天才冒険者リオの英雄譚 童貞・処女しか入れないダンジョンを攻略せよ!   作:ナオ3

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説明回作るのすっごくムズイ...


7話 童貞、それは勇者の証

 

 

「じゃあ、まずは君が倒してくれた魔物について話をしよう」

 

 

管理者が唐突に口を開く。その声は淡々としているのに、妙な重さがあった。

 

倒してくれた? どういうことだ。思わず俺の眉がひそむ

 

 

「倒してくれた? あれは……あなたにとって不都合な存在だったのか?」

 

 

質問の意図が読みきれないまま口にすると、管理者はふっと頷いた。

 

 

「うん、アレは僕にとっても消さなくてはならない存在なんだ」

 

 

素直すぎるくらいあっさりと肯定された。敵対するのか、歓迎されてるのか、全然わからん。どこまで本気なんだ、この青白い光。

 

しばらく黙って考える。どういう意味だ?「ダンジョンの管理者」なら、ああいう化け物――いや、“魔物”は、自分の手駒じゃないのか?だとしたら、俺が倒して困るはずだ。でも違うのか?

 

思考がぐるぐるしはじめる。だが、ここはあえて核心に近づくしかない。

 

 

「管理者、俺が戦ったのは……魔物だったのか?」

 

 

あえて、少し言いよどんでみた。本当に「魔物」なのか、という漠然とした疑問が、あの時の嫌悪感と重なっている。

 

管理者は、俺の問いに満足そうに――いや、どこか感心したように光を揺らめかせた。

 

 

「一応、ダンジョンが作った魔物と言ってもいいよ。作られた目的が違いすぎるけど」

 

 

一応? 目的が違う? どこか引っかかる。

 

 

「どういう意味だ?」

 

 

思わず聞き返そうとしたが、それより早く管理者が続ける。

 

 

「あれはね、穢れを使って作ったんだ」

 

 

……穢れ?

 

聞きなれない単語。だが、同時に心の奥にざらついた感覚が蘇る。あの黒い、ねじくれた、見るだけで気持ち悪くなる異形。あの胸の底から湧き上がった拒否反応の正体――。

 

 

「穢れとは、大ざっぱに言うと世界にある“人が生み出した怒り、悲しみ、絶望”、そういった人の負の感情から発生した呪いだね。それも、非常に強力な」

 

 

淡々と語られる言葉は、湖面に落ちる月光みたいに静かで、どこまでも深い。

 

俺は、あの魔物を見た時のことを思い出す。理由もなく嫌悪感がこみ上げた。不快感。背筋をぞわぞわと駆け上がるような寒気。「触れちゃいけないものだ」と本能で思った。――その正体が、今なら分かる気がした。

 

 

(人の負の感情、呪い……だから、あんなにも“生理的に”無理だったのか)

 

 

 

「僕は、普通の魔物と分けるために“業魔”と呼んでいる」

 

 

 

業魔。人の“業”から生まれた魔物。

 

分かりやすいネーミングだ。だが、そこにこめられた意味は重い。

 

人の負の感情が積もり積もって、世界を蝕み、そして怪物になる。それをダンジョンが生み出し、何らかの理由で管理者にとっても「消さなくてはならない存在」になる――。

 

この世界って、思った以上に厄介だ。

 

 

「君が先ほどいたダンジョンはね、世界の穢れを集めて浄化する役割があるの」

 

 

静かに、管理者が言った。

 

世界の穢れを集め、浄化する。それが、あの“白き宮殿”ダンジョンの本当の役割。

 

 

(……そうだったのか)

 

 

ようやく、あの異質な空間や、得体の知れない恐怖の意味が分かってきた気がした。

 

湖面に映る満月が、やけに大きく感じた。

 

 

「長年、穢れを浄化し続けたけど――人類が増え、繁栄したことによって穢れが増えた」

 

 

青白い光の管理者が、ふっと首を振る。その言葉に、湖面の冷たい空気がさらに冷えた気がした。

 

 

「そして、処理能力を超えてしまったんだ」

 

 

背筋がひやりとする。まるでこの湖の水温が急に下がったみたいだ。

 

 

「その溢れた穢れが、魔物という形で生命を得た。それが君の戦った業魔の正体だよ」

 

 

言葉が重い。俺の脳裏に、あの黒く歪んだ怪物が浮かぶ。見ているだけで吐き気がしたあの存在――あれが、“溢れた穢れ”だというのか。

 

