天才冒険者リオの英雄譚 童貞・処女しか入れないダンジョンを攻略せよ!   作:ナオ3

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ママ(ロリ)とママ(元父)とママ(真)の地獄みたいな戦いの始まり。


大惨事ママ大戦!

未知の空間で、三つの強大な意志が激突する。

 荒れ狂うルミナに相対する、レイン(レオンハルト)とアリアンナ。

 かつて世界を救った最強の英雄と大魔法使いである二人は、今まで経験したことが無いほどの窮地に立たされ、その顔を強張らせていた。

 

 

「どけえええええ!!!」

 

 

 ルミナの絶叫と共に、空間そのものを震わせるほどの重い拳が放たれる。

 それをレインは両の掌で柔らかく受け流し、捌く。

 力任せではなく、合気の理を用いた完璧な受け流し。それによって軌道を逸らしたはずなのに、その一撃に込められたあまりにも重い『執念』の質量が、余波となってレインの肉体を容赦なく襲う。

 

 

「っつ……! 今のお前を通すわけにはいかん」

 

 

 レインは呻き声を上げながらも、無手でルミナの猛攻を耐え凌ぐ。その後方から、アリアンナが魔法でルミナを抑え込もうと術を紡いでいた。

 

 

「ごめんね、ルミナちゃん!」

 

 

 アリアンナは心苦しそうに謝りながら、短い詠唱と共に魔法を行使する。

『光鎖』

 それはアリアンナ自身が開発し、現在のパルシリア王国でも広く使われている汎用的な拘束魔法だ。だが、創始者であり極点に立つ彼女が使えば、その威力はかつての古竜すら容易く縛り上げるほどの絶対的なものとなる。

 強靭な光の鎖が虚空から現れ、ルミナの四肢と胴体を幾重にも戒めた。

 だが。

 

 

「じゃまぁ!!!」

 

 

 ルミナは、体に纏わりつくその光の鎖を、まるで鬱陶しい蜘蛛の巣でも払うかのように、力任せに振り払った。

 パキンッ! という甲高い音と共に、古竜すら封じるはずの『光鎖』があっけなく粉砕され、光の粒子となって霧散する。

 

 

「うそぉ!?」

 

 

 アリアンナが素っ頓狂な悲鳴をあげる。

 自分が使った魔法を、少し身じろぎしただけで力ずくで破壊されたという事実。その出鱈目な光景に、彼女は驚愕を隠せなかった。

 いや、むしろあのルミナを、ほんの数秒でも拘束出来た事自体が、アリアンナの魔法使いとしての力量が過去から現在に至るまで最高であることの何よりの証明だった。

 本来、その数秒の隙さえあれば、アリアンナはどんな強敵であっても確実に仕留めきれる自信がある。

 レインもそうだ。剣を抜き、その武の神髄を振るえば、相手を沈黙させる事など容易い。

 だが、二人はどうしても……この狂乱する少女を傷つけることができなかった。

 彼女は、愛息リオにとって何よりも大事な存在であり、そのルミナ自身もリオを深く想い、リオの心と魂を守りたいと願うあまりに暴走しているだけなのだ。

 特にレインは、彼女が自分たちの義弟であり、守れなかった罪を背負って狂死したライオネルの直系の末裔であることを理解している。そして、精神世界で彼女と直接交流し、その優しさに触れたこともある。

 そんな彼女を、どうして攻撃する事などできようか。

 そして奇妙なことに、ルミナもまた、あれほどの殺意と怒りを放ちながらも、決して広範囲を巻き込むような破壊的な攻撃はしてこない。

 アリアンナの腕の中にある銀色の光体――リオの魂に、万が一にも流れ弾が当たることを恐れているのだ。

 ルミナを絶対に傷つけたくないレインとアリアンナ。

 リオを絶対に傷つけたくないルミナ。

 二つの、あまりにも重く優しい『縛り』によって、この極限の戦場は奇妙な硬直状態に陥っていた。

 ドゴォン!! という音と共に何度目かの激しいぶつかり合いが起こり、ルミナとレインが大きく距離を取る。

 レインは息を吐きながら、アリアンナの傍へと後退した。

 アリアンナはすかさず、彼へと念話の魔法を繋ぐ。

 

 

(大丈夫!? 怪我は!?)

 

(問題無い。あの娘、不慣れなせいか力の制御が甘い。……まあ、神殺しとなってから一日も経っていない事を考えれば、驚異的な適応能力だがな)

 

 

 レインは痺れる両腕を隠しながら、冷静に状況を分析する。

 

 

(リオの記憶からしか知らないから、ルミナちゃんの正体は詳しくわからなかったんだけど……本当にどんな娘なの?)

 

(……あの娘は、ライオの子孫だ)

 

(ライ君の……!?)

