で、戦傷で騎士を退役してからも、様々な活動で国家に貢献しているパルシリアの女傑。

 アンナ様はかつて邪竜との死闘で凄まじい傷を負った。

 その傷のせいで、子供を産めない身体になっただけでなく、今もその後遺症に苦しみ、日常生活にも支障をきたしているという話を。

 最近はあの方の噂を全く聞かない。もしかして、容態が急変したのか?

 胃が鉛のように重くなってくる。

 アンナ様は、このパルシリア王国にとって太陽のような方だ。彼女の優しさと強さに救われた者は数え切れない。

 もし彼女に万が一の事があればレオネル様はどうなってしまうんだ!?

 それだけじゃない、彼女の幼馴染で親友のエドワールさんやヴァリウスさんだって...

 聞きたい。

 このパルシリアで生きる一人の人間として、あの2人の無事をどうしても聞きたい。

 だが、マテリアルに関しては、エドワールさんとヴァリウスさんから極秘事項と厳命されている。

 俺から直接問いただすわけにはいかない。

 どうすれば、聞き出せる?

 言葉を慎重に選びながら眉間におしわを寄せて苦悩する俺を見て、アンナさんは優しく苦笑した。

 

 

「……知ってるわよ。貴方が命懸けで持ち帰った、あの奇跡の戦果を」

 

「……!」

 

「それが何をもたらしたのかは、今は此処では言えないわ」

 

 

 アンナさんは、唇に人差し指を当てて秘密の合図を作った。

 彼女は、俺の目を真っ直ぐに見て、温かい声で言った。

 

 

「だから、私の事はアンナって呼んで。私も、貴方の事をリオって呼ぶから。恩人への、せめてもの親愛の証として」

 

 

 俺は、隣のレオンの方を見た。

 レオンは、アンナさんと同じように優しく微笑んで、こくりと頷いた。

『いいんだよ。受け取ってくれ』というサインだ。

 

 

「……わかったよ。アンナ」

 

 

 俺がその名を口にすると、アンナは花が咲くように笑った。

 

 

「ええ、よろしくね、リオ」

 

「取り敢えず……これだけは、聞かせてくれ」

 

 

 俺は、どうしても抑えきれない不安を口にした。

 恩人と言うからには、最悪の事態は免れたのだろう。

 だが、どうしても、彼女自身の口からアンナ様の無事を聞き出して安心したかった。

 

 

「アンナ様は……生きているんだな?」

 

 

 俺の真剣な、祈るような問いかけに。

 アンナは少しだけ驚いたように目を見開き、これ以上ないほどに幸せそうな、輝くような微笑みを浮かべた。

 

 

「ええ。元気に、レオネル様の傍に居るわ」

 

 

 レオンもまた愛おしげにアンナを見つめながら、俺に頷きかけた。

 

 

「うん、とても幸せにしているよ」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間。

 

 

「……そうか……よかった……」

 

 

 俺の口から、深い、深い安堵のため息が漏れた。

 全身からスッと力が抜けた。

 本当に、心の底からホッとした。

 俺が命懸けで戦った事が、誰かを救う事に繋がったのだ。

 それも、俺達の恩人である英雄夫妻の助けになれた。

 冒険者になって、ダンジョンに潜って、本当に良かったと思えた瞬間だった。

 俺が脱力して壁に背を預けた、その時。

 ポンッ、と軽い音がして。

 

 

「ん」

 

 

 俺の胸に、柔らかな質量が飛び込んできた。

 見下ろすと、そこには再び「大人の姿」に戻ったルミナが、俺の首に腕を回して抱きついていた。

 実用的な服を着ていても、密着すればそのスタイルの暴力的な破壊力は健在だ。

 

 

「ル、ルミナ!?」

 

 

 俺は慌ててレオンとアンナに顔を向ける。助け舟を出してくれ!

 だが、二人は顔を見合わせ、まるで「仕方ない」とでも言うように微笑み合い、無言で『じっとしててあげなさい』と視線で俺を制止した。

 

 

「リオ……」

 

 

 胸の中で、ルミナが俺の服をぎゅっと握りしめる。

 その声には、少しだけ震えが混じっていた。

 

 

「どうしたんだ、ルミナ?」

 

「……だきつきたかった、だけ」

 

「……そうか」

 

 

 どう見てもただ抱きつきたかっただけではない。

 俺の知らない「何か」が、確実にある。

 だが、俺はルミナの背中にそっと手を回し、優しく撫でた。

 急かす必要はない。

 ルミナの方から、いつか打ち明けてくれるまで待とう。

 彼女から伝わってくるのは、決して辛い事を隠しているような悲壮感ではないようだし、

 朝の光が差し込む部屋の中。

 俺は美しい大人のルミナを抱きしめながら、その背後で温かく見守るレオンとアンナの眼差しに、不思議な「家族」のような心地よさを感じていた。




リオが真実に気付く事はありません。
常識もありますが、無意識に目を逸らしています。

ルミナの状況については、とっても優しいお姉さんが対処法も含めて説明しています。
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