天才冒険者リオの英雄譚 童貞・処女しか入れないダンジョンを攻略せよ! 作:ナオ3
「よし、次は君たちに益のある話をしよう!」
突然、管理者がパッと空気を切り替える。いや、さっきまで「人類滅亡」とか「業魔はスライム以下(嘘だろ)」とか、死ぬほど重い話をしてたはずなんだけど!?切り替えが速すぎて俺の感情ジェットコースターが悲鳴を上げている。
(いきなり“益”!?こっちはさっきから心のヒットポイントが1桁なんですけど!!)
しかし、冒険者の本能は正直だ。「益」という単語には条件反射で脳が覚醒してしまう。
「益?」
思わず聞き返す。テンションは低いが、心だけは本気モードだ。だって、“儲かる話”なら聞き逃すわけにはいかない。それが冒険者の性ってやつだ。
「そうだよ、リオ君。君は倒した業魔についてさ」
業魔――。俺がダンジョンで死闘を繰り広げた、あの黒くておぞましい何か。そういえば、死体(というか遺骸)はダンジョンの外に引きずり出してあった。あんなもん持ち帰って大丈夫か、実はちょっと心配だったのだが。
「単刀直入に言うと、あの魔物の遺骸は素材になるんだ」
「…………嘘だろ?」
反射的に口から出る。いやいやいや、待ってくれ。魔物を倒して素材にするのは、冒険者として超基本中の基本だ。牙、爪、皮、骨、肉、血――売れるものは全部売る。それが俺たちの飯の種。でも、アレだぞ?アレを“素材”として使う勇気がある奴がこの世にどれだけいる!?
だって見た目からして“呪われてます”って全力で叫んでる。あんなの解体しても普通は呪いのアイテムしかできない。いや、むしろ呪いの塊だろ。間違いなく使い道は呪詛・生贄・ダンジョン掃除用の最終処分地だ。
管理者は俺の疑いを受け止めて、むしろ楽しそうに頷く。
「君の疑問は正しい。今のままならどうしようもない。だから“浄化”するんだ」
「浄化か……続けてくれ」
言われてみれば確かに、あのまま使えってのは無理がある。呪いを抜かなきゃ手をつけるどころじゃない。とはいえ、どうやって浄化するんだ?まさか、またどこかの神殿で高額な儀式でもやるんじゃ――
(それはそれで国王が資金出してくれそうだが)
まあ、なんにせよ「素材になる」と言われれば、少しは希望が湧いてくる。どんな形でも、冒険者の基本は“無駄なく利用”だ。何なら、呪いごと新しい魔道具や武器に生まれ変わる可能性も……って、いや、それでもアレはきついな。
……でも、興味はある。どんなトンデモ素材になってくれるのか、そこだけはちょっとワクワクしてる自分がいる。
「浄化する方法は月の光に晒す。そうしたら素材として使うことができる」
管理者は何でもないことのように言い放つ。
……いや、シンプルすぎるだろ!
「余りにも簡単すぎやしないか?」
思わず素で突っ込む。月の光で呪いが消えるなんて、そんな話、少なくとも王都の冒険者ギルドでは一度も聞いたことがない。呪いを解呪するなら、金も権威も命も惜しまないのがこの世界の常識だ。祈祷師、巫女、神官、魔法使い――果ては伝説の聖女様まで引っ張り出してきて、やっとのことで“そこそこ安全”な素材になるのが当たり前だ。
なのに。
「月の光に晒せばオールオッケーです!」
……って、そんなバカな。
あの業魔の遺骸は、どう見ても「呪いの権化」だった。見てるだけで寿命が縮むような化け物が、月光浴びるだけで安全安心素材に大変身――そんなお手軽サラダチキンみたいなノリでいいのか。いや、でも管理者がそう言うなら、たぶんそういう“世界の理”なんだろう。
「そう思うのも無理はないけど、そういうものと思って欲しい」
管理者は困ったような、でもどこか優しい声でそう答える。
本当は「なんで月の光で浄化できるんだ?」って聞きたい。聞いておきたい。でも、考えてみれば「簡単で特別な素材も要らないし、損することは一つもない」ってことだ。下手に理屈で突っ込んで、ややこしくなったら損だ。ここは一旦飲み込んでおこう。