 

 

 アリアンナの胸が、ぎゅっと締め付けられるように痛む。

 自分たちを助けられなかったという絶望を抱え、終わりのない贖罪に生き、そして死んでいった哀れな義弟。その血を引く少女が、今度は自分たちの息子を救うために、必死に手を伸ばしてくれている。

 レインとアリアンナが念話で対話しているのと同時。

 一向にリオの魂へ手が届かない現状に、ルミナの苛立ちは頂点に達しようとしていた。

 彼女の精神の内側では、ルミナと同化しているステラが必死に呼びかけ続けている。

 

 

(ルミナ、お願いだから落ち着いて!!)

(彼女は『レオ』君だよ!! あの時、一緒に遊んでくれたレオ君なの!!)

(だから、リオ君に危害を加える訳がないんだよ!!)

 

 

 ステラはルミナの暴走を止めようと必死に語りかけるが、その声はルミナの意識には全く届いていない。

 完全に頭に血が上り、彼女の世界には「囚われたリオ」と「立ち塞がる敵」しか見えていなかった。

 アリアンナは、膠着状態でありながらも確実に悪化していく状況に、本気で頭を抱えたくなっていた。

 

 

(うう……ライ君の子孫だって聞いちゃったら、ますます攻撃なんて出来ないじゃない……!)

(リオの大切な娘で、リオの為にこんなに怒り狂って泣いてくれてるルミナちゃんに……攻撃魔法なんて、絶対に使えないよぉ……!)

 

 

 ただでさえ、己の存在が原因でライオネルたちを不幸にしてしまったという深い負い目があるアリアンナだ。その上、息子のために命懸けで戦う彼女の姿を見てしまえば、もはや指一本触れることすら躊躇われてしまう。

 

 

(……俺もだ。俺が不用意に『レオンハルト』を名乗らなければ、こんな事態にはならなかった)

 

 

 アリアンナ以上に、レインの抱える負い目は深かった。

 今のリオが精神崩壊しかけた直接の引き金。それは、『レオンハルト』と出会ってしまったことだ。

 もしレインが正体を隠し、別の誰かとして接していれば、リオが自身の記憶の最深部に封印されたアリアンナの存在に気付くことはなく、その扉を壊そうとすることもなかったはずなのだ。

 息子嘘をつきたくなかったという、レインの親としてのエゴ。それが、最悪の形で息子の傷を抉ってしまった。ヴァリウスの件は、その傷口を開かせる最後のキッカケに過ぎないのだ。

 その事実がレインの心を重く縛り付け、剣を鞘から抜くことを完全に封じていた。

 

 

(やはり、ルミナを止められるのは、一人しか居ない)

(……アリア。リオの意識に干渉して、呼び覚ましてくれ)

 

 

 レインからの決死の頼みに、アリアンナは戸惑いを見せる。

 

 

(えっ……でも……今のあの子は、心を閉ざして深く沈んじゃってるよ?)

 

(複雑な事はしなくてもいい。今の……ルミナの姿を見せれば、絶対に目を覚ます。……そういう子だ)

 

 

 レインの言葉には、息子に対する確かな信頼があった。

 自分を助けるために泣き叫びながら戦うルミナの姿を見て、そのまま眠り続けるはずがない。

 

 

(……わかった)

 

(俺は、お前がリオが起きるまでの時間を稼ぐ)

 

(うん、お願い)

 

 

 念話を打ち切る。

 意識を内側へと集中させ、腕の中の光体へと魔力を向け始めたアリアンナを背に庇いながら、レインは再びルミナを見据えた。

 

 

「付き合ってもらうぞ、ルミナ」

 

 

 レインの額からはタラリと冷や汗が流れていた。

 かつて、どれほど絶望的な戦場にあっても滅多に顔を崩さなかった彼が、明確な焦りと危機感を抱いている。その汗が、今のレインの心情を何よりも雄弁に物語っていた。

 レインは、再び襲い掛かってくるルミナの拳を必死に捌き続ける。

 だが。

 

 

(……っ! 明らかに、力の使い方が上手くなっている……!)

