天才冒険者リオの英雄譚 童貞・処女しか入れないダンジョンを攻略せよ! 作:ナオ3
「…………」
深く、底なしの暗闇の中で、俺の意識を最初に現実に引き戻したのは、他でもない『痛み』だった。
それは単なる頭痛という生易しいものではない。鈍く、それでいて容赦のない質量を伴った激痛。まるで、赤く焼け焦げた太い鉄の杭を、頭蓋の裏側からハンマーでガンガンと直接打ち付けられているかのような、周期的な痛みが脳髄全体を激しく揺らしていた。
次いで、俺の全身を支配したのは、胃の腑の底からどす黒く込み上げてくる強烈な吐き気だ。
自分の内臓を、汚れた雑巾のように両手でギリギリと絞り上げられるような、圧倒的な不快感。それが、寄せては返す黒い波のように何度も何度も押し寄せてくる。
「っ……、う……」
ひび割れ、砂を噛んだように乾ききった喉の奥から、自分でも驚くほど情けない呻き声が漏れた。
鉛のように重く、接着剤で張り付いたかのような瞼を、残された全精神力を振り絞ってどうにかして押し上げる。視界は濃い霧がかかったように白く濁り、焦点が全く定まらない。瞬きを何度も、何度も痛みに耐えながら繰り返すと、やがて見慣れた天井の木目がかろうじて網膜に映り込んだ。
間違いない。ここは自分の部屋のベッドの上だ。
「何が、起きたんだ……?」
掠れきった俺の声は、誰にも届くことなく、静まり返った部屋の空気の中へと虚しく吸い込まれていく。
現状を把握すべく、体を起こそうと力を込めた。だが、全身の筋肉がまるで俺の意志に対する反抗期を迎えたかのように、一切言うことを聞かない。深い泥の底に全身を鎖で沈められているような、圧倒的で絶望的な倦怠感が四肢を縛り付けている。
不意に、右の頬にパリパリとした奇妙な違和感を覚えた。
なんとか動く右手の指先でそっと触れてみると、目尻から顎のラインにかけて、何かの液体が乾いて張り付いたような痕跡がある。
指先に残る微かな塩の結晶。
それは間違いなく、涙の跡だった。
(俺は……泣いていたのか?)
自らに問いかける。なぜ?。
自問自答を繰り返しても、その答えは真っ白な霧の中に分厚く隠蔽されているかのようだった。
何か、途方もなく大事な、絶対に忘れてはならない夢を見たような気がする。いや、それは夢ではなく、直前まで起きていた現実の出来事だったのかもしれない。だが、どうしても思い出せない。
ただ一つ確かなのは、胸の奥底にポッカリと巨大な穴が空いたような耐え難い喪失感と、「とても……とても悲しかった」という感情の残滓だけが、消えない黒い染みのように心臓の壁にこびりついていることだけだった。
激痛に耐えながら、千切れかけた思考の糸を慎重にたぐり寄せる。
自分が最後に起きていた時、一体何をしていた?
そうだ。確か、俺はヴァリウスさんと向かい合って、話をしていたはずだ。
(そうだ……魔法を教えるって、ヴァリウスさんが提案してきたんだ)
そこまでは、霧の向こう側に輪郭を持ってはっきりと覚えている。
そして、俺はその提案を明確に拒絶したのだ。自分には魔法が使えないから、と。
その資格が、自分には無いのだと。
だが、そこから先の記憶が存在しない。
まるで、そこから先の記録を鋭利な刃物でプッツリと無残に切断されてしまったかのように、視界も思考も真っ暗なのだ。
(魔法への拒否反応で、倒れてしまったのか……?)