それに――他にももっと重要な話がこの後に待っていそうな気がする。今は“聞かなくてもいいこと”は一旦置いておくのが正解だ。
俺は少し疲れたように肩をすくめて、深呼吸ひとつ。
「ひとまず、そういうことにするよ」
なんだかんだ言って、冒険者稼業は「受け入れが肝心」だ。面倒くさい話は、また今度考えればいい。
管理者は、俺が月の光の話に(とりあえず表面上は)納得したのを確認してから、さらに話を続けてきた。
「浄化した業魔の遺骸は全てが素材になる、そう――全てが」
「全て……?」
またもや疑いの声が漏れる。いやいや、全てが素材になる魔物なんて、そんなファンタジー存在していいのか? 冒険者として長年やってきた俺の常識が、今、根元から揺らいでいる。
「そう全て、捨てる場所なんて何処にもないんだ」
一切のゴミも残らない? 骨も皮も内臓も、肉も血も――すべて使い道がある? そんなこと、今まで一度もなかった。どんなに高級な魔物でも、どうしても“ゴミ”は出る。特に内臓系や余分な脂、腐りやすい部分なんかは泣く泣く捨てるしかない。
スカウトとして解体技術を磨いてきたからこそ、その「全てが素材」という言葉の異常さがよくわかる。あの管理者が言うなら本当なんだろうけど、冒険者の感覚からしたら「嘘だろ?」って気持ちが先に立つ。
しばらく沈黙したあと、俺は思い切って訊ねた。
「もしかして、そうなるように作ったのか?」
管理者の青白い光がふわっと明るくなる。どこか誇らしげで、嬉しそうな反応だった。
「そうだよ」
――やっぱりか。
本気でダンジョン攻略をして欲しいんだな。
俺たち冒険者がダンジョンに潜るのは、そこに住む魔物を討伐して素材を手に入れたいからだ。それが金になり、装備になり、名声になる。それが無ければ命を賭けてダンジョンになんて挑まない。お国や王様のために、だけで動く冒険者なんて希少種だ。
管理者は、俺の疑問に満足そうに答える。
「災厄を防ぐだけじゃ士気は上がらないでしょ?」
「……まあ、その通りだな」
素直に頷くしかない。結局、現場の人間が本気を出すのは「得」が見えてからだ。社会のため、世界のため、王国のため――それも大事だけど、腹が膨れなきゃ命は懸けられない。
「だからこのダンジョンから出る魔物は、人間にとって非常に美味しくなるように設計してあるのさ」
“美味しい”というのは、食べ物としてというより「価値がある」という意味。素材として価値が高い、ということだ。
全てが使えて無駄がない。しかも手に入るたびに装備や薬になり、冒険者たちはどんどん強くなっていく。災厄を防ぐだけじゃなく、得られるものの方が圧倒的にデカい――
これなら、みんな命を懸けてでも潜りたくなる。
ダンジョン設計の裏に隠された「人間の本能を刺激するシステム」に、俺はただただ感心するしかなかった。
「そして染み込ませた穢れが強いほど素材の価値も上がる、そういう仕様さ」
管理者が言った瞬間、俺の中で一気に全体像がつながった気がした。
……そうか、そういう仕掛けか。
ダンジョンが“穢れ”を集めて魔物を生み出し、その魔物を討伐すると素材が手に入る。しかも、その素材は“穢れ”が強いほど、つまり危険な場所・強い魔物ほど高品質になる。だからこそ、冒険者たちは「もっと奥へ」「もっと強い魔物を」と進みたくなる。
これが単なる“報酬”じゃなく、システムとして冒険者の心をくすぐるよう設計されてる。最初は安全な入り口付近で稼ぎながら、段々とリスクと報酬のバランスが見えてきて、どうしたって奥に進みたくなる。強さ、名声、金、武器、防具――すべての「もっと!」が、ダンジョンの浄化に直結してる。
管理者はそんな俺の心境の変化を見抜いているのか、やや誇らしげに続ける。
「攻略者にはダンジョンで取れた素材で強化してもらう」
冒険者たちは手に入れた素材で装備を鍛え、薬を作り、どんどん力を付けていく。最初は手探りでも、繰り返し素材を求めて潜れば潜るほど、自然と“戦力の底上げ”が進んでいく仕組みだ。