 

 

 ルミナは、ただ力任せに暴れているのではない。戦闘の中で、神の力を引き出す感覚、そして肉体の洗練された使い方を、恐るべき速度で学習し、吸収しているのだ。

 レインが彼女の攻撃を避け、あるいは受け流すタイミングが、一合交えるごとにシビアになっていく。

 ルミナの拳を受け流す両手の痺れが限界に近づきつつあることに、レインは戦慄を覚えた。

 初めて見た時から、この娘には底知れない武才があると感じていた。だが、それが神格の力と完全に合わさった今、彼女は伝説の英雄ですら命の危機を抱かせるほどの領域に到達しようとしていた。

 

 

(不味いな。このままでは、剣を抜かざるを得なくなる)

 

 

 だが、剣を抜けば必ずルミナを傷つける。

 迷いがレインの心をよぎる。

 その時、彼の脳裏に、精神世界でリオと共にルミナと遊んだ、あのささやかで温かな記憶が蘇った。

 リオと一緒に猫じゃらしを振って、無邪気に追いかける彼女の姿。

 玉遊びをして、一緒に笑い合った時間。

 そして、交わした再会の約束。

 レインにとって、それは荒野に咲いた一輪の花のような、かけがえのない記憶だった。

 

 

(……無理だな。俺に、この娘を傷つける事などできん)

 

 

 レインは深く息を吸い込み、全ての迷いを打ち払った。

 

 

(剣を抜くくらいなら、俺の命を懸ける方がまだマシだ)

 

 

 自分自身を、徹底的に盾にする覚悟。

 どれだけ肉体が打ちのめされようと、骨が砕けようと、背後のアリアンナとルミナを絶対に守り抜く。

 

 

(それに、ルミナの拳にもまだ迷いがある。希望は断たれていない)

 

 

 一方のルミナは、立ちはだかるレインを打ち破ろうと必死に拳を振るっていた。

 

 

(リオ……リオッ!)

 

 

 一刻も早くリオの元へ行きたい。彼をあの忌まわしい女の手から取り戻したい。

 だが、彼女の闘争本能が強烈に告げている。

 目の前の女(レイン)に、僅かでも隙を見せればやられる、と。

 ルミナの中に流れる血と神の知覚が、目の前の存在から意識を逸らす事を絶対に許さない。何故か相手はこちらを本気で攻撃してこないが、もし自分が背中を見せれば、その瞬間に完璧に取り押さえられる。ルミナはそう確信していた。

 目の前の女を完全に撃退しなければ、リオの元へは辿り着けない。

 だが、攻撃に集中しきれない自分がいる。

 まるで、相手を本気で傷つけたくないかのように、拳を当てる直前に、無意識のうちに力が抜けてしまうのだ。

 その理由のわからない迷いを必死に振りほどきながら、ルミナは叫び声を上げてレインに攻撃を加え続ける。

 

 

(ルミナ、お願いだから一旦止まって!!)

 

 

 頭の中で、誰かが必死に呼びかける声が聞こえるが、今のルミナにはその言葉の意味が全く理解できない。

 

 

(リオ……リオ……リオ……!)

 

(ルミナ……そこまでリオ君の事を……)

 

 

 新たに芽生えてしまった大人の女性としての母性と、彼を失うことへの絶対的な恐怖が相まって、ルミナの愛は完全に暴走状態に陥っていた。

 

 

   *   *   *

 

 

 極大な精神的負荷と、魂が崩壊するのを防ぐためにアリアンナが施した緊急の魔法によって、リオの意識は暗く冷たい海の底に深く沈み込んでいた。

 何も見えない。何も感じない。

 ただ、このまま溶けて消えてしまいたいという願望だけが、鈍く彼を支配している。

 

 

(リオ、聞こえる?)

 

 

 ……誰、だ?

 精神が完全に錯乱し、自己の境界すら曖昧になっているリオには、その優しく語りかけてくる声の主がわからない。

 

 

(私が誰だか、今はどうでもいいの。……動ける?)

 

 

 ……無理だ。動けない。

 俺は、もう動きたくない。

 

 

(そうだよね。疲れたよね。……それでも、立って。貴方の、大切な子の為に)

 

 

 大切な……?

 その言葉が、凍りついていたリオの意識の深層に、小さな波紋を広げた。

 

 

(うん、見せるね)

 

 

 唐突に、リオの脳内に一つの鮮明な映像が流れ込んできた。

 そこには、見知らぬ黒髪の女に対して、なりふり構わず攻撃を仕掛けている、大人の姿になったルミナの姿があった。

 だが、明らかにおかしい。

 その髪は深く澄んだ蒼に変わり、瞳は黄金に燃え盛っている。背中からは神々しい光の翼が生え、その姿はまるで神話の戦乙女のようだ。

 そして何より。

 怒り狂っている彼女の表情。

 違う。怒っているんじゃない。

 彼女は、泣いている。

 大粒の涙をポロポロと流しながら、必死に、傷つくことも厭わずに、俺の名前を呼びながら戦っているんだ。

 ――ドクン。

 完全に冷え切っていたはずの胸の奥に、小さな、けれど確かな熱が宿る。

 

 

(起きろ。……さっさと起きろ)

 

 

 消滅を待つだけだったはずの全身に、熱い血が巡り、力が満ちていくのを感じる。

 

 

(痛い? 辛い? 苦しい? ……そんなもの、あの娘をあんな風に泣かせたまま放ったらかす理由になるか!)