もしそうだとしたら、あまりにも情けなくて涙が出る。
今まで俺は、精神的なショック程度で気絶するような、そんな柔な生き方はしてこなかったはずだ。どんな理不尽な状況でも、どれほど圧倒的な暴力の前でも、血反吐を吐きながら歯を食いしばって立ってきた。それなのに、ここ最近の俺はどうだ。
失われた記憶の断片を無理やりにでも思い出そうと、意識を過去の暗闇に向けたその瞬間。
頭蓋の中で「ドクンッ!」と、爆発にも似た脈打つような激痛が走り、俺は思わず顔をしかめて呻いた。
「ぐっ……」
駄目だ。これ以上無理に記憶の蓋をこじ開けようとすれば、脳の血管が圧力に耐えきれず弾け飛びそうだ。
俺は一度、目を閉じ、深く、ゆっくりと深呼吸をすることにした。
冷たい朝の空気を肺の奥底までいっぱいに吸い込み、少しずつ、細く長く吐き出す。脳を侵食する痛みを散らすように。何度も、何度も。
そうして徐々に意識の波を落ち着かせていくと、少しずつ、自分の周囲の空間の状況が知覚できるようになってきた。
第二章 安らぎの金髪と、罪悪の疼き
いつものように、俺の右隣には小さく、そして何よりも愛おしい温もりが存在していた。
規則正しく繰り返される、かすかな寝息。薄いシーツ越しにじんわりと伝わってくる、安心しきったような柔らかな体温。
重い首をギシギシと言わせながらそちらへ巡らせると、予想通り、ルミナが小さな体を丸くして眠っていた。
(ルミナ……)
だが、その寝顔は、普段俺が見ているような穏やかで幸福に満ちたものではなかった。
彼女の宝石のように美しい顔立ちにも、俺と全く同じように痛々しい涙の跡がはっきりと残っていたのだ。目元は少し赤く腫れ上がっており、夢の中でも何か恐ろしいものと戦っているのか、微かに眉根を寄せて苦しそうにしている。
(……突然俺が倒れたんだ。また、心配させてしまったな)
胸がギュッと、締め付けられるような激しい罪悪感が湧き上がってきた。
この前は、レオンとの死闘の果てにボロボロになって気絶してしまった。そして今回は、ヴァリウスさんとの会話中に突然のブラックアウトだ。
気絶しすぎだろ、俺は。
ルミナは俺が倒れるたびに、こんな風に一人で涙を流して、俺が目覚めるのを傍でずっと待ち続けてくれているのだろうか。俺はこの小さな背中に、どれほどの不安と恐怖を背負わせてしまっているのか。
(ごめん、ルミナ)
心の中で深く、深く謝罪し、せめて今すぐその不安を少しでも和らげるために、彼女の頭を優しく撫でてやろうと思った。
右側で眠る彼女を撫でるため、俺は自分の左腕を、体の前へ交差させるように動かそうとした。
——動かない。
「……え?」
自らの声が、間抜けな音となって漏れた。自分の感覚を疑った。
左腕が、肩の付け根から指先にかけて、まるで固められたかのように、ピクリとも動かないのだ。
金縛りか?
いや、違う。右腕や足は、先程の激しい倦怠感はあるものの、意思に従って動かすことができる。なぜか、左腕だけが何らかの強固な力によってホールドされているように、完全に自由を奪われているのだ。
見えない極太の鎖で、ベッドの底板に縛り付けられているような、奇妙で圧倒的な圧迫感。
なぜだ? なぜ動かない?
パニックになりかける思考を、俺は必死に理性で押さえつけた。冷静になれ。まずは状況を把握するための、最も原始的なテストを行うんだ。
腕全体が動かないのであれば、指先はどうだ?。
俺は左手の指先にだけ全神経を集中させ、ほんの微かに、ピクッと動かしてみた。
ぷにゃ。
「…………?」
左手の指先に、何か非常に柔らかく、そして温かい感触が伝わってきた。
それはシーツや毛布といった布類のようなものではない。もっと張りがあり、弾力があり、何より生々しい体温を帯びた、生物的な『何か』だ。
「ああん♥」
次の瞬間。
俺の左耳に、とんでもない音声が飛び込んできた。
幼くも、鼓膜を直接舌で舐め回されるような、あまりにも甘く、艶やかな声。
ゾクリと、背筋を下から上へ向かって氷柱で撫で上げられたような、暴力的なまでの悪寒が走る。
俺はギシギシと悲鳴を上げる首の筋肉の痛みを完全に無視して、弾かれたように左腕の方へと視線を向けた。
そこには、見知らぬ少女が居た。
(……だ、誰だ!?)