「しばらくは入り口あたりで安全に狩るだろうけど、次第に奥に行きたくなるだろうさ」
これはもう本能みたいなものだ。最初は「安全に稼ごう」と思っていても、いずれ「もっとレアな素材がほしい」となる。今の俺だって、既に「次はどんな素材が取れるんだろう」とちょっとワクワクしてしまっている。
「そして入り口より品質の高い素材が取れる」
危険が高いほど、得られる素材も希少で強力になる。その繰り返しでパーティーは鍛えられ、世界に蔓延る“業”も確実に減っていく。
「この繰り返しによってダンジョンを攻略してもらうのさ、魔物を討伐しながらね」
なんてよくできてるんだろう。損をした人間が一人もいない。得をすればするほど世界が綺麗になっていくなんて、まさに理想の“ダンジョン攻略”だ。
管理者は、最後に静かに言い切った。
「これが人の欲望で人の業を駆逐する、神域ダンジョンヴァージニアさ」
俺は思わず唸った。恐ろしいほど人間の本質を理解した“ダンジョンシステム”――この世界を守るための最高の装置。今なら、どんなに間抜けな名前でも、俺は少しだけ誇らしい気持ちになれる。
感心していた。
本当に、感心していたのだ。
人の欲望を理解し、素材と報酬をうまく使って“自発的に深部を目指させる”という完璧なダンジョン設計。穢れを戦いの中で浄化させるシステムも見事。加護の仕組み、業魔の素材化、すべてが理にかなっていて隙がない。
――そう、完璧に思えた。
だが。
「……このダンジョンって童貞・処女しか攻略できないんだけど、そこは考えてるの?」
ぽつりと、ふと口をついて出た言葉に、自分自身が凍りつく。
そして気づいてしまった。
なぜさっきまでこの違和感に気づかなかったのか。そりゃ話が衝撃的すぎたせいだ。世界がどうとか、滅亡するとか、業魔がスライムだったとか、もう情報過多で処理が間に合ってなかった。
でも今は違う。今の俺は落ち着いている。冷静に考えれば考えるほど、このダンジョン――とんでもない“前提ミス”を抱えている。
童貞・処女限定。
――これ、致命的すぎないか!?
そもそも、攻略できる母数が少なすぎる。しかも、戦力になる人材に限って、ほとんどが対象外。
そして俺の疑問が突き刺さったのか、目の前の管理者は――
沈黙。
長い、長い、長い沈黙。
そして重苦しい声で、
「……………………どうしよう」
ズンッ!!
あまりの重量に空間が歪んだ気がした。
俺はもう我慢できなかった。
全力で吠えた。
「そこが一番考えとくところだろうがァァァアアアアアアアア!!!!」
バチンと空間が揺れた気がする。たぶん俺のツッコミがあまりにも強すぎて次元が裂けた。
だが、管理者は情けない声で反論してきた。
「いや、だって、あんなに純潔捨ててる人間がいるなんて思ってもみなかったんだよぉ!?」
俺は叫ぶ。
「なんで人の心理をこれだけ考えられるのに、男女のアレコレに関して無知なんだよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
このダンジョン、システムだけは完璧だった。
でも、一番大事な入り口のドアが“ほぼ誰も開けられない”って、それもう設計ミスというか事故だろ……!!
いや、ほんとにさ。ヴァージニアってダンジョン、構造は完璧。素材価値と穢れの相関、冒険者心理に寄り添った報酬設計、強化成長のループ構造――どれを取っても非の打ちどころがない。まさにダンジョン設計の神。神。神。
……なのに。
“入れねぇ。”
この前提崩壊が、あまりにも致命的すぎる!
どれだけ手厚い加護があろうが、報酬が魅力的だろうが、そもそも“入場”できなきゃ意味がないんだよ!!その事実に気づいた瞬間、俺の脳内でサイレンが鳴り響いた。
「童貞・処女はわかりやすい純潔の証だから加護与えやすいと思ってたのに!」
管理者がそう言って、光をしょんぼりさせてるけどな、こっちは今その“わかりやすさ”に泣かされてんだよ!!