 

「……何故、穢れから魔物を作ったんだ?」

 

 

問いかけると、管理者は一瞬黙り込んだ後、すぐに答えてくれた。

 

 

「ダンジョン攻略者に業魔と戦ってもらい、殺してもらうためさ」

 

 

ストレートすぎる返答に、少しだけ心がざわつく。

 

 

「生命として活動し、死んでしまえば動けなくなる」

 

管理者は淡々と続ける。

 

 

「たとえば、ただの呪い――穢れだけでは、“世界”そのものに染み込んで、消えては湧き、湧いては消えるの繰り返しなんだ。だけど、“生命”の形を与えられた瞬間、その存在には“始まり”と“終わり”ができる」

 

 

青白い光の管理者が、湖の上でそっと手を広げる。その仕草は神秘的で、だけどどこか人間くさかった。

 

 

「命が宿った存在は、どんなに強靭でも必ず“死”に至る。その瞬間、“穢れ”は世界から切り離されるんだ。ただ閉じ込めておくだけじゃ、永遠にぐるぐると巡り続ける。だけど“生き物”として一度生まれ、そして確かに死ぬことで、初めて完全に“消滅”させられる。だから、あの魔物たちは“倒される”ために作られる」

 

 

なるほど――確かに、言われてみれば理にかなっている。ただ呪いとして世界に漂わせておくだけでは、どうしても完全な“消滅”はできない。でも、生き物にすれば“終わり”が与えられる。そういう仕組みか。

 

しばし沈黙。俺は湖面を見つめながら、その言葉を何度も反芻した。

 

 

「つまり、命を持って動き、そして討伐されること――それだけが、このダンジョン以外で穢れを浄化する唯一の方法なんだよ」

 

 

唯一――。他に道はないのか。

 

管理者は小さく首を振り、寂しそうに光を揺らした。

 

 

「ただ、どうしても非常に強力な魔物になってしまうんだ。だから僕も、なるべく手助けをしている」

 

 

手助け? あの死闘の最中、確かに何か妙な“力”を感じた瞬間があった。

 

俺はしばらく考えてから、ずっと胸に引っかかっていた疑問を口にした。

 

 

「業魔と戦っている最中に、青白い光が出て、切れるようになったのは……あなたの援護か?」

 

 

管理者はふっと微笑んだような雰囲気で首をかしげる。

 

 

「援護というよりも――加護かな」

「加護?」

「ダンジョンに入ったものは自動的に加護が得られる。君も、扉に触れた瞬間に与えられた筈だよ」

 

 

扉に触れた瞬間――。確かに、あの時から俺の身体は何かが変わった気がしていた。剣が青白い光を帯びたあの瞬間の感触。あれは“加護”という力だったのか。

 

沈黙。

 

俺は、心の奥にずっとあった“絶対に知りたいこと”を問いかける決意をした。

 

この機会を逃したら、もう一生知ることができない。絶対に、ここで聞かなきゃいけない。

 

 

「管理者……」

 

 

管理者が、静かに俺を見つめている。

 

そう――これだけは、どうしても聞きたかった。

 

 

「管理者……このダンジョンが童貞・処女しか入れないというのは、その“加護”が関係しているのか?」

 

 

静寂。湖面に月が浮かび、星が瞬く。

 

俺は息をのんで、管理者の答えを待った。

 

童貞・処女しか入れないダンジョン――。

改めて思い返しても、間抜けすぎる名前だ。誰が考えたんだよ、こんな規格外の設定。悪ふざけにもほどがある。

 

……けど、そのおかげで、俺の運命はとんでもなく変わった。いや、むしろ全てぶっ壊れたと言っていい。

 

もし、ダンジョンの入場条件が“童貞・処女限定”なんてアホみたいなルールじゃなかったら――

俺の青春は、もっと穏やかに、普通に終わっていたはずだった。

 

例えば――

 

ミリアの十八歳の誕生日に、勇気を出して告白する。玉砕する。それだけだ。

ゼインと付き合ってるって知って、そりゃショックだけど、まあ、それはそれ。しばらく部屋で寝込むだろうけど、数日もすれば立ち直る。

ガルドとレイナに酒を奢ってもらいながら、夜通し愚痴を聞いてもらう。「あーあ、俺もついに失恋かぁ」とか笑って、

ついでにゼインを殴って、「お前、男なら最初から相談しろ!」って文句を言って――

最後は、しっかりミリアを祝福して、「幸せになれよ!」なんて言ってやる。

みんなでバカやって、少し泣いて、すこし笑って――

どこにでもある、ありふれた青春の終わり。

 