息を呑んだ。声すら出なかった。声帯が恐怖で麻痺したかのようだった。
俺の左腕に深くしがみつき、まるで極上の抱き枕のようにして幸せそうに眠りこけているその少女は、常軌を逸した美貌の持ち主だった。
闇夜をそのまま切り取って絹糸に紡いだような、艶やかで鮮やかな黒髪。長く美しいまつ毛に、穢れを知らない雪のように白い肌。年齢はルミナと同じくらいに見えるが、その整った顔立ちは、ルミナに負けず劣らずの、見る者の魂を奪うような圧倒的な美しさを放っていた。
だが、問題はそこではないのだ。
彼女が身につけている衣服——いや、果たしてそれを衣服と呼んでいいのかすら怪しい代物だ。
ネグリジェというのだろうか。上質な絹のように薄く、しかし布としての『隠す』という本来の役割を完全に放棄したような、スケスケの寝間着姿なのだ。
透き通るような白い肌や、その薄衣の向こう側にあまりにも生々しく透けて見えている。
そして、最大の、かつ俺の精神にとって致命的な問題がそこにあった。
俺の左腕は、彼女のその薄着の体に密着するように強く抱きしめられており——。
え?
待て。
俺の左手の指先は、今、一体どこにある?。
俺は自分の指先から伝わってくる生々しい感覚と、目の前に広がる視覚情報を、脳内で必死に照らし合わせた。
彼女は俺の左腕を強く抱きしめながら、体を少し丸めるような胎児の姿勢を取っている。
そして、俺の左手は、彼女の……
指先に感じる、狂おしいほどの感触。
とても柔らかくて。
ひどく温かくて。
そして、少しだけ……湿っている。
(………………ッッッ!?)
全身の毛穴という毛穴が爆発したかのように、一斉に総毛立った。
ブワッと、致死量に達するほどの強烈な鳥肌が、足の先から頭頂部までを駆け巡る。
どんなに相手が絶世の美少女であろうと、どんなに甘い香りが漂っていようと、状況が異常すぎる。
これはラブコメなどではない。完全なるホラーだ。見知らぬ異界の空間に迷い込み、気がつけば得体の知れない美しき怪異に捕食されている最中であるかのような、絶対的な恐怖。
やめろ。
俺の左腕を使うな。
俺の清らかな指先を、そんな得体の知れない場所に押し当てるな!。
パニックで思考が白濁し脳細胞が次々と死滅していく中、少女の桜色の唇が微かに動き、恐るべき寝言がこぼれ落ちた。
「ルミナぁ……そこは、だめぇ♥」。
(だれぇ!!!?)
誰だよお前は! なんで俺のベッドで、俺の腕を股間に挟みながら、ルミナの名前を呼んで艶かしく喘いでるんだ!?。
(夢の中で、ルミナとお前は何しとんじゃい!!)。
そもそも本物のルミナは右で寝ているんだぞ。お前が夢で見ているそのルミナは一体何者なんだ。
俺の脳内で処理しきれない情報量がショートを起こし、バチバチと火花を散らしている。
しかし、この悪夢はまだ終わらない。
少女は俺の左腕をさらに強く抱きしめ、自分の体に擦り付けるようにスリスリと動かし始めたのだ。
「そんなおっきいの……入らないよぉ♥」。
(…………)
熱い。柔らかい。そして、生々しい水分が指を包み込む。
女性経験など皆無の、筋金入りの童貞である俺の脳髄には、あまりにも刺激が強すぎる致死量の情報量だ。
(ツッコミたい! 今すぐ起き上がって、この娘の脳天に全力の手刀を叩き込みたい!!)。
俺の内的独白は、もはや怒髪天を衝く勢いで沸騰していた。
『子供がなんちゅう夢見てんだバカ!』とか、『ルミナに「おっきいの」なんて付いてねぇよボケ!』とか、『そもそもお前はルミナの何なの!?』とか、『なんで俺の指を使って自給自足してんだ!』とか。
熱い、あまりにも熱すぎるツッコミの言葉が、マグマのように喉の奥まで込み上げてきている。
多分今の俺なら、このパルシリア全土で天下を取れるほどの、キレッキレで完璧なツッコミを披露できる絶対の自信がある。これ一つで芸人として一生食っていけるレベルの、冴え渡った至高のツッコミだ。