「確かに条件だけで言うなら、すごく簡単なんだろうけどさ……!」
簡単すぎて逆にダメだった例がここにある!
だって、腕の立つ冒険者なんて、大抵“経験済み”だ。
「若い男女は下半身でモノを考えているんだよ!!!!」
もう怒鳴るしかなかった。現実なんだ。悲しいけど、これが現実なんだ。
命懸けの戦いをしてきた奴らほど、死ぬ前に“悔いを残さないように”と経験しておくのが普通だ。逆に、生き延びた後も、戦った後ってのはどうしても昂る。よくわからないが“本能”ってやつが叫び出す。
つまり、戦える奴ほど脱童・脱処女してる可能性が高い。
これは冒険者に限った話じゃない。王国の騎士も兵士もそうだ。任務前に娼館で心を整えるなんてよくある話だし、懐に余裕があればそりゃ行くよ。じゃなきゃパーティーメンバー同士で、なんてのもよくある。
……暁の剣のように、な。
俺たち“暁の剣”だってそうだった……そうだったんだ……!!
ガルドとレイナ。ゴリゴリの筋肉と気の強い姉御のバチバチコンビが、まさかのラブラブ展開。そしてあの――ゼインとミリア。
クールで寡黙なゼイン。清楚でおっとりしたミリア。
……ズッコンバッコン。
うわあああああああああああああああああああ!!!
想像したくないのに、脳内劇場が勝手に上映始めた!止まれ!止まれったらぁぁぁああああ!!俺のピュアな心が死ぬ!!胃が、胃が爆発する!!
ゼインとミリアの顔がフラッシュバックしてくる。
ああああああああああああああああああああああああ!!
今、精神的に無防備だったのが悪いのか、あの「……捧げ合った」が脳内で100回再生された。
俺はその場に崩れ落ちそうになりながら、絞り出す。
(自分のように、好きな相手のために大事に取っておく奴は……もう絶滅危惧種なんだな……)
そして、あの――地獄の謁見の間。
「童貞が扉を開け、非童貞が吹き飛ばされる」の図。あれを思い出すだけで胃が死ぬ。完全に再起不能。
だってよく考えてみろ。童貞・処女って時点で、ルーキーか娼館に行けない様な奴ばっかだ。いくら加護があったって、あの業魔の殺気を前にして冷静でいられるやつなんてごくわずか。大半は腰抜かして終わりだ。はいゲームオーバー。
なんとか嘔吐寸前で持ちこたえながら、絞り出す。
「……入場条件、変えられないのか?」
最後の希望だ。せめて“条件の緩和”という救済ルートがあれば……!
しかし、管理者は――うなだれた。
「無理……ダンジョン作る時の根幹として、純潔が必須になるよう設計したから……1から作り直さないと……」
ズゥゥゥゥン……
さっきまで“神”だった管理者が、今ではただの“設計ミスした人”に見える。光ってても切ない。
「それに……純潔以外だと加護の効力がかなり落ちる。本当に与えやすくて安定してるんだよ……童貞・処女は……」
その言葉を聞いた瞬間、俺は悟ってしまった。
このシステムは変えられない。
だったら、俺たちは“環境”を変えるしかない。
……そう、“童貞・処女の攻略者”を育て上げるしかない!!
その未来は――
冒険者ギルドの掲示板に「童貞・処女求む!!未経験者大歓迎!!」の張り紙。
国王直々の声明で「童貞・処女であることを誇れ!」がスローガンに。
子供たちは純潔の価値を学び、大人たちは性の抑制に努め、国中が「いかに童貞・処女を維持するか」を真剣に考える時代。
人々は誇らしげに胸を張る。
「俺は三十路童貞!世界を救う資格がある!!」
「私は処女よ!このヴァージニアに命を捧げるわ!!」
そして、ついに世界は“童貞・処女を強いられる社会”へと進化を遂げ――
パルシリア王国は世界初の“童貞・処女厨国家”として、歴史にその名を刻むのだった……。
――俺は、そっと目を閉じた。
頼むから、悪い夢であってくれ。
綿密に設計したとしてもどうしてもミスがあるのが全てにおいてのテンプレ。
自分も書いていて管理者のようになりました、そもそも入れないじゃん。