 

 

 枯渇しきっていた気力が、魂の底からマグマのように湧き上がってくる。

 

 

(寝ている場合じゃねえだろ……! はやく、あの娘を抱きしめて、泣き止ませろ……!!)

 

 

 そうだ。

 俺がどういう存在だとか、そんな事、今はどうだっていい。

 あんな顔で、泣いているルミナを、俺が行かなくてどうするんだ!

 

 

(ルミナああああああああああああああ!!!)

 

 

 

   *   *   *

 

 

 アリアンナは、両手に包み込むように持っていた銀色の光体が、唐突にブルブルと力強く震え始めたのを感じ取った。

 その震えは、絶望の痙攣ではない。明確な『意志』を持って、再び立ち上がろうとする生命の脈動だ。

 

 

「ふふ……本当に、誰かの為なら何度でも奮い立てる所は、あの人にそっくりだね」

 

 

 アリアンナは嬉しそうに微笑みながら、ルミナの凄まじい連撃を必死に捌き続けているレインの背中を見つめ、そして再び手元の光体へと視線を戻した。

 

 

「行ってきなさい、リオ」

 

 

 アリアンナがそっと両手を天に掲げると、解放された銀色の光体は、一直線にルミナの方へと向かって飛んでいった。

 傷だらけのレインと、無傷のルミナ。

 防戦に徹し続けたレインの全身は、ルミナの重い一撃を受け続けたことで酷い有様になっていた。特に両腕は、骨が軋み、筋肉が悲鳴を上げているのが素人目にもわかるほどだ。

 だが、それでも彼の瞳には一切の曇りも、後悔の色も無かった。

 ルミナもまた、その決して折れないレインの不屈の眼光に一瞬だけ怯んだが、直ぐ様気を取り直し、決着をつけるべく最後の一撃を放とうと突撃の姿勢をとった。

 飛び掛かろうとした、その直前。

 目の前の女――レインが、フッと両腕を下ろし、完全に動きを止めた。

 

 

「……来たか」

 

 

 完全に隙だらけになった女。だが、ルミナの足もピタリと止まった。

 何かが、こちらに向かって猛烈な速度で近づいてくる。

 ルミナが視線を横に逸らすと、そこには彼女が取り戻そうとしていた銀色の光体が飛んできているのが見えた。

 ルミナは驚きのあまり完全に硬直する。

 銀色の光体はルミナの目の前でピタリと止まると、淡い光を放ちながら、見慣れたリオの姿――半透明の魂の人形となって実体化した。

 そして光のリオは、少しも躊躇うことなく、呆然と立ち尽くすルミナの身体を正面から強く、優しく抱きしめた。

 その温もりに触れた瞬間、ルミナの全身から発せられていた狂気的な殺気と怒りが、嘘のようにスーッと引いていく。

 

 

「ルミナ、大丈夫だ。……怖がらせてごめん」

 

 

 リオの穏やかで優しい声が、ルミナの耳元で囁かれる。

 その言葉を聞いた途端、ルミナの背中から生えていた六枚の光翼が砕け散り、神々しい大人の姿は光に包まれ、元の金髪と蒼い瞳の幼い少女の姿へと戻っていった。

 ルミナの足元では、ルミナの暴走に付き合わされ、同化して必死に語りかけ続けていた蒼い子猫――ステラが、ぐったりと倒れ込んでいた。

 

 

「きゅう〜……」

 

 

 ステラは完全に疲労困憊で目を回しているようだった。

 ルミナが完全に落ち着きを取り戻したのを見届けると、リオの形を保っていた光は再び元の球体へと戻り、力尽きたようにゆっくりと下へ落ちていく。

 ルミナは慌てて両手を伸ばし、落ちてくるリオの魂を優しく受け止め、胸に抱きしめた。

 すると、腕の中の光体は再び形を変え、今度はスヤスヤと眠る愛らしい『赤ん坊』の姿へと変化したのだ。

 ルミナは、自分の腕の中で安らかな寝息を立てる赤子の姿のリオを大事に抱きかかえ、ひどく愛おしそうに自分の頬をすりすりとおしあてた。

 眠る赤子も、その温もりが安心できるものだとわかっているのか、心地よさそうに身をよじっている。

 

 

「リオ……」

 

 

 ルミナの幼い声には、もう怒りも悲しみもなく、ただ無垢な愛情だけが満ちていた。

 その静かで美しい光景を、傷だらけのレインとアリアンナは、少し離れた場所からただ静かに、微笑ましく見守り続けていたのだった。

 




本当に久しぶりの戦闘シーンなのにアッサリ気味になったのは少し心残りですね。
でも、誤解とすれ違いでガチな奴はちょっとと思いました。
いい加減、ダンジョンアタックやりたい。
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