だが——動けない。
声も出ない。
恐怖と、極度の緊張と、そして理不尽な謎の麻痺感が、俺の体を石のように縛り付けている。
俺はただ、絶望に染まった瞳で天井を見つめたまま、自分の左指が未知の湿地帯で理不尽に蹂躙されていくのを涙目で耐え忍ぶことしかできなかった。
どれほどの時間が過ぎただろうか。
永遠にも思える、地獄の拷問のような時間の中、右側から微かな衣擦れの音が聞こえた。
「……ん」
小さな声と共に、ルミナが起き上がったのだ。
俺は地獄からの蜘蛛の糸を見つけた罪人のように、救いを求めて首だけでルミナの方を向いた。
寝起きのルミナは目を擦りながら、まだ少しボーッとした様子だった。だが、彼女の視線が俺を通り越し、俺の左側——不快な喘ぎ声を上げながら腰を動かしている黒髪の少女——を捉えたその瞬間。
部屋の空気が、文字通り凍りついた。
ルミナの顔から、一切の感情と表情が抜け落ちたのだ。
それは極めて険しく、冷酷で、そして底知れぬどす黒い怒りを孕んだ顔だった。
例えるなら、自分の最も大切にしている宝物を隠した神聖な縄張りに、泥足で踏み入られ、無残に荒らされたことに気づいた飢えた猛獣の顔だ。
普段は宝石よりも美しく、透き通るような翠玉の瞳。その瞳が今は泥のように濁り、暗く冷たい憎悪の炎を揺らめかせている。
「…………」
ルミナは無言のまま、滅茶苦茶に不機嫌そうな視線を黒髪の少女に鋭く突き刺した。
周囲の温度が物理的に数度下がったような錯覚すら覚える。もし視線に物理的な殺傷能力があるのなら、黒髪の少女は今頃、千の肉片に切り刻まれていただろう。
そして、ルミナは素早い動作で俺の左側に身を乗り出すと、一切の躊躇いもなく、少女の美しい頬を指で摘まんだ。
「ふん!」
短い、しかし怒気に満ちた気合いと共に、思い切り外側へ向かって引っ張る。
容赦のない、手加減など一切存在しないフルパワーの顔面牽引だ。
「あびゃびゃびゃびゃびゃ!!?」
見事な美貌が見るも無残にゴムのように引き伸ばされ、少女の口からカエルのような奇声が漏れた。
その衝撃で俺の左指への恐るべき蹂躙がピタリと止まり、少女は涙目でパッチリと目を覚ました。
頬を限界まで引っ張られたまま、少女は手足をバタバタとさせて暴れているが、ルミナのホールドは万力のようにビクともしない。
そんな凄惨な拷問を一切の表情を変えずに無表情で続けながら、ルミナはスッと視線を俺に戻した。
その瞬間、濁りきっていた翠玉の瞳にパッと澄んだ光が戻る。冷酷な猛獣から、心優しい天使のような少女への完璧なスイッチングだった。
「リオ……だいじょうぶ?」
その声には、深い心配と気遣いが込められていた。
先程までの恐ろしい怒気は微塵も感じさせない、いつもの愛らしいルミナの声だ。
「あ、ああ……大丈夫だよ、ルミナ」
俺はまだ左指に強烈な生々しい感触を残したまま、引き攣った笑みを浮かべてどうにか答えた。
ルミナは俺の顔をじっと見つめ、大きく潤んだ瞳を微かに揺らしている。
俺が目覚めたことへの安堵と、また倒れてしまったことへの悲しみ。その二つが入り混じった複雑な表情で、彼女は暫くの間、瞬きもせずに俺の顔を見つめ続けていた。
(余程、心配したんだな……)
俺の胸に、再びチクリとした痛みが走る。
得体の知れない黒髪少女へのツッコミは、一旦脳の隅にあるゴミ箱に追いやり、俺はルミナに真摯に向き合うことにした。
この事態が一段落したら、本当にルミナのためだけの時間を作ろう。彼女を心の底から安心させるために、彼女が笑顔になれるようなことをしよう。俺はそう心に固く誓う。
俺は自由になった右手を伸ばし、ルミナの頭を優しく撫でた。
サラサラとした金髪が、指の間を心地よく滑っていく。