……そのはずだった。

 

でも現実は違った。

 

よりにもよって、“童貞・処女しか入れないダンジョン”。

よりにもよって、謁見の間という公開処刑会場で。

よりにもよって、大勢の王族、貴族、兵士に見守られながら。

俺以外の全員がすでに“大人の階段”を上ってしまっていたことも、

ミリアが俺の気持ちを知っていて黙っていたことも――

全部、一気に叩きつけられた。

 

そしてあのミリアの「……ごめんなさい」だ。あれは反則だろ!?告白して振られるならまだ分かるけど、告白する前に振られて終わるとか、青春殺人事件でしかない。いや、ほんとに黒歴史だから。あれを思い出すと、精神が毎回HP0まで削られる。

 

あんなの、耐えられるわけないだろ!

 

 

「はぁ……」

 

 

ため息しか出ない。ここ湖の上だけど、むしろ溺れてしまいたい。

 

それでも、俺は満面の営業スマイルを浮かべて、管理者――青白い光の存在に、声をかけた。

 

 

「とりあえず、まともな理由なんだろうな?」

 

 

内心、殺気MAXだ。これで「趣味だよ!」とか「僕、童貞・処女大好き!」なんて答えが返ってきたら、そのまま全身全霊で殴り飛ばす。湖の上だけど、ためらいはない。水柱が立つかもしれないけど知ったことか。

 

そんな俺の思考がダダ漏れだったのか、管理者が明らかにビビってる。

 

 

「うん、大いに関係あるから、その殺気収めて。ね、ね?」

 

 

めっちゃ動揺してる。あれ、意外と可愛いリアクションじゃないか?まあ、だからと言って殴らないとは言ってない。

 

……まあ、冗談はさておき、やっと少し冷静になってきた。深呼吸、深呼吸。

 

 

「ごほん。加護は――童貞・処女……つまり“純潔”を保ったものにしか付与できないんだ」

 

青白い光が盛大に咳払いした。光なのに咳ってどういう理屈だ。何でもアリか。

 

思わず口からため息が漏れる。ああ、よかった。趣味とか悪趣味とかじゃなかった。それなら少しは許せる。……いや、許せるというか、納得できる。

 

管理者は続ける。

 

 

「そして、ダンジョンに入れないのは、加護を得る資格が無いものを弾くようにしているからなんだ。加護なしで入っても、死ぬだけだし」

 

(……死ぬだけ、か)

 

 

つまり、俺はあの時、童貞じゃなかったら、普通に死んでたってことだ。……いや笑えない。冷静に考えたら笑えなさすぎて逆に乾いた笑いが出る。

 

そうか――このダンジョンは、童貞・処女しか生きて出られない、まさに“純潔限定生存空間”だったわけだ。

 

誰だよ、“童貞しか入れない”ってバカにしてたのは。全然バカじゃないじゃん。いや、バカなんだけど、死ぬほど大事なことだったんだな。

 

納得した。あの化け物、正直加護なしだったら1秒も保たずに即死だった。あれを加護なしで挑むとか、正気の沙汰じゃない。むしろ童貞・処女じゃないと即死ダンジョン、なんだこれ。

 

正確には「童貞・処女じゃないと死ぬダンジョン」かよ。どうしてこうなった。

 

一周回って納得するしかない俺。世界の理不尽に腹を立てても仕方ない。どのみち、俺の人生は童貞ダンジョンのせいで大回転だ。

 

 

「そうか……」

 

 

思わず呟いてしまう。

 

星がきらめき、月が静かに湖面を照らしている。その下で、俺は自分の“運命”について、しみじみと考えていた。

 

まあ、理由が“管理者の性癖”とか“悪趣味”じゃなくて、本当に良かった。もしそうだったら、青白い光ごと空の果てまでふっ飛ばすところだった。

 

とりあえず今は、色々と納得した。だけど、どこかで「まだ続きがありそうな」嫌な予感が、満月の光と一緒に胸の中でチリチリと燃え続けているのだった。

 

 

 

 

 




明晰な頭脳を恋愛に全く活用できないのが童貞主人公リオです。
説明回はちょっとくどいのがテンプレですが容赦を。


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