「心配掛けてごめん、ルミナ」
心からの謝罪の言葉を紡ぐ。
ルミナは俺の手のひらに甘えるように頬を擦り寄せるようにして、小さく頷いた。
「ん」
二人の間に、穏やかで静かな時間が流れる。
俺たちが互いの目を合わせ、無言の会話を交わして心を通わせている間も、すぐ横の至近距離では「あががががが!」という少女のくぐもった悲鳴が響き続けていた。
(……そろそろ、限界かな)
ルミナの容赦ない頬の引っ張りは、まだ執拗に続いている。少女の美しい目からは大粒の涙がボロボロと溢れ落ち、シーツを濡らしてシミを作っていた。
俺は苦笑しながら、ルミナに優しく声をかけた。
「……そろそろ、引っ張るのやめよっか?」
「…………」
「泣いてるって、その娘」
ルミナは不満げに眉をひそめて小さく唇を尖らせたが、俺の言葉には素直に従い、パッと指を離した。
「はあ、はあ、はあ……ルミナの愛が、痛いわ……」
少女は真っ赤に腫れ上がった両頬を両手でさすりながら、息も絶え絶えに呟いた。
その的外れな言葉に、俺の脳内に限界まで蓄積されていたツッコミのエネルギーが無意識のうちに口をついて飛び出ていた。
「愛じゃないと思うぞ?」
思わず突っ込んでしまった。
どう見ても殺意しかこもっていなかっただろ、今の。
俺のツッコミを聞いて少女はハッとしたように顔を上げ、初めて俺と真正面から目を合わせた。
しばらくの間、奇妙な沈黙が落ちる。
泣き腫らした顔、真っ赤な頬。それでもなお、彼女の容姿は神が丹念に作り上げた芸術品のように完璧だった。
改めて至近距離で見ると、本当にとんでもない美少女だ。変態だけど。
ルミナと同じく、間違いなく国を傾けるほどの凄まじい美女に成長することは間違いない。変態だけど。
ただ美しいだけではない。その瞳の奥深くには、人を惹きつけ、抗うことなく従わせるような強い光——王者のカリスマのようなものすら感じさせるのだ。変態だけど。
少女は、コホンと一つ小さく咳払いをすると、乱れたスケスケのネグリジェを少しだけ整え(それでも隠すべき場所は全く隠れておらず、まったく意味を成していないが)、ベッドの上に居住まいを正して正座した。
そして、威厳に満ちた、しかしどこか底知れぬ狂気を孕んだ笑みを浮かべて、俺に向かって堂々と宣言したのだ。
「初めまして、リオ」
その声は先程までのふざけた寝言や悲鳴とは打って変わって、凛と澄み渡った、王族のような気品に満ち溢れていた。
「私はフィオナ。パルシリアの王女よ」
王女。
その言葉の持つ途方もない重みに、俺の思考が数秒完全に停止する。
王族? なぜ王族がこんなところにいる? なぜ一国の王女が、俺の左指を股間に挟んで喘いでいたんだ?。
だが彼女の自己紹介は、それで終わりではなかった。
フィオナと名乗った少女は、隣で冷ややかな、絶対零度の視線を送っているルミナを一度見やり、再び俺の目を真っ直ぐに見据えて、決定的な爆弾を投下したのだ。
「そして、ルミナのお姉ちゃんで……」
そこまで言って、彼女は白い頬をほんのりと朱に染め、世界中の男を虜にするような極上の笑顔を咲かせた。
「——あなたの嫁よ!」
「…………は?」
俺の口から、間抜けな音が漏れた。
パルシリアの王女。
ルミナの姉。
俺の、嫁。
情報量の致死量オーバー。
俺の脳髄は完全に限界を迎え、ツッコミを入れることすら放棄して、ただただ虚空を見つめることしかできなかった。
なんか、とんでもない事を言いやがったよ、この幼女。
窓の外からは、いつもと変わらない平和で穏やかな朝の光が差し込んでいるというのに。
俺の平穏な日常は、このスケスケネグリジェ変態王女の出現によって、音を立てて崩れ去ろうとしていた。
ベッドの上で初めまして、由緒正しいヒロインとの邂逅シチュw
そういえば、書いていて気づきましたがルミナちゃんもそうでした。